前回、倒れてしまったルナ。
目覚めた彼女にある出来事が。
今回も、ごゆるりとお楽しみください。
薄っすらと意識が眠りの底から浮かび上がってきた。そう意識すると、眠気はだんだんと消え、次第に体の感覚が蘇ってくる。
身体が横になっている感覚がある。どうやら私は今寝ているらしい。
しかし私には眠った記憶がない。どういうことだ?
そう思って眠る前の記憶を思い出してみる。
——スライヌがでかくなって…襲い掛かろうとしてきて…それで……
そうだ。私、あの時身体が勝手に動いて、それで頭に浮かんだ文字を口に出したら轟音が鳴り響いて……
その後の記憶が曖昧だ。倒れたような記憶があるから、多分私は気絶したんだろう。
なるほど、眠ったわけではなく気絶した。それなら眠った記憶がなくてもおかしくはない。
また記憶喪失になったかと思ったよ……
ってそうだ! アイエフさん達は!!
「きゃっ!」
「えっ…あ、ネプギアさん……」
思わず体を勢いよく起こすと、横から声が聞こえた。誰? と思って横を見れば、そこにはネプギアさんが目を見開きながらこちらを見ていた。どうやら驚かせてしまったらしい。
ネプギアさんは少しだけ固まった後、ホッと安堵したように息を吹き、改めてこちらに向きなおした。
「ルナさん…よかった。目が覚めたんですね」
「は、はい。えっと、それでここは……」
まだよく見えない視界を手でこすりつつ、見渡す。全体的に清潔感のある白い部屋で左には壁全体に窓があって、何かの機械があり画面には数字と時々山を作る線。そしてネプギアさんのいた右には棚に花瓶が飾ってあって、奥には横に開くっぽい扉がある。そこまで広くない部屋。なんか病院みたいな……
「ここはコンパさんが勤めている教会管轄の病院の病室です。ルナさんはあの時倒れて、それでここに運んだんですよ」
「そうでしたか。すみません…いきなり倒れてしまったようで……」
「いえ、大丈夫ですよ。それよりルナさんはまだ安静にしてください。まだ回復しきれていないんですから」
「…回復?」
すると奥の扉が開かれ、誰かが入ってきた。
「ネプギアさん、ルナさんのご様子は…おや、もう起きられたのですね」
「イストワールさん…それにアイエフさんも……」
入ってきたのは本に乗ったイストワールさんに、その後ろにいたアイエフさんだった。二人は私が起きていることに気が付くと、安堵の表情を浮かべた。
「目が覚めたのね。よかったわ」
「すみません、心配おかけして……」
「別にいいわよ。あのときあなたが助けてくれなかったら私たち三人、あのキングスライヌに潰されてたんだから。助けてくれてありがとう」
「あれは、まあとっさに体が動いただけなので…お礼を言われるほどのことでは……」
「ですがネプギアさん達を助けてくれたのは事実。教祖として私からもお礼を申し上げます」
「え、えっと……」
「私からも、助けてくれてありがとうございます」
「ね、ネプギアさんまで……」
アイエフさん、それにイストワールさんにネプギアさんからもお礼を言われ、頭を下げられ、少しだけ困惑する。あの時は自分含めて四人とも潰されちゃうって思ったら勝手に動いてた体だ。自分の意志で動かしたという実感が無いだけにお礼を言われても戸惑ってしまう。
…しかもお礼を言ってる三人のうち二人はこの国の重要人物なだけに頭を下げて言われるのは抵抗がある。もし私がそれ以上の立場なら大丈夫なのかもしれないけど、記憶を失ってる今、自分が元々どのような立場にいたのかすら分からないからそんな考えは意味がないな……
「えっと、とりあえずどういたしまして……?」
「なんで疑問形なのよ……」
「その、『助けた』って実感が無いので、お礼を言われてもピンとこなくて」
「まあすぐに倒れちゃったからピンとこないのも仕方ないのかもしれないわね」
「あはは……」
「ところでルナさん、目が覚めたばかりの所で申し訳ないのですが、その時の状況を把握しておきたいので、少しいいでしょうか」
私が苦笑いしてから少し間を置いて、イストワールさんはそう口を開いた。顔を見れば真剣な表情を浮かべていた。周りを見ればネプギアさんもアイエフさんも真面目な顔をしている。もしかしなくてもクエスト中の時の状況の話だろう。
「はい、いいですよ」と答えると、イストワールさんは話を切り出した。
「皆さんがクエストでどのようなことが起き、どのようになったのかはネプギアさん達に聞きました。皆さんはバーチャフォレストでモンスターを退治中、キングスライヌと戦闘になったと。ここまではいいですね?」
「えっと、あの大きなスライヌのことを指しているのであれば。はい、合ってます。あの時はまさかスライヌ達が合体するとは思わなかったので驚きましたよ」
「スライヌ種はその形態故に様々な形に変化できますからね」
「へえ……」
ってことは人型とかいたり?
