ロリてんっ! ~ロリコン勇者が転移して、幼女ハーレム作ります~   作:ナマクラ(本物)

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第六話「マクロ教」

「その子は逃亡奴隷じゃないのか?」

 

 旅支度を整え、さぁ首都へ向けて出発だと意気込んでいたその矢先。不運にも目ざとい中年商人に呼び止められた俺とエマは、危機的状況に陥っていた。

 

 この世界の勝手をよく知るエマは、顔を青くして震えており、今は頼れない。いや、そもそも幼女は頼るものではなく守るもの。

 

 よし、まずは落ち着こう。いざとなれば俺がエマを抱き抱えて走り去ればいいだけの話だ。ここで目指すべきは、無事に商人を納得させて、買い物を続行すること。

 

 では、穏便に切り抜けるにはどうするべきだ? 賄賂で商人を言いくるめるか? いや、貧乏な俺達に奴を満足させられるだけの額を出せるはずもない。そもそもここは路上だ、こんなところで堂々と賄賂なんか渡せるものか。

 

 不意打ちで一発殴って、気絶させるか? ……人混みの中とはいえ、自然にやればワンチャン気付かれないかもしれない。だがこの商人は悪人ではない訳で、そんな人に危害を加えるのは倫理的にダメだろう。

 

 うーん。くそぅ、何も思いつかない。ここは素直に強行突破するしかないか────

 

 

「……はぁ。気持ちは分かりますがね、旦那。その娘は可愛い女の子だ、情が沸くのもわかる。でも奴隷ってのは人の所有物なんでさ。素材売ってくれた旦那はサービスで黙っときますので、素直にその娘をガードに渡しましょ」

 

 黙り込む俺の様子を見て、商人は色々と察したらしい。もう、誤魔化すことは難しそうだ。

 

「人のモノを取ったら犯罪者。マクロ様は、そういった醜い欲望から生まれた行動を厳しく罰するのでさ。旦那が何教の信者かは知らねぇけど、マクロ様は確かに存在なさる。神罰が下る前に、罪を流しましょうや」

 

 ……商人は相変わらず嫌な笑顔を浮かべたまま、言い聞かせるように俺を諭した。

 

 ガード、とは何だろう。この世界の警察みたいなものだろうか? エマを庇いながら逃げるとしたら、そいつらが敵に回るのか。

 

 さっきからこのオッサンがゴチャゴチャ言って来ているが、俺はエマを見捨てる気はこれっぽっちもない。適当に相槌を打ちつつ、隙を見て逃げるとしよう────

 

 

「それによ、旦那。その娘、犯罪奴隷だぜ? 聞くところによると、この娘は世界中を旅しながら一家ぐるみで詐欺を繰り返し、その挙句捕まった犯罪者だ。同情なんか、する価値もねぇよ。旦那、アンタもゆくゆくは身包み剥がれされてポイされるのがオチだぜ」

 

 商人は、吐き捨てるようにそう言って、エマを睨みつけた。

 

 エマの表情が変わる。落としていた目線を上げ、青くなった顔を徐々に紅潮させる。

 

 

 

 ああ。商人の、なんと愚かな事か。

 

 親が詐欺を繰り返したって、そんなのエマには関係ないだろう。一家ぐるみで詐欺って、子供が親に逆らえるはずがないじゃないか。親が悪い奴だったってだけだ。

 

 エマみたいな年頃の子供の倫理観は、まだまだいくらでも改善できる。子供の犯罪は、親の責任だ。この世界の方がどうなっているかは知らないが、俺はエマが奴隷にされるほど悪いことをしたとは思えな────

 

 

 

「違います!!」

 

 

 

 甲高い声が、路上に響く。みれば、先程まで震えていたエマが怒りをあらわに、商人に向かいあって睨みつけていた。

 

「父様は、母様は詐欺師なんかではありません!!」

 

 その、幼い両目に大粒の涙を蓄えて。

 

「あいつが、何もかも悪いんです!!」

 

 先程までの怯えは、もうない。その大きな目を吊り上げて、たった一人エマは商人に向かい合う。

 

 両手を握りしめ、髪を振り乱し、少女は慟哭した。

 

