月光の迷い人   作:ほのりん

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第四十七話『創作化物(キメラ)

 地面を揺らすほどの咆哮が止むと同時に私達は駆けだす。

 ネプギアは空へと、私とアイエフさんは地上から。それぞれの武器を手に敵へと向かって。

 最初に攻撃を仕掛けたのはネプギア。ビームソードから放たれるビームがキメラを貫かんと迫る。が……

 

「っ、効かない!?」

 

 ビームはキメラの胴体へと確かに当たったものの、切るどころか焼かれてすらいなかった。次のアイエフさんのカタールによる連撃もダメージが通っているように見えなかった。

 もしかしたらエル君同様、防御力が異様に高くなっているのかもしれない。それを自分で確かめるためにも、その虫のように複数ある足の一本を踏み台に、胴体へと三連撃を放つが、まるで鎧でも纏っているかのような硬さに擦れ傷のような痕しか残らなかった。

 この胴体の元となったモンスターが個体として持っていた防御力だとは思えない。リザード種なら私一人で倒したことが何度かあるからだ。

 こうなると他の部位に攻撃が入るかも怪しい。見るからに鎧を纏っているような艶々と黒光りした殻に覆われた足はどうだろうか。硬そうな鱗に守られた腕は。びっしりと羽に守られている翼は。剛毛に覆われた頭は。

 どこかに脆い場所はないか。その部位を見つけるために一旦引こうとして、キメラの目が私でも空を舞うネプギアでもなく、アイエフさんを捉えているのに気付いた。

 そしてキメラから伝わってくる感情のなかでも怒りと憎しみの感情が膨らんでいくのにも気付いた私は駆け出し、アイエフさんの体へ体当たりする。

 驚いたアイエフさんが体当たりの正体が私だと分かるとすぐに文句を言おうとしたけど、その言葉は最後まで続かなかった。

 アイエフさんがいた場所には私がいて、そこにキメラの鋭い爪が迫っていて、次の瞬間には月光剣の面に張られた防御壁とキメラの爪が衝突したから。

 

「ぐっ…! 重い……!」

 

 体重を乗せたその攻撃はあまりにも強い圧力で、体が押しつぶされそうになるのを両手両足で必死に耐える。

 そんな今の状況が、ふと前にも似たようなことがあったな、とあのときの情景を思い起こさせた。

 それはまだ皆と出会ったばかりの、私が記憶を失くしたばかりの頃。初めてのクエストでキングスライヌに遭遇してしまったときのこと。

 あのときも同じようにアイエフさんを…あのときはネプギアとコンパさんもだったけど、助けようとして無我夢中で前に出て結界…防御壁を張ったっけ。

 今の状況はそのときと似ている。仲間を助けようとして、自分が代わりになっているところや、モンスターに押しつぶされまいと防御壁を張って耐えているところとか。

 状況は何となく似ていて、けれどあの時とはレベルが全然違う。敵も、私自身も。

 そして仲間も。

 

「このっ…! 『烈火死霊斬』!!」

 

 体勢を立て直したアイエフさんの持つカタールが炎を纏い、キメラの腕を斬りつける。

 腕への攻撃はそれが初めてで、アイエフさんの攻撃が通用するのか。

 結果はすぐに分かった。炎を纏った刃が腕に触れた途端、キメラが悲鳴のような声をあげ、腕を引っ込めたから。

 それに焼かれるように熱い痛みは私にも伝わったから。

 

 …これは少し厄介だな。

 

 攻撃が効いた。そのことよりも痛みも伝わってくることに意識が向く。

 少しでも痛みを和らげたいという気持ちから左腕を撫でたが、そこに傷なんてありはしないし、痛みが和らぐこともない。あくまでこれはキメラが感じている痛みなのだから。

 だがそれでも一瞬だが自分が感じた痛みだと錯覚してしまった。それほどまでに伝わってくる感情や感覚がクリアだった。

 …とことんメンタルが試される戦いになりそうだ。

 

「大丈夫?」

「はい。そちらはお怪我は?」

「アンタが突き飛ばしたときの以外はないわ」

「うっ、すみません」

「いいわよ。むしろありがと、助けてくれて」

「…仲間として当然ですから」

 

 この場で共通の敵へ共に戦っている、という意味での仲間と受け取ったか。仲間だということを拒否したかったかもしれない。アイエフさんがこの言葉をどう受け取ったのかは分からない。

