月光の迷い人   作:ほのりん

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第四十四話『協力関係』

 幸先の悪いスタート。けれどその先に幸運が待ち構えていたとしたら。それは幸先の良いスタートから順調に物事が進むよりもより心を強く持たせることができる。上へ上へよりも下から上への方がより良いと感じさせる効果。この効果に名前ってあるのかな。プラシーボとかシュレディンガーとかみたいな。って二つ目は違ったか。

そう考えるとあの人を追いかけた結果とはいえこの国に来てよかったと言える。Nギアはこの国に来てすぐに起きた問題だったけど。

 

 で、今のところすぐに解決しなければいけない問題も無くなり、一人旅の続行も決まった。本当は一人よりもネプギア達と一緒に旅がしたかったけど、この件はなるべく早く解決しなければならないと思ったのと、ネプギア達の目的の方が優先度が高かったから。だから別々に行動しようと考え、そう伝えた。

 そうして一人になった私は早速情報収集をするために定番ともいえる場所、ギルドを訪ねた。けど……

 

「目立った収穫無し、か……」

 

 異常個体はいる。その情報は確かにあった。けどそれがどこで見かけたとか、どこにいるとかの情報はなかった。冒険者の人も、ギルドの人も、皆そのモンスターをただの突然変異か、犯罪神の信仰の力による汚染による異常だとしか考えていないみたい。どちらも特徴が変わるもんね。

 実際に見かけただけじゃなく、戦った人もいたらしいんだけど、戦闘能力に異常はなかったって。本当にただ見た目に僅かな変化しかない。色が違うとか、あるものがないとか。その程度。聞いている私もそれが本当にエル君と同じ目に遭ったモンスターなのか判断がつかなかった。

 けどとりあえずこの国で通常とは違う個体がいるのは事実。ならもっと調べたら何か別のことが分かるかもしれない。

 

 そうなるとここにいても仕方ない。次はどこに行こうかとギルドから離れようとした私は、男性の声で呼び止められた。

 

「なあ、ちょいといいか?」

「え…?」

 

 私が呼び止められたのかどうか分からず周りを左右見回しても誰も私を呼んでいないように見える。

 あ、気のせいか。それか私が呼び止められたんじゃなかったんだ──

 

「おいお前だ。そこの黒パーカー少女」

「…わ、私…ですか?」

「ああ」

 

 黒いパーカーを着たのはこの場では私しかいないのはさっき見ていて分かっていたから、そこまで言われたら私だって、もう確信するしかないんだけど。

 声がしたのは斜め後ろで、振り向けば立っていたのは屈強な男性。見るからに強そう。サングラスもしてるから怖さもプラスされてる。というかもう風格がそういう職業の人っぽい。

 そんな男性が物陰からこちらを見ています。わあ逃げたい。

 

《なぞの くっきょうな おとこが あらわれた!》

《ルナは どうする?》

《たたかう》

《ぼうぎょ》

《アイテム》

《にげる》←

 

《ルナは にげた!》

 

「逃げるな」

 

《にげられなかった!》

《なぞの くっきょうな おとこの くろいまなざし!》

《ルナは にげられなくなった!》

《ルナは かんねんして はなしを きいた。》

 

「な、何の御用で……?」

「ちょいとな。ここじゃできん。ついてこい」

「は、はい……」

 

 あれ、私。もしかしてピンチですか……? 

 

 

 

 サングラスの男性に付いていった先は遠くなかった。

 というかすぐそば。ギルドに裏から入っただけだった。

 そこから廊下を歩いて、他の扉よりも豪華な扉の中に招かれた。

 …招かれた、んだよね……? 閉じ込められたんじゃないよね……? 

 

「そこに座れ。今お茶を淹れる」

「は、はい。えっと…おかまいなく……?」

 

 そう言われて近くの高そうなソファーに腰を掛け、周りを見る。

 部屋の中はまるで仕事部屋のようで、簡単に言うなら社長室みたいな部屋になっていた。部屋の奥に木製の大きなデスクがあって、高そうなチェアがあって、その手前に今私が座っている対面しているソファーがあって。

 少ししてお茶が私の前の机に置かれて、対面に男性が座った。

 そしてこちらを見る男性。…のサングラスから僅かに見えた眼光……

 

 あ、逃げたい。

 

「…何を震えている?」

「い、いえ! なんでもないです!」

 

 こわいこわいこわい……! 

