月光の迷い人   作:ほのりん

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第五十四話『悲痛な叫び』

 ギョウカイ墓場の空は暗い。青い空なんて一片も見えなくて、代わりにある一面に広がる分厚い雲が、太陽の光のほとんどを遮っている。

 それがどうした、と言われれば、ちょっと気持ちが下がっちゃうよね、というくらいしかないんだけど。なんなら今から言うのは、ただ時間間隔がズレていた、とか、頭から抜け落ちていた、というだけの話なんだけど……

 

 そういえば今日って、満月の日だったんだなって。そう感じただけだよ。

 

 

 

 戦いが始まってからしばらく経って。私達は全員傷だらけで、それはジャッジ・ザ・ハードも同じで。

 そして互いに負けたくないと強く想う意志も最初からずっと変わらない中、アイエフさんとコンパさんが前へと突撃した。

 

「これでも喰らいなさいッ! 『真魔烈皇斬」!」

「続くです! 『とーはるいぱんこ』、ですぅっ!」

「ぐぬぅっ……だが効かぬ! この程度でこのオレ様が負けるかぁぁああっ!」

「ッ、コンパ!」

「あいちゃ……きゃああぁっ!」

 

 アイエフさんのカタールによる連撃が残り僅かだったバリアの耐久値を削り切り、バリアが砕けたところを続くコンパさんの注射器から放たれた魔力弾の雨が降り注ぐ。

 だけどそれでジャッジを倒しきることは出来なくて、薙ぎ払うように振り回された槍が二人を吹き飛ばす。

 けどそこはさすがというか、ただただ吹き飛ばされず、アイエフさんは身を挺してコンパさんを直接攻撃からは庇っていた。

 コンパさんは大丈夫。アイエフさんは心配だけど、これでそっちに意識を持っていったら叱られそうだ。

 だから私は私の技に集中する……!

 

「これで、繋ぐ……! クレッセント……リフレイクッ!」

「効かぬと言っておろうがぁああっ!」

 

 槍の動きが止まった隙にジャッジへと接近。地面を蹴りつけ飛び上がり、その頭目掛けて一直線に飛ばした三日月形の斬撃は、無理やりにでも振り回したジャッジの槍で突かれて着弾前に発散する。

 でもこれはそれで終わらない。

 これは勝機へと繋げる、特別な技なんだから!

 

「グァハハハッ! どんな攻撃が来ようと、オレ様は負けん──ガッ!?」

 

 技を防げたと思い込み笑うジャッジの後頭部を、背後で再構築された三日月が撃つ。

 その強い衝撃に撃たれたジャッジは前のめりで倒れそうになるけど、残念ながら倒れる前に足を前に出し踏ん張った。

 けどその一瞬の隙が、この戦いへの勝機となる。

 

「あとは頼んだよ、ネプギア、みんな!」

「っ……、確かに受け取ったよ、ルナちゃん」

 

 攻撃を当て、ジャッジから距離を取りつつネプギアへと近付いた私は、その肩へと触れる。

 あとはネプギア達がトドメを刺すだけ。その最後の一手に少しでも力をあげたい、と私のなかにある残り僅かな力のほとんどをネプギアへと渡す。

 何回もやって慣れてきたっていうのと、渡す力も僅かだったから。数秒で終わった『転換移行(トランスコンバート)』は確かにネプギアへと渡されて、ネプギアも実感があったのだろう。私へと頼もしい笑みを向けると、ビームを最大出力へと変え、ジャッジへと飛ぶ。

 

「ユニちゃん、ロムちゃん、ラムちゃん! 最後は力を合わせよう!」

「ええっ! 絶対に決めて見せるわ!」

「足を引っ張らないでよね、ネプギア!」

「ネプギアちゃんたちと、いっしょに……!」

 

 ネプギアがジャッジの懐へ入ると、M.P.B.L.をめいっぱい振り上げ、ジャッジの体を宙へと飛ばし、それにユニの全力を掛けた弾丸が追撃。その体が頂点まで来たところでロム、ラムが放ったいくつもの氷塊がジャッジを押し潰す。

 そして……

 

「全力全開……! 『スペリオルアンジェラス』!!」

「クソがぁぁああああぁぁああっ……!!」

 

 ネプギアの、全力全開のレーザービームが、ジャッジの体を貫いた。

 

 

 