 次の言葉を聞く前に、再びキメラはアイエフさんめがけて攻撃してきたから。今度は竜巻のように強く渦巻いた息が口から吐き出されて。

 素早くそれをそれぞれ左右に避け、私は後ろへ振り返り…その威力の凄まじさに戦慄した。

 木が軒並み倒されていた。地面も抉れ、草も散っている。

 もしそれをまともに食らえば、大ダメージになること間違いなしだ。下手したらそれだけで戦闘不能になるかもしれない。

 あれだけは絶対に回避だね。

 

「ネプギア! 腕を狙いなさい! そこなら通じるかもしれないわ!」

「分かりました!」

 

 アイエフさんはいち早くネプギアへ情報共有し、ネプギアは襲い掛かるキメラの爪を回避しビームソードで斬りつける。

 だが結果は胴体の時と変わらず。ダメージを与えられなければ、痛みも伝わってこない。

 つまり腕が弱点ってわけじゃないみたいだけど…じゃあさっきは何故通用したのか。

 少し考えて気付いた違いはアイエフさんがただ斬りつけるだけじゃなかったことで。

 

「お二人とも、剣に属性を付けてみてください! 多分そっちが通用するんだと思います!」

 

 そう伝えると二人はそれぞれの返事をして、手に握る剣にそれぞれの属性を纏わせる。

 アイエフさんとネプギアは燃え盛る火を。私は雷属性を纏わせ、手始めに足へ斬りつける。

 すぐに効果があったことは伝わった。文字通り痛いほどに。

 それでも手を止めないし、止めさせない。このモンスターは敵で、私達はそれを倒さないといけないから。

 

「はぁぁ! 『プラズマラッシュ』!」

 

 電気を纏った連撃がキメラを斬りつける度、斬った部位の痛みが私へと流れる。痺れた感覚もまた流れてきて、剣を落としそうになるのを何度も耐えた。

 そうして耐え続けながら斬っていく。斬って切ってきって──

 早く終わってほしいと、そう思い始めたのはどちらの感情か。

 キメラは倒れなかった。確かにダメージは伝わっていたが、それは僅かばかりのものだったから。

 倒すにはいまひとつ足りなかった。

 

 そうこうしているうちに耐えかねたのだろう。キメラは翼を広げ羽ばたく。大きな翼は暴風を巻き起こし、地上にいる私達が飛ばされないよう耐えている間に足は地面と離れ、空へと飛び上がった。

 まずいな。地上を離れられると空を飛べない私達に出来る攻撃手段は更に限られてしまう。

 空にはネプギアがいるが、ネプギアの攻撃もいまひとつだし……

 ダメ元で雷属性の斬撃をいくつか飛ばすが、それが撃ち落とす攻撃にはならない。アイエフさんからも斬撃が飛ぶが、こちらは飛距離不足。

 どうにか策を考えようにも、そんな時間がないのは伝わってくる感情から分かった。

 その目が街の方へと向けられているのも。

 

「まずい…ネプギア! そいつ、街へ向かうつもりだ!」

「そうは…させません!」

 

 キメラの前に立ちふさがり、その進行を止めようとネプギアが放ったのは氷属性の魔力を纏わせた斬撃で、右翼を捉えていた。だが右翼へ当たる前にキメラはそれに噛みついた。

 

「っ!」

 

 痛い。冷たい。冷たいのを通り越して痛い。

 それでも口の中が凍ることは無かったようで、すぐに痛みが引く。

 だがこれで街へ向かうことを一旦諦め、攻撃対象をネプギアに向けるだろう。

 そう思った私達を文字通り無視し、翼を羽ばたかせその体を街へと動かし始めた。

 

「ダメ! 止まって!」

 

 そう言いネプギアが火、風、氷のそれぞれの属性で翼めがけて斬りつける。だがそれを腕や口などの他の部位で防ぎ、翼には当たらない。

 だが同時にキメラの動きを止めることにも成功していて、飛び回り攻撃するネプギアの動きにどうにか防げている状態だった。

 これなら街への進行を少しの間でも防げる。そしてネプギアの体力が尽きる前に援軍が間に合ってくれれば……

 …ダメだ、それじゃあ。ネプギアに任せっきりで、一人に負担を押し付けちゃ。

 何かないか。今の私にできる、ネプギアを手助けできる何かは。

 属性付きの攻撃…それも空を飛ぶ巨大な敵を落とせるほどの技……

 雷属性のプラズマブレイク? いや、あれだと近くにいるネプギアを巻き込む可能性もある。だが他に使える技は……

 …いや、あった。ひとつだけ。あの次元で、戦況を覆すことができた、あの技が。

 

「ネプギア! 悪いけどそのまま引き付けてて!」

「ユエさん…? わかりました!」

 

