月光の迷い人   作:ほのりん

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第四十五話『任務!いざ潜入開始!』

 ──指令塔へ。こちらコードネームM。聞こえるか? 

 こちら指令塔。OK、感度は良好だ。コードネームM、現状を報告せよ。

 異常なし。これより敵アジトへ潜入する。オーバー。

 OK。武運を祈る。

 

『…何をしているのですか、マスター』

 

 え? うーん、一人無線機ごっこ? 

 

『ごっこ遊びなんてしている暇はありませんよ。これからマスターは敵地へ潜入するのですから』

 

 まあそうだけど…それっぽい雰囲気出せば、少しは緊張感ほぐれるかなって。

 

『ごっこ遊びをし始めた時点で既に緊張はほぐれているように思えますが。……そうでもなかったんですね』

 

 …まあ、ね。もうこれ以上足を踏み入れたくないよ。

 

『ですが一度引き受けてしまったのです。後戻りをしてしまえば、約束を違えてしまいますよ』

 

 だよね。約束を守るのは大事。

 

『もっともマスターはその約束を誤魔化すのがお得意のようですが』

 

 ちょっ、痛いとこ突かないで! 

 そりゃあのとき君もいたから一人じゃないって屁理屈こねたけどさ…だってあのときあそこで足止めしなきゃ街に被害行くかもって考えたら、やっぱあの時の行動は間違いじゃないと思うし…けどネプギアの話を一方的に切ったのは悪いと思ってるんだよ? けどあのままじゃお互い譲らなかっただろうし、私は譲るつもりもなかったし……

 

『はいはい、分かりました。マスターに意地悪をした私が悪かったので、そろそろ任務を続行してください』

 

 意地悪のつもりだったの!? 

 

『はい』

 

 わ、私、てっきり君が真面目に言ってるのかと……

 

『まさか。私はマスターの味方(つるぎ)。冗談は言ってもマスターを傷つける本心は言いませんよ』

 

 それって本心では私を傷つけるようなことを思ってるってこと!? 

 

『さあ。どうでしょうね』

 

 うわ、すっごく気になる! 

 

『マスターが無事任務を遂行することが出来れば教えて差し上げてもいいですよ』

 

 ホント!? で、でも本当に傷つくことを思っているんだとしたら聞きたくない……

 い、いや、やっぱり気になる! 

 よし、とりあえず終わらせてから聞くかどうか考えるよ! 

 

『はい。では』

 

 うん! 

 任務開始(ミッションスタート)だよ! 

 

 

 

 

 

 ──その前に、時は数時間前に遡る。

 

「え? 敵アジトへの潜入ですか?」

「ああ。正確には元、だな。前にうちの冒険者達で結成したチームで既に制圧済み。向こうはそこを廃棄した、はずだったんだが……」

「一度捨てた拠点を再利用した、ってことですか?」

「かもしれん。最近、そこに出入りする怪しげな人物がいるって目撃情報が入ってきてな。もしかしたら再び拠点として利用しているのかもしれん」

「…でも、それって向こうにとって危険なことなのでは? 一度制圧済みなら、そこに人がいるかもしれませんし、再び現れてもすぐ分かるように細工してあるかもしれないのに」

「ああ。だがアイツらはその思考の裏を読んだ、かもしれん。一度捨てた、制圧した拠点に再び敵が根付くわけがない、という思考の裏をな。実際俺達はそこを制圧しただけで終わらせてしまったしな」

「…かもしれないだらけですね」

「確証がないからな。今のところ目撃情報のみ。だからお前さんに調査してきてほしい」

「少数精鋭。…まあ精鋭と言えるほど自信はありませんが、見てくるだけなら十分だ、ということですね」

「ああ。お前さんに頼みたいのは調査…といっても拠点が最近使用された形跡があるかどうかだけでいい。一つでもその形跡が見つかれば十分。敵を見つければ大手柄ってわけだな」

「捕まえなくてもいいんですか?」

「出来るのなら捕まえて欲しい。だが無理はするなよ。無理そうなら去れ、見つかれば逃げろ、出来そうでもやるな。絶対という確信がない限り行動には移すなよ」

「了解。…ですがこれ、私じゃなくてもいいのでは? 見たところ、前回頼んだ冒険者に再び依頼してもいいのでは……」

「まあお前さんの実力を知るための試験ってやつだ。どれだけやれるか知りたいからな」

「なるほど…いいですよ。私も、自分が一人でどこまで出来るか知りたいですから」

「ああ。それじゃ、頼んだぞ」

「了解です」

 

 

 

 

 

 ──そして時は現在に戻る。

 …初めてやったかも、こういう回想。

 

『マスター、メタいです』

 

 はははっ。

 で、えー、さて、私は今どこにいるのでしょうか? 

