主人公、新章始まって早々金に困る。
ついそんな言葉が頭に浮かびましたね。
ちなみに今回ので解決してます。
この程度はネタバレにすらならないと思いつつ、前回のあらすじ。
別次元から帰ってきたルナ。目が覚めたらプラネテューヌにいました。教会に帰る気もせずに国を出ようと歩いていると、以前仕事を教えてくれた職員と偶然出会い買い物しました。ついでに自分のお財布状況を確認しました。金がありません。そうだ、クエストを受けよう。
そんなこんなで今回はリーンボックスへ行く、着いたお話です。
パフェを食べながら、ごゆるりとお楽しみください。
旅人っていうのは本来、クエストで旅費を稼ぎながらするものらしい。
そうアイエフさんに聞いたことがある。教会職員になる前は旅をしてたんだって。
だから今までの教会からの資金に頼った旅は、やっぱり本来の旅っぽくなくて、こういうお金の苦労を楽しむのも旅の醍醐味なのだとも言っていた。
「だからって目的のある旅でその苦労は味わいたくなかったです……」
そう独り言ちても周りにいるのは討伐対象のモンスター一体だけで、誰も反応してくれないんだよね……
って、なに落ち込んでるの、私。このクエストさえ達成できれば、ようやく南の国、リーンボックスに行けるんだから。後少しだけファイトだよ!!
気持ちを切り替え、剣を構え、振り下ろされる敵の腕を避け、裏に回り、背中へとまっすぐ振り下ろす。防御されたって次の手を出し、ステップを踏んで不規則に動きながら切り刻む。
きって、切って、斬って……!
「これで…トドメだあああ!!」
「ギャオオオオ──!!」
断末魔をあげ、電子の海へと還るモンスター。それを見届け、剣を鞘に仕舞って帰路に着く。
あとはギルドで報告するだけ……
まだ浮かれるな。報告するまでがクエストなんだから……
「はい! エンシェントドラゴン討伐クエストの達成、確かに確認しました! こちら報酬となります!」
「ありがとうございます」
受付のお姉さんから報酬を受け取り、ギルドを出る。
よし、これでようやく………!
「ふふふっ……! ふふふふふっ……!」
『マスター、顔が大変なことになってます。はっきり言って気持ち悪いです』
「ちょっ、はっきり言い過ぎ! せめてオブラートに包んで…って、あ……」
月光剣の言葉につい大声を出してしまうけど、傍から見れば私がひとりで急に大声を出しただけ。
平日の昼前、それなりにいた周りからの変な人を見る目に顔が羞恥心で熱くなるのを感じながら、私はその場を逃げるように、プラネテューヌの海岸のある方角に、足を走らせた。
「うぅ…最近ひとりだからって油断しすぎた……」
『申し訳ありません。はっきり言い過ぎました』
「いや、いいよ…浮かれてるのを顔に出しちゃった私が悪いし…一応君は私を注意しただけなんだし……」
ようやくの出国だというのに、幸先悪いかも……
い、いや、この程度でへこたれちゃ駄目だ。今までだって肉体的にも精神的にもいろんなことをこの短期間で味合わされてきたんだ。この程度、気にすることは無い!
…そう、気にしちゃ駄目…気にしちゃ駄目……
それにこれからは一人。仲間はいない。友達もいない。助けを呼んだって誰もいない。
でも元々昔の私は一人で旅をしていたみたいだし、私は私なんだから、記憶を失ったとしても一人旅ぐらいできるはず!
いざ、旅の再開だよ!!
