前回、イストワール達に一緒に旅をしてほしいと誘われたルナ。色々悩んだ末に出した答えは、ネプギアの姉を救うという目的でならというもの。記憶を失い、自分のことはほとんど分からなかった彼女にとって世界を救うというのはとても大きな話でした。
今回、彼女は旅について説明を受けるようなのですが……
今回も、ごゆるりとお楽しみください。
「なあなあ、こんなのどうだ? 新製品。どこでも装備品が出せて常に武器を装備する必要なし!」
「『どうだ?』と言われても私が決めれるわけじゃないんだし、それにいくらうちの科学力が他より発展してても当分実現できないんじゃない? てかそういうのは●●に聞いてよ」
「だってあの子最近忙しそうだぜ? 私達は●●だってのに最近は顔だってまともに見てない。会話だって仕事のことしか……」
「しょうがないよ。ここ最近は特に忙しいからね。●●としてちゃんと仕事してると思えばいいんじゃないかな」
「そういうもん、なんだよな……。そういえば今頃あの子は隣の●と交流してるんだっけか」
「うん、お隣さんの●●は最近新しくなったけど、それでも今まで通り友好的な付き合いをしないといけないからね」
「あの子、もう新しい●●に着任したのか。つい最近までよちよち歩き…はしてないが、子供だったのに…はあ、時代の流れってのは早いなあ」
「年寄り臭いこと言わないの。ほら、そんなこと言ってる暇があったら手伝ってよ。この後パトロールにも行かないといけないんだから」
「パトロールという名の単なる散歩だよな、それ」
「いいから。それでも何かあったらすぐに駆け付けれるようにできるんだから」
「はいはい。かったるいなあ……」
「すみません●●様! 急ぎご報告しなければならないことが──」
私がネプギアさん達の目的を手伝うことが決まった次の日の早朝。私は病室にやってきた医師と看護師のコンパさんによって体のあちこちを検査されていた。といってもこれはもう体に異常がないか、退院してもいいか、という確認であって、Nギアに夢中になって寝不足になったこと以外はいたって健康。魔力も回復していたみたいだった。
医師が言うに「極めて自己回復力が高い方ですね。こちらに搬送されてきたときは後二日ほど眠ったままかと思いましたが……」と驚かれつつも褒められた。そうか、自分は回復力が高い方なのか。
ともかく寝不足気味なところ以外健康そのものにまで回復した私は当たり前だが退院した。そして昨日アイエフさんに言われた通り詳しい話をするため、コンパさんに連れられて病院から出て教会に向かった。
そしてそのまま連れていかれたの会議室。自動ドアを抜けるとそこには既にネプギアさんとアイエフさんが揃っていて、挨拶して着席した。
「さて、揃ったわね。早速話を…といってもルナに今回の旅のことを話すだけだけど」
「その前にルナさん、もう体調の方は大丈夫なんですよね?」
「はい、コンパさんからも医師からも『健康』と診断されましたよ」
「それならよかった……」
ネプギアさんの反応に「あぁ、心配されてたんだなぁ」と思い、少し申し訳ない気持ちになる。でもそれと同時に少しだけ嬉しかった。
「ルナの体調も良し、ネプギアの心配もなくなったところで今の状況を離すんだけど…正直今は待機中なのよね」
「“待機中”……?」
「女神さん達を救うのに『ゲイムキャラ』さんの協力が必要なんですけど、ゲイムキャラさんの居場所が分かんないんですぅ」
「ゲイムキャラ…確か昨日イストワールさんが言ってた各国にいる方…でしたよね」
「ええ。ゲイムキャラってのはその土地の守護を任されている存在よ。でもそれゆえに悪い考えを持つ人に破壊されちゃうと大変なことになるの。だから普段は隠れてて、教会も居場所を把握することができてなかったの」
「でも今はイストワールさんが全力で探してくれてるところです。なので見つかるまでわたし達はクエストをしたりして少しでも女神さんのシェアを回復させるんです」
「一昨日のはその一環でもあるわね」
「へぇ……」
つまり今はちょっとしたことしかできない…と。
そうなると私達は今スタート地点で足止めを食らってるわけだ。
これは先が長いぞ……
「そう言うわけだからとりあえず今はルナのやれることってないのよね。私達もだけど。てなわけで今日はこれからどうしようかしら……」
「じゃあわたしから提案ですぅ」
「何? コンパ」
「よかったらこれから四人でピクニックに行きたいです」
「ピクニックにですか? 今日これから?」
「はいです。ルナちゃんと親睦を深めるです!」
「それはいいわね。場所はどこにしましょうか」
「お弁当も急いで用意しなくちゃです」
