クリスさんに仕事を教わり始めた私はある感覚に襲われていた。
それは既視感。クリスさんが色々と仕事を教えてくれるのだが、そのどれもが「やったことがある」といったもの。
どこでやったのか、どんなものをやったのかは分からない。でも何となくやったことがある気がした。それもクリスさんが教えなくてもできるぐらいには。
初めて見るはずなのにどの事務仕事もその感覚があって、実際に書類の前に座ってやってみると、こうするとああなって、ああするとこうなるって頭に思い浮かぶ。実際その感覚の通りに作業をしてみればどれもあっていて、皆さんに褒められた。
でも私は表面上は「クリスさんの教え方が上手いから」と言っておいた。実際上手い。もし私が本当に何もわからない状態で手を付けてもすぐに覚えるほどには。
とりあえず思うのは、この感覚は多分私の失った記憶に関することなんだと思う。昔の私は事務仕事をしていたのかな? それがなぜか思い出せない今でも感覚として蘇る感じだろうか。よくわからない。あとでアイエフさん達に相談してみよう。
そうやって仕事を覚え始めて、いや思い出す感じだろうか。なんにしても仕事をし始めて数時間。多分二、三時間程度。今現在手を付けているのは“簡単”なんて付けられないほど難しい、上級者向けの仕事をしていた。
そもそも簡単な仕事自体あまりなかった。だから簡単な事務が終われば自動的に難しいものに変わっていくのは分かる。しかし私の場合最初からレベルが50くらいあるようなものだから一気にレベルを上げてその仕事をやってみたのだが……
「…出来ました」
「えっ!? それもできちゃったの!?」
「まじか……こりゃ俺たちの立場が危ういぞ……」
「ねえルナちゃん。実は事務仕事のプロだったりしない?」
「そんなことないと思いますが……」
それも出来てしまうという自分も周りも驚く状況が出来上がっていた。次々とクリスさんをはじめ周りにいた職員が話しかけてくるが、私としては本当にプロとかそういう感覚はない。ただ思い浮かぶことをすればできた。頭が勝手に働いた。そんな感覚。本当に、記憶を失う前の私はどんな人間だったのだろうか。
まあでもそのおかげで皆さんとの話題が出来て、クリスさんはタメ口で話しかけてくるようになったし、職員の皆さんも気さくに話しかけてくるようになっていた。皆さんとても優しくて、居心地が良くて、最初に来た場所がここでよかった。
そう思っていると事務室の扉が自動的に開いて、人が入ってきた。外に行った職員か誰かが戻ってきたのかと思った私は次の作業に移ろうと確認せずにいたから、次に聞こえた声に少し驚いた。
「失礼します」
「え…? アイエフさん?」
数時間前に急いで出て行ったアイエフさんの声が聞こえ、驚いてPCから顔を上げれば、扉の前にはアイエフさんが立っていた。驚いていると、私の横にいたクリスさんはアイエフさんのもとへ行き話しかけた。
「どうしたんですかアイエフさん。教祖様に呼ばれてたんじゃ……」
「それは終わったわ。それで、そのことに関係するんだけど、ルナを少し借りてもいいかしら?」
「はい、大丈夫ですよ。ルナちゃん、ちょっと来てもらえる?」
「はい。分かりました」
扉からそう遠くない場所にいたため話し声は聞こえており、私に用があるんだって分かった時点で私は席を立つ用意をしていた。だからクリスさんが私を呼ぶときには既に一時中断はできていた。勿論保存もした。それから急いでお二人のもとへ駆け寄った。
「はい、どうかしましたか?」
「ええ、さっき私、クエストに行くって言ってたでしょう?」
うん、言っていた。イストワールさんからクエストを受けたからって。でもコンパさんが来て確か“ギアちゃん”という方が起きて、イストワールさんが呼んでるって言われて、急いで部屋を飛び出していったから、そのあとは知らないけど、多分この様子だとまだなんだろうな。でもそれと私に何が関係あるんだろう。
「今からコンパともう一人とでギルドにクエストを受けに行くんだけど、イストワール様がルナも一緒にって。ルナが嫌ならいいんだけど、どうかしら?」
「クエスト…ですか……」
確かクエストっていうのは国民とかからの依頼で、モンスターを倒すか、素材を入手するかで達成して、報酬を貰う。そんな感じの仕事って教えてもらっていた。だからクエストが何かとかは分からないことはないけど……でも……
「でも私は武器とか持ったことないと思いますよ。手持ちにないですし。ですからモンスターは倒せないと思いますが……」
「それなら大丈夫。やるのはそのもう一人の子のリハビリも兼ねて簡単なものにするし、ルナにはクエストの受け方とか、実際にモンスターを倒すところを見るだけでもいいの。つまりクエストがどんなものか見るだけだから。武器も教会のを貸すし、無理そうだったら戦わなくてもいいわ。勿論付いてくること自体強制はしないんだけど……」
