会議室は会議室でも重要会議室。主に国にとって重要な会議のときか、国の上層部の人達のみが使える部屋。通常のと何が違うかといえば多分セキュリティーの高さと椅子の座り心地かな。あと飲み物が出てきて、しかも種類をリクエストできるところもそうなのかも。…まあ会議室を会議室だと認識した上で使うのは今回が初めてだけどね。
そんなわけで席に着いた皆さんはそれぞれ飲み物のリクエストをして…私は特に希望はなかったから水でいいかなと言ったら「では本日の紅茶はいかがでしょう」と給仕係さんにおすすめされて、それにした。…なんだか喫茶店みたい。だからってさすがに茶菓子は出てこないよね。…と思ってたこのときの私の考えは浅かったのだと後で知りました。
ちなみにそれぞれが席に座り始めたとき、私もどこかに座ろう、と誰がどこに座るのか見ていたらジンさんと目が合いました。相変わらずのサングラス姿だけど、目が合ったのは分かりました。だってこっちを思いっきり見てるし、何なら曲げた人差し指を振って「こっち来い」と言ってらっしゃいますし。
…うん。ジンさんの隣に座りましょうかね。ご本人に呼ばれてしまったし。
「おはようございます、ジンさん」
「ああ、おはよう。遅かったが、何かあったのか?」
「いえ、ただ少し話し込んでしまっただけですよ」
「そうか」
そう普通に挨拶と一言を交わして、「まあ隣に座れ」という許可を貰ってから「では遠慮なく」と座る。
まあ円形のテーブルだから、人数分のみ用意された椅子にそれぞれが座れば必然的に誰かと誰かの間に座ることになる。だから特にジンさんの許可が必要ってわけでもないけど、一応雇い主でもあったから。
だから先に隣の席に座っていたアイエフさんにジンさんと知り合いなのかと訊かれて正直に知り合いだと答えた。別にジンさんと知り合いなことは隠す必要はない。むしろあまり隠さない方がいい、というのが昨日ジンさんと話し合った結果だ。
だから今回隠すのは昨日の私の行動とユエ関連。そして隠すとしても言わないか、誤魔化す。極力嘘を言わないようにするといいらしい。…ジンさんはどこかでそういうことを知れる経験をしたんだろうか……?
「あなたがネプギアさんの言っていた子ね。初めまして、アタクシはこの国の教祖、箱崎チカよ」
「あっ、初めまして。ルナって言います。旅人です。よろしくお願いします」
っと、昨日会ったからって思ったけど、一応初めましてだった。そのことに気付いて慌てて立ち上がって挨拶する。
それからチカさんの「昨日の子は来てないようね」って言葉に体が僅かにでも反応しそうになるのを抑えながら座って、代わりにジンさんが「ああ。あいつはこういう場は好かないらしい。さっさとどっかに行った」と返した。そしてその分雇い主らしきジンさんが話すってことでユエのことはとりあえず終わり。
それからすぐに給仕係さんが飲み物をそれぞれの前に置いて、飲み物が行き渡ったところでチカさんが司会らしく挨拶。今回の会議の名目…昨日の異形のモンスターについての情報共有であることを確認する。
今回は一応各国それぞれの代表が集まってることになるみたい。プラネテューヌからはネプギア。ラステイションからはユニ。ルウィーからはロムとラム。…だけどさすがに幼いので後で誰かが代わりに伝えるって。
そんなわけである意味一番部外者な私だけど…どうやらチカさんに話はいってるみたいだから安心して参加する。今更途中退席はできないもんね。
そして前置きも終わって、さっそく本題に入る。
「ではまずは私から」
そう言って立ち上がったのはジンさん。相手に女神候補生もいるからか、丁寧な口調に変わってる。
そのジンさんが立ち上がるとともに部屋の照明が弱くなって部屋が暗くなる。窓がないから他の明かりもない。
そう思ってたら天井からスクリーンが降りてきて、そこにプロジェクターで画像が投影された。そこに映っていたのは水色の陸のようにも見える広く大きな背中と、そこに座り込むプラチナブロンドの少女……って、
「私だ!?」
「…んんっ」
