俺は、狐の生成りだ。
歴史ある由緒正しい家柄である、賀茂家の人間にとって、生成りは忌み嫌われるものだった。
屋敷のみんなは表面上は俺に優しく接してくれた、しかしみんな必要以上には俺と関わりを持とうとはしなかった。
両親はいつも、俺の弟を作ることに躍起になっていた。
「もうすぐ、新しい家族が増えるからね。お兄ちゃんになれるね。」
これが母の口癖になっていた。
しかし俺は母が弟を欲しがる理由が、他にあることを子供ながらに感じていた。
狐の生成りである証の、尻尾と、耳、子供の時の俺はそれを隠すこともできなかった。
友達はみんな生成りであることを恐れて、どんどん俺の周りから離れていった。
俺はどこに行っても孤独だった。
誰も俺と普通に接してくれる人などいない、いつしか俺は周りの人間に期待しなくなっていた。
そんな俺に手を差し伸べてくれた一人の女の子がいた。
俺よりも年上で、だけど俺よりも子供っぽいところもあるその娘は、生成りの俺にも無邪気な笑顔で話しかけてくれた。
その子だけは俺から離れていかなかった。
俺の唯一の友達、理解者、いつしか俺はその子に友達以上の感情を抱くようになっていた。
でもある日、その子は俺が狐の生成りだから起きた事件に巻き込まれてしまった。
✳︎
眼が覚めるとそこには見慣れた白い天井があった。
自分の家だ。
「……」
まだ頭が覚醒せず、ぼんやりとあたりを見回す。
「起きた?」
ベットのそばに麻里がいた。
左腕には包帯が巻かれているが、それ以外は特に怪我はなさそうだ。
一安心して、ホッと胸をなでおろす。
「ゴメンね、病院じゃなくて。天海さんが十二神将が瀕死の重傷で運ばれてきたら、メディアが騒ぎ出すって、入院させてくれなかったの。」
「そうなんだ……」
天海さんらしい、決断だ。
「腕は大丈夫?」
「太一の傷ほどじゃないから大丈夫よ。」
麻里に言われて、自分の体を見てみる。
体中包帯でグルグル巻きだ。
「よく生きてるな。」
率直な感想を言う。
「普通の人間なら、これほどの霊傷を受けていたら、即死らしいわよ。医者も奇跡だって言ってた……」
「奇跡か……」
二人には分かっていた。
これが奇跡などではないということを、俺が狐の生成りだから助かった。ただそれだけだということを。
「なんで無茶するのよ……」
麻里の声が震えていることに気がつく。
驚いて麻里を見ると、麻里は俯いて泣いていた。
表情は見えない、ただ涙の雫がポタポタと服に滴っていた。
「……」
あぁ、また泣かせちゃったな……
自分では強くなったと思っていた。
あの日以来、真面目に授業を聞くようになり、首席で陰陽塾を卒業して、陰陽庁に入り、麻里を追うように祓魔局に入り、陰陽1種を獲得して、独立祓魔官になった。
全ては麻里を守るため。
「ゴメン……」
かける言葉が見つからない。
自分の無力さに腹が立つ。
しばらくお互いに無言になる。
どれほどの時間が経ったのだろうか、俺には1日思えるほど長い時間が経ち、いや実際には10分程度だったのかもしれない。
「さ、あなたはもちろん働けないし、私も一週間は休みもらえたからゆっくりしましょ。」
麻里が元気づけるように明るく言った。
「うん。」
麻里はそう言うと、部屋を一度出て、2つのカップにコーヒーを注いで戻ってきた。
カップから沸き立つ湯気を見ると、コーヒーを飲みたくなる。
体を起こそうとして、自分の両手を見る。
「あっ!」
麻里が気まずそうに声を出す。
思わず苦笑いしてしまう。
「あー、俺飲めない。」
「んー、そうね……」
麻里はしばし考えて、ニヤリと子供っぽい笑みを浮かべる。
麻里がこの顔をする時は大概ロクなことがない。
「飲ませてあげるわよ。」
「いいよ、恥ずかしいから。」
「そうしなきゃ飲めないでしょ。」
麻里がカップを無理やり口元に近づけてくる。
いくら自分を責めても今は傷を治すことしかできない。
たまには、こうやって麻里とまったり過ごしてもバチは当たらないだろ。
「そうだ、折角二人とも休みなんだし、どこか行こうよ?」
「うん、いいわね、行きたい!」
「どこか行きたいとこある?」
そう聞くと、麻里はしばし黙って、呟くように言った。
「どこでもいいよ……貴方が笑顔なら。」
完結です。
ここまでお付き合いしてくださった皆様本当にありがとうございます。
書きながら僕もとても楽しめました。
東京レイヴンズの作品でありながら、春虎や夏目達と一切絡んでないので、塾生たちと絡む話も書いてみたいな、と思ったりしています。
あと、太一と麻里の言う"あの日"の話とかも一応頭の中では考えているので、もしかしたら書くかもしれません。
また続きを書いた時にはよろしくお願いします。