 何? え? ギルドだよね? ここ。ギルドのお偉いさんが居そうな部屋だよね。私なんでここにいるの? しかも私の前になんでこんな明らかに鍛えてますって筋肉もりもりで顔に刀傷があってもおかしくないほどの明らかにそういう職業っぽい風格がある男性がいるの!? え、ここ、その手の事務所なの!? え?! 

 

「紅茶でも飲んで少し落ち着け」

「ははは、はい! い、いただきます!」

 

 震える手でカップの取っ手を持ち、縁に口を近づけて……

 

「…あっ、甘い匂い……」

 

 息を吸った瞬間、鼻腔を通り抜ける甘い匂い。なんだか美味しそうな匂いで、どこかで嗅いだことのある匂いでもあった。

 そう、まるでスイーツのような……

 

「…バニラというフレーバードティーだ。甘い香りでミルクと合う」

「そ、そうなんですね」

 

 確かにバニラアイスと同じ香りで、口に含むとミルクのまろやかさと優しさで相まってとても美味しい。

 へぇ、紅茶ってこういうのもあるんだ……

 

「…落ち着いたか?」

「あっ…すみません」

「謝らなくていい。俺のこの姿のせいだという事も理解している」

 

 理解しているなら何故サングラスを外してくれないんですか……! 

 

「俺はジン。このギルドのマスターをやってる」

「わ、私はルナといいます。旅人です」

「そうか、旅人か。そうは見えない身なりだな」

「あはは…最近一人で始めまして……」

「そうか。ところでな、俺は回りくどいことがあまり好きじゃないってことを最初に言っとくんだが……」

「はぁ……」

「お前さん、昨日の朝、なにしていた?」

「……へ?」

 

 昨日の、朝……? 

 昨日はエル君と一緒にこの国に……

 ま、まさか……

 

「昨日、海軍から連絡を受けた。この写真の女を見つけ次第捕らえろと」

 

 そう言って男性が机に置いたのは一枚の写真。

 海と、異常なほど大きなホエールの背中と、その背中に座り込む少女。

 この写真を私に見せた。それってつまり……

 

「ッ……!」

 

 退路は? 入ってきたドア? いやギルドの人が待ち構えているかもしれない。なら窓から強行突破で……! 

 

「おいおい、落ち着けって言っただろ。ほれ、座れ」

「…え?」

 

 肩を上から抑えられた。瞬時に立ち上がった私に、座るよう促すように。

 けど問題はそこじゃない。

 目の前にいた彼が、今私の背後にいる。

 …見えなかった。気づいたら後ろにいた。油断したわけじゃない。長い間目を離したわけじゃない。

 窓の位置を確認した僅かな時間で、彼は私の背後を取った。

 一秒にも満たない、一瞬の間に。

 

「…何者、ですか。あなた」

「ただの公務員だよ。ギルドマスターっていうな」

 

 …拝啓、ネプギア達女神候補生へ。

 この人間、下手したら君達よりも強いです。

 

 

 

「え…? 調査協力、ですか?」

「ああ」

 

 結局、私は捕まっていない。彼…ジンさんは私を捕らえる気はないと言ったから。

 ジンさんがあの写真を見せたのは、写真に写る少女が私かという確認と、私が乗っていたモンスター…おそらくホエール種だと思われるモンスターの異常な大きさについて。

 つまり、ジンさんもまた、私と同様に異常個体について調査をしている人の一人だった、ということだ。

 最初に訊かれたのは、エル君をどこで見つけたか。そこは素直に答えられる。ラステイションでリンダが何かを使って召喚した、と。関係性も訊かれたけど、それは友達。モンスターと友達、というのはやはり異様なようで本当かどうか疑われたけど、本当なんだから他に言いようがない。

 他にもエル君の大きさ以外にどういうところに通常とは違う特徴があるのか、色々と訊かれたけど、まあ答えてもいいよね、って月光剣とも相談して話した。

 あ、それと海上でのことも包み隠さず話すと「あー…アイツだな。絶対アイツだ。…すまん、ダチが迷惑かけたな。俺が後で謝らせよう」って謝られたんだけど、どうやらあの怒鳴り声の人と友達だったらしい。いやあの、あなたが頭を下げる必要はないのですが……

 

 まあそうこうして、お互いにお互いの目的が同じということが分かったところでジンさんから提案された、調査協力。良い提案だとは思うけど……

 