…あれ、なんだろう。スライヌの人型ってなんか露出が多そう……美女ならそれはそれでいいのか…?
「話を続けます。キングスライヌは皆さんが少し目を離した隙に跳躍、皆さんに圧し掛かろうとした。しかしルナさんがそれに気づき、間一髪で結界を張り防いだ。その後、長く持たないからとネプギアさん達をその場から離れさせ、ルナさんは魔法を使い、キングスライヌを倒した。そしてルナさんは倒れた。…これもあってますね?」
「は、はい。結界とか、魔法とかよくわかりませんけど、多分合ってます……」
「多分って大丈夫?」
「いやだって結界って…魔法って……」
確かにまだ少ない記憶を辿ればあのスライヌから皆さんが潰されないようにと手のひらから出した謎の光の壁みたいなのは結界と言えるだろう。その後不意に頭に浮かんだ、体から溢れた力も魔法と言えるのかもしれない。
でもそれらの力が私に宿っていたなんて知らなかった。いや、もしかしたら失った記憶の中にそれらの知識があったのかもしれないけど、今の私は初耳だ。
「私から見てキングスライヌの攻撃を防いだのは結界の一種だったし、あの雷属性と思われる技からは魔力を感じられたわ。あれは確かに魔法よ。それも、魔法にそこまで詳しくない私でも分かるほど、上位魔法の中でも高難易度の魔法。魔法の国ルウィーでもあんなの扱えるような魔法使いは少ないんじゃないかしら」
「えっ、そ、そんなに凄い魔法を私が……?」
そう口にしているものの、頭では冷静に納得していた。あの体から溢れてきた力、あれが魔力で、あのパチッと光ったのも、轟音と豪風を作り出したのもどちらも魔法で作り出した雷によるもの。結界は防御系統の魔法なのだろう。と、理解していた。しかし上位魔法を私が使えたことに驚きだ。
「しかしその強力な魔法を使った結果、急激な魔力消費に耐えられず倒れてしまったのでしょう。この病院の設備で調べたところ魔法を使える方に必ずあるはずの魔力量が、ルナさんの中ではほぼ0にまで低下していました。もっとも、全快時の保有魔力量が分からない以上、どれ程の魔力を消費したのか分かりませんが……」
「ほ、ほえぇ……」
…つまりはなんだ。魔力切れで倒れたってことか。SP切れただけで倒れたのか。HP自体はまだ余裕があったはず……
「あなたのその反応…自分が魔法を使えるってこと、分かってなかったみたいね」
「はい、あの時は『何とかしないと』って思ったら身体が勝手に動いていましたし、結界? も無意識に発動していたといいますか…なんといいますか……。その後の魔法も不意に頭に何かの文字列が浮かんで、それをはっきりと頭に思い描いたら足元に光る円が広がっていって、頭の中で強く感じた文字…確か『プラズマブレイク』だったかな。それを言葉にしたらあの技が出たって感じで……」
「なるほど……」
そう言うとイストワールさんは考え込んでしまったようで、口を閉じた。私はどうしたらいいのかわからず周りを見ると、ネプギアさんは目を伏せていて表情が見えない。次にアイエフさんを見ると、少しだけ呆れた様子だった。何故だ?