というわけで……
「エールくーん! カモーン!」
誰もいない、モンスターが出るから近づかない、国の最南端に存在する岸壁。
その上で私は呼んだ。近くに待機しているはずの友達の名を。
そしてすぐに返ってくる。「フォオオオオン♪」ととっても嬉しそうな鳴き声が、水中の中から。
そして水中から大きなものが浮上してくる音が聞こえてきて、ザバーンと音を立てながら彼は現れた。私のいる高さとほぼ同じくらいの背丈を持つ、巨体のホエール種、エル君が。
「数日ぶりだね!」と声をかければ、その言葉を理解したうえで「また会えて嬉しい!」と言っているように鳴くエル君。
いや、彼は私の言葉を理解しているし、そう意思を伝えている。だから確かに彼は再会を喜んでくれているのだ。
だからさっそくエル君の背中に乗って、頭と思う場所を撫でながら、彼に行き先の確認をする。彼はそれに嬉しそうにしながら、大丈夫だと伝えてくれる。
そうして国を出た私達が次に向かうのは、ここから南下した場所にある国、リーンボックス。そこが私の次なる目的地であり、
──エル君の生まれ故郷だ。
それを知ったきっかけは数日前。クエストで資金確保をし始めた次の日の月光剣の提案だった。
『リーンボックスへ向かうには船での移動が一番です。船自体はプラネテューヌからも出ていますが…決して近くはありませんね。となると必然的に運賃も高くなります。マスターとしては早く行きたいのですよね。ならばその分の資金を削る…つまりクエストを受ける回数と時間を減らす方法のひとつとして、ルウィーへ向かったようにあのホエールの手を借りるのはいかがでしょうか』
月光剣の提案は、まるでエル君を物扱いしているようで最初は気が乗らなかったけど、月光剣から『再びあのモンスターと逢うことができる機会だと思ってください。それにきっと彼も、どんな理由であれマスターに逢えることを喜んでくれますよ』と言ってくれたから「そういう理由なら……」って乗っちゃったんだよね。次にエル君に逢えるのはいつかなって楽しみにしてたから。
…あとはね、うん。以前エル君に似たホエール種のモンスターが倒されるの見ちゃったから…ちょっと心配になってる部分もあるかもしれない。彼、防御力は水陸ともに高いから心配ないって頭では分かってるつもりなんだけどね……
その理由から以前ラステイションで呼んだ時みたいに来てくれるかなって、次の日、試しにあの岸壁で呼んでみた。もっとも前のときはラステイションで出会って、まだいてくれたから助けてもらっただけで、今回は全然違う。別れた場所はルウィーで、彼はもしかしたらまだルウィーにいるか、他の場所にいるんじゃないかって思うから呼んでもこないんじゃないかって思ってた。けど月光剣が『お試しです。何事も試してみなければ結果は分かりません』って言うから呼んだんだけど……
「フォオオン♪」
「これがほんとにきちゃったんだよねぇ……」
「フォオン?」
「ううん、なんでもないよ」
なんとなく鳴き方から何を言ってるのか分かり始めてきたのを実感しながら、私はそのあとどうなったか思い出す。
そうそう、それで現れたエル君に頼んでみたんだよ。資金が貯まったらリーンボックスまで連れてってくれないかって。
そしたらエル君、OKしてくれたんだよね。「まかせて!」って。
それで事前に目的地を教えておこうってリーンボックスの方角を教えてみたら「あ、あっちって確かボクが生まれたところだね」って、とっても軽く言うんだよ。それはもう「へー、そうなんだね。それであっちの方に……え、いまなんて?」って軽く流しそうになっちゃったくらい軽く。
詳しく聞いてみれば、私達に出会う前、つまりエル君がまだ普通サイズの普通のホエール種のモンスターだったころ、リーンボックスの海に住んでいたんだって。
でもある日人間達がやってきて、時々来る人達みたいに狩りかなって思ったんだけど、その人達は次々と仲間や他のモンスターを不思議なボールに閉じ込めていったって。嫌がるのを無理矢理。エル君は捕まってなかった仲間やモンスターと共に人間達に対抗したんだけど…いや、しようとしたって方が正しいのかな。だけど人間の一人が持ってた物から発せられた不思議な力のせいで、エル君達の力はどこかに抜けちゃって、そのまま捕まっちゃったって。
