はっきりと聞こえたその声に、確かな聞き覚えはあった。ひどく懐かしくて、胸が締め付けられるような声。誰のものだったか。……思い出せない。
少しだけ、気になる。でも――今はそれよりも大事なことがある。
お腹が空いている。足りない。全然足りない。
言葉は理解できなかった。ただ声だけが、色だけが頭に残る。怒っているような色。でも、それが何を意味しているのかはどうでもよかった。
視線を向ける。他の影と違う、小さな姿。けど、その存在はやけに強く、眩しく輝いている。
……あれは、いい。
他の影とも、さっき食べたものとも違う。ちゃんと満たしてくれそう。
これなら、足りる。
だから――
食べよう。
――いただきます。
四天王のひとりを倒し、ついに女神救出を成し遂げた――その直後の出来事だった。
突然襲いかかってきたマジックは一直線にルナを狙い、最初に倒れたのは彼女を庇ったアイエフとコンパだった。次いで、瞬時に状況を理解し動いた守護女神たちが倒れ、さらに候補生たちも続く。
仲間が倒れていく。次々に――自分を庇って。その光景が、ルナの目にどう映っていたのかは分からない。
再び振るわれた大鎌を、ルナは涙に滲む視界で捉え、咄嗟に
マジックの刃が容赦なく迫る。当たる――その瞬間。
それは起こった。
「ゃ、ぁ……ァアアアアアーーーー!!」
少女の絶叫が響き、同時に赤い光の柱が天を衝く。その奔流は大鎌ごとマジックを弾き飛ばした。それはこの場の誰もが知る現象だったが、人間であるはずのルナには本来起こり得ないはずのものだった。
やがて光が消える。そこに立っていたのは、髪も瞳も、纏う気配さえも変わった少女――否、ひとりの女性だった。
「ッ! やはりキサマだけは私の手で葬ってくれる!」
憎悪を剥き出しにマジックが再び斬りかかる。だが当たらない。触れたとしても、赤い線が一瞬走るだけだった。
そこからは一方的だった。マジックの攻撃を躱すか、あるいは受け、そのまま反撃に転じる。肉を切らせて骨を断つ戦い方を、ルナは一切の躊躇なく繰り返す。それが何度続いたのか、もはや数える者はいなかった。
やがて敗北を察したマジックは撤退を選択する。だが、遅い。ルナの手がその首を捕えた。淡く発光した手と同時に、マジックの表情が苦痛に歪む。それは、今のルナにとっての
力が喰われていく。命が削られていく。
最後の抵抗として振るわれた大鎌は、無防備な背に突き刺さる。だがルナはそれを意に介さない。ただ静かに、奪い、喰らい続ける。
やがてすべてを喰い尽くされたマジックの身体は光の粒子へと崩れ、その欠片さえも逃さず、ルナは貪欲に喰らい尽くした。
そのとき、ネプギアたちは立ち上がろうとしていた。
すでに体力は尽きている。それでもなお、狙われた仲間を……人間を守るため、かろうじて残された気力を振り絞ろうとしていた。
だがその意志は唐突に途切れる。誰ひとりとして動かない。いや、動けなかったのかもしれない。
それほどまでに、目の前の光景は現実離れしていたからだ。
少女ルナは人間であり、気弱でどこか頼りない、守らなければならない対象。
それがネプギアたちの共通認識であり、たとえ時折目を見張るような強さを見せたとしても、その印象が揺らぐことはなかった。
だが、いま目の前で起きている光景は、その認識を静かに、しかし確実に崩していく。人間であるはずのルナが変貌し、自分たちと同じ変身を遂げている。似ているはずなのに、どこかが違う――赤銀の女神。その姿は、理解できるはずの範疇に収まらない。
ほぼ万全であったはずのマジックを相手に、ルナは単独で戦いを制した。その過程は一方的でありながら、どこか歪で、ただの勝利と呼ぶには違和感が残る。胸の奥がざわつくような感覚が拭えず、それが何に対するものなのか、はっきりとは言葉にできなかった。
「ルナ、よね……?」
恐る恐る、ユニが呼びかける。それは目の前の存在への問いかけであると同時に、自身の認識を確かめるための言葉でもあったのかもしれない。