「あなた、状況がよくわかってないわね」
「それはもう、何が何だか」
「簡単に言うと、あなたは物凄いことをやらかしてしまったってことよ」
「…そんなに物凄かったですか?」
「それはもう、魔法が落ち着いたころにはあなたを中心に地面が焦げてたり捲れてたり。爆発でもあったんじゃないかってくらいに」
「あー、なんかその辺りも思い出してきました」
確かにそんな風景を見た気もする。倒れる直前だったのか記憶にある風景は曖昧だけど。
「あ、本当に凄いことしちゃったんですね」
「なんだか他人事みたいに言うけど、あなたのことだからね?」
「あはは……」
だってこれまた実感がないんだからしょうがない。
と、話しているうちにイストワールさんは考え事がまとまったようで、閉じていた口を開いた。
「…ルナさん、折り入ってお話があります」
「は、はい」
なんだか重要な話をするような雰囲気に当てられ、私の身体に緊張が走る。ま、まさかここから出てけ~なんてことにはならないよな……?
「ルナさん、どうか、私達に力を貸してはいただけませんでしょうか?」
「……はい? えっと、どういう意味で……」
「…ルナさんになら、お話してもいいでしょう」
イストワールさんはそう言うと、真剣な表情で語りだしたのは私にとってはとても想像もつかないほど大きなことだった。
始まりは数年前、『犯罪組織マジェコンヌ』という組織が活動するようになったころから話は始まった。その組織は『犯罪神マジェコンヌ』という神を崇拝し、活動しているという。それだけを聞くならそこらの信仰団体と同じなのだが、やってることが問題だった。彼らは『マジェコン』という違法ゲーム機を配り、信者を増やしていったのだ。
『マジェコン』とは主に市販されているゲームソフトを違法に、タダで、ダウンロードできてしまうゲーム機のこと。しかもチートが使えるのは当たり前。つまりはゲームを買わずに遊べるというある意味夢のゲーム機。
しかしそんなゲーム機が出回れば各国が販売しているゲーム機器が売れなくなるのはもちろん、せっかく作ったゲームが本来のバランスで遊ばれずクリエイターはゲームを開発しなくなってしまい、しかもタダで配られてしまうものだから利益も出ず、倒産してしまうゲーム会社が続出してしまう。なんて問題ももちろん出てくる。私達プレイヤーは作ってくれたクリエイターや発売してくれる会社に感謝の意味も兼ねて代金を払っていると言っても過言ではないのに、お金を払わず違法な手段で手に入れたゲームをプレイするなんてタダ飯食らいをしているようなものだ。
そんなわけで女神様はマジェコンを規制しようとしたのだが、人々は次々に信仰対象を女神様から犯罪神に変え、マジェコンは物凄い勢いで浸透。国が対処しようにも対処するスピードよりマジェコンが出回るスピードの方が速く、あっという間にゲイムギョウ界の女神信仰者の多くが犯罪組織に取り込まれてしまったのだ。
これではゲイムギョウ界が犯罪組織によって悪しき方向へ支配されてしまう。そう考えた各国の女神様達は三年前、犯罪神を討伐するために協力関係を結び、討伐作戦を計画する。討伐チームには本人の希望によりネプギアさんも含まれていた。
ゲイムギョウ界の中心に位置するギョウカイ墓場。そこが犯罪組織の拠点であり、犯罪神が封じられている場所であったため五人はイストワールさんの計画に従い討伐に向かう。しかしその場に待ち構えていた犯罪組織の四天王の一人によって五人は敗北。ギョウカイ墓場に囚われてしまったのだ。
そして女神様が囚われてからというものの、犯罪組織の活動は一気に活性化。今では当たり前のようにマジェコンが出回り、対処できない政府はどうにもできなくてスルー。小学生のほとんどがマジェコンヌを信仰、というか親が推しているくらい…っておい親! 何自分から子供を犯罪に関わらせてるんだ! …ってまあ話を聞いてて心の中で突っ込みつつ、話を戻す。
