ロリてんっ! ~ロリコン勇者が転移して、幼女ハーレム作ります~ 作:ナマクラ(本物)
人間の男に、恋をした。その人間と一生を添い遂げるため、水妖精は王に人の世界へ行く許しを乞いに行った。
だが、王は認めなかった。人間と妖精の恋を。
人間は傲慢だ。いつか裏切るに決まっている。水妖精は飽きて捨てれるのがオチだと。
水妖精は、反論した。
あの人間は、そんな性格ではないと。私以外の存在に目が向くことはないはずだと。
そして、王の前にこんな約束をした。
『ならば彼を呪ってください。私以外に愛情を向けたら、二度と目が覚めぬ呪いをかけてください。きっと大丈夫、彼は私だけを見てくれるはずだから』
だがしかし。
その男が、二度と目覚めぬ眠りにつくまで、数年とかからなかった。
やはり王は正しかった。水妖精は悲嘆にくれ、二度と目を覚まさぬ男の前で独り、泣き叫んだと言う。
────場は、静寂に満ちていた。
武器を捨て、額を大地に擦り付けた男。そらを困惑した表情で見つめる女。
そして、豹変したオンディーヌ。いつもの明るさは鳴りを潜め、無言で冷たく男女を見下している。
その視線に耐えきれず。女は、男にすがるよう口火を切った。
「……メロ? その、ボクに分かるように状況を説明してくれると嬉しいな、なんて────」
「ミーノ、とっとと土下座しろ。オンディーヌとあの女は名乗っただろ? そして扱うのは、眠れなくなる呪いと来たもんだ。明らかに、狙ってやがる」
一方で男は、拳を握りしめ唇を噛んで震えている。
悔しそうに、忌々しそうにオンディーヌを見つめながら、男は額に血が滲む勢いで地面に顔を擦り付け続けている。
「オンディーヌ、とやら。どうすれば呪いを解いてくれるんだ? まさか解けないなんて言わねぇよな」
「安心して、ちゃんと解けるよ。ただし、エマ様の解放が先。いつまで私のご主人を簀巻きにしてるつもり?」
「……分かった」
相変わらず、オンディーヌは氷モードだ。
そんな彼女の『命令』を聞いた男は、無表情にエマの拘束を引き千切った。彼女のか細い四肢を縛っていた縄がほどかれ、エマは自由の身となる。
安堵の息を吐いたエマは、噛まされた猿ぐつわを自分でほどき、微妙に女を警戒しつつ裸足で俺に向かって逃げ寄った。
「エマ、エマ!!」
「ペニーさん! ごめんなさい、私、足引っ張って……」
「何言ってんだ、俺が油断したのさ。すまない、二度とエマちゃんにこんな恐ろしい思いをさせはしない。良かった、お前が無事で良かった……」
「ぺ、ペニーさん……、あう、人が見てる……」
近付いてきたエマを、迷わず胸に抱き込む。
幸いにも、彼女に殆ど怪我は無いらしい。エマの鼓動を感じ、安堵で涙が目に浮かんできた。
俺は、エマ抱き締めたまま静かに涙を溢した。この娘の首筋にナイフが当たっているのを見て、気が気でなかったのだ。
「……あう、あう」
「もう大丈夫だ、エマちゃん……」
感動の、対面である。俺もエマも感極まり、時が止まったかの如く無言で抱き合い続ける。
向こうの女はすごく居心地悪そうに、そんな俺達を見ていた。あの悪魔、一丁前に罪悪感を感じているらしい。
エマに危害が及んだのは、全てあの女のせいである。後で思い知らせてやるから覚悟しろ。
「その、ペニーさん。怖かったから、その、元気が欲しいです」
「……元気か?」
「その、お口の元気というか……」
「ああ、挨拶のことか。目を瞑って、エマちゃん」
余程怖かったのか、エマちゃんは甘えモード爆発だ。人前ではクールに振る舞うことが多いのだが、命の危機に立たされてまだ動揺しているのだろう。
公衆の面前でデレモードの彼女の頭を撫で、そして目を瞑っているエマを勇気つけるため、俺はエマと口付けを交わした。エマはよく、両親と口付けをしていたらしい。
最初にせがまれた時はキスかと思って焦ったが、この世界では単なる親愛表現のようだ。だからセーフである。
「ん、んちゅー」
セーフである。
「……あの、オンディーヌさん? これ、これはどうなの? 実の娘相手にディープキスって、実際どうなの!?」
「うるさい! 恩があるから目を瞑ってるんだよ! あと本人達は幸せそうだし! 実の娘だったらセーフで! ……実の娘、だったよね?」
外野が、なんかうるさいなぁ。せっかく感動の対面なんだから、空気を読んでほしいもんだ。
というか、氷モードのオンディーヌが普段の雰囲気に戻った。そっちの方が親しみあって良いぞ、オンディーヌ。
「ところで、その。そろそろメロが土下座してる理由を教えてほしいんだけど……」
「あの女にヤバい呪いをかけられたからだ。僕も、お前も」
「え、でもボク、普通に眠れたよ?」
「普通に眠れていないよ。お前、僕に起こされなかったら死んでたぞ」
男は土下座の体勢を崩さぬまま。オンディーヌの呪いについて、静かに語り始めた。
「知らないのか、
「……メロが何か博識っぽいこと言い出した」
「茶化すな、聞け。フランスにおける水妖精の有名な戯曲に、こんなものがあるんだ。『水妖精は浮気性の男に、浮気をすれば眠れなくなる呪いをかけた』」
「眠れなくなる呪い? それって、あのオンディーヌって娘の……」
「そうだ。オンディーヌの呪いは『寝れなくなる』呪いじゃない、『眠れなくなる』呪いなんだよ」
えっと。ウンディーネって、確かスマホゲーとかでよくあるあの水属性の精霊だっけか?