 彼女が奴隷になった理由を。彼女をこんな目に合わせた諸悪の根源を。

 

 

 

 ────エ・コリという男がいた。彼は、山の麓の村でマクロ教の司祭をしていた男だ。

 

 一月ほど前、エマの一家は通商を目的に山の麓の村を訪れていた。エマの一家は熱心なマクロ教の信徒であったため、まずは司祭のの元へ挨拶に向かったという。

 

 司祭エ・コリは、エマ達の来訪をたいそう喜んだ。礼拝に来た彼らを快くもてなして、そして通商をする間は教会に滞在する様に勧めた。

 

 教会に寝泊まりできれば宿代が浮くし、信奉すべき女神の像が身近にある。エマの両親は、その提案に乗り気だったのだが、

 

 

「絶対に、イ・ヤ!」

 

 

 エマの3つ年上の姉がひどく抵抗した為に、その話はご破算となる。

 

 彼女は、泣き叫んだ。司祭の目が気持ち悪い、体を触られた、変なところを見ている、と。

 

 両親は弱った。エマの姉は丁度思春期真っ只中、異性の視線が気になる年頃だ。家族以外の視線に、過敏になってしまっているのだろう。

 

 そう判断したエマの両親は仕方なく、司祭に謝って近場に宿を取る事になった。

 

 そんな、背景があったからだろうか。翌日、エマの両親は司祭に資金の融通を要請され、断れなかった。

 

 一度、司祭の好意を踏みにじっている上に、彼は自ら信じるマクロ教の司祭である。エマの両親は、マクロ教の信徒として協力するべきだと判断した。そして、かなり多額の資金を司祭へと融通したらしい。

 

 返済期限は2週間、エマの一家が旅立つまで。信心深かった両親は、利子もつけずに司祭へと資金を貸し付けたのだとか。

 

「マクロ教の発展のためだと言われたから、私たちは食費も惜しんで融通しましたとも!」

 

 しかし、その資金の運用先は教えてもらえなかった。何を聞いてもマクロ教の発展のため、その一点張りだ。

 

 エマの両親は少し不審に感じたが、司祭という立場の人間を疑えるはずはなかった。商売柄、黙っておいたほうがいい情報があるというのも理解していた。

 

 そして、2週間後。 

 

「なのに! いざ返済日になっても何の音沙汰もなく、仕方なくお父様が取り立てに行ったら!」

 

 借金は帰ってこなかった。期日を1日過ぎても何の便りもなかったため、両親は司祭の外聞を気遣って、夜に人目を忍んでこっそりと取立てに行った。

 

 巨額の借金である。踏み倒されたら、明日から生きていけない。大丈夫だよ、といって笑う両親を見送ったエマは、言い様の無い不安を感じながら、一晩中寝ずに両親の帰りを待ち続けた。

 

 だがしかし。朝が来て日が昇り、昼になっても両親は帰ってこなかった。

 

 微かだった不安が、どんどん大きくなってくる。

 

 不審に思ったエマ姉妹が、痺れを切らし教会へと向かうと。そこには、晒し台の上に首だけになって晒されている、変わり果てた両親の姿があった。

 

「偽装の借用書を使って、エ・コリからお金を脅し取った罪だそうです」

 

 エマの両親は、ガードにより処刑されたのだ。詐欺師として。

 

「警吏とエ・コリは、繋がってたんです! お父様は、騙されて、私たちまで犯罪奴隷になって!」

 

 混乱したエマ達姉妹は、感情のままにガードに殴り掛かって、あっさりと拘束された。そして、同じく詐欺を働いた者として裁判にかけられ、どんなに弁明しても信じてもらえずに犯罪奴隷に落とされという。

 

「よりにもよって、その教祖に買われたんです! 私と姉様は!! アイツに尽くすくらいなら、死んだほうがずっとずっとましです!!」

 

 そして、エマ達は売りに出された。

 

 犯罪奴隷は、比較的安く売りに出される。ただし、犯罪奴隷を買うことが出来るのは、ある程度地位のあるものだけだ。一般市民は、犯罪奴隷を買うことはできない。

 