と、アイエフさんがコンパさんの提案に賛同して計画があれよあれよと決まっていく。私、それにネプギアさんはそれにたまに返事して意見する。
そうして決まったのは、場所はこの教会に一番近い自然公園。すぐ近く、といっても少し歩くみたいだが、この辺りでは一番広い公園となった。しかも自然公園の名に恥じない自然の豊かさが売りだそうで。そこなら近いしゆっくりできると三人の意見が一致して決まった。
そしてお弁当はというと、コンパさんが急いで作るとのこと。お手伝いはネプギアさん。まだ朝だから時間はあるけど、お昼までには完成させて持っていく、と張り切ってました。
私もお手伝いしようかと思ったけど、記憶がない故に知識もない。料理を作るとしたら素材をそのまま焼いただけの料理と言えるかもわからないものが出来そうなので、今回は辞退。
せっかくのピクニックだから、そんなので気分下げたくないからね。
料理班に入るのを辞退した私は、同じく料理班に入らなかったアイエフさんと共にレジャーシートを広げるための場所を探しに、先に公園へ来ていた。教会の出入り口を出て徒歩30分。意外に近かったその場所は教会の自分の部屋からも見えた少し広めの自然公園だった。
公園の入り口から入って少し辺りを見渡してみると、本当に自然豊かで、少し進むと噴水とか、遊具とかもある。公園の外は近未来的な雰囲気なのに、ここはそんな雰囲気を感じさせない。心が安らぐような光景だ。
「綺麗な公園ですね。自然も豊かで……」
「プラネテューヌは技術の発達が凄まじいけど、他の国と比べて自然環境を一番に大切にしてる国だもの。女神様もこういった環境が好きな子だしね」
アイエフさんの説明を聞きつつ、私達は並木道を歩く。緑生い茂る木々に、さんさんと照らされ、美しく輝く木漏れ日。思わず見惚れてしまうほどだ。
けどそれもほどほどに。アイエフさんの後についていくように歩いていき、やがて開けた場所についた。中央にたった一本、しかしとても大きな大きな大樹が根付く、どこか幻想的な場所。まるでここだけ神秘的な何かがあるみたいだ。
そんな場所にいるのは私とアイエフさんだけ。公園の少し奥にあるこの場所だが、他の場所には人がいる割にここだけ人気がなかった。
「なんだかここだけ人が少ないですね」
「何故かね。ここは少し特殊な場所みたいなのよ。私もどっかの女神に連れてこられなかったら知らないままでいたわ」
「へぇ、だから何だか神秘的な雰囲気があるんですね」
「そうみたいね。イストワール様に訊いたら、『ここは少し特殊な場所で、知ってる人が案内したり、迷子にならないと来られない場所』らしいわ。よくは分からないけれどね。でもまあ、これからやることに関しては人が来ない方がいいから、丁度いいかもね」
「“これからやること”? ピクニックでは?」
「それだけでもいいけど、あなたはこれから私達と世界を周るんだもの。今の内に少しだけでも剣の扱いに慣れてもらうために、練習してみましょ」
「あっ、そうか。旅をするってことはモンスターとの戦闘も必須になってくるんですもんね」
「そういうこと」
確かに先日のように弱いモンスターがいきなり強くなって、大ピンチになる可能性もある。その時ある程度戦えないと足手まといになるし、最悪命を落とす確率も上がる。ならこういった時に特訓しておかなきゃ。
「そんなわけで、武器は持ってる?」
「はい。昨日イストワールさんに貸していただいたNギアの収納機能で……」
そう言いながらNギアを取り出し、説明書に書いてあった通りに操作。『装備』のボタンを押せば、何もないところに光の粒子が集まり、私の持つ剣が出てきた。
「それ、イストワール様から頂いてたのね」
「はい、昨日、皆さんが部屋を出て少ししてから」
「あの時ね。じゃ、私も──」
そう言うとアイエフさんは両手を何かを握るような形にする。するとそこに先ほど私がNギアから武器を取り出したように、何もないところから光の粒子が現れ、何かの形を取り始めた。すると気が付けばアイエフさんの両手には短剣がそれぞれ握られていた。先ほどの私と違うところは、Nギアのような機械を操作せずに装備したところ。先日も同じように出してた気がするけど、一体どういう仕組みなんだろ…
「すごいですね。そういえばこの間もそうやって武器を出してた気がしますけど、どうやってるんですか?」
「いちいち戦闘の度に操作して装備するのも面倒でしょう? それに不意の戦闘にそんなことしてる余裕なんてないの。だから普段使う武器をメイン装備にしておくと、こうやって出せるようになるのよ。Nギアにもその機能がついてたはずよ。ネプギアが使ってたし。ちょっと見せてもらえる?」
