前回ギルドでクエストを受けたルナ達四人。
果たして無事に依頼達成できるのでしょうか。
今回もごゆるりとお楽しみください。
今私たちがいる場所はプラネテューヌから少し歩いた場所にある自然公園『バーチャフォレスト』。国が管理する公園なんだって。でも最近はモンスターたちが蔓延っていて人が遊びに来なくなって、来るとしたら旅人が通る程度。
今回のクエストはその旅人さんがモンスターに襲われる事件が増えてきてるから、その原因のモンスターを倒してきてほしいと。報酬はアイテムとクレジットと呼ばれるこの世界で使われているお金。もっとも、報酬目当てにやってるわけではないので、報酬はおまけ程度の認識。
私達がこのクエストを受けた目的は、ネプギアさんのリハビリと、そのついでに「クエストとは」を私も含めた二人に教えること。さらにそのついでに私は弱いモンスターでもいいから倒せるようになることも含まれてるのかな。とりあえずこの腰に装備した剣で敵を倒せるくらいにはなれるよう頑張ろう。
そう思いながら皆さんと会話を交わしつつ、今回のターゲット『スライヌ』を探す。そしてそれなりに歩いたところで私の視界に水色の半透明な物体が映った。
「え…? あれは……?」
「どうしましたです?」
「えっと、あそこに変なものが……」
私はその場所を指差すと、三人は私が指した方を見る。そこには茶色い犬耳と尻尾を生やした水色の半透明のぷるるんとした物体…いや生物がぽよぽよと跳ねていた。その数およそ十数匹。まるで某クエストのモンスターみたいな見た目をしているな。
「おっ、さっそく出てきたわね、スライヌ。ネプギア、ルナ、いける?」
「は、はい」
「が、がんばります!」
「わたし達もお手伝いするですよ」
アイエフさんの言葉で私は急いで鞘から剣を抜き、両手で構える。ネプギアさんは短い棒を取り出したかと思うと、棒の先端から光りが出てきて、棒の形を形成する。いわゆるビームソードだ。そしてコンパさんが取り出したのは…注射!? え!? なんで注射!? し、しかもコンパさんの背丈と同じくらい大きい注射…あれで注射されると考えたら…がくがくぶるぶる……
ともかく今は眼前の敵に集中。対象はスライヌ。スライムに犬が足された程度、なんてことはない!
「それじゃいくわよ。覚悟っ!」
「ヌ、ヌラッ!?」
アイエフさんの合図で私たちは一斉に攻撃を開始する。突然の襲撃にスライヌが驚きの声なのか鳴き声を発するが、それぞれ私たちが敵だと分かると反撃してくる。その攻撃をなんとか避けたり防いだりしながら隙を見つけては剣を振るう。
それでも完全に防御しきれるわけじゃなくて、何度かスライヌ達の攻撃を受けてしまう。攻撃は体当たりぐらいしかなく、スライヌの身体はぷるぷるしてるが、勢いよくぶつかられてしまえば痛い。痛みでうずくまってしまいそうになるけど、周りを見ればアイエフさんもコンパさんもスライヌ達に向かって短剣を振るったり注射を刺したりぶつけたり、ネプギアさんだって戦ってる。
なのに私だけ敵に背を向けるなんて…できないだろ?
「はああああ!!」
剣の扱い方なんて分からない。身体をどう動かせば上手く攻撃できるかなんてわからない。でも、目の前の敵に背を向けることなんてしない!
…そのとき、ふと頭によぎった。剣の軌道。その通りに振ってみれば不思議と剣はスライヌに引き寄せられるように当たる。するとスライヌは断末魔をあげながら水色の粒子となって消えた。もしかして倒せたのか……?
「あら、良い攻撃じゃない。その調子でそっちを頼むわよ!」
「了解!」
どうやらこのやり方で良いみたいだ。よし、残りも倒し切ってやる!