 理由は単純で、盗賊集団等の犯罪集団が、捕まった仲間を買い戻すことが出来ない様にするためである。ガードたちが、犯罪奴隷を売る相手を選定するのだ。

 

 そして、ガードがエマ達姉妹の販売先として選んだのはエ・コリ司祭であった。

 

「あいつは、姉様を見ていったんです。お前さえいう事を聞いていればこんなことにならなかったのに、って。アイツは姉様を得るためだけに、父様や母様を殺して、私達を奴隷に落としたんです!」

 

 つまり。エマの姉が訴えた、司祭のセクハラは全て事実で。司祭は、エマの姉を手に入れる為だけに、エマの一家を嵌めて処刑したのだ。

 

 

 

 

 それが、エマが奴隷に堕ちた理由だった。

 

 それこそエマが、奴隷という命が保証された立場を捨て、命懸けで街の外へと逃げ出した理由だった。

 

 

 

 

 

 俺はバカじゃないのか。

 

 なんで気付かなかった。なんで、エマがこんなにも辛い思いをしていたことを悟れなかった。

 

 なんで俺は、着替えをするエマの身体を見て、ニヤニヤと笑っていた。なんで俺は、何でもかんでもエマに頼りっきりになっていた。ゴミクズじゃないか、俺は。

 

 エマは短い間に両親を失い、姉を失い、何もかも信じられない状況に陥って。それでもなお生き抜くために、自分を守ってくれそうな俺に気に入ってもらうべく頑張っていた。だから、あんなにも張り切ってあれこれとやってくれた。

 

 そんなエマを見て俺は、よくできる優秀な幼女が仲間になったと、ヘラヘラ笑っていただけ。

 

 吐き気がする。昨日の自分をぶん殴りたい。何が子供好きだ。俺は、子供を食い物にしている大人そのものじゃないか。  

 

 

 罪悪感で胸が押し潰れそうになり、吐き気が喉を刺激する。こらえ切れず、思わずよろりとふらついたその瞬間。

 

 

 エマが、中年の商人に蹴飛ばされた。

 

「いいかげんにしろよクソガキ。黙って聞いてやってりゃ、マクロ教の司祭こそが詐欺を働いただって? 聞いたでしょ、旦那。コイツはこういう奴なんだ。人に罪をなすりつけ、騙し、寄生することでしか生きていけない害虫だ」

「嘘じゃないです……、私は、父と母は、貸したお金を取り立てに行っただけです、なのになのにっ!!」

「まだ言うかこのクソガキ!! どの女神より愛に溢れたマクロ教の司祭に選ばれるようなお方が、そんな真似をするはずがないだろう!! この土地でマクロ教にケンカを売るとはいい度胸だ。皆集まってくれ!! このガキは神敵だ!!」

 

 

 そう怒鳴りつけると、商人は再びエマに向け拳を振り上げた。

 

 

 幼女が、傷つけられる。

 

 また俺の目の前で、エマが殴り飛ばされる。

 

 

 

 ────ふざけるなっ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 ズシン。

 

 轟音が、路上に木霊する。

 

 

 

 

 それは、俺の足が地面を踏みつけた音。

 

 エマを追撃しようとした商人に警告すべく、俺はエマの前に立ちふさがり、そして地鳴りを轟かせた。

 

 

 

 

「……旦那?」

「失せろ、さもなくば殺す。エマは、俺が連れて行く」

「なるほどね、旦那もそっち側ね。ああ、残念だ。アンタのことは嫌いじゃなかったんだが」

 

 

 エマは、はっとした目で俺を見ていた。

 

 ────すがりつくような目だ。信じてもらえる事を、期待した目だ。

 

 俺は、この意地の悪い商人から目線を切らず、そっとエマの髪を撫でて彼女に応えた。

 

 安心するといい。俺は、エマの味方だ。

 

 そう、伝えるために。

 

 

「何事だ、商人」

 

 

 俺の地鳴らしで、騒ぎはいっそう大きくなっていく。間もなく、商人の怒鳴り声を聞き付けて、全身鎧の男が数人ほど駆けつけてきた。

 

 恐らく彼らが、ガードと言うやつだろう。

 

 