声に反応したのかは判然としない。だが、赤い瞳がゆっくりと女神たちへ向けられる。ひとり、またひとりと視線が移り――まるで値踏みするかのように観察し、やがてネプギアのもとで止まった。
その視線に宿るものを、言葉にすることは難しい。ただ一つ確かなのは、それが友へ向けるものではなかった。捕食者の目。そう形容するほかない圧力が、その場の空気を凍りつかせる。
――喰われる。
理屈ではなく、本能がそう告げていた。
「――ネプギアぁ!」
「――させると思ったかこのバカ妹がアアァッ!」
ルナが動いた、その瞬間。動けずにいたネプギアを庇うため、ネプテューヌが突き飛ばす。同時に、偶然にも似た光景が繰り返された。
白い影が閃く。弾丸のような速度で飛び込んできたそれ――白猫が、ルナの身体を弾き飛ばした。
白猫は空中でくるりと身を翻し、軽やかに着地した。ネプギアたちへ背を向けたまま、耳は鋭く前方へ向けられ、胴は低く構えられている。しっぽだけが、落ち着きなく揺れていた。
突き飛ばされたルナは、壁に叩きつけられた衝撃で舞い上がった土煙の中から、ゆらりとした足取りで姿を現す。その身体には傷ひとつなく、赤い瞳は白猫を捉えたまま離さない。
ネプギアには状況の整理が追いつかなかった。ルナが自分を狙ったのか、それとも何か別の衝動に突き動かされていたのか。そして、それを止めた白猫は何者なのか。断片的な情報が頭の中で噛み合わず、それでも時間だけが容赦なく進んでいく。
「グ、ゥゥ……」
「ああ、それでいい。昔からそうだ」
白猫から、幼い少女の声が発せられる。
「さあ、姉妹喧嘩を始めようか」
その言葉を合図に、一人と一匹は衝突した。大振りでありながらも鋭い爪撃を、小さな身体が紙一重で躱していく。反撃として繰り出される引っ掻きは、確かにルナの身体を捉えるが、刻まれるのは一瞬の赤い線だけで、決定打にはならない。攻撃は当たらず、当てても意味をなさない――そんな拮抗した状況が続いていた。
「っ、そうだ援護……!」
「そんな状態で何寝ぼけたこと言ってやがる! お前らは手ぇ出すな! 逃げか回復に徹してろ!」
思わず援護に入ろうとしたネプギアの言葉を、白猫が鋭く遮る。そもそもルナを助けるべきか、それとも自分たちを守った白猫に加勢すべきか。その判断すらつかないほど思考が混乱していると、ネプギアはようやく気付いた。
そのときだった。
「しゃんとしなさいネプギア!」
「っ……お姉ちゃん……!」
ネプテューヌの一喝に、ネプギアの身体が強張る。振り向いた先で、満身創痍のネプテューヌが、それでも真っ直ぐに彼女を見据えていた。
「ネプギア、混乱する気持ちはわかるわ。でも今は戦闘中で、あなたがこのパーティーのリーダーでしょう。ならあなたが一番しっかりしなきゃいけない。でなきゃ周りも混乱したまま、敵にやられるわ」
「私が、リーダー……?」
その言葉に、ネプギアは周囲を見渡す。ユニは静かに頷き、ロムは不安げにこちらを見つめ、ラムは苛立ちを隠さない。ノワール、ブラン、ベールは状況を見極めるように視線を向け、アイエフとコンパは励ますような笑みを浮かべていた。感情はばらばらでありながら、そのすべてがネプギアへと向けられている。彼女がこの場の軸であると、誰もが認めていた。
「……ネプギア」
「……うん。ごめんなさい、お姉ちゃん、みんな。私はもう、大丈夫」
ネプギアはゆっくりと立ち上がる。乱れていた思考が、少しずつ整理されていく。目の前の状況は、ルナが暴走状態にあり、それを白猫が抑え込もうとしている――そう理解するに至った。改めて周囲を見れば、ネプテューヌたちは戦闘を続けられる状態ではない。アイエフとコンパも限界が近い。そして、ユニたちは――
「やるんでしょ、ネプギア」
「ユニちゃん……でも」
「十分に休憩できたから、大丈夫よ」
隣に並んだユニの顔には、なお疲労の色が残っていた。
「わたしたちも、戦えるよ」
「これくらいへーきなんだから!」