そうやって私達四人はそれぞれスライヌを倒していき、初め十数匹いたスライヌはたったの一匹となった。後はこの一匹を倒せばクエスト達成だ。
「よし、こいつにとどめを刺せばクエスト達成ね」
そう言ってアイエフさんは倒される寸前のスライヌにカタールを振りかざす。しかし相手もそう簡単に倒されたくないみたいで……
「ヌ、ヌラ…ヌラ──ッ!!」
「あ、逃げちゃいました。待って──!」
ぎりぎり攻撃を躱し、逃げていくスライヌ。しかし大して強くはないから私達は逃げたところで余裕だと思ってた。逃げたスライヌを追いかけ、何とか追いつくと、そこにはまたスライヌの大群。しかもさっきの比じゃない。今度は二十とか三十とか、それ以上。そりゃこんだけいれば旅人も襲われるよ。
「ヌラ! ヌラァァ!」
「ヌラ!? ヌラァァ!」
「ヌラヌラ!」
「ヌラ──!!」
逃げたスライヌがそう鳴くと、スライヌ達は驚いて。でも素早く一か所に集まっていく。徐々に徐々にスライヌ達が集まって、大きな塊が出来上がっていく。
私はスライヌ達が何をしてるのか分からないけど、このままじゃまずい。絶対これまずい状況だって。だってほらよく言うじゃない。一本の矢じゃ簡単に折れても三本重ねれば~とか、三人寄れば文殊の知恵…ってこれは違うか。とにかくどれだけ弱くても数が合わされば強い敵にも勝てたりするわけで、今絶賛私達ピンチに陥ってない?
「な、何をしようとしているの……?」
「これはちょっとまずいわね……」
「ど、どうするですぅ……?」
ネプギアさん達も危機感を感じてそう言ってるが、スライヌ達はそんな私達をよそに集まっていく。やがてスライヌ達は一つのぷよぷよ…いやうねうねとした塊になって蠢いてる。はっきり言って気持ち悪い。時々ヌラァとか聞こえてくるし、ぐねぐねうねうね。もうスライムじゃないって。別の何かだって。一体君達何がしたいの!?
正直目をそらしたいけど、目を背けた隙に攻撃を仕掛けられたら困るから嫌々見てたら、ついに変化があった。パァっと光ったかと思うと、そこには大量のスライヌが集まって出来たうねうねの塊ではなく、元のスライヌと同じぷるんっとした物体があった。ただしあの小さいボディではなく、見上げるほどデカい物体。よく見れば尻尾のようなものもあるし、頭らしきところには耳もある。これってもしかして……
「スライヌがでかくなったああぁぁ!?」
そう叫ぶのも無理ないよね。というかどうなってるのこれ! 集まったら一つのデカいスライヌとかどうやったらなるの!? 物理どうした物理! スライムだからか!? 顔は付属品ってか!? 本体どれだよ! もう何言ってるか自分でも分かんねえ!!
「合体した!?」
「でかい…さすがにこいつは骨が折れそうね」
「ちょっ、こんなの聞いてないって!!」
「そういうトラブルもあるんですよ。そのためにクエストは常に最善の準備をしていくです」
「いやコンパ、確かにその通りだけど、悠長に言ってる場合じゃないわよ」
「そ、そうでした。すみませんです」
「い、いえ……」
なんか今コンパさんのちょっとずれた会話のおかげで少しだけ落ち着いてきたかも。改めて元スライヌを見てみればまるで「どうだー! お前たちなんて簡単に倒せるんだぞー!」とか言いそうな感じ。少しムカつくな。でもさっきみたいにやみくもにやってちゃ敵わない相手だ。ここは何か考えなきゃ。
そう思ってると、アイエフさんは何かひらめいたように口を開いた。
「そうだわ、ネプギア。アンタ変身してやっつけちゃいなさいよ」
「へ、変身……?」
「女神化よ、女神化。戻ってきてから一度もしてないでしょ? ほら、これもリハビリよ」
「あいちゃん……絶対楽がしたいだけです……」
「あの…女神化って……」
『何ですか?』
そう聞こうと思ったらネプギアさんの表情が変化したのを素早く察知できて、言葉を止めた。疑問は後にした方がいいって思ったから。その予感は当たってて、ネプギアさんの表情は苦し気な、辛そうな顔になった。
