前回、アイエフと買い物に行ったルナ。今回は記憶を取り戻してから初めてお仕事をするようです。少しばかりオリジナルキャラが出ますが、彼らはルナとどう接していくのか。ルナは彼らをどう思うのか。
今回も、ごゆるりとお楽しみください。
第四話『新生活。嵐の前の静けさともいう』
ショッピングモールに行った次の日。私はイストワールさんから昨日言われた通り教会職員の皆さんに挨拶するため、皆さん…正確には事務部の職員が集まっているという部屋に向かっていた。
勿論一人じゃ迷うこと間違いなしだし、私一人じゃ色々とスムーズにいかないだろうからと、昨日みたいにアイエフさんについて来てもらっていた。ちなみに何でまたアイエフさんなのかというと、コンパさんは看護師のお仕事、イストワールさんは教祖のお仕事だったからだ。だったらアイエフさんも諜報部の仕事があるんじゃって思ったんだけど、事情があって休暇状態のようで手が空いてるそうだ。
だから迷うこととかの心配はないけど、そろそろどこに何があるかとか覚えないとな… 出来れば地図みたいなのがあればいいんだけど……
なんて考えてると、目の前で歩いていたアイエフさんが一つの扉の前で止まった。どうやらここがその場所のようだ。
「着いたわよ。ここが事務室。デスクワークを初めとした仕事をやる場所よ。事務部員の活動場所でもあるわ」
「はい」
「じゃあ確認ね。まず中に入ったら事務部長と挨拶。それから事務部の皆に挨拶をしてもらうわ。タイミングとかは部長が言ってくれるでしょうから、それに合わせてもらえればいいわ。その後は事務仕事で簡単なのを一通りやってみる。分かった?」
「分かりました」
「よろしい。それじゃ、行きましょうか」
そう言ってアイエフさんが扉の前に立つと、センサーが反応して扉が自動で開いた。それから「失礼します」と言って中に入る。私もアイエフさんと同じように言いながら後に続いて入った。
中を見渡してみれば想像通りというかなんというか、普通の会社の仕事場みたいな感じだ。
でも本とかは少なめで、電子機器が多いタイプ。仕事のほとんどを電子機器で管理してるのかな? 職員は皆さん制服らしきものを着ていて、仕事が始まる前なのか談笑していて賑やかだ。騒がしいってほどではない。
そう思ってたら奥の方から濃い茶髪で赤いカッターシャツを着た大柄の男性が話しかけてきた。他の職員さんに対して、随分とラフな格好をしているな……
「おうアイエフさんか、おはようさん。んで、その後ろの娘…イストワール様が仰ってた例の保護した人か?」
「おはようございます事務部長。はい、この
「は、はい! ルナといいます! よろしくお願いします!」
「おう、元気があっていいな! 俺はここ事務部の部長をやってるダイゴってもんだ。呼び方は部長でもダイゴでもどっちでもいいぞ。これからよろしくな!」
目の前の男性、ダイゴさんはそう大きな声で言った。緊張して始め噛んでしまったけど、私もそこそこ大きな声を出したつもりだったが彼の方がもっと大きかった。これが男性と女性の差か…いや単に彼が大きいだけか。
それから彼は私を部屋の一番前にある机…恐らくダイゴさんの机の横に連れてくると、部屋の中央に向かってさっきより大きな声を出した。
「おいお前達! こっちに注目!」
たったそれだけで皆さんは静かになり、ダイゴさんの話を聞こうとダイゴさんの方を向いた。そのたった一言、それだけで全員が一人に集中するのはなかなか難しいことだと思う。
それはただ彼の声が大きいだけで成せていることではないだろう。それを成せているのは彼がそれだけ信頼されているからか、彼らがよく訓練されているからか、もしくはその両方か。
ともかくそれだけでダイゴという
そう思って少し自信をなくしかけている間にも物事は進んでいく。