そこから先は前に聞いた通り、次に目が覚めた時には人に囲まれていて、その次にリンダの手によってボールから出されて、私達と出会った。
そこまで聞くと、以前聞いた時は「まさか」と頭に思い浮かべていた、彼がこんな姿になってしまった原因や理由が、私が予想したことと一致してしまう。
だがもし私が予想したことが本当であれば、放っておくことはできない。
そりゃモンスターは敵だけど、人に危害を加えるのであれば私も退治したりするけど。
で、倒したモンスターを食料にしたり、素材として扱ったりすることは悪いこととは思わないよ。
だがもし、本当に、彼らがモンスター相手とはいえそんなことをしているんだとしたら。
それは生きている全ての存在への侮辱であり、生命への冒涜であり、許されざる罪である。
その罪を私は裁くことも罰を与えることもできないし、そのどちらもが国の偉い方のお仕事だけど。
それでももし本当にそんな行為が行われているんだとしたら。
これ以上誰かが苦しまないように、助けたい。
多分これは、私に出来る範囲のことだから。
これが私が彼の故郷を知った話であり、リーンボックスへ向かう新たな目的となった行動原理である。
リーンボックスへの事前知識といえば、まず挙げられるのは島国という点だろうか。
そのため他の国では陸地に警備兵がいるように、リーンボックスでは海上に警備兵がいる。彼らは船に乗り、近海を見回っているのだ。
さて、なぜ今この話をしたのか。皆さんはお分かりだろうか。
きっと察していただけた方もいたのではないだろうか。
「まてー!」
「むりー!!」
というわけで答え合わせです。
正解は……
「待てと言っているだろうが犯罪組織ー!!」
「だから違うってばー!!」
海上警備兵に見つかって、さらにはこんな入国の仕方をするやつはここ最近犯罪組織しかいないからお前もそうだろ、という思い込みから勘違いされて捕まりそうになっていたから、でした!
「うえええん!! なんでー!」
『初対面で悪い方に勘違いですか。なんだかこの国の現状が分かる様な気がしますね』
「そんなこと冷静に言ってないでこの現状を何とかする方法考えてよー!」
前回と同じようにエル君に任せて一晩寝てた私を起こしたのは、海鳥の鳴き声でも波の音でもなく、船のスピーカーから聞こえてくる彼らの怒声。もう心臓ばっくばくだった。
現状は一艦のみが私達を追いかけていて、エル君は全力で船から逃げてくれている。
けど船をまくことはできず、それどころか徐々に距離を縮められているようにも見える。
それが少しずつ心の余裕を奪っていて、誰かを追いかける経験はあっても誰かに追いかけられた経験はない私がパニックにならないわけがなく。
結果、打開策が一切思いつかず、捕まりそうになっていた。
「そんな得体のしれない化け物で何を企んでいたって無駄だ! 守護女神グリーンハート様の名の下、我ら海軍が絶対に阻止して見せる!!」
訂正、海軍でした。もっと厄介だよ。
「だから何も企んでないって! ちょっとやることがあって入国したいだけなんだってば! それくらい許してよ!!」
「ならん!!」
「なんで!?」
「貴様は我らから逃げた。それは何かやましいことがあるからだろう! そんな怪しいやつを我らの国に入れるわけなかろう!!」
「んなっ……」
君らが最初から決めつけて追いかけてきたから、こっちも不本意ながら逃げる羽目になったんじゃないか!!
そう言いたかったけど、これ以上はもう話の通じない彼らに言ったって無駄だ。
そう思って逃げるのに集中しようと思ったけど、そもそも逃げてるのはエル君であって、私はそれに乗ってるだけ。私が頑張っても現状は変わらないんだよね……
「あっ、そうだ。月光剣、ネプギア達や
『申し訳ありませんが、それは出来かねます。彼女達は女神でしたので可能でしたが、仮にそれ以外のモノへマスターの力を分け与えてしまえば、彼らに悪影響を及ぼしてしまいます。…もっとも、マスターがそう望むのであれば実行致しますが……』
「うんごめん今のなし! というかそういうのは早めに言ってほしかったな!?」
それもしかしたらお姉ちゃんのことをより追い詰める結果になってたかもしれないってことじゃん。なんでそういう大切なこと早く言わないのこの剣は……
『あの女神は女神であると存じていましたので』
与えても平気。むしろあの状況では与えるべきだと判断した、と?