そんな状況を打開すべくプラネテューヌの教祖であるイストワールさんとこの国の女神様のご友人のアイエフさんとコンパさん三人は三年の時をかけながらも『シェアクリスタル』という、簡単に言うなら女神信仰者から得られる信仰の力『シェアエネルギー』を結晶化した女神様にとってのパワーアイテム的な聖なるアイテムを使い女神様を救出しようとしたのが10日くらい前。つまり私が空から落ちてくる数日前のこと。しかし救出はその場に待ち伏せていた女神様を倒した人とは違う四天王の一人によってものの見事に失敗。
しかし女神様全員を助けられなかったものの、何とかネプギアさんだけは助けることに成功。しかし捕まっていた影響で昏睡状態になってしまい、目が覚めたのは昨日。私達がクエストに向かった日だ……って私一日気絶してたのか。まあ三日もかからなかっただけいいのか? それに目覚めたその日にモンスター退治ってなかなかタフですね……
ネプギアさんが目覚めたことでイストワールさん達は次の手段ということで各国を周り、『ゲイムキャラ』という強力な存在に協力を仰ぎ、それと同時進行で各国のネプギアさんのような存在、女神候補生を仲間に引き入れ、女神様を救出。戦力を十分揃えてからの四天王を倒し、犯罪神を倒そうとしている。
以上がイストワールさんから聞かされた話を自分なりに簡単に解釈した感じだ。若干話が本当に世界規模で頭の処理能力がオーバーヒートしそうになったが、何とか最後まで理解できた。よく頑張った、私の頭脳よ。後でブドウ糖でも摂取しておこう。
と、一通り説明されたところで最初の本題に入った。
「現在、ネプギアさん、アイエフさん、コンパさんの三人が各国を周ってくれるのですが、できるなら協力者は多い方がいい。そこでルナさんに女神様を救出する手伝いを、そしてゲイムギョウ界を救う手伝いをしてほしいのです」
「は、はあ……」
つまりは世界周って救う手伝いをしてほしい…と。
なんと規模のデカい話でしょうか。私の心、若干考えることを放置していますよ。
「こんなことを一般人の、しかも記憶喪失で困っている方に頼むのはどうかと思います。しかしルナさんはモンスタ―を倒せるほどの剣の腕と、魔法が使える存在。そういった事情を構っていられるほど私達も余裕はないのです。どうか、お願いできませんでしょうか?」
と、深く頭を下げられるが、今度はさっきみたいな反応はできない。何せ規模がデカすぎる。現実感が仕事してくれないし……
するとここでアイエフさんが口を挟んだ。
「こんなこと言うのもなんだけど、もしかするといろんな場所を旅すればあなたの記憶の手がかりが見つかるかもしれないわよ」
「私の…記憶……」
確かに今のところ記憶の手がかりとなるのは自分の秘めた能力のみ。出身地や住んでたところといったものの手がかりは一切なしだ。それならいっそ各国を周って記憶の手がかりを探した方がいいのは分かる。
でも……
「…私からも、お願いします」
そう言ったのはこの話になってから一言も話さなかった、少し失礼だが空気になっていたネプギアさんだった。
ネプギアさんはとても必死そうな顔でそう言い、イストワールさん同様頭を深く下げる。
他人事のように言うと、国のナンバー2やら3やらの立場の存在が私みたいな存在に頭を下げてお願いしている。それはとても軽く判断していいものではないのだと認識するのは当たり前のことだった。
もしかすると私という存在によって何かが変わるのかもしれない。最悪な方向に進むならバッドエンドになるのかもしれない。自分のことで言うなら旅の途中で命を落とすかもしれない。皆さんに迷惑をかけるかもしれない。
そんな想像が…いや妄想が私の思考を埋めていく。そうなると次第に現実味が沸いてきて、それは思考を鈍らせるのに十分だった。
しかし次に聞こえたネプギアさんの言葉に私の思考はクリアなった。
「どうか女神様を…“お姉ちゃん”達を助けるのを手伝ってください……!」
…どうして私は迷っていたのだろう。すんなりと決めれたことを。
クリアになった思考にその一言だけが浮かんだ。そしたらずっと言葉の出なかった口から、すっと言葉が出た。
「…私は今記憶を失っています。なので『世界を救う』とか『女神様を救う』とか言われても規模が大きすぎて頭が追い付きません」
「…はい……」
「魔法が使えるのも、剣の腕がそこそこなのもさっき分かったくらい戦闘経験ゼロです」
「………」