「脱走奴隷でさ。しかも、性質の悪いことにマクロ教が悪いと抜かしてやがる」

「分かった。おい、そこのお前。話を聞かせてもらおうか」

 

 

 全身鎧の男達は、俺とエマの周囲を囲む様に並んだ。

 

 さて。そろそろ、この場に留まっても面倒なだけだろう。いくら粘っても、話が穏便にすむ可能性は低い。

 

 目を赤く腫らしたエマを、優しく抱きしめて。俺は、強行突破をすべく、心の準備をする。

 

「マクロ教の司祭様が嘘をつくわけがないだろう。あの娘の父親が、単なる詐欺師だったのさ」

「そも。奴隷の身分に落ちたとして、人を愛する心を失わず、素直に清貧に、自らの主へと尽くすのが筋だろう」

「勝手な思い違いと私怨で、逃亡するなんて許しがたい。愛を謳うマクロ教の信徒として、絶対に許すわけにはいかないな」

 

 周りの野次馬から、身勝手な声が聞こえてくる。この場に、エマの味方はいないようだ。なんて狂った場所なんだ。

 

 これ以上ここにいても、エマが傷つくだけだろう。

 

 

「どうした、そこのお前だ。弁明があるのなら、早くしろ。無いのであれば────」

 

 

 旅支度が整ってないのは残念だが、こんな場所にとどまる理由はない。

 

 エマを抱え、無言でゆっくりと腰を落とす。今日は、エマを慰めよう。ゆっくりと、エマの話を聞いてあげよう。そのためにもまずは、ここから逃げ出さないと。

 

 この糞商人め。お前の顔は覚えたぞ、今度はエマがいない時に、顔面が腫れ上がるまで殴ってやる。可愛いエマを傷つけた報いだ。

 

 ああ、倫理観なんて気にせずに最初からこいつを殴り飛ばしておけばよかった。

 

 

「おい、お前何をするつもり────」

「エマ、しっかりと捕まってろよ」

 

 

 さぁ、脱出だ。俺は全身のバネを使い、エマをしっかりと抱きかかえ、全力で地面を蹴った。

 

 

「大いなる地の束縛を、空に虚空の檻となせ。グラビティ・バインドォ!!」

 

 

 しかし、飛べない。

 

 不思議にも。全力で跳躍した俺の足は、ピタリと地面に張り付いたまま離れなかったのだ。体制を整えきれず、無様にも俺はエマを抱えたまま転倒してしまう。

 

 

「お、逃げようとしたな? こいつ、クロか」

「あーあーあー、ついてねぇなぁ、旦那。あんた、キングリザードと戦えるくらいには強いんだろうが……、もうちょっと周りの情報を集めとくべきだったな」

 

 地に伏した俺を、中年の商人は笑いながら嘲った。

 

 今、何が起きた? 俺は確かに飛んだはずだ。この世界で本気で飛べば、こいつらくらい余裕で飛び越せるはずなのに。

 

 

「悪はお前だな!! ふっふっふー。この私の目の前で、悪をなすとは許しがたい!!」

「お見事です、クラリス様」

 

 

 ふと。俺の幼女センサーに引っかかる、幼げな声がした。

 

 この場に似つかわしくない、陽気で純粋で、そして高圧的な、女の子の声。

 

 

「旦那、知らなかったろ? なんと先日、勇者様が再び現世に降臨されたことが確認されてるんだ」

 

 

 中年の商人は、人混みから現れたその少女に膝をつき。拝むように頭を下げながら、言葉を続けた。

 

「ありがたいことに、マクロ様の遣わした勇者クラリス様は、このオトラに滞在なさってるんだ」

 

 そして、俺は見た。先ほどの俺とエマの脱出を邪魔した、その下手人を。

 

 金色の少女だった。

 

 たなびく金髪は、丹精に切り揃い。琥珀色の宝石の着いた杖を、見せびらかすように天に掲げ。

 

 青色を白色の混ざったパーティドレスの様な、豪華絢爛な衣装を身に纏った中学生頃の少女。

 

 エマの姉と年はそう変わらないだろう。そんな少女が、倒れ伏した俺達を見下し、意気揚々と立っていた。

 

 




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