月夜に照らされて鉄塔の上に立つ一つの人影。
その人影には綺麗な細長い尻尾と、頭の方には二つの耳が付いている。
清廉な陰の気を纏り、中性的な妖艶な容姿をしている彼は、知らない人が見れば女性と間違うのではないかそれほどに美しかった。
「二匹の鬼……たしか、ゴズとメズだったかな。」
「ヘイ、ボーイどこでその名前を知ったんだい?」
男の鬼が表情を険しくして質問する。
「うーんっと、先輩から教えてもらったかな?」
「先輩だぁ!?」
男と太一がどこか気の抜けた会話をしていると、老人が一度手を叩く。
すると、女の鬼の腕に纏わりついていた水気の塊を消失させた。
「ほっほ。あの鳥を一撃で落とすとはやはり見立て通り中々の実力じゃ。」
「導摩法師。まさか本当にいたとは……」
「さて、まずはちと量らせてもらうとするかの。」
老人のその言葉を合図に二匹の鬼が太一に向かって突進した。
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二匹の鬼の突進を避けるため大きく跳ぶ。
およそ生身の人間が跳ぶことができないような距離を軽々しく跳んだ。
二匹の鬼と、改めて対峙する。
二匹とも放つ鬼気がとんでもない大きさだ。
「さぁ、始めるか。」
「とっとと、くたばるんだわ〜。」
ゴズが首をグキグキと鳴らしてこちらを睨んでくる。
見た目は非常に攻撃的だが頭の中は非常に冷静に戦況を見ている。
ゴズの方が厄介そうだな。
予想通りメズがなんの駆け引きもなしに、直線的に突っ込んできた。
こういう、鬼力の強さに任せた猪突猛進なタイプはハメやすい。
「朱雀! 玄武! 白虎! 勾陣! 南斗! 北斗! 三台! 玉女! 青龍!」
目の前に縦に四本、横に五本の格子紋が現れる。
それは壁のようにメズの攻撃を受け止める。
「キー!小賢しいんだわ。」
さらに九字の放つ光には退魔の力がある。
メズはすかさず後ろへ飛び去り距離を取る。
メズが体勢を立て直す前に右に全速力で走り出す。
「待つのだわ〜。」
メズが追ってくるのを目で確認しながら、印を結ぶ。
狐の霊力を借りて、およそ人間が作り出すことができない精錬された霊力を練る。
「九天応元雷声普化天尊!」
呪力を上空に捧げる。
雷がメズに向かい爆音を響かせながら襲いかかる。
雷鳴が世界を飲み込んだ。
耳を貫くような激しい音と、光で視界が聴覚が完全に奪われる。
立っていられないほどの衝撃を受けてよろめく。
「ヘイボーイ。そこまでだぜ!」
体勢を立て直すその一瞬を突かれた。
雷が収まり、視界がまだ完全には回復していない状態でゴズが、背後から攻撃を仕掛けてくる。
避けきれない、しかし、俺の中に焦りは全くなかった。
俺の心臓めがけて繰り出された鬼気を纏った渾身のパンチは、俺にあたる直前で見えない壁に当たったかのように勢いがなくなる。
「シット。またあんたかい!?」
ゴズの視線の先には不敵に笑う麻里の顔があった。
ゴズの攻撃を受け止めていた壁がグニャリと曲がり、ゴズの右腕を包む。
「これで、俺たちの勝ちだ。」
麻里の横へと跳ぶ。
「大丈夫か?」
「全然問題ないわよ。」
麻里と目が合う、言いたいことは色々あるが、今は我慢して目の前の敵を倒すことに集中する。
呪符の束を無造作に取り出し手のひらに乗せた。
「「――奇一奇一たちまち雲霞を結ぶ、宇内八方ごほうちょうなん、たちまちきゅうせんを貫き、玄都に達し、太一真君に感ず、奇一奇一たちまち感通――!」
呪文を唱えていく、詠唱が進むにつれて、呪符が宙を舞いゴズとメズを環状に取り囲んでいく。
天地開闢に関わった神々の一柱・天御中主神の呪法 、いくら強力な鬼と言えどもこれを喰らえばひとたまりもないだろう。
「ギャー、ヤバイのだわ〜。」
「シット、逃げれねぇ。」
もがく二匹の鬼を無表情で見ながら、麻里の腕を折った怒りを込めて、残りの呪文を唱える。
「天御中主神の威を持って、これなる邪気、瘴気を一掃せん! 」
「ほっほ。上出来じゃ。」
俺の呪文を遮るように、導摩法師が言葉を発すると同時に、法師の体から尋常ではない量の霊力が放出された。
「中々綺麗な霊気じゃ。」
「お褒めに預かり光栄です。」
「術の使い方も狡猾じゃ。お主程見込みのある術者とあったのは1年ぶりじゃ。わざわざおびき寄せた甲斐があった。」
そう言うと法師は愉快そうに笑い声をあげる。
この人は俺たちが憎いとか、殺したいとかそういう次元で話していない。
純粋に強い術者に出会うことを楽しんでいる。
明らかに器が違う。これが1000年生きてきた人間ということなのか?