「戦う……女神化して戦う……ううっ」
「ええ? ちょ、ちょっと。どうしたのよ?」
「ダ、ダメ……できない……怖い……っ!」
ついにネプギアさんは頭を抱えてしゃがみ込んでしまって、アイエフさんはそれに狼狽えた。私は何が何やら分からず立ち尽くしてると、コンパさんがネプギアさんを庇うように抱きしめた。
「あいちゃん! ギアちゃんをいじめたらだめですよ!」
「わ、私はそんなつもりじゃ……」
コンパさんに叱られてさらに狼狽えるアイエフさん。助けてあげたいけど、事情も知らないのに突っ込むことはできない。
とりあえず私はあれを見張っておこうかなって元スライヌのいた場所に目をやると、元スライヌは少し凹んだかと思うとボンっとジャンプして、私たちのいる場所は陰になって……後ろにいた取り込み中の三人はそのことに気づいてなくて……このままじゃ私達全員ぺちゃんこだ。
そう思ったらどうするかとか考える前に私の身体は剣を放り出して三人の前に飛び出していた。その僅かな瞬間に私の身体から何かが溢れてくるような、そんな感じがして、頭の中にはその何かをどうしたら三人からスライヌの攻撃を防げるのか浮かんできて……
何でそんなことが浮かぶのかとかそんなのも考える時間なんてあるわけない。スライヌは今私たちの上に落ちてこようとしてるんだから、そんなこと考えてたら潰される。だったら考えない。身体が動くように動かせばいい!!
身体は勝手に動いて、両腕を空に…正確にはスライヌの方に伸ばして、手のひらを上に向けて、足は踏ん張れるように開いて。まるで落ちてくる物体を支えるかのような格好になる。そしてスライヌが手のひらに接触しそうになった時、怖くなって思わず目をつぶりながらも衝撃に備えた。
どしんっ……
…そう音が上から響いて、でも、重いものが手に圧し掛かるような衝撃は一向にやってこなくて、恐る恐る目を開けて見れば確かに水色の物体は私の手のひらのすぐ近くにあった。でもスライヌの身体は何かに壁に阻まれているように落ちてこなくて、よく見れば半透明な光を放つ半円の壁が、私の手を中心に出ていた。
「うそ…これって結界……?」
「す、すごいです……」
「……すごい」
「ヌ、ヌラァ……?」
私が驚いていると、アイエフさんやコンパさん、ネプギアさんも上を見て、そう言った。スライヌは何故か思ってた衝撃と違って混乱してる。自分は確かに敵を踏みつぶそうとしたはずなのにって感じで……
でもあまりそんなこと観察している場合じゃない。今は防げても、長くはもたない。そう分かった瞬間私は叫んでいた。
「皆さん!! 今すぐ離れて!! 長くはもたないから!!」
「っ! ええ、分かったわ! ネプギア、立てる?」
「は、はい!」
「急いで離れるです!!」
三人が急いで私…正確にはスライヌから離れて、安全圏まで行ったのを確認すると、私は落ち着くように息を吹いて、即座に考えた。このままでは結界は壊れる。そうしたらスライヌはそのまま落ちてくるだろうと。だったらどうする? どうしたらいい?
すると今度は頭の中に訳の分からない、でも理解できる文字列が浮かんできて、それをはっきりと頭に描く。すると白く光る円と、その中に何かの文字が書かれたものが足元に広がって、それはこの巨体になったスライヌさえも飲み込むような大きさになると、自分の中から何かが抜けていくのを感じながら私は叫んでいた。
「『プラズマブレイク』!!」
その瞬間、辺りに光がパチパチっと音を出しながら散って、思わず目を閉じると、今度はまるで爆発したかのような轟音が響き渡り、突風が辺りに吹き荒れた。次第に風が落ち着いてきたのを感じて目を開けてみれば、思わず「え…」って言葉が出てくる。
澄み渡る雲一つない綺麗な空。それに相反して今まで緑の草花が生えていた地面がところどころ地肌を現していたり、黒く焦げていたり。先ほどまでの自然豊かな光景が無茶苦茶になっていた。頭上にいたはずのあのデカいスライヌはいなくなっていて、あの壁もなくなっていた。
もしかして倒せたのだろうか?