『その通りです』
それでもなるべく早く言ってほしかったんだよ……
というかそれじゃあ本当に今のこの状況を打開する策は見つかんないってことじゃん! どーするの私、このまま牢にぶち込まれるの!? で、今回は完全に勘違いだし相手は教祖じゃなくてただの海軍の人だからネプギア達は酷いこと言わないというかむしろ助けてくれるだろうけどけど見つけてもらわなかったらそのまま裁判で正式に牢で囚人暮らしになっちゃうよというかネプギアに見つけてもらって助けてもらっても結局プラネテューヌに帰ってなかったってことでまた嫌われるよやだよそんなのでも現状を打開する策なんて思いつかないし──
「だああああっ! もうどーしたらいいのさー!!」
「フォオンっ!!」
「えっ、なに!?」
『マスター、今すぐ息を思いっきり吸って彼にしがみついてください! 潜水します!』
「え、ちょっ、ああもうどうにでもなれ!!」
息を限界まで吸い込んですぐ、エル君はまっすぐだった身体を下に傾け、私ごとその身体を海中へ進める。
本当に沈めるというより進めていると言った方が正しくて、海上を泳いでいた時と同じ、もしかしたらそれ以上のスピードで潜っていく。
けれどある程度潜るとそのスピードを緩めて泳ぐ。
そしてすぐ、私達の頭上を追いかけてきた船の船底が通り過ぎた。
これで終わる。そう思った私だけど、エル君はそうじゃないみたい。
通り過ぎてすぐ、エル君は再び浮上し、そして船の後ろめがけてその口を開き…って、
「ちょぉ!? エル君ストッ──」
「フォオオオオンッ!」
私の声も終わらぬうちに発射された水色の光線。それが船に当たると、すぐにじわじわと船の後ろが凍り付く。
あぁなるほど、これならまだ平和かな。うん、私はてっきり壊して沈没させちゃうかと思ったけど、これならまあ……
「って、どっちにしろまずいことに変わりないよ! えぇとえと!?」
「こんの犯罪者がああああ!」
「ひいぃっ!? ごごご、ごめんなさーい!!」
スピーカー越しとはいえその怒声はすっごく怖い。
だから既に動けない船の横を通り過ぎていたエル君を止めることはできず、そのまま私達は彼らを通り過ぎる。
その間ずっと怒鳴り声が聞こえてくるけど、私はもう耳も目も塞いでしゃがんでた。だからなんとなく声が聞こえる程度で、完全に聞こえなくなるまでずっとその状態だった。
『何の罪もないマスターを追いかけまわすからそうなるんですよ。彼らの自業自得ですね。エル君ナイスです』
「いやいやいや、君は君でエル君の行動を肯定しないでよ」
いつもなら良心として私を助けてくれる月光剣もこう言い出してた。
や、やっぱり私なんにも悪いことしてないよね。…うん、月光剣の言う通りだよ。彼らが悪い。私はただ正当防衛しただけ。うん、そうだよね。うん。そう思っておこう。
「…あとで向こうの教祖に謝っておかなきゃ……」
『マスターは気にし過ぎですよ』
「フォオン」
「ふたりとも…少しは反省しようよ……」
そんなハプニングがありつつも、私達は確実にリーンボックスへと近づいていた。
着いた先は前と同じと言えば同じなのだろう。人のいない崖の上。前回と同じ条件。
そこでエル君と別れて…別れ際に「また追いかけられても、出来る限り攻撃しちゃいけないからね。なるべく逃げてね」って言えばちゃんと分かってくれたのだろうか。「フォオン」と返事して、海の中へ潜っていった。
さて、と。
すぐさまNギアを取り出し確かめる。
電源が点くか、否か……
「お願いします…お願いします……!」
せ、生活防水設計にはなってるって聞いてはいる。それにそんな長くいたわけじゃないから……!