 私自身分かりません! 

 

『何故マスターが迷子になるのですか……』

 

 だって広いんだよここ! 入口が洞窟だったから洞窟なのかな、と思いきや急に金属で出来た明らかに人工的な通路で、ずっと十字路で、さっきからグルグルと……って、また行き止まり! なに、ここ、迷路なの?! 

 しかも暗いし電気も通ってないから予め貰った懐中電灯でしか照らせないし! 

 

『おそらく部外者が侵入してきても時間が稼げるように、と設計したのでしょう。マスターはそれに見事嵌ってしまったのですね』

 

 うぅ~! 何もそんな面倒な設計にしなくても、罠とか張ればいいのに! 迷路じゃ味方も迷子になるんじゃないかな! 

 

『でしょうね。だからこそ、味方には目印となる何か、或いは道順を教えられていたのではないでしょうか』

 

 道順か…それは今は手に入れられない情報だけど、目印なら……

 …あれ? なんで天井に矢が刺さって……? 

 って、金属の天井に刺さるってどれだけ強い力で刺したの……? しかも壊れないってどれだけ頑丈な矢なの……

 

『…なるほど。マスター、それはおそらく前回この地を訪れた冒険者チームが残した目印なのではないでしょうか』

 

 ならこれを辿っていけば、拠点か出口のどっちかに出られるってことか。

 えっと、矢はあっち側に刺さってるから…あっちかな。

 うん、これを刺した冒険者とか気になっちゃうけど、それは後で考えるとして、行こっか。

 

 

 

 そうして矢の示す方向へ歩けば、次の十字路にも矢が刺さってて、その方向へ行けば…って繰り返して…ようやく広い場所に出られた。ライトで照らすと、どうやらドーム状の広い空間になっていてライトが遠くまで届く届く──

 

「──っ! ──っ!」

「っ!?」

 

 突然、空間のどこかから聞こえてきたのは、何かの声。くぐもっていて、言葉になっていないから音って感じだけど、人の声だと思う。それと何かが擦れる音も。

 まるで口が塞がれているような……ってまさか!? 

 

『マスター、前方左の岩陰。生体反応あり。一人です』

「左岩陰…いた!」

 

 すぐにその場所へ近付きライトで照らせば、そこにいたのは明るい緑色の髪の縛られた女性。手も足も縛られて、しかも岩にも縛られていて、布で目隠しされていて、口もガムテープで塞がれている。なるほど、だから声が……

 

「──っ! ──っ!」

「あっ、すみません! 今外します!」

 

 急かしているような、怒鳴っているような声に慌てて、けどなるべく痛くないようゆっくりとガムテープを剥がして…あ、やっぱり痕になってる。せっかくの綺麗な顔なのに……それと目隠しも、と。

 

「──はっ。やっと声が出せるわ。あなたが誰かは知らないけれど、感謝するわね」

「どういたしまして。まあ偶然でしたが……」

「で、あなた何者なの? 犯罪組織の人間には見えないけれど…それに何故ボイスチェンジャーを? 顔を見せなさい」

「えぇと、それはちょっと……」

 

 そう普段よりも低い声になりながら、なるべく顔を見られないようフードの先を引っ張る。

 いつものパーカーのフードじゃない。その上に着た、ジンさんから支給された黒色のローブ。それと顔を隠すための狐の面に、声を偽るボイスチェンジャー。…ローブやボイスチェンジャーはともかく、狐の面は夏祭りで売れ残ったやつだって。ギルドの副業として露店を出してたんだとか…なんか見た目に合うような副業をしていますね……

 だから声は知られない。顔は見られない。知られてはいけないし、見せてはいけない。ジンさんにそう言われたから。相手が知人でもない限りアジト内で素顔を見せるな。正体を知られるな。敵に逃げられたとき、復讐されるかもしれない、って。

 だからすみません。いくら縛られていた、犯罪組織が纏ってる悪意を感じ取れない女性とはいえ、敵か、或いは罠の可能性がある限りこれは取れませんので……

 

