ロリてんっ! ~ロリコン勇者が転移して、幼女ハーレム作ります~   作:ナマクラ(本物)

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第十四話「急襲」

「魔王を倒すべく使わされた勇者、ね。成る程、どうりで強い訳だ」

 

 外征依頼の日の夜、安全を確保した寝床の中で、俺は三人に秘密を打ち明けていた。

 

「むしろペニーが普通の人じゃなくて安心したわ。どれだけ修行積めばこの強さになれるんだって、内心ビビってた」

「そう、俺の強さは借り物って事さ。魔王ぶっ倒す為に借りた女神様の加護、もとの世界だと俺は平凡なとび職だよ」

「はぁー。わざわざ世界を跨いできてもらってすまんなペニー」

 

 三人の反応はまちまちだった。

 

 何となく察してた風なバーディ、目を丸くして驚くアンジェにほとんど気にしてなさそうなロイ。

 

 ドン引きされないだけ良かったと考えよう。今から、彼らを勧誘しないといけないのだから。

 

「それで、だ。お前らを見込んで頼みたい、俺の魔王討伐の旅についてきてくれないか? 今の俺の旅には、戦力不足が甚だしいんだ」

「えー、いや勇者同士でパーティー組めば良いだろ? 一般人の俺が魔王軍の幹部とかとタイマン張れって言われたら、迷わず逃げ出すぞ」

「そうしたいのは山々だが、他の勇者の居場所がわからん。それにお前らだって凄く強いじゃねーか」

「あんたには負けるよ。悪いが俺はパスだ、金にならんし」

「私もキツイ、報酬でないなら割に合わない」

「俺たちの世界の問題だから力を貸してやりたいとは思うが……、すまんな、俺に力になれるビジョンが浮かばない」

 

 だが、彼等の返答は渋かった。

 

 非常に申し訳なさそうな顔のバーディは、押せばワンチャンあるかもしれない。だが、ロイとアンジェは完全に脈無しっぽかった。

 

 やはり、金か。いや、彼等にとっては赤の他人の命より自分の財産の方が大事なのだろう。それは、この世界では決しておかしい価値観ではない。

 

「まぁなんだ、俺はついていけないが仲間になってくれそうな奴を探してみるよ。それで手を打ってくれ」

「あ、そのくらいなら手伝うよ。魔王が攻めてきたら危険な仕事増えそうだし」

「そうだな、それなら俺も付き合おう。悪いなペニー」

「…………いや、十分だ。ただ、俺の正体については隠していてくれ。万が一、娘を人質に取られたら俺にはどうしようもなくなる」

「了解だ」

 

 こうして、俺の決死の勧誘は空振りに終わった。

 

 彼らには彼らの生活がある。無理強いはできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、なればペニーさん。勇者の情報を集める方向に切り替えるのですね」

「ああ、気の良い連中だったんだがなぁ」

「となればあのマクロ教の勇者も、私達に同行することになるのでしょうか」

「かもしれん。エマには申し訳ないが」

「……いえ、お気になさらず」

 

 バーディ達との討伐依頼はサクッと終わり、誘われた酒の席も断って寄り道せず俺は帰宅した。待ってましたとばかりで迎えて抱き着いて来た可愛いエマの、その手料理に舌鼓を打つ為に。

 

 エマの料理レパートリーは少なく、基本的に旅の途中は混ぜスープと干し肉ばかりだった。だが、彼女は厨房でバイトしながら新たなレシピを習得し、小さな惣菜の類が食卓に並ぶようになっている。

 

 向上心のある、真面目な幼女である。

 

「そういやオンディーヌは普段、何を食べているんだ? あの娘が食事してるのを見たことないが」

「え? ああ、店の賄いです。と言っても、客の食べ差しばかりですが」

「……なんと不憫な」

「いや、奴隷の分際で飲食店で調理されたものが食べられるのはかなり幸せです。私と姉様は、カビの生えた一切れのパンでずっと働かされてましたよ」

「そういうもんか」

 

