謝って、泣いて、抱きしめられて、抱きしめ返して。
ようやく涙も落ち着いて、心も落ち着いて、最近泣いてばかりだなぁと思う程度には余裕ができて。
二人に支えられながら再びベンチに座って、私はずっと思っていたことを話した。
「…怖かった。あの日からずっと、嫌われたんじゃないかって怖かった」
「そんな…ルナちゃんのことを嫌いになるはずないよ!」
「うん…ネプギアは私を嫌わない。だってネプギアは良い子だもん。真面目で、優しくて、良い子で、誰にでも分け隔てなく接してくれて、こんな私でも一緒にいてくれて、毎回心配してくれて。…あの日だって、ネプギアが心配してくれたのわかってたよ。心配だから私を置いてったの、わかってる。傷付いて欲しくないから戻らせようとしたのもわかってる。頭では理解してた。…でも怖かった。今はそうじゃなくても、いつか嫌われたら。突き放されたら。私はどうしたらいいんだろうって。記憶もない。大切なものもない。自分の意思さえ曖昧で、気持ちも分からなくて、どうしたいのか分からなくなって。そんなときに嫌われたら。嫌われたと知ったら。自分が居ていい場所を失くしたら、私に何が残るんだろうって。何も残らないんじゃないか。そのまま何者にもなれず、私にすらなれず、誰かの心にも残らない。ずっとずっとひとりになっちゃうんじゃないかって。それがずっと、怖かった。
何もなかった私に最初に何かをくれたのはネプギア達で。初めて会話したのも、初めてお出かけしたのも、初めて友達になってくれたのも君達。空っぽだった私が空っぽなことを気にしなかったのは、君が与えてくれたから。目的を、共にいる理由を、生きる意味を与えてくれたから。
じゃあもしその君達を失ってしまえば? それは、与えられたもの全てを失い、再び空っぽになってしまうってことなんじゃないか。
ただの可能性でしかない。もしもの話でしかない。そんなこと起こらないかもしれないし、考えるだけ無駄なんだと思う。でも可能性は0じゃない。それがどうしようもなく怖かった。
だから嫌われたくなかった。嫌われたと知りたくなかった。せめて接しなければ、会わなければ、嫌われたとわからないから。わからなければいいと思った。わからなかったら、わからないままだったらまだ、私は自分を保てる気がしたから。だから会いたくなかった。わからないままでいたかった。だからあの時は逃げて、今も逃げようとしました。ごめんなさい」
頭を下げた。それは謝罪の気持ちもあった。
けどそれ以上に怖かった。私へとかけられるだろうネプギアの言葉が。ユニの言葉が。
だって言ってしまえばこれは友達のことを疑ってた。信じられなかった。そういうことなんだから。
でも自分の気持ちを言わなくても嫌われて、嘘を吐くなんてすればそれこそ嫌われて、正直に言っても嫌われるなら。
もう消去法に近かったかもしれない。あれだけ泣いた後だから隠すのは無理だって、諦めもあったのかもしれない。
だから全部話した。多分。…とりあえず今の私の気持ちは全部。
けど言っただけで、言った後の覚悟なんて出来てなかったから。
結果が怖くて、顔が見れなかった。
だから私は、目を背けた。
顔が見えないままで、ネプギアの気持ちもわからないままで。ネプギアの言葉を待つ間、不安で、怖くて、答えが解る前に今すぐ逃げ出すか、この場で再び子どものように泣いてしまいたかった。それができなくても何も聞きたくないと、耳を塞いでしまうのでもよかった。
それでも私が頭を下げたままの姿勢で止まれたのは、疑ってしまった罪悪感からだった。
数時間にも、数日にも感じる時の中、ネプギアの口から零れるように出た言葉を、私はすぐに理解できなかった。
「──よかった…ほんとうによかったよぉ……!」
「ぇ…なんで……わわっ!?」
驚きで少し顔を上げて、すぐに首に両腕を回されてぎゅっと抱きしめられて、空が見えた。
さっきとは違う。優しい抱擁じゃなくて、喜びのあまり抱き着いてしまったと。そんな感じがした。