「あっ、す、すみません……!」
驚きで立ち上がってしまって…すぐにジンさんの咳払いで自分が今どの場にいるのかを思い出して座った。
うぅ…やってしまった……
「…さて、こちらは海軍より提供された写真であり、確かにここに写る少女は彼女、ルナですが…今はそれは置いておきましょう。今回皆様に注目していただきたいのはこちらです」
そう言ってジンさんは手に持った指揮棒で、写真の私が座っている何か…エル君の背中を指した。
「こちらは我々が確認しているモンスターの異常個体の一体。特徴や情報などから照らし合わせると、おそらくセイントホエールの異常個体だと思われます」
ほぇ…エル君ってセイントホエールって種類だったんだ……
「この画像に写る少女と比較すると分かりますでしょうか。このホエールの大きさは異常なまでに大きい。そしてこのような個体は自然に生まれるものではないと我々は考えています」
「そう。それで、そのモンスターと今回の異形モンスターとの関連性を教えなさい」
「はい。実は他にもこのような異常が見られるモンスターを、このリーンボックス内でいくつか確認しております」
そう言ってジンさんは端末を操作し、映っていた画面が変わる。いろいろなモンスターの写真が映った。その一体一体の異常な部位を指示棒で指しながら、ジンさんは説明する。
これらはおそらく、今回のモンスターを造るための実験体であったのだろうと。
そして、最後の映ったのは……
「そして彼らの実験データを元に造り出されたのが、この異形モンスター。便宜上キメラと呼ばせていただきますが、こちらのモンスターはそれぞれの部位が別々のモンスターのものから切り離され、繋げられたものであると我々は推測しております」
そしてジンさんは数拍置いて「ひとまずここまででご質問はございますでしょうか?」と問うとアイエフさんが手を上げ、訊いた。
だとしてもあの異常な強さには何か別の理由があるのではないか、と。
その質問にジンさんは頷き、言った。
あれはおそらくマナメダル、ゲイムキャラ、シェアクリスタルの三種が取り込まれたことに加え、汚染化されていたからだと思われると。
汚染化、異常化。それに加え三種の膨大な力。
普通はここまで詰め込めばその量と質にすぐに破裂するだろうに、そうならなかったことは驚愕に値する。だがそれぞれ違う力が今回のモンスターをこの強さに留めたのだと、ジンさんは言った。
どうやらそれぞれの力が邪魔し合って、私達でもなんとか倒せる強さになっていたらしい。確かにもし本当に全ての力を引き出せていたとしたら、今の私達ではとてもじゃないが倒せない。今回は属性攻撃が効いたからいいが、もしそれすらも効かないとなればお手上げ状態だっただろう。
他にも質問がいくつかと、他の説明もあったけど…私はいまいち覚えていない。
ぼーっとしていたわけじゃないと思う。誰が質問したかは覚えてる。内容もなんとなく。けどところどころ途切れてもいて。それが自分の中で膨らむ感情に意識が向いていたからで──
──にくい
「──ん! ルナちゃん!」
「…ん? ぅえ!? ネ、ネプギア? どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ。もう終わっちゃったよ?」
「え、あ…そ、そうだったんだ……」
体を揺さぶられて、名前を呼ばれて…ようやく目の前にネプギアがいることに気付いて驚いて、ネプギアの言葉で既に周りが明るいことと、会議が終わっていたことを知った。
しまった…話全然聞いてなかった……
「…その、大丈夫?」
「え? 何が?」
「それは、その……」
「…こわいの、終わった……?」
「『こわいの』……?」
言い辛そうにしているネプギアに首を傾げていると、ロムが何故かコンパさんの後ろから顔を出して訊いてきた。
なんだろう、怖いが終わったかってどういう意味……?
さらに首を傾げていると、ロムの前からラムが…って、そうか。コンパさんの後ろにラム、ロムの順番で隠れてたんだ。……ってなんでラムも隠れて……?