反対側に並んだロムとラムもまた、疲労の色は消えていない。それでも三人の瞳に迷いはない。
その姿を見て、ネプギアの瞳からも迷いは消えた。
「――猫さん! 私たちも加勢します!」
「はあっ⁉ んなのいいから休んでろって――」
「でも!」
白猫の言葉を遮り、ネプギアは続ける。
「ルナちゃんが……友達が苦しんでいるのを、見ているだけなんてできない!」
その強い意志に白猫はわずかに目を見開き、ネプギアたちを見た。
「――いいね。その姿勢、大好きだぜ」
そう発する白猫の口が、楽しげに、しかし勝気に吊り上がった――ように、ネプギアたちには見えた。
ネプギアたちの意志を承諾した白猫は攻防を止め、素早い動きで後方へと回る。
ルナは追いかけようと動くも、不意に光の輪がルナの四肢をその場で固定した。
白猫はネプギアたちの前まで下がると、背を向けたまま──ルナへ視線を固定したまま、話し始めた。
「さて、拘束も長くは続かないから指示だけ簡潔に出すぜ。ユニ、ロム、ラムは私と共にルナの注意を分散させ、時間稼ぎ。その間、ネプギアはルナの剣を探して持ってきてくれ」
「ルナちゃんの剣を……?」
「アレが一番楽に攻略するための鍵だからな。見つけたら報告、あとの指示はそれから出す、以上。質問は?」
「はいはーい! 魔法は全力でぶつけていーの?」
「もちろん! むしろ全力でやらなきゃ逆に喰われるぜ?」
「りょーかい! がんばろうね、ロムちゃん!」
「うん……! がんばって、ルナちゃんを助ける……!」
「アタシからも質問。ルナのあの状態とか、アンタの正体とか。そういうのはあとで説明してもらえるんでしょうね?」
「答えられる範囲でならな」
「わかったわ」
「あとは他に……と、時間切れだ」
他にもあるか、と白猫が聞こうとしたそのとき、付近にピキッ、とヒビの入る音が響く。
発生源はルナを縛る光の輪。ヒビは徐々に広がっていき……
「グ、アアアア!!」
パキンッ、と軽い音を立て、砕けた。
「さあて候補生共、用意はいいか?」
『はい!(うん!)』
「よっしゃ! んじゃ、第二ラウンド……スタートだ!」
その言葉を皮切りに、戦闘が始まる。
荒れ狂う妹、あるいは友を助けるために。
「剣……剣……」
白猫の指示通り、ルナの剣を探すネプギア。彼女は女神化した状態で、宙から捜索していた。
ネプギアはルナの剣が飛ばされていった方角は覚えていた。が、どれだけ飛ばされたのかまでは見ていない。捜索範囲は広大だった。
姉たちはまだ動けず、ユニたちはルナの足止めで手一杯だ。
そのため一人で、目をこらして地面を、そして岩場の陰までくまなく探していた。……そのときだった。
「あれは……もしかして!」
ふと視界に入った淡い光。見覚えのある紫、黒、白、緑の四色が順に点滅しているその姿に、確信を持って近付く。
「よかった、あった……!」
月を模した銀色の剣。
友であるルナの傍らに在り続けた、かけがえのない相棒。
それが地面へ突き刺さっていた。
「あ、そういえば……だ、大丈夫だよね? 抜けないってことはないんだよね?」
ネプギアは月光剣を最初に見たときの出来事を思い出していた。すなわち、選ばれし者だけが抜ける勇者の剣のような状態であったときのことを。
だが今は非常事態であり、月光剣は自分を認識しているはず。きっと大丈夫だと己に言い聞かせ、その柄に触れた――その瞬間。
『紫の女神候補生!! 早く!! 即刻私をマスターのもとへ届けなさい!!』
「わっ!?」
頭の中に直接叩き込まれた強い思念に、ネプギアは思わず手を離し、自分の耳を塞ぐ。ぐわんぐわんと反響するような感覚に、頭を振って払い、月光剣を見た。
月光剣は先程までよりも強く、そして早く点滅する。まるで『悠長にしている暇はありません!!』とネプギアを急かしているようだった。先ほどの焦燥感を纏った女性の声は聞こえない。触れている間だけなのだろうか。
「わ、わかってます! なのでその、声をもう少し抑えていただけると……」