だからこそ戸惑う。嫌われるのだと、ずっと嫌なことばかり考えていただけに、その真反対の言葉をかけられれば、感情を向けられれば、すぐにその想いを受け止めることができなかったから。
助けて欲しいと。今の私にも理解できる言葉で教えて欲しいと。
顔の真横でずっと「よかった」と繰り返すネプギアに戸惑いながら、ユニへと視線で助けを求める。
けれどユニはそれに応えてくれなかった。言葉にするなら「自業自得なんだから自分で何とかしなさい」って視線で言っているように感じた。多分だけど……
だから結局、私は自分で答えに辿り着かないといけないのだと知って、問いかけた。
「…なんで、よかったって……」
「だって不安だったから。ルナちゃんが私のこと、嫌いになったのかなって。私が勝手にルナちゃんのこと振り回して、それで嫌いになっちゃったのかなってずっとずっと不安で。でもそうじゃないって分かったから」
「…嫌いに、ならないの……?」
「ならないよ。だってルナちゃんのこと、大好きだもん」
「っ……!」
ああ、私は馬鹿だ。自分勝手な臆病者だ。
なんでその考えに至らなかったのだろう。なんで自分だけが不安だと、そう勝手に思い込んで、自分勝手に疑って、傷つけて。
馬鹿だ。馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ、大馬鹿者だ。自分勝手で臆病者で友達を思いやることもできない愚か者だ。
もし過去に行けるのだとしたら今すぐあの時の私をぶん殴ってやりたい。いや今の自分でもいい。今すぐこの頬にストレートをかましてやろうか。壁にでも全力で頭をぶつけようか。街中で自分は大馬鹿者の愚か者だと大声で叫ぶのでもいい。
なんでもいい。とにかく私は自分で自分に罰を与えなきゃ気が済まない。
それでも先にやること…いや、言わなきゃいけないことがある。
「……ごめん、ネプギア。自分勝手に行動して。ネプギアのこと、ちゃんと信じてあげられなくて。本当にごめんなさい」
「ううん、謝らないで。私もごめんね。ちゃんとルナちゃんのことも考えて、ちゃんと自分の気持ちを伝えればよかったのに」
「それは私もだよ。私もちゃんと、もっと早く言っていれば……」
臆病にならなければ。勇気を出していれば。ネプギアを信じていれば。
たらればを言ったって何も変わらないのに、後悔だけは積もっていく。
ごめんなさいと、その気持ちだけが残り続ける。
言葉が途切れて、少しだけ静寂が私達の間を通り抜けて、消えた。
ネプギアが、消してくれた。
「…ルナちゃん言ったよね。私が優しくて良い子だって」
「うん、言ったけど……」
「ルナちゃんもそうだよ。ときどき何も言わずに行動しちゃったり、何も言わずにいなくなったり、ダメだよって言ってもやっちゃったり。ちょっと悪いところもあるけど…でも優しくて一生懸命で、誰かのために行動できる良い子。そんなルナちゃんのこと、私は大好きだよ。アイエフさんやコンパさんだって。ロムちゃんもラムちゃんも。もちろんユニちゃんもだよ」
「ちょっ、何勝手に言って…ま、まあ嫌いじゃないけど……」
「ユニちゃん! ユニちゃんが素直になってって言ったんだよ!」
「うっ…あーもうわかったわよ! 好きよ好き! ルナのこと好きよ! これでいいでしょ!?」
「ネプギア…ユニ……」
自分勝手で、我儘で、臆病者で。
そんな私と正面から向き合ってくれて、受け止めてくれて、許してくれて。
だめだな、今の私…泣き虫だ。
けどこれは悲しみのじゃない。
嫌わないでくれて。好きだと言ってくれて。
「──ありがとう……私も大好きっ!」
ようやく全部、伝えられたかな。
「──そういえばユニちゃんからルナちゃんのNギアが壊れたって聞いたんだけど……」
それは公園の水道で顔を洗ってタオルで拭いてるときにかけられた言葉だった。
「うん、そうだけど……」
「よかったら見せてもらえないかな」
頷き、Nギアを渡す。するとすぐにネプギアはどこから文庫本サイズの小箱を取り出して開き、中からドライバーを一本取り出して蓋を開けた。
その動きに一切の迷いがなかった。
うん……?