「あ、はい」
「ありがと。えーと、確かこうして──」
アイエフさんにNギアを渡すと、何かを操作し始めた。私はそれを横で見つつ、やり方を覚える。すると武器が手元から消失して、Nギアの中に収納されてしまった。どうやらアイエフさんがしまったようだ。
「はい。とりあえず設定完了よ。まずはさっき私がやってみせたように、武器を出す練習をしてみましょうか」
「は、はい!」
そうして私はアイエフさんに武器の取り出し方を教えてもらうこととなった。とりあえず見よう見真似でアイエフさんがやったように…といってもアイエフさんと私とでは使用する武器の種類が違うので、少しだけ動きが違った。まずアイエフさんのはカタールで、両手剣類の武器だったため両手を握るような仕草をすれば出てきたが、私のは片手直剣なので、それに合った動きが必要だった。しかしこれがまた難しく、とりあえずメインに設定した武器を連想するような動きと武器がその手に現れるイメージさえ確立してしまえば、後は念じたりするだけで出てくるそうなのだが、その連想させるような動きがまず分からなかった。適当に剣を持った状態で振るうみたいな動きから背中に剣を背負ってるイメージで抜き出してみたりなど、様々。
何とかアイエフさんのアドバイスを受けながら出せるようになったころには既に一時間が経過していた。
「うん、安定してきたわね。それじゃ最後にもう一度出してみましょうか」
「はい! …ふっ!」
私は先ほど練習していた動き、剣を握り、その手に剣を出現させるイメージで構える。すると光の粒子がその手の中に武器を出現させた。
少しばかり時間がかかってしまったが、これでいつでも武器を取り出せるようになったな。
「いいわよ。その武器を手に出す感覚さえ覚えてしまえば、もう動きとかは何でもよくなるわ」
「はい! …って動き関係ないんですか!?」
「あくまでイメージさせるのに必要なだけだったのよ。初心者にはそうやって動きからイメージさせた方が楽でしょ?」
「ま、まあある程度は……」
確かに動きから連想することで武器を出すイメージは楽になった。アイエフさんの言う通りだ。
じゃ、これからは武器を出す感覚を覚えて、いつどんな時でも出せるように練習しておこう。
でも今はとりあえずそれは置いといて……
「じゃ、時間も結構経っちゃったけど、とりあえず剣の扱い方から始めましょうか」
「はい! お願いします!」
そうして私は剣の練習を始めた。
まず最初に剣を真っ直ぐに振ることから。前にモンスター相手に振るった時は少しだけだが思い描いた軌道に剣を振るうことが出来た。だから少しはできるかな~って思って甘く見てたんだけど……
「あれ? いやこう…てりゃ! …う」
「…全然ダメね。軌道が安定してないし、斜めになってる。スライヌを倒した時はもう少し出来てたはずなんだけど……」
「す、すみません。もう一回…ていっ! はっ! ほっ! うりゃ!」
もう一度。今度は4回連続で振るってみたが…案の定というかなんというか…
むしろ回数を重ねるごとに軌道がズレまくり、真っ直ぐとは全く違う場所へ剣身が向かう。
な、なんで…? この前は武器でさえ初めて持った日だったのに、ちゃんと振るえたのに……
「…全然違う方向に向かうわね……」
「…なんで、なんで出来ないのかな……」
「うーん。そういえばこの前も最初はそんな感じの動きだったわよね」
「え…? そ、そういえば戦闘開始直後はあんまり出来てなかったような……」
「でも急に剣の軌道が安定してきて、それでスライヌを倒せたじゃない? あの時何か自分の中で変化があったのかしら?」
「えーっと……」
そう言われて考えてみる。確かあの時はただ必死に皆さんの足を引っ張らないようにしようって思って、その時結界やら魔法やらが頭に浮かんだ時みたいに、頭にどう動かすのか浮かんだんだよな……
と、そう説明するとアイエフさんは少しだけ考え込んで、「その時の感覚とかって覚えてないかしら?」と言われた。その言葉にはっとなって、必死にその感覚を記憶の中から掘り起こそうとする。
でもどうしてもその感覚は蘇ってこない。“あの時はこうやって~”とか“この体勢だった気が…”とか体を少し動かしながら思い出そうとしても、ほんの少しの感覚も思い出せない。
「…もしかして、倒れたのが原因でその感覚をなくしちゃったのかも……」
「ええっ…! それじゃどうしたら……」
「しょうがないわ。とりあえず剣を振ってたら感覚を思い出すこともあるでしょうし、一から始めましょ」
「い、一から……」
それはまた時間のかかることで……
私、旅の途中でゲームオーバーになったりしないよな……?