知らなかった、フランス語で
……いや、おかしいだろ。何で異世界で出会ったこの娘が、フランス語の水妖精を名乗るんだ?
「……それ、何が違うのさ? 眠れなくなるのも、寝れなくなるのも一緒じゃん」
「やっぱ鈍いな、ミーノ。オンディーヌの呪いってのは、眠れば死ぬ病なんだよ。『寝る事が不可能』になるんじゃなくて、『寝れるけれど、寝ると死ぬから眠れない』呪いだ」
そこで言葉を切り。男は、若干の怯えを孕んだ目でオンディーヌを見上げた。
「オンディーヌに呪われると『眠っている間に、息が出来なくなり死んでしまう』と言われる。これが、眠れなくなる呪いと言われた由縁だ」
「……眠っている間に、息ができない?」
「僕はゲーマーだったお陰で、モンスターだのの知識は深くてね。それを知ってたから、さっき確かめたんだ。……寝ている時のミーノが、息をしているかどうかを」
「……え。え?」
「感謝しろよ。僕が蹴りとばさなきゃ、ミーノはあのまま窒息して死んでた」
ぞくり。
その恐ろしい呪いを聞き、俺の背筋が寒くなってくる。
もし、男がオンディーヌの呪いに気が付かなければ。今夜二人は何も知らずに眠りについて、そして誰も知らぬうちにひっそりと窒息死していたのだ。
いや、呪いの詳細に気付いていたとして、オンディーヌに呪いを解いてもらえなければ彼らは2度と眠ることができない。むしろ、この呪いを知っていた方が苦しいのかもしれない。
どんなに疲れていても、絶対に床に入ってはいけないのだから。彼らは24時間ずっと死への恐怖に怯えながら、意識を保つべく起き続け、眠気と戦うため自らを傷付け、そしていつかは微睡んでしまって窒息死する。
…………それは、どれだけ惨たらしい呪いだろう。
「────本物だ。
その、土下座してオンディーヌを見上げる男の推理を、面白そうに彼女は見下し聞いていた。
その表情は、相変わらず冷酷なまま。
「オンディーヌ。お前は、地球出身の人間だ。つまり、女神に遣わされた勇者だな?」
「ご名答、よく知ってるね色々と。正解、私はキノ教の勇者オンディーヌ。こっちに来てからは、呪術師オンディーヌって名乗ってる」
「勇者に呪われたんじゃ、解呪師が解呪出来る程度の呪いとは思えん。そもそも、解呪出来る人がいるかどうかすら怪しい。……俺たちの負けだ、命が惜しければ土下座するしかない」
「え? はぁぁぁぁあ!?」
女は絶叫し、怯えきった目でオンディーヌを見つめ。男は、観念したのか項垂れて土下座の体勢を取り続けている。
だが、俺には聞き逃せない一言があった。
今、男は何といった? 勇者? オンディーヌが、勇者? この残念感溢れる奴隷少女が、勇者?