ネプギアがそう言うと、光は弱くなる。それでも点滅が早いままなのはそれだけ焦っている――主たるルナの状態が悪いことを察しているのだろうか。
もう一度、ネプギアが触れる。今度は大声ではなかった。
『……申し訳ありません、女神候補生。思わず思念が強くなってしまいました』
「いえ……私も同じ気持ちですから」
ネプギアが両手で柄を持ち、月光剣を引き抜く。あの時とは違い、抵抗はなかった。
『女神候補生。再度願います。私を、マスター――ルナのもとへ届けなさい。今の彼女には、私が必要です』
「……はい。必ず届けます。ルナちゃんを助けるために」
月光剣は一度強く発光すると、光は消えた。その答えに満足した――そうネプギアは解釈し、再び空へ飛び立つ。
ネプギアは来た方向へ目を向ける。
戦闘はまだ続いていた。三人と一匹が、暴走したルナと対峙している。
友達同士が武器を向け合う。その姿に心を痛めながら、彼女は速度を上げた。
絶対にこれで助けられるはずだと信じて。
戦況は変わらなかった。彼女たちが加わっても、私の負担は減らない。まるで羽虫が周囲を舞っているだけと言わんばかりに無視し、私へ喰らいつこうとする。
まあわかってはいたことだ。先程まで満身創痍だった彼女たちより、相性もいい私のほうが魅力的だろう。……例えもう私に残されたものが少ないとしても。
「このッ……! ちょっとは話を聞きなさいよ!」
「ルナちゃん、目を覚まして……!」
「わたしたちがこんなにしてるんだから、ちょっとは止まってくれたっていいじゃない!」
言葉の説得は効かない。そもそも聞こえていないらしい。戦闘の最中にそう伝えたが、それでもかけずにはいられないようだった。――言葉による説得が効くかもしれない。そのありもしない希望を。
(まだか……? 早くしないと、もう……!)
心に焦りが募っていく。表面上は彼女たちを安心させるため余裕ぶってはいたが、内心はぐちゃぐちゃだ。一旦落ち着かせてほしいのに、リミットが刻一刻と迫る感覚がそれを許さない。
だから――
「――おまたせしました!」
「ッ! ヨシッ!」
ようやく聞こえた、待ち望んだ声。しっかりとあいつが抱えられているのを確認して、つい指さし確認しそうになる。……手が人間のものじゃないからできなかったけど。
「それで、これをどうし――」
「ぶっ刺せ!」
「――え?」
一瞬呆けた顔をするネプギアに、私は再度伝える。
「それをルナへ刺せ! どこでもいい! 簡単に落ちない場所ならな!」
「そ、んな……嫌です! ルナちゃんを傷つけるなんて……!」
「傷つかないから! そういう設計だから、それ!」
「せ、設計?」
呆けて、悲痛な表情を浮かべ、目を丸くして。
次々と表情の変わるネプギアを観察していたい気もするが、今はそれどころではない。
『大丈夫です。グランドマスター……彼女の言う通りにしてください』
「で、でも刺すって……」
『私であれば、マスターの御身を傷つけることはありません』
「そういうことだから! また動きを止めるから、その隙にやれ! ただしさっきより持たないからな!」
まだ躊躇うネプギアの返事を待たず、再度拘束を試みる。ルナの攻撃を避けながら、シェアエネルギーを操作して……ってぇ、やりづらい!
「だあああっ、もう! どこまでお姉ちゃん大好きなんだよこの愛妹! 嬉しいけど獲物として見るのやめてくれないか!?」
「ちょっと! ふざけてる場合!?」
「ふざけてない! 避けながらだと集中できないんだぜ!」
「なら……ロム! ラム! 大技いけるわよね?」
「もっちろん!」
「まだ、できるよ」
「なら合わせなさい! 『エクスマルチブラスター』!」
「ちょっ、急に……もう! ロムちゃん!」
「うん! せーのっ」
『『エターナルフォースブリザード』!!』
青白い砲撃と荒れ狂う吹雪が同時にルナを呑み込む。
ルナは咄嗟に腕を交差させ、防御へ移った。
――攻撃が止まった。
「ナイスだ三人とも! これでいける!」
今度こそ集中して、練り上げて……!