「もしかすると私はこの頼みごとを受けたせいで命を落とすかもしれないと想像もしています」
次第に頭を下げているお二人からまるで希望を失っていくような気配がするのは、気のせいじゃない気がする。
でも、話はまだ終わらないから。最後まで聞いてほしい。
「なのでいっそ、この話はなかったことにしたいくらいです」
「…でしたら──」
「なので」
イストワールさんの言葉を遮り私は言う。だって、人の話は最後まで聞いてもらわなきゃ。
「私はそんな『世界を救う』とか『女神様を救う』なんて大規模なことを考えるのは今はスルーします。戦闘経験がゼロなところもスルー。さっき考えた命を落とす可能性も無視。色んな重いことは無視します」
「えっ……?」
「あなた何考えて──」
「だから」
私はネプギアさんの困惑した声をスルーし、アイエフさんの言葉を遮り言葉を続けた。
「私は、今回の件は『ネプギアさんのお姉さん達を助けるの手伝ってほしい』と頼まれている。それだけを考えて答えを出します。それでもいいですか?」
そう、確認する。
私が出した考え方は、『自分には重すぎる話を無視すること』
それらを無視して、ただ『姉を助けたい』という思いだけをくみ取ること。
そうすれば、ほら、考えることはシンプルだろ?
「は、はい! それで構いません! いーすんさんもいいですよね!?」
「は、はい。ネプギアさんがそう仰るのであれば構いません」
その返答を聞いて私は自分の中で出したシンプルな考えを出す。
「なら私は、その件、喜んで受けさせていただきます」
その言葉を聞いてネプギアさんは顔を上げた。先ほどまで暗かった顔は明るくなっていた。それは他のお二人も同じだ。
「私は先ほども言った通りで戦いの役に立てるかは分かりませんが、それでも──」
「構いません! ありがとうございます! 引き受けてくれて、本当にありがとうございますっ!」
「え、えと。そんなに頭を下げられることじゃ……いえ、なんでもありません」
今度はもう言わない。彼女にとって私が協力してくれるのは本当にありがたいことなのだから。
そう思って今も何度も頭を下げるネプギアさんを見て、苦笑い。大丈夫? 頭下げすぎてどこか痛くならない? とか声をかけてあげたい気持ちになる。
ともかく、どうやら私は『世界を救う』……いや『ネプギアさんのお姉さん達を助ける』旅の一員になったようです。
彼女達には数日とは言え暮らさせてもらっている恩がある。それを返すいいチャンスとも思っておこう。それにさっきアイエフさんが言った自分の記憶の手がかり探しも兼ねて、ね。
「さて、ルナも協力してくれるってことで話はまとまったことだし、ネプギア、いつまでも頭下げてないで上げなさい」
「あ、はい。すみません」
「い、いえ……」
謝られても反応に困るなぁ……
「それでルナ、ちょっと相談なんだけど、新しい武器が欲しいと思わないかしら」
「新しい武器…ですか?」
「ええ、いつまでも教会支給の武器じゃ、合わないでしょ? だから新しい、あなたに合う武器を買いに行きましょう」
「確かに教会で保管している武器はあまり手入れされてませんので、新しくを買った方がいいですね。その費用はルナさんが協力してくださるお礼としてこちらで出しましょう」
「え、え、ええぇ!?」
アイエフさんの提案に、それに乗るイストワールさん。しかも武器の費用は教会のおごり。それなら家具の借金を少し減らしてほしいなんて悪い考えが浮かぶけど、すぐに打ち消して、アイエフさんとイストワールさんの顔を交互に見る。お二人は冗談を言っているようではなかった。
…でもまあ。
「私はまだ、このままでいいですよ」
「そう? でも市販の武器の方が下手すると攻撃力が高いかもしれないわよ」
「それでも、良いんです。多分、今持ってる教会支給の武器を含めてそこら辺の武器は全部、私の手には合わないと思いますので」
それは直感。私の手は、体は、多分どんな武器を買ってもらっても合わないって勘。それは気のせいじゃないと、そう心のどこかで思う。
だったら今のままでいい。多分そのうち自分に合う武器に出会うかもしれないから。
「まあ本人がそう言うなら……」
アイエフさんはそういうとその話は終わった。はやいね!