「ゴズ、メズ、先に帰っとれ。」
「は、はいマスター!」
「わかったのだわ、ドーマン様ぁ。」
法師の言葉を聞いて、いつの間にか結界から解放されていた二匹の鬼は慌ててその場から霊体化した。
「さぁ、術比べを始めよう。」
法師はそう言うとさらに霊力を体から放つ。
目の前の法師から溢れ出る霊力を見て悟る。
この人には勝てない。
明らかに霊力が人間離れしている。
これほどの霊力を視たのは宮地局長以来は始めてだ。
この霊力を見せられた上で、自分が蘆屋道満だと言われると嫌に説得力がある。
膝が震えそうになるのを必死に抑えながら、時間を稼ぐべく話をする。
「いやー、今回はお引き取り願えませんかね?夜も遅いですし。」
「術師にとってはいまからが、働きどきだろうて。」
法師と話しながら、頭の中では策を考え続ける。
どうやって、麻里と逃げるか……麻里を逃がすか。
「ふぅ。」
小さく息を吐く。
冷静に残酷に最善解見つけ出す。
奇襲的に霊力を練る。
「タニヤタ・ウダカダイバナ・エンケイエンケイ・ソワカ!」
水流が渦を巻きまるで意志を持った生物のように、形を変えながら法師へ向かって襲いかかる。
水流は法師を包み法師の姿が見えなくなる。
素早く呪符を取り出し、鳥の式神を簡易的に生成する。
「行け!」
そう言うと、鳥は麻里を乗せて高速で戦線を離脱する。
後方から麻里が何かを叫んでいるのが聞こえてくる。
それを無視して、印を結んで霊力を練る。
俺は無残に殺される為に麻里を逃したのではない。
こちらにも策はある。
しかしこれは自分でも制御ができない。
まずは麻里を安全な場所に逃がす必要があった。
水流が四散し、その中心からかすり傷一つない老人が現れた。
「やっぱりこの程度じゃダメだよな。」
「なかなか、良い術だったが、これだけで倒されるほど老いぼれておらぬわ。」
法師は楽しそうに、クククと低く笑う。
まるで早く次の術を出してくれと言わんばかりの様子だ。
「はぁ。仕方ないなぁ。」
呪力を上空に捧げて叫ぶ。
「九天応元雷声普化天尊!」
雷を法師に向けて落とす。
しかしこれはただの雷ではない。
先程の水天法によって、今俺たちの周りには水気が満ちている。
『陰陽五行説』において、雷の雷気は木気に属する。
その木気を相生するのが水気である。
五行相生の水生木、地上に満ちた水気に反応して、雷がさらに勢いを増す。
この現状俺が出せる最大出力の霊力なら法師に一矢報いることができるかもしれない。
「グッ」
体中に電気が駆け巡る。
この策の問題は、攻撃の範囲が限定できないということにある。
雷が地上に充満した水気に反応して所構わず雷を放出する。
全身に感じたことのない衝撃が走る。
立っていられなくなる、視界もだんだん掠れていく。
地に這いつくばりながら、法師の方を見る。
「ほっほ。狐の生成り、人間離れした霊力と五行の枠に囚われない術の使い方、中々楽しい術比べだった。だがまだ若い、奥の手とは確実に勝てる状況を作ってから使うものじゃ。今回は引き分けということにしといてやろう。精進するのじゃ、若き術者よ。」
法師の声が段々離れていく。
薄れていく意識の中、俺は自分の敗北を悟った。
戦闘描写難しすぎる……。
どう書いても臨場感が出ない。
プロの作家さん達の凄さを改めて理解しました。
さてと、この物語もあと一話で終了です。
最後はマリリンと絡ませないとね。