「──確かこっちの方向ですぅ…あっ、あいちゃーん! ルナちゃーん! お待たせですぅ!」
「お待たせしてすみませんお二人とも…ってルナさん!? なんで寝っ転がって…息も切れてますし……」
「…あ…てんしがふたりも~……」
「“天使”?!」
「あはは…ちょっと特訓をしてたのよ」
「“特訓”です?」
「ええ。剣の使い方についてね」
なんだかぼんやりする。酸素が足りないからだと思う。だからか私の身体は酸素を求めて何度も息を吸い、心臓が身体中に酸素を送り込もうとバクバクしてる。視界に映るのが空のほかに、二人の可愛い女の子がいるって分かって、何かつぶやいた気がするけど、多分気のせいだよね。でも二人の女の子…あ、一人増えた…が上から私を見下ろしているな~
あーそっか。私今疲れて寝っ転がってるんだ。なるほど~
「…ん? ネプギアさんにコンパさん…? もう出来たんですか…?」
「はい、お弁当はバッチリできましたけど…それより大丈夫ですか? 物凄い疲れてるように見えますけど……」
「だいじょーぶだいじょーぶ…少し休めば何とでもなる~……」
「そうですか…?」
「全く…あいちゃん、ルナちゃんは病み上がりなんですから、無理させちゃダメですよ」
「ご、ごめんごめん。まさかこんなすぐ疲れちゃうなんて思わなくって……」
「アイエフさんは悪くないですよ…私の体力の無さが悪いんです……」
「えっと、何が何だかよく分からないんですけど……」
「実は──」
と、アイエフさんが二人に剣の練習──だったのが特訓になった話をし始めた。
『まず剣の振り方だけど…私が使うのはあなたと違って短剣なのよね。私たちのパーティメンバーでルナと同じ片手剣を使ってるのってネプギアだけだし……』
『あ、あの、とりあえず剣同士で共通する部分からでも大丈夫なので……』
『そう? じゃあ基礎の基礎から──』
『うん、少しだけどこの前の動きに近づいてきたわ。今度はこうやって──』
『はぁ…はぁ…はい!』
『んー、まだそこまで経ってないけど、そろそろ休憩しましょ。あなたも息が上がってきてるようだし』
『はぁっ…はぁっ…へ、平気ですっ! まだやれますっ!』
「で、こうなる、と……」
「き、気力だけはあったんです…でも体力が追いつかなかっただけなんです…いつの間にか練習が特訓に代わってても夢中だっただけなんです……」
「ホント、気力だけはあったのよね」
「体力のない自分が恨めしい……」
そう上体を起こしながら嘆く。アイエフさんが説明してる間にもう体も起こせないほど無くなっていた体力は元に戻ってて、やはり回復力だけは早いんだなと実感した。
でもどうせなら回復力に付け足して体力もあるといいのに……
この間のクエストだともう少し体力があった気がするんだけどなぁ……
「そうだ、ネプギア。ちょっと頼みたいことがあるんだけど」
「はい? 何ですかアイエフさん」
「ちょっとルナに剣を教えてほしいのよ」
「…え? はいっ!? わ、私がですか!?」
「ええ。ほら私って短剣を使ってるじゃない? でもルナが使うのは片手剣で、構え方とか違うからその辺りのことは教えられないのよ。だから少しでいいから教えてあげて欲しいのだけれど」
「でも私もそこまでできるほうじゃ……」