「…まあいいわ。あなたが助けてくれるのは確かなようだし。早くロープも切ってちょうだい」

「…すみません」

 

 そう一言謝り、まずは岩に縛り付けられた縄を月光剣で斬ろうとして──

 

『マスター、隠れてください。犯罪組織と思われる人間が近づいてきています』

「っ」

 

 すぐにライトを消し、出入り口から見えない、女性の隣へ隠れる。

 そして耳を澄まし…聞こえてきた。足音、一人、短い間隔、走っている。

 それにこの気配…犯罪組織の人の中でも特に知ってる、あの人が纏ってる悪意。

 まさかあの状態から復帰してたなんて……

 

「ちょっと、何して──」

「すみません。少し黙っていてください」

 

 女性の口を手で塞ぎ、魔法で目を強化し、出入口を見張る。もごもごと何か言いたげな女性だったけど、すぐに足音が聞こえることに気付いて口を閉ざした。

 足音が大きくなっていき、近づいてくるのが分かる。さて、もしあの人だったら今度こそ捕まえて…いや、捕まってた女性の救出が最優先か。私の任務だって、この女性の存在こそが確証となり得るんだし。

 人命優先。次に任務。任務外の行動はなるべく控える。

 素人がやるには結構な難易度な気がするなぁ……

 

 さて、そろそろ…来た。やっぱりリンダだ。まあリンダなら満月状態(フルムーンモード)じゃなくても、今の私なら倒せそうではあるけど……

 

「クソッ、まだ追いかけてきやがる……」

 

 そう言ってリンダは壁に向かって近付いて、今しがた自分が来た出入口と、そしてこちらを見た。

 瞬時に反応して顔を引っ込めたおかげで見つからなかったようで、そのままギィ…って音がして、ガコンと何かが嵌るような音がして、静かに…はならなかった。すぐに別の足音…それも複数人の音が聞こえたから。

 リンダの発言から察するに誰かに追いかけられていたみたいだけど…リンダはどう対抗するんだ? さっきの音はなに? 

 再び覗くも、そこにはもう誰もいなかった。

 どこに消えた? 移動した? いいや、移動したような足音は聞こえなかった。ならどこに……

 そう考えている間にも複数人の足音の正体が現れて…って、え? 

 

「下っ端は…いない? どこに消えて……」

「こうも暗いとどこにいるのかさっぱりね……」

「陰に隠れていたりするです?」

 

 …ネプギア達…まさか本日二度目の再会になるなんて……

 

「……ふ──」

「そこ!」

「ふぇっ!?」

 

 正体がネプギア達だと知ったからか、思わぬ遭遇からか、無意識に口からため息が出ていて…ネプギアはその音へまっすぐ剣で斬り込んできた。

 借り物のローブが切られる。自分の身よりも先にそれが頭に浮かんで、瞬時に剣を避けた。

 …ふぇ…まさか訓練でもないのに友達に斬りかかられる日が来るなんて思いもしなかったよ……

 

「見つけた!」

 

 その声はアイエフさんので、すぐに何かのスイッチが押される音が聞こえて、急に空間が明るくなった。

 …って、まさか電気が通ってるなんて、最初から見つけて付けておけば……

 うっ、魔法で目を強化してたから目が、目がぁ~! 

 

「って、下っ端じゃない? あなたは誰ですか!?」

「くぅ…ぅぅっ……」

 

 あの、割とマジで痛いの。目というか頭が痛い。くっ、まさか目を強化する魔法にこんな弱点があったなんて……え、まさかこのまま失明したりしないよね!? ね!? 

 

「答えてください!」

「ぅぁ……」

 

 どーしようこんなことで失明とか! あっ、魔法! 魔法でダメージ受けてるんだから、魔法で治せたりしないかな!? 治療魔法とか…コンパさんが使えたよね!? あとロムも使えたはず…ってリーンボックスにいないよ! 多分……

 

「答えてくれないなら……!」

 

 あ、でも少し目が回復してきたから平気かな…ってあれ? な、なんでネプギアは私に向かって剣を構えているのかな!? え、わわ、私だよ!? ルナちゃんだよ!? あなたのハートにるっなるっなるーのるなるーだよ!? ってるなるーってなんだ!? 

 えっちょっ、ダレカタスケテー! 