…。
……。
………。
「…ふえん」
意味不明な言葉を発してしまうほどショックです。
どれだけ電源ボタンを押そうがうんともすんとも言わない機械。もはや鉄の板である。
さ、さすがに完全に水没したうえに海水じゃNギアのライフも持たなかったか……
で、でもこの中に財布も着替えもキャンプセットも写真もみんな入ってるのに……
うぅ…万能だからって少しは手持ちにしておくんだった……
『マスター…お気を確かに』
「うぅ…いいんだよ…これは仕方なかったの。それにそもそも海に出るからって手持ちのアイテムを全てこの中に収納したのに、肝心のNギアを水に浸からないようジッパーの付いた袋に入れておかなかった私が悪いんだよ……」
せっかくクエストで稼いだ資金も、これでパーに…うぅ、私の努力は一体……
『マスター。まだ諦めるのは早いかと』
「…なんとかできるの? この水没した機械を……」
『私自身には出来ません。所詮剣ですから。ですが何事にも技術者というものが存在します。この機械を修理出来る技術者もいるはずです。そして、そういったことを生業とした人もいるはずです』
「そ、そっか。そうだよねっ。街に行けば誰か直してくれるよね! ちょっと痛い出費にはなるだろうけど…でもNギアがこのままじゃそのお金だって取り出せないし、早速街に行こっか!」
元気を取り戻してさっそく街のある方角へと歩き出す私だったけど、そこに月光剣がストップをかける。
『マスター…まずは服と体を洗うことを優先されては?』
「…あっ」
そういえば体中海水だらけだった。
少し森の中を歩いていると、水が流れる音が聞こえた。
そこへ向かって歩くと、小川を見つけた。
正直こんな外で体を洗いたくない…というか服を着ていない状態にはなりたくなかったけど、だからってそのままなのも気持ち悪くて、月光剣に周りを見張ってもらいながらさっと脱いで体を水で洗った。服は洗っちゃうと濡れたまま着ることになるからってやめとこうと思ったんだけど、月光剣が『魔法で熱風を起こして乾かしましょう。丁度いいですから、マスターの魔法の練習としてやりましょうか』って言いだした。
うん、それって私全裸のまま魔法使えってことになるんだけど……
『以前のマスターであれば日常茶飯事でしたよ。街に泊まるのはお金がかかるから、と』
「え、昔の私もお金に苦労してたの……?」
ちょっとそんな事実知りたくなかったよ……
…あ、あれ? ま、まさか私がゲイムキャラを守ってた時に何も食べなかったのって……
『…食料、尽きてました』
「うそん……」
謎って意外と「え、そんなこと……?」って分かる時が多いと思うけどさ、まさか前の私がそんなことで悩んでたなんて思いもしなかったんだけど……
…そんなこと、でもないのかな……つい数時間前までと今悩んでるの、お金のことだし……
結局魔法の練習ついでに服も洗って乾かして、身を綺麗にしました。
「さて、じゃあ急いで街に行こうか」
『そうですね。あまり遅い時間ですとお店が閉まってしまいます』
「日が沈んでからの行動も避けたいよね。前回ので月光がないとホントに真っ暗だっていうのは実感したし」
とにかくNギアさえ使えるようになれば宿に泊まるのも野宿するのもどっちの選択肢も取れるようになるんだから、さっさと街へレッツゴー!
…って、なるべく急いで歩いてたんだけど、街に近い平原になんだかおっかないモンスターがいたからついでに倒した。ちょっと硬かったけど、怪我もせずに倒せた。あんなのが近くに居たら街に被害が出ちゃうかもしれないもんね。…でもNギアが使えないから素材は持ち帰れないし、クエストも受けてないから報酬も無いんだけどね……
「…え、なんですと?」
「ですからうちでは扱えません」
ま、まて、落ち着いて考えろ、私。さっきまで何してた?
えと、街に入るまではよかったんだ。身分証はプラスチックだから平気だってポケットに入れてたのが幸いした。海でなんやかんやしたのもまだ伝わってなかったからよかったんだ。
だから街に着いて早速立ち寄った家電製品店で修理の受付やってたから渡したんだよ。Nギアを。そしたら…え?