「えっと……」
それなら…って思った。でも今私は事務部でお仕事体験中だったし、それを勝手に抜けるのは良くない。だから思わずクリスさんの方を見た。すると察してくれたようだ。
「あ、仕事については心配しなくても大丈夫だよ。正直なところ最初、教えるってことでもしかしたら今日は私の分のノルマは達成できないかなって思ってたんだけど、むしろルナちゃんが優秀すぎてノルマどころか明日の分も終わりそうだから心配しないで行ってきて。それに元々教会の仕事を体験しにここに来たんだから、事務だけじゃなく色んな仕事をやってみるべきだよ」
そうクリスさんは言ってくれた。私自身も、もしかしたらクリスさんの仕事の邪魔をしてしまっているんじゃって気持ちもあったからその言葉はとても嬉しくて、私の心にのしかかっていた重りを外してくれた。
それにクリスさんの言う通り、色んな仕事に挑戦してみるべきだ。もしかしたら何かの弾みで記憶が取り戻せるかもしれないし。そう思ったら私の口は開いていた。
「ありがとうございます、クリスさん。ではアイエフさん。私もクエストについていってもいいでしょうか」
「ええ、もちろんよ。じゃさっそくいきましょうか」
「ルナちゃん、クエスト頑張ってね」
「はい!」
それから私はダイゴさんや職員の皆さんに挨拶をしてから、アイエフさんと事務室を後にした。
「それでアイエフさん。そのもう一人とは誰なんですか?」
部屋を離れた私たちは通路を歩いていた。どこに向かってるのかわかってないけど、私はアイエフさんが先ほど言っていた“もう一人”について聞いていた。
「この国の女神候補生の『ネプギア』って娘よ」
「へえ……女神候補生の……ってえぇ!? 女神様ですか!?」
「ええ。まぁあくまで女神“候補生”だから、本人に会っても気楽に接すればいいと思うわ」
「いやいやいや……」
候補生ってことは下手したら。いや下手しなくても教祖であるイストワール様より偉いんだよね。あれでしょ。候補生ってことは次期女神様ってことで、王国風に言うなら王女様だよね。言ってしまえば国のナンバー2のお方ですよ!? そんな人相手に気楽とか、相手とか自分とかの性格によってはいけるかもしれないけど、とりあえず私は相手のよるけど女神候補生に対して気楽とか無理だと思うからね!?
「普通その反応になるわよね。でも本人もその方が気が楽になると思うわ。まあ無理にとは言わないから」
「わ、分かりました……」
まあ本人がその方がいいのならその方がいいのかな。相手が嫌がるのは嫌だし。
「それで今はどこに向かってるんですか?」
「武器を見に倉庫よ。クエストに行く前に武器を決めないといけないでしょ。戦闘に参加しないとしても丸腰は流石にまずいでしょうし」
「そう、ですね……」
確かにまずい、危ない。戦場に丸腰とか死にに行ってるもんだ。
「だから二人と合流する前に倉庫に行って支給品専用の武器を見ましょう。攻撃力はないけど、今回受けようと思ってる難易度程度なら十分いけるはずよ。ただ種類があまりないのが難点ね」
「まあ特にどの武器がいいとかないので、最初は適当で構いませんけどね。そこから私に見合う武器を探していけばいいでしょうし……」
「そう? じゃあ基本な片手剣からかしらね」
そう言いながらアイエフさんは歩を進める。にしても剣か……なんだかワクワクしてきた。技名言いながら剣を振るう私……なんだかカッコいいな。なんて中二っぽいだろうか。
会話しながら着いたのはでかい扉の前だった。なんだかいかにも倉庫ですって雰囲気のある扉だ。一体どんな武器がしまわれているのだろうか……
アイエフさんがカードキーを機械にスキャンして、パスワードを入力すればウイーンって開くドア。中に入るとよくわからないものから武器だって分かるものがしまわれていた。
「ここには支給品のほとんどを保管しているの。といっても大したものはないけどね」
「そう、ですね……」
素直にそう口に出してしまって、ハッとなって慌てて口に手を当ててアイエフさんを見れば苦笑いをしていた。
でも本当にそう思ってしまうくらいこの倉庫は広いさに対して物が少なかった。もっと小さい部屋でも保管できるんじゃないかな。
「ここ最近は悲しいことに治安が低下してきてるんだけど、三年前までは平和だったの。だからロボットとか大型系の兵器は保管してるんだけど、人が自分で振り回したりするような武器はずっと昔に捨てられちゃって、今の女神様も争いとか好きじゃない子だからあんまりないのよ」
「へえ……」
その説明を片耳で聞きながら私は武器を見ていた。棚には定番の片手剣に両手剣、槍や銃がある。でもそれぐらいしかなくてバリエーションは少ない。しかも数もあまりない。ここの職員はどうやってモンスターを倒すんだろう。アイエフさんみたいに携帯してるのかな?