「あっはっは!! ペニー様、何だいその顔! 奴隷にした相手が勇者とは、流石にびっくりかな?」
「いや、驚いたというか。あ、いえ、勇者? 勇者何で?」
「くっくく。考えてもみなよ、私みたいに貧弱な女が盗賊集団に捕まって簡単に逃げ出せると思った? ……ちょっと遠いけど、私達が出会った辺りの山に戻ってみたら分かるよ」
オンディーヌは流し目に、ニヤリと笑って首に吊り下げた石を握る。
「近くの山には、眠ったように死んでる盗賊共の遺体が山積みに並んでるさ。私に呪われて死んでいった人買い達の遺体がね」
……え、ええぇ、怖っ!! 何それ怖っ! オンディーヌの奴、たった一人で盗賊団を壊滅させて逃げ出したのか。
言われてみれば確かに、こんなにどんくさくて貧弱で弱そうな少女が、人買いに捕まってあっさり逃げ出せるなんて妙な話ではあった。
と言うか。オンディーヌ、さっきからあの二人に触れるどころか、近付いてすらいない様な。
つまり、彼女は触れずとも人に『眠れば死ぬ呪い』をかけられる訳で。遠距離から問答無用で即死攻撃出来るって、最強じゃね?
「な、なぁオンディーヌ、呪いをかける条件とかってあるの?」
「……目で見える範囲なら誰でも呪えるぞ、ペニー様。見つめて呪詛を放つだけだ」
「ひ、ひいいぃぃぃ!?」
あかん、最強だ。常時発動できる長距離の即死攻撃持ちって、ヤバすぎるだろそれ……。
「つ、強すぎないかオンディーヌ……」
「……いや。こいつは下級モンスターの捨て身特攻に弱い、呪いそのものにも弱点も多そうだ。敵が眠らない限り、殺せない訳だからな」
「そーなの。私としても、もう少しまともな祝福が欲しかった。色々とピーキー過ぎるよ、これ……」
あ、そーか。
でもさ、裏を返すと彼女は誰かに守ってもらえさえすれば、その能力を存分に発揮できる訳で。勇者パーティを組む前提なら、やっぱり最強なんじゃないか?
「だから、お前はよくそのオッサンに守ってもらえ。悪いが僕はキノ教の勇者と共に旅をするつもりはない。そっちもそうだろ?」
「うん、了解。うちのキノ様も、テトラ教とカルバ教の奴等にはつきあうなって口酸っぱく言ってた。あんた達と行動を共にするつもりはない」
「ん? 勇者同士なのに、パーティ組まないのかお前ら」
だが。意外なことに、オンディーヌはこの駄勇者とパーティを組むつもりはないらしい。
今俺が勇者であると明かせば、この面子でパーティを組むのかと少々辟易していたのだが。
「勇者全員でパーティを組むのは、最終決戦だけだ。基本、女神同士は仲が悪いからな」
「信仰心の奪い合いしている、商売敵だもんね。私が一人で活躍すれば、それはお伽噺となって後世で信徒を増やす事になるの。てなわけでペニー様、今後も貴方の旅に加えて欲しい。あと、ついでにキノ教に入信して、一緒にキノ様を称えてくれたら嬉しいな」
あ、そうなんだ。5人で協力して魔王を倒せって聞いてたから、勇者同士でパーティを組むもんだと思い込んでいた。
女神にも派閥とかはあるのね。それで、自分の選んだ勇者が活躍すればするほど、後世の信徒が増えていくと。
……俺が活躍すれば、幼女神ロリータ様の信徒も出てくるのだろうか。なんかやる気が出てきた。
「あ、ああ。いや、そうか、よろしく頼む。俺はもう別の宗派に所属してるから、キノ教に入信はせんけどな」
「そりゃ、残念」
そんな、勇者な
期せずして、俺は既に強力な範囲攻撃を持った仲間を得ていた様だ。
「…………ところで、ウンディーネだの呪いだの、何の話をしてるんですか彼等は?」
その傍ら、俺達の世界の妖精の話なんか知らないエマは、オンディーヌを胡散臭そうに見つめているだけだった。
話についていけず不満げに、俺の腹をツンツンとつついている。可愛い。後で説明してあげよう。
ついでに、俺の素性もオンディーヌには話しておくか。この二人組のいる前で、話すつもりはないけど。
解説
本文中に書いた通りオンディーヌはフランスにおいて、
「オンディーヌの呪い」の元ネタとなった戯曲では、オンディーヌ本人が呪いをかけた訳ではなく妖精の王がオンディーヌの恋人に呪いをかけました。
この呪いが有名な理由は、『現実に存在する』呪いであると言う点でしょう。中枢性睡眠時無呼吸症候群/先天性肺胞低換気症候群と呼ばれる、『寝ている間に息ができない病気』をの存在が明らかになった時、1900年代にフランスの医師が戯曲になぞらえて『オンディーヌ・カース/水妖精の呪い』と称しました。なお、現在この呼び方は医学界では使われていません。