「大丈夫よ。ネプギアは基礎はできるんだし、それを教えてくれればいいわ」
「私からもお願いします。どうか私に剣を教えて頂けませんか?」
戸惑うネプギアさんに、私は頭を下げる。やはり剣の基礎の基礎だけ教えてもらうのにも限界がある。だからこそここは普段から戦う時は片手剣を使うネプギアさんに教えてもらった方がいい。未だに私に合う武器が片手剣なのかすら分かってない状態だけど……
「その…私もどちらかと言えば教えてもらう立場なんですけど…そんな私でよければ……」
「はい! お願いします!」
ネプギアさんはそんなことを言っているが、先日のクエストで戦闘の最中に少しだけだけど剣技を見たが素人ではなかった。流石に上級者レベルとは言えないけど、私のような初心者に少しでも教えることが出来る程度にはできるほうではあった。…ってなんか私上から目線だな……
「じゃ、ルナの体力が回復したら始めましょうか」
「それならもうすでに回復済みです!」
そう言って私は立ち上がる。体力は完全に回復していて、いつでも運動OKな状態だ。体もさっきまで動かしていたんだから準備運動要らずでほぐれているし、関節とか筋肉とかを傷めてもいない。ただ体力が無くなっただけで後は健康そのものだ。どうやら回復力のほかに体が丈夫のようだ。だから体力もry
「体力はないのに回復力はあるのね」
「できればどっちもあると嬉しいんですけどね」
「大丈夫です。旅をしてるうちに付くと思うですぅ」
「そうなるといいなぁ。ま、それは置いといて、ネプギアさん。ご指導よろしくお願いします!」
「じゃ、じゃあとりあえずこんな感じで──」
「はい!」
そこから私の特訓はまた始まった。とはいっても先ほどと違い教えてくれる相手がネプギアさんだからなのか、今度は身体を動かさず頭を使って覚えることが多く、体力を多く使うことはなくなり、先程と違い長時間教えてもらうことができた。というか何だか体力が増えた気が……気のせいかな?
「それでこうしたらですね──」
「あ、なるほど。そんな動きができるんですね」
「ギアちゃーん、ルナちゃーん。そろそろお昼ですから、一緒にお弁当を食べるですぅ」
「あっ、はーい!」
「分かりましたー!」
そう返事して私達はコンパさんとアイエフさんの元へ行く。お二人が座るランチマットの上には既にお弁当が袋から取り出されており、後は蓋を開けるだけになっていた。
私達も急いで靴を脱いでランチマットに座り、お弁当を真ん中に囲む。見た目からお弁当箱は大きく、一体どんなおかずが入っているのか楽しみだ。中身を考えるだけでお腹が空いてきてしまう。コンパさんとネプギアさんの作ったお弁当だ。きっと…いや絶対美味しいだろう。楽しみだなぁ
「さ、開けるですよー」
「はい♪」
「中身は一体……」
「ふふふ。ルナちゃんも気に入ってくれるといいですけど…それじゃあオープンです!」
「わぁ…美味しそう……!」
「流石コンパとネプギアね。料理は二人に任せて正解だわ」
そう料理をしなかった組は感想を言う。お弁当の中身は色とりどりのおかずが入っていた。定番のおかずはもちろん、少し凝ったものまで……
すごい。確かこれ主にコンパさんが作ってるんだよね。女子力の高さがすごいよ。流石ナースなだけあるか?