「ではこれ以上いてはルナさんの体調の回復に支障をきたすかもしれませんし、ここらでお暇しましょう」
「そうですね。ルナさん、まだ魔力が回復しきれてないんですから、安静にしててくださいね」
「多分順調に回復しきったら明日には退院できると思うわ。だから旅についての詳しい話はコンパも含めて明日、教会で話しましょう」
「はい、分かりました。皆さん、また明日……」
上からイストワールさん、ネプギアさん、アイエフさん、と順番に声を掛けられ、病室から退出した。
残された私はというと、安静にしていろ、とは言われたものの、眠気は覚め、手元に何かできるようなものはない。
つまりは暇が襲い掛かるのかと思うと、少しだけ気が俯きかけた。
と、考えていると、コンコンとノックが聞こえた。
「どうぞー」と返事をすると、扉は開いて、先ほど出ていったイストワールさんがそこにいた。
「すみません。ルナさんに渡すものがあったことを忘れていて……」
「私に渡すもの……?」
「はい。これです」
そう言うとイストワールさんはどこからか一枚の鉄の板……もとい機械を取り出し、差し出してきた。思わず受け取り、眺める。その機械は真ん中に画面と思わしき黒いところに、左には十字キーの形の線。右にはAとかBとか、あるいは○✕△□が書かれそうな四つのボタン。正面は紫で、背面は黒の配色をしたまるで携帯ゲーム機みたいなこの機械は一体……
「こちらは『Nギア』といいまして、プラネテューヌの技術者の粋を集めて開発された携帯機器です。これ一つで様々なことができるんですよ」
「へえ……」
「これは電話の機能も付いていまして、ネプギアさんも持つNギアやアイエフさんやコンパさんの持つ携帯電話にも繋がります。これから旅をする中で互いに連絡が取れなくなるのは心配ですから、持っておいてください」
「え、でもこんな高価なもの……」
「大丈夫ですよ。こちらはテスト用の端末で、βテストに協力している感じに考えてくだされば……」
「そうでしたか。それでは有難くお貸しいただきます」
「はい。既に初期設定は済ませ、後はルナさんが設定した方がいいものなので、設定すればすぐに使えるようになります。こちらはNギアの説明書です」
「あ、これはどうもご丁寧に……」
「いえ、きっと寝れなかったら暇かと思いましたので」
はい、丁度暇だと思ってたところです。いいところに来ましたねNギアくん。これからどれぐらいの付き合いになるかは分からないけど宜しく。
「では渡すものも渡しましたし、私はこれで失礼します」
「はい、また明日」
イストワールさんはぺこりと頭を下げて部屋を出ていった。
後に残されたのは私と、たまにピッピッとなる機械。それに先ほど頂いたNギア。
……とりあえず説明書見つつNギアの設定をして、自分用にカスタマイズでもしようかな。文字設定とかだけど。
明日は何を話して、何をするんだろうなー……
それに、ネプギアさんのお姉さんを助ける手伝いも引き受けちゃったし、波乱万丈な人生が訪れそうな予感が……
でもま、女神様が一緒なら大丈夫だよね。多分……
後書き~
ネプギア達の旅について行くこととなったルナ。
しかし世界を救うのは彼女にとって頭が追いつかない規模の話です。あくまでも、彼女はネプギアの姉やその仲間を救うために旅に同行するのでしょう。
次回もまた、お会い出来る日を期待して。
See you Next time.