「今日から事務の仕事を体験しに来た人物を紹介する。よく聞けよ? ほれルナ。さっきみたいに元気よくな」
「はい。初めまして、ルナといいます。事情があって教会に住んでいる間、教会の仕事を体験させていただくことになり、しばらくの間はこの部署でお世話になります。なので皆さん、短い間か長い間かまだ分かりませんが、よろしくお願いします!」
ダイゴさんに言われて私は皆さんに挨拶した。少しばかり緊張が解けたというか、ガチガチではなくなったのでスムーズに言えた。それに全体に届くように大きな声で言えたと思う。
「ルナには簡単な事務仕事をしてもらう。担当は…そうだな、クリス。お前出来るか?」
「はい。任せてください」
そう言ってダイゴさんが指名したのは他の職員と同じ制服を着た短い白髪の女性。赤いフレームの眼鏡をかけていて、平均的な見た目をしている。優しそうなんだけど、少しキリッとした印象の女性だ。どうやらこの人が私に事務仕事を教えてくれるようだ。
「よし、ならこのまま朝礼といこうか。今日の連絡事項は──」
「──だ。後はいいな。そんじゃお前ら、今日も仕事頑張っていくぞ! 解散!」
朝礼は何事もなく終わった。ダイゴさんの合図で皆さん自分の仕事に向かう。デスクに向かってPCを開いたり、ペンを手に取ったり。席から離れて書類を取りに行ったり。
そんな中私はクリスさんから自己紹介を受けていた。
「初めまして。クリスです。一応ここの副部長を務めてます」
「は、初めまして。先ほども言いましたがルナといいます。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。ってなんだか堅苦しいですね。もう少し気軽でもいいですよ」
「わ、分かりました。頑張ってみます」
「ふふっ。それで、とりあえずあなたに仕事を教える担当となったわけですが、アイエフさんはどうします? 見て行かれますか?」
「あー、悪いけどこの後イストワール様に呼ばれてるのよ。クエストを受けてほしいって。だからやめとくわ」
と、クリスさんは近くに来ていたアイエフさんに質問し、アイエフさんは答えた。
にしてもどうやらお二人は知り合いの模様。先ほどのダイゴさんといいアイエフさんは有名人なのか、人脈が多いのか? まあ同じ教会で仕事してたり、お互い一般国民より立場が高かったりするし、その辺で知り合うこともあるか。
「そうでしたか。そういえば諜報部はここ数年間忙しそうにしていましたしね。私たちもそれなりに忙しくなりましたけど、アイエフさんぐらいになるとさぞかし大変でしょう……」
「そうでもないわよ。確かに同僚は忙しいでしょうけど、私は別の仕事を任されてるし。それにその仕事で一番忙しかった時期はもう終わって、これからは別の意味で忙しくなったりするから今はそのための休養中だからね。かといって今日みたいに突然仕事を頼まれたりするから全く暇なわけじゃないけど」
「そうだったんですねぇ」
へえ。そうだったんだ。だから私の相手をしてくれる時間があるんだな。だからって甘えないようにしなきゃ。
「あ~、お前たち。雑談もいいがそろそろ仕事してくれないか?」
「あっ、すみません部長! 今やります!」
「それじゃ私はこれで。ルナにもそのうちクエストを体験させてあげるわね」
「はい。楽しみにしてますね。お仕事頑張ってください」
「ええ。あなたもね」
お二人は…いや私もだけど、会話に夢中になってしまってダイゴさんに怒られてしまった。クリスさんはしまったとダイゴさんに謝り、アイエフさんは一言言って部屋を出ようとしたその時、自動ドアが開いた。まだアイエフさんはセンサーが反応する位置にいないし、部屋から出て行った人はいないはず。そう思って入ってきた人を確認すると、焦っているというか慌ててる様子のコンパさんだった。