 疑問に思ったものの、すぐに頷いてくれるネプギア。

 おかげで敵の位置はあまり変わらず、注意も向かない。私は技に集中できる。

 剣に魔力を込めながら、頭に描くはあのときの光景。次元も違えば状態も違うあのときに出せた技が、今の私にも出せるかどうかは分からない。

 けど成功するはずだ。あのときより少しは成長したはずだし、何よりこの手に握るのは見てくれだけの張りぼてじゃない。

 月の加護を受けた、月光色の剣。

 正真正銘、私の相棒なんだから。

 

「そうだよね、相棒!」

『Yes, mastar.』

 

 魔力が溜まっていくにつれて剣はその銀色の輝きを増していく。

 それはこの子の輝きであり、魔力の属性色であり。

 何より私自身の色だ。

 

 目標は空飛ぶキメラ。その胴体前面。

 魔力の充填度は…十分。

 イメージするは湖に浮かぶ三日月で。

 私は剣先を地へ向け、そのまま勢いをつけ振り上げた。

 月が空へと昇るように。

 

「『クレッセント…リフレイク』!!」

 

 放たれた光は銀色の弧を描き、広がりながら真っ直ぐキメラへ。

 意識をネプギアへ向けていたキメラがそれに気付くときには既に三日月は迫っていて。

 キメラは避けることを選ばず、その鋭い爪で掻き消そうと振りかざし。

 その鋭い爪と三日月の刃が触れたとき、刃は一層強く光を増して……

 

 ──四散した。硝子が割れるように、バラバラになって。

 

「そんな…やっぱり属性付きじゃなきゃダメってこと……!?」

「──?」

 

 そう言うアイエフさんと呆気に取られるキメラを見て、私はお面の下で口の端を上げた。

 そう、それでいい。だってそれは──

 

「──ッッ!!」

 

 湖面に映る、虚像の光なのだから。

 

「今の、まさか……」

「ネプギア、何してるの?! 今がチャンスよ!」

「あ、は、はい!!」

 

 光の刃はバラバラになった後、キメラの背後で再構成されその背中を切り裂く。その規模は両翼まで届いていて、そのダメージからキメラはバランスを崩した。

 そこにネプギアのビームソードが迫り……

 

「これで、落ちて!」

 

 光の刃による傷口へ、追い打ちをかけるように。

 

「────ッッ!!」

「っぅ……!」

 

 今までと段違いに強い痛覚。それも二度も伝わってきて、倒れそうな体を剣を杖にして耐える。

 

──イタイイタイイタイ……! 

 

 

 

 

 モウ、イヤダ……! 

 

「……?」

 

 あれ…? 今のは、どっちの……? 

 

 その思考を切り裂くように、一発の銃声が私達の鼓膜を揺さぶった。

 同時に伝わる、頭への小さな衝撃。

 

「この銃声って…もしかして!」

 

 ネプギアが笑みを浮かべ、その人物を見る。

 その方向にいたのは、こちらへと飛んでくる友達の姿。

 

「待たせたわね、ネプギア!」

「ユニちゃん…! ロムちゃんとラムちゃんも!」

「そのてーどの相手に苦戦するなんて、やっぱりネプギアは大したことないのね!」

「そんなことないと思う。あのモンスター、なんだかとっても強そう」

「だいじょーぶよ、ロムちゃん! わたしとロムちゃんが力を合わせれば、あんなのどーてことないわ!」

「うん。そうだね」

 

 言ってしまえば緊張感のない。けれど私にとっては安心する彼女達のやり取り。

 つい声をかけそうになるけど、今の私の姿を思い出して踏みとどまる。

 そう…今の私はただの雇われ冒険者…ってことになってるんだから。

 

「ネプギアさん。ギルドが手配した援軍がこちらに向かっているわ。あと少しの辛抱よ、耐えて見せなさい」

「はい! ありがとうございます、チカさん」

 

 よかった。援軍も来るんだ。ならこれで確実にキメラを倒せるんだね。

 よかった、これで……

 

 

 

 ……本当に、これでいいんだろうか。

 勝機が見えた途端に浮かんだ疑問を、私は無視するべきだった。

 痛みが伝わってこようが、怒りや憎しみが伝わってこようが、それを無視して倒せばよかったんだ。

 そうすればこの感情を長く感じることは無かったのに。

 けれどその疑問を無視できなかったのにも理由はあって。

 一方的に伝わってくる、流れてくる感情のなかに、悲しみの感情もあったから。

 家に帰りたいのに帰れない。元に戻りたいのに戻れない。

 “今”を受け入れたくなくて藻掻き続ける感情が、私に伝わってきたから。

 その感情を無視したくないと思ってしまった。

 

 けど私に何が出来る? 