しかし本当に少ない、これならある意味迷わないな……
「アイエフさん、何かオススメってありますか?」
「そうねぇ、私は普段カタールやクローとかの袖に隠れる両手短剣しか使ってないけど、初心者ならさっきも言ったように片手剣とかかしらね。そこから両手剣にいったり、短剣だったり細剣だったり行けるでしょうし……」
「なるほど……」
確かにそこから始めるのが一番か。変に槍とかから始めるときっと変な感じになっちゃうかもしれないし。
「なら私はこの片手剣にします」
そう言って私は武器棚から片手剣を手に取った。手に取ってみると不思議と馴染むような……馴染まないような……
いや馴染まない、うん。とりあえずって感じだ。もしこれからもモンスターを倒すようになるのなら買わなくちゃな……
「私が言っておいてなんだけど、本当にそれでいいの?」
「はい、自分にどんなのが合うのか分かりませんから……」
私は誰もいないところに向かって上から下へ剣を振る。刀身柄ともに金属でできているのに重いとは感じない。むしろ軽い気がした。多分普通なら重いと思うのかな。まあ下手に重くて持てないってよりはこれからクエストに行くんだしいいのかな。
「…ふぅん、なんだか慣れてる感じがするわね」
「そうですか? 私の記憶では武器自体初めて持ったんですけどね」
「もしかしたら失った記憶に関することなのかもね。ともかく決まったのなら行きましょ。エントランスでコンパ達を待たせてるわ」
「あ、はい!」
私は急いで近くにあった鞘に剣をしまうとそれを腰に装着して、アイエフさんの後を追いかけるように倉庫を出た。そしてまた通路を歩いて今度はエントランスに来た。さっきアイエフさんはここにコンパさん達がいると言っていたけど、どこにいるかな?
そう思って見渡していると見知った顔と紫とピンクの間みたいな色の髪をした見たことない女の子が話してて、一人がこっちに気づくとこちらに向かって手を振ってきた。
「あっ、あいちゃん! ルナちゃん! こっちです~」
「ああ、いたいた。二人共遅くなってごめんなさい」
「いえ、私たちも今来たところなので……ところでその方がルナさんですか?」
「ええそうよ」
「初めましてルナさん。私はネプギアといいます」
そう目の前の少女『ネプギア』は言った。紫とピンクの間みたいな色の髪をストレートロングに、頭にはゲームのコントローラーみたいな飾りをつけていて、紫のセーラー服みたいな服を着た優しそうな女の子だな……
…はて、今物凄いことが頭をよぎったような……ネプギア…ネプギア……
「…え? ネプギア…って女神候補生!?」
そうだよ! ネプギアってさっきアイエフさんが教えてくれた女神候補生のことじゃないか! さっき待ち合わせしてるって言ってたんだからコンパさんといれば彼女のことだって分かるじゃないか!! 私のあほー!!
「お、お初にお目にかかりますネプギア様!
「え!? えっと……とりあえず顔を上げてくれませんか?」
私は今できる限りの丁寧な挨拶を焦りつつ深々と頭を下げて言った。だって相手は私が世話になってる教会のトップに近いお方なんだよ? 間接的に彼女に世話になってるといっても過言ではない。そんなお方に対して頭を下げないわけがない。
そんな私に対してネプギア様は私の行動に驚きつつも「顔を上げてほしい」と仰った。ならば従うのが下の務め…だと思います。そう思って顔を上げてみればネプギア様は戸惑っているような困ったような表情。
はて? とアイエフさんやコンパさんを見ればアイエフさんは苦笑い、コンパさんはいつも通りニコニコしていた。あれ? 私何か間違ったことしたかな?