きっとネプギアさんもたくさんお手伝いしたんだよね。ありがたやありがたや……
それに量もある。女の子四人で食べるには少し多いかもしれない。食べきれるかな…美味しいだろうから箸が止まらずいつの間にか食べきってたりして……
「ふふふ。ギアちゃんが手伝ってくれたのでたくさん作れたですぅ」
「いえそんな…私はほんの少し手伝っただけですよ」
「そんなことないです。ギアちゃんがいなかったらきっとお昼までには完成しなかったですよ」
「そ、そんな……」
少し照れ顔のネプギアさん。可愛い。天使かな? 女神候補生だった。
しかし本当に美味しそうだ。…あれ? なんだか通常より美味しく見えるような……
きゅるぅぅぅ……
「あっ」
慌ててお腹を押さえた。でも時すでに遅し。周りを見れば皆さんにこやかな笑顔でいらっしゃる。
くそぅ、私のお腹の虫よ。少しは我慢しなさいな。
「ふふっ、どこかの誰かさんのお腹の虫もなったことだし早く食べ始めましょ」
「そうですね。はい、どうぞです」
「あ、ありがとうございます……」
コンパさんから箸と紙皿を受け取る。私も含めて四人それぞれにその二つが行き渡ると、さあ待ちに待ったお昼だ。
「じゃあ手を合わせてです。せーの」
「「「「いただきます(です)!」」」」
そう言って始めに私が手をつけたのは卵焼き。卵の黄色に綺麗な巻き具合の切れ目。そして表面には程よい焼き目。どれをとっても美味しそうだ。
それを一口パクリ。もぐもぐ。パクパクッ。もぐもぐ。
「…美味しい…すごく美味しいです!」
「それはよかったですぅ♪」
「ま、コンパの料理なら間違いはないわね」
「ギアちゃんも手伝ったってことを忘れちゃダメですよ」
パクッ。もぐもぐ。パクッ。もぐもぐ。
「あ、これすごく美味しいです。これも絶妙な味加減で……」
「ギアちゃんの作ったサラダもおいしいですよ」
今度は綺麗なキツネ色の唐揚げを摘まんでパクッ。ポテトサラダもパクッ。何の魚か分からないけど焼き魚もパクッ。もぐもぐ。
「…えっとルナさん?」
「ん? …どうしましたか? ネプギアさん」
ネプギアさんが話しかけてきたので食べるのを一時中断。口の中に入ってたのもきちんと飲み込み返事する。ネプギアさんの顔を見れば驚いてるような表情。何か驚くようなことがあっただろうか……
「…あなたそんなにお腹空いてたのね……」
「ルナちゃんはいっぱいいっぱい体を動かしたですからね」
「え? あっ……」
お二人の言葉でハッとなり気付く。私さっきから食べてばっかだ。
「い、いやこれはその…そう! この美味しすぎる料理が悪いんです! 凄く美味しいから思わず箸が止まらなくなってしまっただけなんですよ!」
美味しい=敵!
って誤魔化してみる。いや誤魔化す必要ないんだけどな。
「そんな慌てて否定しなくてもいいわよ」
「そうですよ。でもおいしいと言ってくれたのは嬉しいですぅ」
「確かにコンパさんの料理はおいしいですよね。ルナさんの気持ち分かりますよ」
「あ、あはははは……」
苦笑いしつつ再び食べ始める。空腹には勝てない定めなのだ……
「にしてもネプギア、あんなこと言っておきながらちゃんと教えてたわね」
「そうですか…? 上手く教えられてるといいんですけど……」
「それはもう凄く勉強になりました。今後の戦闘で活用させていただきますね」
「なんだかんだ言ってちゃんと教えることができてたじゃない」
そのアイエフさんの誉め言葉に「えへへ」と笑顔なネプギアさん。
天使かな? 女神候補生だった。(二度目)
「でもせっかく教えてもらっていてなんですけど、こんな私でもお役に立つことができるんでしょうか……。皆さんの足を引っ張ることになるんじゃ……」
「そんなの気にしなくていいです。ルナちゃんだって何か役に立つことができるですよ」
「コンパの言う通りよ。それにこの前事務部の仕事したとき『凄く仕事ができていた。事務仕事初心者とは思えない新人だ』って部長に副部長。それに他の事務部員も口を揃えて言ってたわよ」
「この前のクエストもいっぱい倒してて、すごかったですよ」
「えっと…ありがとうございます」
次々に励まされたり褒められたり。少し照れくさいな……
でも褒められたことは“私”の実力じゃない。あくまで感覚を思い起こせるだけでそれらは記憶を失う前の“私”の実力だ。
それを今後も発揮できるか分からない。
でもま、約束しちゃったし。頑張るかな。