 ここで皆に説明したところで信じてもらえるか分からない。それは私がルナだと名乗り出ても同じだと思う。

 信じてもらったとして、それでどうする? この子達を倒さずに野へ放つ? 

 いつか復讐として人々を襲うかもしれない。今ここで倒さなかったら、被害を大きくしてしまうだろう。

 いっそこの子達の望みを叶えられたらどれだけいいか。元の体に戻して、家に帰して。

 それならもう、この子達も苦しまずに済むのに。

 

「「『アイスコフィン』!」」

「『ヴォルケーノバレット』!」

「『フレイムエッジ』!」

 

 ──イタイ。

 

 うん。

 

「────!」

「くっ…これホントにダメージ与えられてるの!?」

「た、多分与えられてると思う」

「もー! 早く倒れなさいよー!」

「いっぱい…えいっ」

 

 ──イタイ、イタイ。

 

 わかってる。

 

「おいいたぞ! あれだ!」

「あれは…女神候補生様だ! 先にいたんだ!」

「女神候補生様! 今助太刀いたします!」

「皆さん…! ありがとうございます! お願いします!」

「「「応!!」」」

 

 ──イタイ、イタイ、イタイ。

 

 わかってるってば。

 

「あのブレスには気を付けて! とんでもない威力よ!」

「ぐっ…なんだよこの化け物…! 規格外すぎるだろ…!」

「これでも食らえ!」

 

 誰かが攻撃を防いで、その隙に皆が攻撃して。

 翼が使い物にならなくなって、地に落ちて、総動員で力の限り攻撃して。

 それは私達三人だけで戦っていたときよりも圧倒的に有利な戦況で、たくさんの魔法や武器があの子達を攻撃して、さっきよりも確実にその命を削ってる。

 けどそれはつまり、何度も何度も、ずっとずっと長い間痛いのが続くってことでもあって。

 

 あの子達が暴れてる。それはもう、誰かを傷つけるためじゃない。

 あの子達が咆えてる。それはもう、誰かを威嚇するためじゃない。

 あの子達は望んでる。この痛みから、苦しみから解放されることを。

 

 それが伝わってくるのは私だけで。私だけが知ってて。

 

 ……目が合った。鋭い眼光はもうない。あるのは、暗い暗い悲しみの目。

 そんな目が私に訴えてきた想いはひとつで。

 

「──ぅああああああっ!」

 

 柄を握りしめ、咆えるように叫びながら駆け出す。

 他の誰かになんて目もくれず。魔法が当たろうがお構いなしに。

 ただ一直線に、あの子達のもとに向かって。

 そして──

 

「『月光一閃』!!」

 

 その首を斬り落とした。

 

 

 

 

 


 呆気ない最後だったと、誰かは言った。

 魔力を込めなきゃ倒せない相手で、しかも属性も付けなきゃいけない。体力は無尽蔵にあるんじゃないかと思わせるほどタフで、女神候補生ですら苦戦した。

 そんな敵がたった一人の剣一本で消えたのだから、そう思うやつも多い。

 だがそれでも街の脅威となりうる存在を自分達が倒せたこと。女神候補生の役に立てたことに喜び、仲間同士で、あるいは隣の見知らぬ誰かと手を取り分かち合う。

 そんな光景が広がっている中でただひとり空を見上げ佇むその姿は異質で、何を考えているのか分からないやつが多かっただろう。

 喜びをひとり噛みしめているように見えるやつもいたか。

 これはそう見えたからこそ、声をかけてきたのだろう。

 

「よぉ、お疲れ。お前すげーな最後の。ピカッと光って次の瞬間にはズバッと斬れて頭が落っこちてよ!」

 

 そう笑顔で話しかけてきたのはギルドで招集されたのだろう冒険者らしき男性。顔も隠している相手に話しかけられるのは、優しさからか好奇心からか。あるいは下心からか。

 

「ところでよ、もしソロでやってるんだったら、よかったら俺のパーティ『ワールドエンブリオ』に入らないか?」

 

 三つ目だったか。

 

「なあおい、聞いてるのか? なあ」

 

 一向に返事もせず顔も向けないことにイラついたのか、男性は自分の方へと向けさせるためにその肩に手を置いて……

 

 …私は躊躇いなくその手を叩き払った。

 

「私に触るな、人間風情が」

 

 自分でも驚くほど低い声が出た。

 罪悪感はない。むしろ嫌悪感すらあったと思う。

 普段の私なら言わない、見下した言葉。

 だが今だけは、この人間の態度に怒りを禁じ得なかった。

 

「な、なんだよ優しくしてやったのに。もういいお前なんかこっちから願い下げだ」

 