 エマにそう説明され、俺は納得した。日本を基準に考えてはいけない。この世界では、これが普通なのだ。

 

 俺の暮らしていた国はいかに恵まれ、豊かで安全だった事か改めて実感した。最低限衣食住が保証され、どんな貧乏であろうと生きながらえるのに苦労はしない。人の心は、こっちの方が幾分か豊かな気がするけど。

 

「よし、一応今日は俺がオンディーヌを迎えに行くよ。人攫いに捕まらないとも限らないし」

「そうですか。まぁ、アレを盗まれたところであまり痛手ではないのですが……」

「本当、エマちゃんオンディーヌの事どうでも良いんだね……」

「奴隷というのが、あそこまで面倒な商品だとは思いませんでした。奴隷商を尊敬しますよ、よくあんな水物を商売のタネにできるものです」

「あ、いやそんな職業の人を尊敬しちゃいかんよ。奴隷とはいえ人間、ちゃんと意思もあるし心もある。少し前のエマちゃんみたいに無実の人もいるかもしれないしね」

「オンディーヌに関しては、正当な契約の代価でしょう」

 

 やはり、まだエマの心は荒んでいる様子。奴隷に向ける慈悲はないらしい。それとも、こっちの世界はこういう価値観が普通なのだろうか。

 

 奴隷が非人道的だ、という価値観は日本的である。国が変われば、風習も文化も倫理観も変わってくる。俺が、少数派なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いくら奴隷とはいえ、食べ残し食べさせられるとか。待遇の改善を要求したい」

「そうなのか」

「というか。毎日働き詰めってのも極悪非道。人間が最適なパフォーマンスを発揮するには、休日が必要だと思う。週休3日は絶対に譲れない」

「お、そうか」

「そもそも、寝床もあんな檻の中とかおかしくない? ペニー様は良いよね、屋根のある部屋で布を巻いて眠れてさ。私は雨の日なんか、はみ出した足とか水に濡れてすごく寒い思いしてる」

「それは、可哀そうだな」

「というかそもそも、行き倒れている人がいたら食事くらい無償で提供してくれたっていいじゃん。エマ様には慈悲の心が足りない」

 

 不満爆発。迎えに行った帰り道、オンディーヌに今の生活の不満について尋ねてみたら、沸き上がる泉の如くブーブーと愚痴りだした。

 

 いや、彼女の不平不満も納得はできる。俺の感性からすると、彼女は同情されてしかるべきだ。でも、なんかこう、いまいち素直に同意できない。

 

「ねぇねぇペニー様、どうかエマ様を説得してくれません? 私をそろそろ解放するようにって。このままだと私、エマ様に眠れずの呪いをかけちまいそうでさぁ。エマ様、一生背が伸びなくなる」

「え、えっと、うーん。多分彼女は納得しないというか、それが君の差し金だとわかったら烈火のごとくブチ切れるというか。まぁなんだ、あと2週間も働けば自由になれるんだ、もうちょっと我慢してみたらどうだい」

「1か月も強制労働って、私の罪はソコまで重いかな? 人攫いに捕まって、命からがら逃げだして、行き倒れることはそんなに重罪なのかな? ペニー様もそう思わない?」

「うーん、罪とかじゃなくて、その」

 

 オンディーヌの発言は甘えて、社会をなめ切っている。この世界で一番会話をした相手はエマだが、彼女はドが付くほどのリアリストで、自分にも他人にも厳しかった。小学校低学年くらいの、彼女がそこまで達観しているというのに。

 

 オンディーヌは助けてもらって当たり前、命を助けられても感謝をせず強制労働だと文句を垂れ、挙句命の恩人に対して呪いをかけるぞと脅しつける、そんな態度を取っている。

 

 エマと比べて、なんと残念なことだろう。オンディーヌの気持ちは理解できるのだが、いまいち同情しきれないのもその辺が理由なのだろうか。

 