「修理…できないんですか?」
「はい」
「ど、どうして……?」
恐る恐る聞いてみると、話は至極簡単なことだった。
「こちら、今販売されているNギアとは違う、特別製、或いは発売前の最新型ですね。お客様の仰るアイテム管理機能は本来、Nギアには搭載されていないのですよ。それどころかその機能自体最近世に出回り始めたばかりでして……」
「つまり……?」
「私共では中身が分からない以上、下手に手を出した場合の責任が取れませんので…申し訳ありません」
「い、いえ。お客さんのものを直すどころか壊しちゃったらダメですもんね。こちらこそすみません、無理なお願いをしてしまい……」
「いえいえそんな。…またのご来店をお待ちしております」
見送ってくれる店員さんに頭を下げて、とぼとぼと外を歩く。
え、まって、じゃあ私、一文無し? 天下不滅の無一文さん?
「い、いやいやいや…つ、次だよ次…別の修理屋に行けば……」
10。
さて、何を数えた数字か。
これはクイズじゃないのでさっさと正解を言いましょう。
正解は、訪ねた修理屋の数、でした。
ではNギアを修理できる修理屋の数はというと、0。
…うん。まあ一軒でも見つかればそれ以上探さないもんね……
で、全ての店で言われたこと。
「既製品なら扱えるけど、特別製は無理」。
…うん。そういえば言われてたもんね、イストワールさんに。これはテスト用の端末だって。βテストに参加してる気分でって。
つまり修理できるんだとしたらプラネテューヌの技術者…このNギアを開発した人ぐらいってこと。
つまりプラネテューヌに戻らなきゃこれは直らないってわけで。
「うぅ…ひもじい…ひもじいよ、月光剣……」
『たった一日何も食べなかっただけで死にはしません』
「月光剣…なんだかここ、寒いね……」
『真夜中の公園のベンチで横になってれば、そりゃ寒いと思いますよ』
「月光剣、私はもう疲れたよ……」
『おやすみなさいませ。寒い中朝まで寝れるといいですね』
「…反応が冷たいよ、相棒……」
結局日も暮れて、真っ暗な海に出るのは…まあエル君なら行けそうだけど、危ない。さらには朝の海軍の方がまだ私達を探しているかもしれない。ということで来て早々プラネテューヌに戻ることもできず、宿代も無く、なんなら小さなガム一つ買うお金も無く、持ち物も身分証と剣以外無く、ないない尽くしのままもう人のいない公園のベンチで寝て夜を明かそうとしてます。
…うぅ、まさか本当に野宿になっちゃうなんて……
…もしかしたら記憶喪失前の私も、こうしてベンチで寝てたりしたのかなぁ……
『いえ、以前のマスターであれば街の外の森で野宿してましたね。焚き火を起こして川で獲った魚やモンスターの肉を焼いて食べてました』
わあサバイバル。やっぱり旅ってサバイバル能力必要なんだなぁ……
…それ、今の私も真似できたりするのかな……
『今のマスターが真似すれば確実にモンスターに襲われますよ。それに場所の確保に火を起こすための枝集め。食料の調達。すでに暗い中でやるには困難かと』
それもそうだよね……
…しかたない。明日夕方までに何とかできなかったら、エル君に頼んで往復して貰おうかな。
ひとまず今は寝よう。…お腹空いて寝れそうにないけど……
あ、そういえば水飲み場があったっけ。じゃあ水で満たせば誤魔化せるかな。
ちょっとみっともないけど、背に腹は代えられないってことで……
「…アンタ、なんでこんなとこで寝てるわけ?」
「え……? ユ、ユニ!? え、なん──」
ぐうぅ~……
「なんでここにいるの」と、言葉を途切れさせたのは、最悪なタイミングで、ある意味では最高なタイミングで鳴ったお腹の虫で。
その音を聞いた彼女に呆れてそうな目で見られながら、私は苦笑した。
後書き~
次回、偶然だけど久々に会えたユニとお話です。はたしてルナちゃんは無一文から脱却できるのか。
それではまた次回もお会いできますように。
See you Next time.
今回のネタ?のようなもの。
・天下不滅の無一文
『Re.ゼロから始める異世界生活』の主人公スバルが自分を指して言うセリフですね。お金大事。
・月光剣、私はもう疲れたよ……
アニメ『フランダースの犬』で有名なパロですね。ネロの台詞です。相棒、疲れたろう。僕も疲れたんだ。なんだか、とても眠いんだ。