「あ、あいちゃん! あいちゃんはいるです!?」
「どうしたのよコンパ。そんなに慌てて……」
「ギアちゃんが…ギアちゃんが目を覚ましたです!」
「なっ、それ本当なの!?」
「はいです! それでイストワールさんが会議室に来てほしいと」
「分かったすぐに行くわ!」
そう言ってアイエフさんは急いで部屋を出て行った。その後に続いてコンパさんも出ていき、後に残ったのは職員たちのちょっとした混乱だった。
「何かあったの?」
「話を聞く限りネプギア様に何かあっていたみたいだな」
「もしかして犯罪組織と何かあったのかな?」
「あなた女神様が犯罪神なんて信仰してる人たちに負けたとでもいうの?」
「いやそうじゃないよー。ただ最近は犯罪組織のせいでいろいろあったから……」
「なんにしても心配ですね……パープルハート様のお姿も最近お見えになりませんし……」
「じゃあ本当に……」
「あなたねぇ……!」
「おいお前ら! 今は仕事中だ! いくら女神様が心配だからって仕事中の私語は慎め!」
「「「「は、はい!!」」」」
目の前で起こった出来事に対して職員の皆さんはそれぞれ何があったのかと考え始めて、それで一悶着起きそうになったとき、ダイゴさんはさっきまで見せていた雰囲気を捨て、怒鳴った。その効果あってか職員の皆さんは返事をすると急いで自分たちの仕事に集中し始めた。
「はぁ……すごい……」
「部長はあんな風にラフな格好してフレンドリーに見えますが、中身は真面目な方ですから。それにこの中では一番女神様のことを信仰していますし……」
「なるほど……」
クリスさんからそう聞いて、私は思った。そうだとすれば一番心配なのはダイゴさんのはずだ。なのに仕事を真面目にやろうとする威勢は尊敬に値する。ハッキリ言って私だったら無理だと思う。うん、私には記憶がないからそんな大切な人とか分からないけど、多分無理だ。心配しすぎて何も手につかなくなる。それだけはハッキリ分かった。
「さて、女神様が心配ですが、私たちにできることと言えば女神様の負担を減らすために仕事をすることです。ということで早速簡単な書類関係の仕事から教えていきますが、用意と覚悟はいいですか?」
「はい! どんとこいです!」
もはや私の気持ちは「今日一日で教えてもらうことすべて覚えるぞ!」ってぐらい燃えていた。
そりゃ皆さんは女神様が心配なんだろうけどクリスさんの言ったようにせめて負担を減らす程度になるのなら仕事をしたい。
それに今回の体験は仕事の出来によって報酬が貰える。だからよく働いて借金を返済しないと、という気持ちもあるからね。
そう思って私はクリスさんに仕事を教えてもらうため、彼女の後をついていった。
[会議室]
「なっ、本当にルナを連れて……?」
「はい、せっかくの機会ですからネプギアさんとの顔合わせを兼ねて行ってきてください。クエスト自体はお任せします。勿論無理に連れていく必要はありませんし、無理やり戦闘に参加させる必要もありません。あくまで顔合わせとクエストがどういったものかを教える程度で構いませんので」
「…そうですね。分かりました。二人もそれでいい?」
「はい、私は構いません」
「私も大丈夫ですぅ。もし何かあっても私たちが守れば大丈夫です!」
「じゃ、まずはルナを呼びに行きましょうか」
「はい、いーすんさん。ゲイムキャラの捜索お願いしますね」
「はい、任せてください」
「じゃあ行ってくるですぅ」
「ルナさんか……どんなひとなんだろう……」
後書き~
ルナははたして仕事を覚えられるのか。そして最後の会話は一体…
次回、再びこうして会えることを期待して。
See you Next time.
今回のネタ。らしきもの
・ダイゴ、クリス
二人の見た目は戦記絶唱シンフォギアより名前、もしくは容姿を少し変えて書きました。元人物は風鳴弦十郎と雪音クリス。