「せめて、休日! できれば、有給休暇! 1日くらい良いじゃん、息抜きをしないと人間は人間じゃいられないんだよ、働くだけの人間は機械と一緒なんだよ」

「……そうだね。一応、エマに相談しておくよ。期待しないでね」

「流石ペニー様、話が分かる! あんた将来大物になるよ!」

「もう中年なんだが」

 

 そんな調子のよいオンディーヌにどこか呆れを感じながら。俺とオンディーヌはエマの待つ宿屋へと、まっすぐ帰っていた。

 

 もし、オンディーヌが腹を空かせているならコッソリ屋台でご飯を奢ってやるつもりだったけれど、その必要はなさそうだ。他人の食べ差しとはいえ、かなりの量を彼女は賄いとして食べさせて貰っているらしい。そのボロボロの衣装と比べ、彼女の肌は随分と血色が良かった。

 

 だが、今までオンディーヌとジックリ話す機会がなかったから、迎えに行ってよかったかもしれない。彼女の人となりが知れる、貴重な時間だったと思おう。

 

 

 そんな、危機感薄くノンビリ歩いていた天罰が当たったのだろうか。

 

 

 曲がりなりにも俺は、勇者として魔王を倒す旅の最中である。常在戦場、いつ敵から襲われてもおかしくない旅路だ。だというのに、どうして俺は鼻歌交じりに油断しきって歩いていたのだろうか。

 

 街中である。流石に、こんな場所で敵は奇襲を仕掛けてこないだろう。そんな、思い込みがあったのかもしれない。

 

 

 気が付けば、既に3歩の距離。俺は、剣を振りかぶった敵にまっすぐ突進されていた。

 

「オンディーヌっ!」

 

 とっさに彼女を突き飛ばし。俺はその剣撃を、真正面から左腕で受け止める。

 

 激痛とともに、俺の腕は血飛沫を上げ剣を飲み込んでいく。だが、幸いにも剣は俺の腕を両断することなく、骨と筋肉にに阻まれて停止した。

 

 奇襲する側にとって、何より重要な初撃を防いだ。ここからは、俺の勇者としての自力で叩きのめせばよい。

 

 そんな風に考え、襲撃してきたその剣士を睨み付けたのだが。

 

「────斬らば燃ゆる」

 

 敵は、敢えて俺の腕を両断しなかったらしい。それに気づけなかった俺は、剣を引き抜こうとせず敵に迫っていき、

 

 全身が、青い豪炎に包まれた。

 

「あ、がああああああ!!」

「……」

 

 皮膚が燃え、肉が溶け、息が出来ない。苦痛と熱気と息苦しさで、頭が焼け付きそうになる。白く濁っていく視界の隅に、顔を真っ青にして尻餅をついているオンディーヌが目に映った。

 

「ちょっ……、馬鹿、メロ、やめろ!! それ以上は治療できなくなる!!」

「知らん」

 

 そんな。どこかで聞き覚えのある声が聞こえ。やがて、乱暴に俺の腕から剣が引き抜かれて、支えを失った俺の体はドサリと地面に崩れ落ちた。

 

「……っ、これ、死んだ? あ、まだいきてる、輝ける輪唱の和を以て彷徨える命の息吹を……」

「早く治せ、ミーノ。まだ、僕の気は済んでない」

「もう十分だろ、そもそもこの人はそこまで悪いことしてないし! これ以上やるなら、ボクもう君の旅についていかないぞ!」

「なら、お前もここで殺す。……ちょっとコイツは、調子に乗りすぎだ」

 

 そして、体が癒えていくのを感じる。これは……、いつもの自己回復とは違い、暖かな光に包まれ体が再構成されていく、奇妙な感触だった。

 

 回復魔法、という奴だろうか。

 

「起きろ。もう傷は癒えただろ」

 

 脇腹を蹴られる感触。手をついて顔を上げ、俺はその襲撃者を視認した。

 

 男女の二人組。黒い剣を手に持った、粗野な風貌の男。白いローブを纏った、不安げな表情の少女。

 

 確かこいつら、いつかギルドの受付で騒いでいた二人組の若造冒険者だ。

 