──あっ、そういえば皆さんは……
そう思って身体を動かそうとしたけど、私の身体はその意思に従わず地面に倒れこんでいた。立ち上がろうにも力が入らなくて、薄れゆく視界の中で見たのは、必死に呼びかけるコンパさんとアイエフさん。そして無茶苦茶になった光景に立ち尽くすネプギアさんの姿で
──ああ、私。またやっちゃった……
そう、どこかで呟きながら私は意識を手放した。
それは私にとってとても衝撃的な出来事でした。
アイエフさんの言った“変身して戦う”。その言葉がギョウカイ墓場での記憶が蘇って、怖くなって……
もうあんな思いをするのは嫌。
思い出してしまった恐怖で身体が震えて、思わずしゃがんで頭を押さえて……
コンパさんが私を安心させるように抱きしめてくれて、アイエフさんを叱っていました。
アイエフさんは「そんなつもりじゃ……」、と狼狽えていて、でもそんなことが他人事のように思えるくらい私の心と体は恐怖で怯えていました。
すると何かがすぐそばを駆けた感じがして、そのあとすぐに重いものが落ちたような音が上から響きました。思わず上を見上げてみると、そこには空ではない半透明な水色がすぐ近くにあって、それなりに透明なその物質が先ほど大きくなったスライヌだってことを理解するのは難しくありません。
多分スライヌが私達を潰そうととジャンプしてきたのでしょう。でもそのスライヌの目的は私達を守るように展開された結界で防がれていました。もしかしてアイエフさんかコンパさんのどちらかがやったのかなと思ったけど、その思考は間違っていたことにすぐに気が付きました。
その結界を展開していたのはルナさんだったのです。
いーすんさん達の話だと数日前に教会に落ちてきて、教会で保護している記憶喪失の女の子。その彼女があの大きいスライヌの攻撃を食い止めていました。
凄い。そう素直に思って、それに引きかえ私は…と自分で自分のことが嫌いになってしまいました。
でも今はそんなこと考えている場合ではありません。ルナさんの「長くはもたない」という言葉で私たちはスライヌから距離を取りました。
しかしルナさんはどうするのでしょうか。このままではスライヌに押しつぶされてしまいます。
──助けに行かなきゃ。
そう思った瞬間、ルナさんの足元に白い円…魔法陣が展開されていったかと思うとルナさんは大きな声で言葉を発し、ルナさんの周りに白い光がパチパチっと散って、一瞬空から一筋の線が落ちてきたかと思うと、その瞬間白い光と轟音が辺りに広がり、反射的に目をつぶると、突風が辺りを吹き荒れるのを感じました。
次第に風が弱まってきたのを感じ、目を開いてみると、視界に移りこんだ光景に思わず体が固まってしまいました。
ルナさんを中心に捲れ上がる地面。まるで爆発が起こったかのような光景でした。
そしてルナさんの上にいたスライヌはいなくなっており、近くを見渡しても姿が見えませんので先ほどの衝撃で消滅したのでしょう。
それらの出来事はあまりにも短い間に起こりすぎて頭が追い付かず、まるで夢を見ているような感覚でした。しかし次第に聞こえてきた声に私のぼんやりとした意識はハッキリしてきました。その声の聞こえるほうを見ると、ルナさんが倒れていて、コンパさんとアイエフさんが必死に声をかけていました。
そしてコンパさんがアイエフさんに手伝ってもらいながらルナさんを背負うと、アイエフさんは「今すぐ教会に戻るわよ」と言って走り出しました。私も置いていかれないようその後を追いました。
その間も頭にあったのは先ほどの光景。あの魔法陣とあれほどの威力を持った爆発を起こせるなんて、ルナさんは一体何者なのでしょうか……
後書き~
一瞬でキングスライヌを倒してしまったルナ。
しかしその影響か倒れてしまいました。
果たしてルナは大丈夫なのでしょうか。
次回、再びお会いできることを期待して。
See you Next time.