「…でも私、ジンさんがどうしてこの件を調査しているのか知りませんよ」

「信用できない、か。その通りだな。だがな、ルナ。俺も同様にお前さんの理由を知らんぞ?」

「…私はただ、助けたいだけです。モンスターは敵ですけど…でも生きてるんです。もし私の想像通り、その生命を侮辱するような卑劣な行いがされているんだとしたら……私はそれを止めたい。だってそれは、例えモンスター相手でも許されていい行いではないから」

「…つまりルナは、このモンスターの異常化を人の手によってもたらされたもの、と考えているわけか」

「そういう可能性がある。そう考えているだけです。それに正直、その可能性を否定したい。そういう気持ちもあります。人はそこまで腐っていないと、そう思いたいから調べているんです」

「なるほど…腐っていない、か……」

 

 ジンさんは残りの紅茶を一息で飲み、言った。

 

「残念だがな、ルナ。人っていうのはそこまで腐れるもんなんだ」

「…それって、つまり……」

「俺達もお前さんと同じ見解を持ってるってことだ」

 

 ジンさんはそう言って立ち上がり、本棚からファイルを一冊取り出し、私に渡した。

 赤い極秘の文字。読めという意味で渡したのだろう。けど本当に私が…ただの一般人が読んでいいものか。表紙をめくるのに躊躇した私にジンさんは「協力関係を結ぶならば信頼が必要だ。お互いの持つ情報を事前に共有しておけば築きやすい。俺からはもう聞いたからな。後はお前さんがこちらの情報を知っておけばいい」と言ってくれた。

 なんだか既に協力関係が成立する前提の話になってきているような気がするけど、情報を手に入れられるのはこちらとしても良い事だ。ならば遠慮なく。

 そう思い、ファイルの中身を見る。中身は資料や報告書をまとめたもののようで、その全てが異常個体についてのもの。一部には写真も付いていて、写真に写るモンスターは見たことがあるモンスターばかりだったけど…必ず体のどこかには異常が見られた。

 本来のと比較せずとも分かるほど大きく鋭い爪。角。羽。尾。見た目だけの変化でもこれだけある。報告書には少しばかり強く感じた、自分の体に慣れていないようだった、とも。

 

「こいつはまだ公にされてない。ギルド内では俺や幹部しか知らん。冒険者は偶然遭遇したやつぐらいだ」

 

 「お前さんにこれを見せた意味が分かるか?」と問われる。

 何となく予想はできている。協力関係。このことを知っている人の種類と数。私が問われている意味。

 それらから導き出されるのは。

 

「私に、外で真実を調査してこい、ということですか?」

「理解が早くて助かる」

 

 ジンさん方が直接足を走らせ調べるのもいいのだろう。けどそれが出来ないのだろう。ギルドマスターならば顔が知られていてもおかしくはない。幹部の方々も同様。変装でもしないと相手に気付かれる。

 なら一般冒険者から選ぶ、というのも何となく分からなくもない。そこに私が選ばれたのは、私もまた異常個体を知っていたから。調べていたから。

 だが……

 

「…私は一般人ですよ。私の力がどれほどのものか、分からないですよね。もしかしたらスライヌ一体倒せないひよっ子冒険者かもしれない。そうは思わないんですか?」

「確かにお前さんが弱い可能性はある。…だがな、そもそも弱ければモンスターがそいつに懐くなんてあるわけないんだ」

「…どういう意味で?」

「モンスターってのはほとんどが本能に従って生きるもんだ。その本能は、強き者に従うこと。お前さんが手懐けたってモンスター、お前さんを守ろうと船に魔法を食らわせたって言ってたな。それだけそいつはお前さんに懐いてたってわけだが、それってつまり、あの大規模魔法を使うモンスターを手懐けたお前さんは、そのモンスターよりも強き者だった、ということだ」

「いやいやいや! そんなわけないですよ! エル君はただ友達だから助けてくれただけで、私が強いから従ってるとか、そういうのじゃないです! 大体私、全然弱いですから!」

「そもそも弱ければモンスターと友達になるなんて出来るわけないって話だ。そして同等なら争い、どちらが上かを決める。それもなく懐いた。ただ命を助けただけじゃ、モンスターってのは懐かん。つまりはそういうことだ。己の強さを自覚しろ」