そんな会話を交えながらお弁当を食べ進めていく。気付いた時にはあんなにいっぱいあったお弁当箱の中身は空で、私のお腹は満たされていた。お口も美味しいものを食べることができて幸せだ、なんてね。
そんな感じで今度は皆さんでのんびり。食後の運動とかは食べた物が正常に体に吸収されなくなるからやめておこうね~
「…そうだわ。どうせならネプギアとルナで模擬戦でもやってみたらどうかしら」
「「えっ、えええええっ!?」
アイエフさんの発言でのんびりな雰囲気は一人を除いて壊された。いやコンパさんはほんわかかな。
「じゃあこれより模擬戦をやるわよ。勝敗は簡単。相手に確実に当たるような攻撃を一本したら勝ちよ」
「はいっ!」
「は、はい」
審判役のアイエフさんの説明に私ははっきり大きく返事。ネプギアさんはまだ戸惑ってるのかそんな返事。
アイエフさんの発言で急遽決まったこの模擬戦は、聞いてみれば今日私が教えられたことを振り返りつつ、実力をつけるためのものとのこと。
ちなみに昼食から少し時間が経ってるからそこは安心してね。
とか考えつつ正面の少し離れたところに立つネプギアさんを見る。既に私達は武器を取り出しており、ネプギアさんの手にはまだビームが出力されていないが、ビームソードが握られている。私の手には未だ馴染まない教会支給剣──もういちいちフルでいうのも長いから剣でいいよね? ──が握られている。やはりこれじゃない感が拒めない。
…だが武器を扱う練習程度には十分だ。
「…こちらは準備OKです。ネプギアさんはどうですか?」
「はい…私もいつでも」
「じゃあ二人共、始めるわよ」
「ギアちゃん、ルナちゃん。二人とも頑張るですぅ!」
コンパさんの応援を受けつつ武器を構える。剣の種類は片手剣だけど両手で持ち、正面に持つ。そして剣とその向こうにいるネプギアさんを見据えた。
ネプギアさんもビームを出力させ、構える。ようやく戦う心が出来たのか。まあいい。
落ち着け。深呼吸しろ。精神を研ぎ澄ませ。
──相手は誰だ?
相手はプラネテューヌの女神候補生のネプギアさんだ。
──これはどんな戦いだ? 勝敗はどう決める?
模擬戦。一本取ったら勝ちだ。
──得物は?
片手直剣。長さは一般と同じ。
──気持ちは?
『勝つ』その一心のみ。
「それじゃ。──はじめっ!」
「はあっ!」
アイエフさんの合図とともに私は地面を蹴り、ネプギアさんに接近を図る。剣は変わらず正面に構えているからこのままだと当たる。その私の突撃をネプギアさんは横に大きく動くことで回避。そのまま地面を踏み込んで剣を振るってくる。それを何とか自分の剣で受け止める。
しかし意外にネプギアさんの力は強く、少しずつ押されていく。このままではじりじりと押し負けてしまう。ならこの威力を逆に利用して——
素早く横にズレながら剣を滑らす。
「──あっ!?」
すると押される威力は前へ倒れる力となってしまいネプギアさんが倒れそうになる。
──チャンスだ。
横に動かした足を踏ん張ることでズレた勢いを殺し、そのまま剣を大きく上に振り上げ──
「やああああっ!!」
──倒れそうになっているネプギアさんの背中目掛けて容赦なく振り下ろす。
…が、本当に攻撃を当てるわけではない。あくまで寸止めだ。
「──きゃっ!」
そして私が剣の動きを止めると同時にネプギアさんは地面とぶつかった。私が剣をぶつけたからではなく、結局踏みとどまることができず倒れたからだ。
さて、剣を当てていないが、あくまでこの勝負は寸止め前提の勝負。判定はどうなのかと審判を見ればお二人共目を見開いて驚きの表情のまま固まっている。
「…えっと、アイエフさん?」
「え…? あっ、い、一本! この勝負ルナの勝ち!」
「す、すごいですぅ……」
声をかければ固まった状態から回復したお二人。でもその顔が驚きのままなのは変わらない。そんなに驚くことがあっただろうか?
ま、とりあえずこけたネプギアさんを起こすこととしましょうか。
「いてて……」
「ネプギアさん、大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
「あ、ありがとうございます……」
ネプギアさんの前にしゃがみ、手を差し出す。ネプギアさんはその手を受け取り、立ち上がり、それから服に付いた汚れを払った。見たところ怪我はなさそうだ。
「怪我はなさそうですね。よかった」
「…はい」
あれ? どこか雰囲気が暗いような……気のせい?