「あー…もしかして海に落としちゃった?」
「えっ、なんで分かるの……?」
海水は既に抜いてあるから、蓋を開けただけじゃ分かんないと思うのに……
「普通に使ってたらここまで浸水しないのと、金属部品が少し錆びてるからだよ。あっ、でもこれなら……」
そこからまた何か箱を取り出して、複数の工具と何かの部品を取り出して、使って、なんだか楽しそうに独りで何かを呟きながら作業に没頭してしまう。
何がなんだかよく分からないし、ネプギアが何をしているのか、とりあえずいじってるから修理しているらしいということぐらいしか分からないんだけど…どゆこと?
ユニに訊けば、納得の答えが返ってきた。
「Nギアってプラネテューヌの技術で作られてるでしょ? ネプギアならなんとかなると思って」
「お~」
「…まあでも、まさかネプギア自身が修理し始めるとは思わなかったけど」
「……うん」
そういえば前に機械が好きだって言ってたっけ。
にしてもごめんユニ。私、ユニがただ私とネプギアを仲直りさせるためだけに呼んだんだと思ってた。まさかNギアのことまで考えての行動だったとは……
「…ホント、ごめん、ユニ」
「いやなんでアタシ今謝られたの……?」
考えれなくて本当にごめんね……!
「多分これで大丈夫なはず…うんっ。ルナちゃん直ったよ!」
「えっ、早っ!?」
まだ五分も経ってないよ!?
そう驚きながら蓋も閉まって元通りに見えるNギアの電源ボタンを押せば、すぐに画面がついていつものロック画面が表示される。画面に乱れもないし、普通にロック画面からホームへと移る。
本当に、まるで何事もなかったように、データの破損もなく元通りになってる。
「ほんとうだ…直ってる……すごい。すごいすごいすごい! すごいよネプギア!!」
「そ、そうかな? そんなにじゃないと思うけど……」
「いやいやすごいよ! ホント! いろんな修理専門の人が直せなかったのを直しちゃうなんてすごい!」
「えへへ…そんな褒められると、ちょっと照れちゃうかも……」
「だってすごいもん! よっ、さすがネプギア! 機械が好きだからって修理まで出来ちゃうなんて、お見事!」
「褒め過ぎだよ~。元々自分のをよく改造してて構造はわかってたのと、私が持ってた部品で何とか直っただけだもん」
「いや普通改造とかしないから……」
ユニのツッコミも空しく、私は私で大喜び。
だってこれで野宿とおさらばだよ! しばらくの食事に困らないんだよ! 大切なものを取り出せるんだよ!
あぁ、本当に……!
「ありがとうっ、ネプギア! 大好きだよ!」
「えへへ…うんっ、私もルナちゃんのこと大好きだよ!」
現金だって? そんなこと知らないもんね!
「でもルナちゃん、本当に一人で行っちゃうの……?」
「うん。ちょっと調べたいことがあるから」
仲直りもして、Nギアも直って。私が抱えていた問題が一気に二つも解決した。
だからこそ元々持っていた目的の一つに手を出し始めなきゃ。
そう考えて私は二人に、しばらく一人で行動したいと話した。
「ならその内容を教えなさい。まさかまた何も言わずに、なんてことしないでしょうね?」
「あはは…いや、これは言わない、というより言えないだけかな。まだ私の想像の範囲でしかないから。だからこそ、その真偽の確かめるために調べたいの。でも二人は二人のやるべきことがあるから。だからまずは一人で調べられる範囲で調べてみるよ」
「また危ない橋渡るんじゃないわよね?」
「分からないけど…でも渡らないようにはするよ。もし渡るとしても、連絡はする」
「絶対だよ。またルナちゃんが大怪我したら嫌だから」
「うん。絶対」
せっかく仲直りも出来たし、今までのお話をいっぱい二人にしたいけど…でもそれは終わってからでも出来ること。
今話すんじゃなくて、後でゆっくりお話ししよう。今急いで話すことでもないしね。
「じゃ、二人とも、またね」
「ルナちゃん…絶対、絶対だからね!」
「もし破ったら怒るわよ!」
「うんっ。絶対に守るよ!」
これ以上やったら本当に嫌われちゃいそうだもんね。それは嫌だもん。
だって大好きだからね!
──『個体名登録、現プラネテューヌ女神候補生『ネプギア』を登録。会話可能とします』──
後書き~
これでようやく次回、リーンボックスに来た目的と戦います。いえ戦うかは分かりませんが。どうしましょうかね。
ともかくまた次回もお会いできることを心待ちにして。
See you Next time.