「いっけぇ! 『バインド』! からの『コントロール』!」
放った光輪は狙い通りルナの手足を掴み、そして外側へと広げる。
がら空きになった、その胴体を目指して声を上げた。
「いまだネプギア! やったれ!」
「うぅ……! えぇええええい!」
もう悩んでいる暇などない。追い詰められたネプギアはやけっぱちになったように剣を構え、突撃し──剣先がルナの腹を突いた。
「グ、ゥゥ……!」
痛みはないはず。それでも異物が体に刺さったという感覚が、呻き声を上げさせた。
咄嗟にネプギアが「ごめんっ……! ごめんね、ルナちゃん……!」と辛い表情で謝る。その、直後──『バインド』を、解いた。
「ッ、ネプギア!!」
自由となったルナの両腕が、ネプギアへ迫る。すぐさま反応したユニが咄嗟に駆けようとして──その前に、私が入り込んだ。
「さあて、決着のときだぜ?」
軽やかに月光剣の鍔へ着地。埋め込んだ神力回路に沿って、ルナから負のシェアエネルギーを吸い取り、入れ替えるように私が持つ正のシェアエネルギーを送り込む。今まで何度もやった作業だ、今のルナが相手でもスムーズに、着実に作業を進めて――
「ぅ……」
ネプギアへ掴みかかろうとした、その姿勢のまま固まった身体から力が抜け、光の柱が彼女を包む。次に光が消えた時、そこにいたのは元の少女の姿へ戻ったルナだった。
「あ、ルナちゃん!」
「おおっと」
力を失った身体は後ろへ倒れていく。しかし地面にぶつかる、その直前。ネプギアがその身体を掴んだ。……私ごと月光剣を投げ捨てて。
『……扱いが雑では?』
「ははっ。まあいいじゃないか、それだけあの子が愛されてるってことなんだし」
猫の身体能力様様に、無事着地した身体で月光剣へ寄る。……うん、ヒビ割れもなければ、欠けのひとつもない。丁寧に扱ってくれてたんだな。
『私のような物に対しても優しい方ですから』
「……うん」
ルナを見る。意識を失った彼女は女神候補生たちに囲まれ、心配されていた。
「だから大丈夫だって言っただろ?」
『大丈夫だと言ったのは私です』と細かいことを言う剣は無視して、候補生たちへ近づく。明らかに心配の色を持つ四人へ、呼吸は安定していること、腹に傷一つないことを指摘した。
「ルナちゃんのおなか、キレイ……?」
「ホントだ……どーして?」
ロムとラムが不思議そうにルナのお腹へ触れる。そこは傷もなければ汚れもない。……服に穴は空いたけど。
まあだから二人は素肌に直接触れてるんだが……
「あー……その、二人とも? あんまり触れてあげないほうがいいんじゃないかな、なんて……」
「いくら友達でも、意識がないときに触れられるのは、ねえ……?」
ほんのりと頬を赤くしたネプギアとユニが、二人の行動を止める。首を傾げながらも特に反論せず手を放した二人は、互いにちょこっと「すべすべだった」と肌の手触りを感想した。
「ふふん、そうだろ~」
「なんでアンタが自慢げなのよ」
「ぁー……まあ妹を褒められれば姉として嬉しくなるもんだぜ?」
っと。褒められて調子に乗ったが、こればかりは素直にはね。
「ともかく、これで終わりだ終わり。帰還しよーぜー」
「ちょっ、なんでアンタが仕切ってるのよ!?」
「まあまあ、ほらほら、早く早く~。お姉さんたちも待ってるぜ?」
なんて軽い足取りで守護女神たちのもとへ足を進める。その後ろを、ルナを抱え(ついでに月光剣を回収した)候補生たちが続く。
彼女たちは……特にユニとネプギアが私を不審に思う目線は向けても、ルナへ向けていたものと同じ目は向けてこない。
だから……うん、大丈夫。誰にも気付かれてないよ、ね。