…気のせいじゃない。ネプギアさんの表情は暗い。もしかしなくても私に負けたからだろう。
「えっと、こんな時もありますよ。多分一本だけの勝負だったからまぐれで私が勝っただけですけど、もし普通の実践みたいな勝負ならネプギアさんには敵いませんって」
「そんなこと…ないですよ」
「あ、あのあの……」
ど、どうしよう……
こんなときどうしたらいいかなんて私分からないんだが!?
「はいはいネプギア、そんなしょげてないの」
「そうです。ギアちゃんも十分凄かったですよ」
「でも……」
「まあ今の結果は私も驚きだけどね。まさかさっきまでひいひい言ってたルナがあそこまで動けるなんて……」
「あ、あれはアイエフさんやネプギアさんが色々と教えてくれたおかげで上手く体を動かせただけというか…体が思うように動いただけというか……」
…そういえば勝負直前と最中、頭がよく動いて、体も軽かったような……
「…条件付きってところかしら……」
「え?」
「何でもないわ。ネプギアもあんまりしょげてないで、元気出しなさい。ネプギアの方が先輩なんだから」
「私が…先輩…?」
「そう…ですね。そういえば記憶を失ってるってことを除けばネプギアさんは私の剣の先輩…というか師匠? いや教官? とにかく私より先輩です!」
「そ、そっか…私が先輩、かぁ……」
“先輩”という言葉にネプギアさんの表情は徐々に明るくなる。ナイスフォローアイエフさん。多分記憶を取り戻したら立場が逆転する可能性もあるけど、まあそれは先延ばしにしておこう。
と思ってたらネプギアさんのニヤ…ゴホンゴホン。明るくなった顔がハッと何かに気づいた様子。
はて? 何か? と思えばあわわ…と慌て始めるネプギアさん。落ち込んだり明るくなったり慌てたり忙しい方だな、と思って見ていれば何かもじもじしながら口を開いた。
「で、でもやっぱりその…ルナさんとは先輩後輩じゃなくて…友達になりたいかな」
「~~~っ! はいっ! こちらこそネプギアさんとは友達になりたいです!」
ネプギアさんからのまさかの提案に私の胸は幸せいっぱい。いいのか? こんな幸せで。後で嫌なことが…あってもいいか。こっちもネプギアさんとはもっと仲良くなりたいと思ってたんだから。むしろネプギアさんの方からそれを申し出てくれるなんて、それ程良いことは他にあまりないだろう。
少なくとも今の私にとっては凄くいいことで、今の状態で何か嫌なことがあっても大抵は平気だ。
「じゃあ敬語も無しにして、私のこと呼び捨てでいいから、ルナさんのことルナちゃんって呼んでも…いいかな?」
「はい! …じゃなくてうん、いいよネプギア」
「良かった。これからよろしくね、ルナちゃん」
「うん!」
「二人がより仲良くなれて…ピクニックをしてよかったですぅ」
「そうね。でもより仲良くなったところで悪いけどそろそろ帰りましょ。日が暮れるわ」
「え? あ、本当だ」
「あ…まだそんなにいなかった気がするのに……」
「楽しい時間はあっという間です。暗くなる前に教会に帰るですよ~」
「はーい」
「あっ、片付けお手伝いしますね」
アイエフさんのフォローのお陰でネプギアさん…じゃなくてネプギアが元気を取り戻しただけでなく、さらにそこからネプギアに友達になりたいと言われ、ネプギアと友達になれた。模擬戦直後はどうなるかと心配したけど、いい方向に行ってよかった。今回のピクニックを提案してくれたコンパさんには感謝だ。それにお弁当も美味しかったし。
今回の旅、皆さんと仲良く。そして旅先で会う方とも仲良くなれたらいいな。
そんな思いで私は夕暮れの中、教会へ帰った。次の日には事態が大きく動くとは夢にも思わずに……
後書き~
模擬戦の果てにネプギアと友達になることができたルナ。しかし彼女に大きな波が迫っていることに彼女達は気付いていませんでした。
彼女達はその波を乗り越えることができるのでしょうか……
次回もまた、こうしてお会いできる日を楽しみにして。
See you Next time.