「いやいやいや! 大体その知識はどこからきてるんですか!」

「調査の副産物だ。昔、プラネテューヌにモンスターの研究をしたやつがいたらしい。その資料が残ってたってだけだ」

「昔のなんですよね。ならそれが間違ってるか、今はモンスターも友好的に接したら向こうもそう返してくれるだけかもしれないじゃないですか!」

「あー、はいはい。なんかもう面倒だし、ここはひとつ、ギルドらしい方法で確かめよう。お前さん、クエストを受けたことは?」

「あ、ありますけど……」

「じゃあギルドカードくらいあるよな」

「まあ、はい」

 

 初めて自分でクエストを受けようとしたとき、説明を受けて発行されたカードがある。これがなきゃクエストは受けられないとも言われたから作ったカードだけど…これもNギアに保管してたんだよね。ははっ…本当にNギア直ってよかったぁ……

 

「じゃあ貸してみろ。お前さんの実績を調べる」

「は、はい」

 

 カードを渡すとジンさんはPCの前へ行き、カタカタとキーボードを打って、画面をじっくりと見始めた。

 

「ふぅん。ビックスライヌにエンシェントドラゴン。それにフェンリルヴォルフ。どれも単騎討伐って書いてあるが、そうだな?」

「はい。最近倒したものですが……」

「これらの実績だけでも十分に……ん? おい、クレセントドラゴンの討伐数が1ってあるが、本当か?」

「クレセントドラゴン?」

「リーンボックスに生息するドラゴン種だ。覚えは?」

「…あっ、もしかして街の近くにいたドラゴンですか? さすがにあそこにいたら危ないかなと思って倒しましたが……」

「街の近く…そういやそんなクエストがあったな。だがまあ、クレセントドラゴンを倒せるんだ。ルナ、お前さんはそこらの冒険者よりは圧倒的に強いと思うが?」

「いやいや」

「お前さん…それは本当に自覚していないのか、ただの謙虚か、実力を隠したいのか。どれだ?」

「本当に強くないと思ってるんです」

「そうか。まあ価値観ってのはそれぞれだしな。ともかく、お前さんは十分なほど力を持っている。俺達は外で動ける強い奴を欲している。お前さんは情報を欲している。協力関係、組んでおいて損はないと思うが?」

「お互いに求めるものと与えられるものが一致してますからね……」

 

 それにギルドが後ろ盾になってくれるのは大変動きやすくなるけど……

 

「そういやお前さんは俺達がこの件を調査している理由を知りたがってたな。俺達がこの件を調べている理由。それはこの国の平和と、女神様への害を払うためだ」

「害を、払う?」

「ああ。お前さんも分かってるだろう。この件に犯罪組織が関わっていることを。おそらく犯罪組織は戦力強化のための実験を行っている。それを許し続ければ、いずれ奴らは改造モンスターを手にこの国を、世界を支配しようとするだろう。それを阻止するためにも、俺達はそいつらを逮捕する。世界の平和を取り戻そうとする女神様を邪魔する輩を捕まえる。それが今俺達が出来る手段だ。それが理由だ」

「今自分達が出来る手段……」

 

 彼らの出来る手段。

 私の出来る範囲。

 

「どうだ? 協力関係、結んでくれるか?」

 

 差し出された右手に、答えを出す。

 似た理由だったから。

 固く結ばれたこの握手が、その答えだ。

 

「はい。よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそよろしくな」




後書き~

皆さんは紅茶の種類ってどれくらいわかりますか?
私は全然です。とりあえず以前茶葉を売るお店で「ミルクと合うよ!」という説明からバニラというのを買いました。甘い匂いでした。バニラの匂いでした。甘い味じゃなかったので砂糖入れました。匂いに騙されました。甘党なのです。
そしてクレセントドラゴンは何処で倒したのか。しれっと街に入る前に倒してます。しかも原作でも本作でもネプギアが倒せなかった、本作では逃亡さえしたモンスターです。キラーマシンを倒しまくりましたからね、これくらいよゆーよゆー。というわけです。
ともかく海の上での逃亡がまさかギルドという後ろ盾を手に入れることに繋がるとは思っていなかったルナ。次回、多分ギルドマスタージンからの依頼内容を聞いたりするんだと思います。名前は仁義の仁からです。
というわけで、また次回もお会いできるのを心待ちにして。
Let's make this new year a great one!

今回のネタ?のようなもの。
・くろいまなざし
ポケモンの技の一つです。効果はそのまま、逃げられなくなります。テレポートなどで戦闘から逃げてしまうポケモンを捕まえるのにとっても役立ちますよね。私は相棒ジュナイパーが取得した攻撃も出来る『かげぬい』の方がサンムーンではお世話になりました。
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