「さっきからずっと怖い顔してたから!」
「怖い顔? 私が?」
そう言われて自分の顔をぺたぺた触るけど、いつも通りの顔だよね……
「触って分かるわけないでしょ」
「あ…それもそうでした……あはは……」
呆れるアイエフさんにそう言って笑ってみるけど……周りの目はまだ心配の色が混ざってる。
それでも私が「なんだかよく分かりませんけど、私はいつも通りですよ」と言えば少しは安心してくれたみたいだ。
そう、私はいつも通り、いつも通り……
今まで通りでいなきゃ。
「少しいいか、ルナ」
「はい?」
そう声をかけられたのは会議室を出ようとしたとき。まだ中にいたジンさんからかけられた。
それから手招きされて、その通りに傍にいくと小声で「後でギルドに来い。話がある」って言われた。今はそれだけのようで「もう行っていいぞ」と今度は普通の声量でシッシッと追い払う動作。
よく分からないけど、多分何か大切な話か何かなんだろう。皆と別れたら行かなきゃ。
再び皆のところに戻って、そのまま外へ。
そこでネプギアに今回の会議が私の調べものの役に立ったか訊かれて、私は「役に立ったというか、おかげで知りたいことのほとんどが分かったよ。誘ってくれてありがとう」ってお礼を言った。そのまま自分が知りたかったことがエル君の今の姿に関してだということも伝えた。
…あとネプギアとユニに、前に調べ事の内容は言えないと言った理由も話した。これにはもしかしたら人間が関わっているかもしれないから言えなかった、と。
もう皆、異常化モンスターが人間の手で生み出されていることを知ったから。それを隠しておく必要も、隠さないといけない理由もなくなった。
「ごめんね、隠してて」。そう謝るとネプギアが「いいよ。ルナちゃんなりの気遣いだったんだね」と言ってくれて、ユニも同じで「そういうことだったら女神候補生の私達には話しにくいわよね」と分かってくれた。
やっぱり二人とも優しい。
そうしてその話は終わって次の予定を聞いてみると、どうやら皆それぞれの国に帰るんだって。
ロムとラムも、ユニも、ネプギアとアイエフさんとコンパさんも。
ロムラムとユニは、リーンボックスではしばらくはシェアを獲得できそうにないからって。ロムとラムもユニと同じようにこの国にシェアを取りに来たみたい。
ネプギアとお二人は、もうこの国のゲイムキャラの力を借りることができたってことで、一度プラネテューヌに帰って報告。
そういうわけで皆で港へと移動して、船着き場にいる。どうやら全員同じ船で一度ラステイションまで行って、そこで別れるんだって。
「ルナちゃんはどうするの?」
「私?」
アイエフさんとコンパさんが6人分の乗船チケットを買いに行っている間に訊かれたその言葉に訊き返す。するとネプギアは「うん」と頷いて言った。
「もしよかったら、一緒にプラネテューヌに帰ろうって……ダメ、かな」
「ネプギア……」
それはきっとネプギアなりの一緒にいたいと思う気持ちからのお誘いなんだろう。そして同時に言ってくれている。
プラネテューヌは、私が帰ってきてもいい場所なんだって。
けれどネプギアは今、各国のゲイムキャラの協力を得るという旅の目的が果たせている。ならば彼女達が次にとる行動は……
先を考えて、自分に何ができるかを考えて、そして私が選んだ答えは──
「…ごめんね。私にはまだこの国でやらなきゃいけないことが残ってるから」
「…そっか」
やるべきことがまだ残ってて、それを残したまま去ることはできないから。
けどね、
「けどあと少しで終わると思うから。その後は、ね」
「それって、つまり……!」
私から出して、ネプギアも出してくれて……小指と小指を絡める。
大丈夫、これは果たせる約束だから。
「またね、ネプギア」
「またね、ルナちゃん」
再会の約束を果たすのは、きっとすぐそこだ。
6人を含めたたくさんの乗客を乗せて、船は港を離れていく。
大きく手を振るラムや小さく手を振るロム、そもそも手を振らないユニなどそれぞれの個性が出る「またね」に私も振り返す。
船のスピードは速く、あっという間に皆が小さくなっていって。
『……いってしまいましたね』
「……だね」
『これからどうなさいますか?』
「まずはギルドに行こうか。呼ばれてるからね」
そう月光剣に言って、港を後にする。
さて、さっさとやることを終わらせようね。
後書き~
次回予告。
次回、ギルドに行ってジンさんと話をします。その傍らには前回登場したあの子もいて……
多分そんな感じのお話になると思います。
次回もこうしてまたお会い出来ることを楽しみにして。
See you Next time.