 地上へと重い音を立てて落ちる機体。パーツが欠けたり、ヒビが入ったり……何よりその腹部に空いた丸く大きな穴が目立つその機体は、仰向けに倒れたまま、指一本も動かない。

 ただその表情は動いた。歪んだ表情として。

 

「チクショォォ……負けたくねぇ……死にたくねぇ……!」

「ジャッジ・ザ・ハード……」

 

 仮に彼の体が本当にロボットで、人間のように感情のある自律人形(オートマタ)であったなら、冷却装置の水が涙として目から流れていたかもしれない。そう思うほどジャッジの表情は悔しさで満ちていて、それだけ強く想っていることが痛いほど伝わる。

 伝わったのは私だけじゃなくて、皆にも伝わったらしい。誰かの口から彼の名前が零れたのは、同情からか。

 けどこれは勝負で、こちらは女神の命、ひいてはゲイムギョウ界に住む皆の命が懸かっているから。

 もう絶対に負けられないし、気持ちを理解しても、容赦はできない。

 

「もっとぉ……もっと戦いてぇよぉぉお……!」

 

 泣き叫ぶように、戦闘狂らしい彼の断末魔を最後に、ジャッジの体は電粒子へと変わり、どこかへ飛んでいく。

 それは私達の勝利が確定した瞬間だった。

 

「……やった、んだよね……」

「……ええ。私達の勝利よ」

 

 ネプギアの確かめるような言葉へ、皆もまだ受け止めきれていないのか反応しなくて、そんななか一番大人でもあるアイエフさんが肯定した。

 けどすぐに「わーい、やったー! これでお姉ちゃん達を助けられる!」なんてテンションにならなかった。もしかしたらラムはそんな反応をするかも、と思ったのに、彼女も彼女で少しだけ気まずそうな顔をしていた。

 多分初めてだからかな。私も含め、言葉を交わせる相手を()()()ってことが。

 これは正義のためで、大切な誰かを助けるためで、仕方のないことだけど。

 それでも喜びだけが溢れるものじゃない。

 

 これは、そんな複雑な勝利で。

 最低でもあと3回、そんな勝利を収めなきゃいけないってこと。

 私達はここにきて初めて、それを知ったんだ。

 

 

 

 

 


 戦いが始まる前から分かっていたけど、やっぱりリンダ達は逃げていてどこにもいない。もしかしたらどこかにまだ隠れているのかもしれないけど、多分大丈夫。私達は大きな戦いの後でボロボロだけど、あの二人くらいならやられる心配もないだろうし。

 それと猫もいない。どうにもリンダ達の知り合いっぽいから、連れていかれたか、追いかけて行っちゃったのかもしれない。もしかしたらリンダ達にいじめられるかも、と思ったけど、それならさっきのときに手荒く追い払ってるよね。多分ラステイションで会った人達と同じ、リンダも根から悪い人じゃないんだと思う。ただ本人達の正義が私達の正義と衝突しちゃってるだけなんだよね。

 

 そんなことを確認したり思ったりしながらコンパさんとロムの治療と魔法を軽く受けた私達は、ギョウカイ墓場の中心……守護女神達が囚われている場所へと着いて、シェアクリスタルとゲイムキャラ四人の力を合わせて配線コードっぽい拘束を解いて守護女神達を助け出して、ネプギア達は感動の再会を……って、そんな大事な場面を端折っちゃダメだろうけど、まあそんな感じで無事救出できました。

 これでここでのミッションは完了。あとは女神達を連れながら転移陣まで、プラネテューヌまで戻ればオールクリアって。

 本当ならそうなる予定だった。そのはずなんだけど……

 

「──グルルルルゥゥ……」

 

 私の目の前には今、11体の異形がいます。

 どうして、かな。

 

 

 

 でも、

 

 

 

 まあ、

 

 

 

 

 

 倒しちゃえば、問題ないよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから、いただきます。

 

 

 

 

 




……See you Next time.



今回のネタまとめ
・オートマタ
 TVアニメ『プリマドール』からです。自律人形の見た目はまんま人間と同じ姿をして、大正時代の学生鞄のような機械を背負った姿なので、巨大ロボット感満載のジャッジとは全然感じが違いますね。プリマドールでは自律人形の涙は体内の冷却水が排出されているそうです。さすがKeyさん、疑問に思う設定をちゃんとアニメ内のセリフに取り込んで読者に伝えている……!
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