「お前さん方、俺に何の用だ。いきなり随分な挨拶だが」

「……そんなボロボロで格好つけても情けないだけだぜ、オッサン。今日はちょっと断罪に来た」

「断罪だと?」

「カルバ教の勇者たる僕の、この世界を救うためにわざわざ転移されてきた僕の邪魔をして、あげく恥をかかせた罰だ。お前のせいでさ、良い笑い者にされたよ僕は。わざわざお前らの世界のために戦いに来てやった僕をさぁ」

 

 黒剣を俺に突きつけ、その男は薄く笑った。

 

「わかったか? お前の罪の重さが。世界を守るために何でも僕に協力すべき立場のお前が、僕の邪魔をした挙句に笑い者にした。僕が良識的な男でよかったな。普通の人間なら、ふてくされて魔王側についてもおかしくないぞ」

「……成る程、お前さんが勇者ね。女神様ってのは人見る目がないヤツばっかりみたいだな」

「調子に乗るなよ、オッサン」

 

 メロと呼ばれた勇者を名乗る男は、再び俺の胸に黒剣を突き立てる。そして、ニヤリと嘲笑って、

 

「さっきの、もう一回してやろうか? 土下座して、慈悲を乞うなら考え直してやってもいいぞ」

 

 そう、狂気混じりの笑みで俺を脅した。

 

 

 

 

 

 

 これは。もう、良いだろうか。

 

 

 

 

 

「ふぅん、動かないってことは、もう一度────」

 

 その言葉を遮って。俺はその男の、顔面を肘で強打した。

 

 割と、全力である。剣を突きつけ圧倒的優位に立っているからであろう、油断。その油断に、遠慮せずつけ込ませてもらった。

 

 この、至近距離。俺の全力の速度に、常人なら反応すら難しいだろう。仮にも勇者を名乗るコイツなら躱してくるかもしれないので、全力で振り抜いた。

 

 

 

 

 

「……ちょ、ちょおおおおお!?」

 

 女の間の抜けた声が、街に響く。勇者を名乗った黒剣使いは、俺の肘鉄で地面に叩きつけられ、ぐしゃりと嫌な音を立てながら大きなクレーターを作った。

 

 これは……しまった、死んじゃったか。

 

「えっと、吹きすさぶ愛の嵐、あまねく一切の条理の理を廃しかの者に生命の息吹を────、お、おおお!! 良かった、生きてる生きてる」

「よかったな。で、お前もこの男の仲間だな?」

「ひょあああああ!! ボクにヘイト向いてるぅぅぅ!! 違いますって、いや仲間であってるんですけどコイツが暴走しただけでボクは止める気満々でしたって!」

「……」

「メ、メロの馬鹿ぁぁぁ!」

 

 女の方は目に涙を浮かべて、ブンブンと首を振り後ずさりしている。先ほど、俺に回復魔法っぽいのをかけたのもこの女だった。

 

 彼女は、あまり悪人ではないのかもしれない。

 

「……おいオッサン。やってくれたな、もう手加減はしない。お前は殺す」

 

 ぬっ、と。クレーターの中心で、鎧も服もボロボロになった男が、血塗れになり立ち上がった。

 

 しぶとい奴だ。

 

「はっはっは、そんなボロボロで格好つけても情けないだけだぜ、若いの」

「ふ、ふふ。あー、良いだろミーノ、コイツは殺す。僕はこの世界を救ってやる恩人なんだから、これくらいのワガママは許されてしかるべきだろう」

「お、おー、メロが復活した。その、でもここ人気は少ないけど街中だし、被害出るかもしれないから、やるにしろ日と場所を改めて────」

「「かかってこいやオッサン!!」若造!!」

「あー……」

 

 その言葉を皮切りに。俺は男に、再び殴りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者。成る程、この男は勇者を名乗るだけはある。

 

 凄まじい反射神経。強力無比な剣筋に、掠っただけで炎に包まれてしまう攻撃力。

 