 そう言い仲間のもとへ戻っていく男性を一瞥もせず、ただ空を見上げ続ける。

 光の粒子が昇っていった先を、じっと。

 

 結局これでよかったのだろうか。

 あれしか方法はなかったし、あの子達も最後はそう望んだ。

 ああなる前に助けられなかった。その償いとして最後の望みを叶えられるように行動した。

 痛みを長引かせないよう、速く。

 痛みを感じさせないよう、一瞬で。

 後者は無理だった。私にそれが出来るほどの実力はなかったから。

 首に残る最後の痛みが、私にそう教えてくれた。

 それでもあの子達は安らかな目を私に向けていた。

 

 ──ようやく終われる。仲間達のもとへ行ける。

 

 ありがとう。

 

「っ……」

 

 お礼なんて言われたくなかった。

 罵倒されたほうがよっぽどよかった。

 それならまだ、この気持ちも、この涙も、溢れてなんてこなかったのに。

 

 

 

「──どうしたんだ? そんな目をして」

「ぇ…?」

 

 さっきのやり取りから、もう私に話しかける人はいないと思った。

 なのにその人は話しかけてきて、その声に聞き覚えがあって。

 ようやく視線を空から離して、その人の顔を見て、話しかけてきたことに納得した。

 

「ジンさん……」

「よう、お疲れさん」

「なんで、ここに……」

「そりゃお前さんが教祖様を通して俺に緊急事態なんて言うわ、教祖様も教祖様で人集めろって言うわ、心配にもなるだろ」

「…それは優しさですか。それとも下心からですか」

「純粋な好意と、結果としてお前さんにいろいろ背負わせちまった責任感からだ」

「…今の私に、好意を向けられるような資格はありません」

「そんなの知るかよ。俺が勝手に心配してんだ。資格の有無なんざ関係ねえよ」

 

 そう言ったジンさんは手を私の頭に置いて、フード越しに撫でた。

 それをさっきみたいに叩き払うことも、振り払うこともしようとは思わなかった。

 ただ僅かに伝わる温もりは、冷静になろうとした私を崩していって。

 

「…話してくれ。ここで何があったのか。お前さんが何を見て、何を聞いて、何を思ったのか。そうしたら俺は、お前さんが泣いている理由が、少しは分かると思うんだ」

 

 レンズ越しに見た彼は、とても優しい目をしていた。




後書き~

「湖面の月は、虚像の光。誰であろうと、何であろうと、その存在を捉える事など出来はしない。何故なら…本物の月は、虚像の真逆にあるのだから」(シモツキさん作『超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay』コラボエピソード第十六話より月光剣の台詞から)
今回登場した『クレッセントリフレイク』は二年前のコラボの際シモツキさんが考え登場させたルナちゃんの新しい技です。もう説明文だけでカッコいいですし、その技と文章を考え出しちゃうシモツキさんがカッコイイです。
いつか出そうと出番を伺っていたら気付いたら二年の月日が流れ…いえこれは私の投稿ペースが遅いだけですけどね。
そんなこんなで次回、心が傷付いちゃったルナちゃんをサングラスのお兄さんが癒します?いやネプギアがやります?
はい、いつも通り結局未定というわけです。

最後にいつも通りのパロディ説明と前書きに書いたネタに走って消した会話文を載せておきます。
それではまた次回もお届けできることを心待ちにして。
See you Next time.

今回のネタ?のようなもの。
・刃は一層強く光を増して……――四散した。硝子が割れるように、バラバラになって。
前記したORコラボエピソードにて、クレッセントリフレイク発動時の地の文です。そのままです。ネタというより表現に困ってパクったなとか言われても反論できないです。でもその代わりに同じくらいカッコいい文章を考えてから抗議してください。私はいつでも受け付けてますし、土下座する準備もできてます。(キリッ)

そして以下ネタに走って消した会話文。

「あのブレスには気を付けて!とんでもない威力よ!」
「ぐっ…なんだよこの化け物…!規格外すぎるだろ…!」
「援護するぜ!」
「深淵より舞い上がりし黒炎よ。今こそ我が身に宿りて悪しき魂を燃やし尽くせ!ダークネスファイアー!」
「遠距離攻撃かと思ったら思いっきり拳で殴んのかよ!しかも普通に赤いじゃねえか!」
「ふっ、些細なことだ」
「まあ威力はあるみたいね……」
「負けてられないね!よ~しもういっちょ私も行こうかな!」
「いやお前さっき魔力切れで倒れてたじゃねえか!引っ込んでろ!」
「いいやここで私の内なる獣が覚醒して更に魔力が……!」
「「ないから!」」
「しょぼん……」
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