「えっと、ルナさん。そんなに畏まらなくてもいいですよ。私はその…そこまで偉いわけではないので」
「何言ってるのよネプギア。アンタはこの国の女神候補生よ? 私やコンパはこんな砕けた態度をとってるけど本来ならルナみたいな態度が当たり前なんだから」
「そう…ですけど、慣れてないですから……ルナさん、砕けた感じの態度を取れなんていきなりは無理でしょうけどもう少し気楽でもいいんですよ。様付けもいりません」
「…ネプギアさm……いえネプギアさんがそう言うなら…改めてよろしくお願いします」
「はい、こちらこそこれからよろしくお願いします」
そう言って笑顔を見せる彼女。こうして私は記憶を失って初めて女神様…正確には候補生だけど…会った。優しそうで、可愛い女神様。でもなんだかその笑顔の裏に何かがある気がするのはなんでかな。
「それじゃお互いの自己紹介が終わったところで早速ギルドに行きましょうか」
「ギルド…ですか?」
アイエフさんの言葉に反応したのはネプギア様…じゃなくてネプギアさん。その様子だとよく知らないみたいだ。かくいう私もギルドのことはクエストが寄せられる仲介所としか知らない。多分そこでクエストが受けれるんだろうけど……
「そういえばネプギアも初めてだったわね。ルナには少し話したことだけど、もう一度言うわね」
「はい、お願いします」
「ギルドっていうのは、ゲイムギョウ界中からクエストと呼ばれる依頼が集まる場所なの。そこで依頼を受けて、依頼内容をきちんとこなせば、報酬…それと女神様の場合シェアが貰えるのよ。ま、これから行くんだし、口で説明するより、直接見た方が早いわね。ほら、行きましょ」
そう言ってアイエフさんは出口に向かう。私とネプギアさんも返事をして後を追い、その後ろをコンパさんがついていく感じになった。
アイエフさんとコンパさんの後をついていった先はとある場所にある施設。どうやらここがギルドのようだ。街並みにあった近代的な外見で、私が想像していた温泉のある木造建築の建物と違っていた。そしてこれまた自動ドア。はたしてこの国に手動ドアなるものはどれだけしかないのだろうか。
「こんにちはー。お仕事を貰いに来ましたです」
コンパさんの声を聞きつつ中を見渡す。中もまた近代的で、受付に電光掲示板、その前に小さなモニタ―のついた機械などがある。その中の壁に組み込まれたモニターの前にアイエフさんは近寄って、私たちも近づく。
「これは……?」
「これはクエストを一覧として見ることのできる機械よ。受付からでもクエストを受けることができるんだけど、ここからでも受けれるの」
私の疑問に対してアイエフさんは実際に画面を操作しながら答える。タッチスクリーンのようで、ボタンではなく指で動かすことができる。アイエフさんは画面に表示されたアイコンの中で『クエスト』のボタンを押すと、画面が変わって枠が二つある画面になった。その中で左の枠に『E』の文字とその横に短い文章が書かれているものが一つあった。
「あら……今は一個しか依頼がないみたいね。どれどれ。依頼内容:バーチャフォレストに出現するスライヌの討伐。最近旅人がスライヌに襲われる事件が急増。至急解決を望む…うん。これくらいならちょうどいいかもしれないわね」
アイエフさんはその文をタップすると、右に詳細らしきものが表示され、アイエフさんはその内容を読み上げた。どうやら『スライヌ』というモンスターを倒せばいいのかな。
「バーチャフォレストならここから近いですし、スライヌさんも、そんなに強くないですしね」
「そうなんですね」
「でも…大丈夫、でしょうか? 私……」
コンパさんの言葉に少しばかり安心する私だが、反対にネプギアさんは心配そう。ネプギアさんは戦いが苦手なのかな? まあ見た目からして戦闘が得意とは見えないもんね。
「だいじょうぶに決まってるでしょ。で、クエストの受け方だけど、こうやって掲示板からクエストを選ぶの。それで選んだらこのボタンを押して、表示されたここに自分の持ってる携帯端末をかざすの。そうしたらこのクエストに受けることができるのよ」
「もちろん携帯端末を持ってなくても受付の職員さんに言えば受けることができるです」
アイエフさんは操作しながら私たちに教えてくれた。あれだ、おサ〇フケータイの要領かな。なかなか便利な。そしてコンパさんはアイエフさんの説明に付け加えて教えてくれた。よかった。私はまだそういった機械は持ってないからコンパさんの言った方をしばらくやることになるのかな。
「ほらコンパに二人とも、バーチャフォレストに行くわよ」
「はい!」
「…わかりました」
心配そうなネプギアさんが気になるけど、今回のクエストは簡単みたいだからきっと大丈夫かな。
…でも何か、予感がする。良い予感なのか、悪い予感なのか分からないけど、危ないことにならないといいな。
ギルドでクエストを受けたルナ達4人。無事依頼を達成出来るのでしょうか。
次回、またお会いできることを期待して。
See you Next time.
今回のネタ?らしきもの。
・温泉のある木造建物
モンハン3rdのユクモ村のギルド。作者は3rdのみしかやったことありませんし、ランクも高くないです。村クエは殆ど終わらせたけど、その程度。
・クエストの電子掲示板
原作ネプ リバースのギルド画面を参考。
・おサイ〇ケータイ
〇をつける必要があるのか分かりませんでしたけど、一応。私は自販機限定で電子マネー派です。