 俺が今まで戦った中で、間違いなく最強の敵だろう。その行動原理は幼く自己中心的だが、彼の戦闘能力は確かに目を見張るものがある。

 

 おそらく、あの黒い剣がキーアイテムだ。前の決闘では、あの剣に向けてゴニョゴニョと詠唱している間、アイツは無防備に殴られ失神した。あのアイテムが、強さの秘密に違いない。

 

「本当にムカつくな、オッサン……! 雑魚なら雑魚らしくボコられてろよ……」

「お前みたいな若造に、まだまだ負けてられん」

 

 男の顔が、少しづつ歪んでくる。それは決して怒りだけではなく、疲れが見え始めている。

 

 持久力が無いのだろう。燃え上がる剣を振り回すなんて戦闘方法、魔力と体力の両方を消費しているはずだ。ギルドの魔術師がよくいっている、魔法はすごく燃費が悪いと。

 

 それに、この男はあまり鍛えているように見えない。元々の体力も、大したことがないのだろう。

 

「悪いが僕が最強だ、最強じゃなきゃダメなんだ。オッサン、お前には分からんだろうが僕には背負っているモノの重さが違う」

「自分が最強じゃなきゃ気が済まないってか? ……そりゃ、背負っているモノとは言わん」

「そんな戯けたプライドじゃないんだよ、僕が一番強くないと申し訳がたたないんだ……! 良いから黙って、僕に下れこの雑魚!!」

 

 やがて。勝負を焦ったのか、男の剣撃が大振りになる。黒剣を高く振り上げ、体全体をバネにして炎を纏い凪ぎ払う、隙だらけの一撃。

 

 俺はその凪ぎ払いを、真下から蹴り上げた。

 

「なっ……!」

 

 黒剣は、男の手を離れ天高く舞い上がる。すかさず俺は、蹴り上げた足に勢いをつけ、男へ向かって大きな一歩を踏みしめた。

 

「覚悟しろ、若造。その思い上がり、矯正してやろう」

 

 そして前の決闘同様に、俺はその男の土手っ腹目掛けて拳を振り抜いた。

 

 直後、ぐさりと音を立て、黒剣がすぐ傍の地面へと突き刺さる。

 

 男は呻き声をあげると、突き刺さった剣へ向け手を伸ばし、そしてうずくまった。

 

 決着、という奴だ。

 

「あ、ぁ────何で、僕が────」

「動きが素人同然だからだよ、闘い方ってのがわかってない。もっとも、俺もつい最近までそうだったがな」

「だって、僕は、最強の勇者で」

「最強、最強と煩い。強さなんて、結果論にすぎん。勝った方が強いと見なされる。それだけだよ」

「違う、僕は一番強くなきゃいけないんだ。だから、負けている事がおかしいんだ」

「若いというか、ここまでくると阿呆だなお前は。この剣の性能に溺れたか? 炎も、剣が無いと出せんみたいだしな」

 

 男は膝をついたまま、プルプルと震えて動かない。剣はまだ、うっすらと焔を纏って地面を焼いている。

 

 この火を出す魔法は、おそらくこの剣に付随しているのだろう。男が火を出せるというなら、魔法で攻撃してきそうだ。

 

「お前さんの命まで取りはせんよ。ま、この剣は折らせて貰うがな」

「……は? ま、待て! 僕は勇者だぞ、お前らの為に戦う────」

「こんな剣に頼ってるから、お前はそうなってるんだろ。ちょっとは反省しろ」

 

 この辺がちょうど良い落とし所か。剣を叩き折られたら、この男の自惚れもちょっとはマシになるだろう。

 

 ……こんなのが勇者かぁ。マクロ教の勇者もアレだし、やはり勇者同士でパーティを組むのはやめた方が良いかもしれんなぁ。

 

 ダメもとでもう一度、バーディを誘ってみようか。

 

「やめろ、やめろ、やめろその剣は!!」

「やめて欲しけりゃ、人を見下す悪癖直して心から反省しろ」

「ふざけんな、離せ、その剣を────」

 

 必死の形相。

 