 

「ちょっと待ちなさい! 彼女は敵ではないわ!」

「えっ? って、チカさん!?」

 

 そうネプギアを止めたのは捕らわれていた女性で…って、あ、すみません。まだロープ切ってなかったですね。今切ります。

 

「…どうぞ」

「どうも。さて、あなた、プラネテューヌの女神候補生のネプギアさんね」

「は、はい! えっと、あなたが本物の……」

「ええ。箱崎チカよ。それよりもあなた、この子と共にあの構成員を追いなさい」

「えっ!? で、でもチカさんの安全を……」

「いいから! 今追わなきゃ逃げられるわ! これ以上お姉様の大切な国で悪事を働かれないためにも、今が絶好の機会よ!」

「わ、分かりました!」

 

 あ、よく勢いで押すネプギアが押されてる。なんだか珍しいような…あ、そうでもないかな。ユニのときぐらいしか見てないし……

 

 …ん? あれ? “この子と”って、まさか……

 

「私も、ですか?」

「ええ。あなた、敵ではないのでしょう? なら手伝いなさい。これは教祖命令よ」

「えぇ……」

 

 教祖命令って…私別にリーンボックスの国民じゃ……え? 教祖? ユニが言ってた、あの教祖? というかこの国のトップ2!? 

 

「いいから行きなさい!」

「い、イエッサー!」

 

 ああもう成り行きに任せますよ! 

 えっと? さっきリンダはこの辺で何かしてたし……

 

「…あの、すみません。勘違いとはいえ、急に斬りかかってしまい……」

「あ、いえ……」

 

 …あれ? まだ私だって気付いてない? 

 ま、まあそっか。そのための変装だし、知り合いにあった程度でバレるようなのじゃ、意味ないもんね……

 …なんかもう、言い出しづらいし、このままでいいかなぁ……

 

「私、ネプギアって言います。あの、あなたは……」

「…ユエ。そう呼んでくれればいいよ」

「分かりました。ユエさん、よろしくお願いしますね」

「うん」

 

 さすがにそのまま名前は言えないもんね。うん。

 さて、ネプギアはいつまで気付かないのか……

 あっ、これ岩に擬態した取っ手だ。ってことはあの音は扉を開けて閉めた音? 

 じゃあここを引けば…よし、思った通りだ! 

 

「わっ、まさかこんなところに隠し扉が……」

「…あの人はこの先に行ったよ」

 

 本当にこの先に行っていいのか…というか行かなきゃダメなのか、とチカさんを見るけど、コンパさんに僅かな怪我を治療されてるチカさんは「さっさと行きなさい!」って言ってくるし…うぅ、あの人本当に捕らわれてた人なんだよね? その割には元気過ぎない? 

 コンパさんもアイエフさんも「こっちは私とあいちゃんに任せるですっ!」「私達で教祖様を安全な場所まで連れて行くわ。だから大丈夫よ」ってネプギアと私に言ってくるし……

 うぅ…私の任務、こんなとこまで頼まれてないのにぃ……

 

「ありがとうございます、お二人とも。では行きましょう、ユエさん」

「…うん」

 

 行きたくないです。

 そんな私の気持ちは誰にも気付かれることなく、私達は扉の中へと足を踏み入れた。




後書き~

正体に気付かれないまま、成り行きのままに行動するルナちゃん。まさか敵に気付かれないようにする策が、味方に効果を発揮するとは。敵を騙すにはまず味方から、が意図せずなっちゃったパターンですね。
しかも教祖命令として任務外の行動を強制されてしまったルナちゃん。さて、彼女は無事任務を終えることができるのでしょうか。
ユエって、月って意味なんですよ。
ではまた次回もお会いできると確信して。
See you Next time.


今回のネタ?のようなもの。
・目が、目がぁ~!
有名なパロですね。『天空の城ラピュタ』でムスカ大佐が言った台詞です。眩しい光ってホントに射抜くってぐらい目が痛くなるのは経験済みです。
・あなたのハートにるっなるっなるー
『ラブライブ!』から矢澤にこちゃんのスクールアイドルとしての決め台詞からですね。『るなるー』は『にこにー』からで、“る”を“り”に変えれば同シリーズの別作品ニジガクの璃奈ちゃんの愛称になるなぁ、とか思いながら書いてました。その後のダレカタスケテーは前に紹介したので、無しで。
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