 男は、力に固執しきっている。あれは、放っておくとまずいヤツだ。

 

 荒療治かもしれんが、これも良い薬になるだろう。俺は地面に突き刺さった剣を引き抜き、そして手刀で両断すべく腕を振り上げて、

 

 

 

 

「す、ストーップ!!! はい、注目ーっ!!」

 

 

 

 先程オロオロと俺たちを眺めていた、女の声が響き渡った。

 

「悪いけど、その剣を折られるわけにはいかない! どう考えてもメロが悪いけど、どう考えてもボク達が悪いけど!!」

「……おい」

「貴方の調べはついてるよ、ペニーさんとやら! ギルドで聞き込みしたし、情報屋にお金払って住居も特定してるし!」

「おい」

 

 見れば、女はいつの間にか俺の後ろ側に回り込んでいた。この男との闘いに夢中になっていて気付かなかった。

 

 迂闊。迂闊だ。

 

「おい、何のつもりだ、それは」

「ごめんなさい、本当にごめんなさい! 貴方には娘さんがいるでしょう。部屋も調べてました! この娘でしょう、貴方の娘は!」

「────っ!! ────っ!!」

 

 女は、抱えていた。見覚えのある、幼き少女を。

 

 俺にとって、この世界で何より大事な、宝物の様なその少女を。

 

「エマちゃん、て言うんだっけ? この娘の命が惜しければ! ボク達に降伏しなさーい!」

 

 猿ぐつわを嵌められ、幼い体躯を揺らして抵抗するその幼女は、エマだった。

 

 女の手で抑え込まれ、刃物を首筋に当てられているその幼女は、エマだった。

 

 目眩がする。

 

 油断した、あの女は比較的良識がありそうだと思っていた。だから放置しても問題ないと、楽観的すぎる判断のもと動向を一切気にしていなかった!

 

 全て。全て俺のミス、自業自得だ。

 

「くそ。くそ、くそ、クソッタレ!! おい女、その娘に傷一つでもつけてみろ。顔面擂り潰して豚の餌にしてやるからな……」

「……ミーノ。助かったけど、お前そんな奴だったのか。流石にどうかと思うぞ、ソレ」

「あれ? あれぇ、ボク味方からも責められるの!? メロにだけは責められる謂れは無いと思うんだけど!」

 

 幼い女の子を人質にとり、刃物を突きつけて脅すその悪魔は、心外そうに叫んでいる。

 

 状況は、一転し最悪だ。こうなれば、俺には何も出来ない。エマが少しでも傷つく可能性がある、そんな選択肢は絶対にとれない。

 

 俺は邪悪の権化を睨み付け、おとなしく地面に手をついた。……降伏である。

 

「エマにさえ、手を出さないなら俺はどうなっても構わん。煮るなり焼くなり好きにしろ、人の皮を被った悪魔め」

「くっくくく! 無様だなぁ、無様だなぁ!! 調子に乗るからそんな結末になるんだ!」

「あ、いや、メロもストップ。ここは痛み分けと言うことでこれ以上は────」

「弱い奴を仲間にしてるからそうなる! 僕はたとえミーノが捕まったとして、降伏したりはしないよ。捕まる奴が弱いんだから、ミーノの自己責任さ!」

「えっ……ちょ、それどーいう事さメロ!!」

「そんな弱い奴、自分の家に置いてくれば良かったんだよ! 娘だからって一緒に連れ回した、お前が弱い! 僕の方が、やっぱり強い!!」

 

 男は、ニヤニヤと満面の笑みで、剣を拾い上げて俺へと歩いてくる。

 

「弱肉強食って言葉、知ってるか? ────死ねよ、弱者」

 

 そう呟くと、男はぐさり、俺の肩に黒い剣を突き刺した。

 

 ……俺は、死ぬのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時。

 

 奴隷少女は一人静かに、黒い髪を揺らして場の成り行きを見守りながら、静かに胸に吊るした呪いの石を握りしめていた。

 

 その目は、真っ直ぐ二人の男女を見据えていた。


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