ロリてんっ! ~ロリコン勇者が転移して、幼女ハーレム作ります~   作:ナマクラ(本物)

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第七話「幼女神ロリータ」

 俺が女神(ババア)によりこの世界に転移させられ、早3日。

 

 この異世界で最初に出会った奴隷少女エマは、悲惨な境遇の少女だった。一人の男の醜い欲望によって、愛すべき家族を全て一度に奪われたのだ。

 

 しかし、そんなエマの慟哭を信じる者は誰もいなかった。マクロ教の信者の多いこの街で、マクロ教の司祭は崇められるべき存在。一人の奴隷少女のいう事に、耳を貸す筈がない。だからこそ。エ・コリと言う男は、そんなふざけた真似を平然とやってのけたのだろう。

 

 だが俺には分かる、エマが嘘をついていないことくらい。

 

 彼女の目を見ろ! 悔しさで涙を流すその眼には、一握りの曇りも虚構も無い。彼女は心の底から、誰にも信じてもらえないことを悲しんでいる。

 

 この俺が幼女に関することで間違えるはずがない。悪いのはすべてそのエ・コリ司祭とやらなのだろう。

 

 だから俺は、エマの味方となることを選んだ。エマを守り、ここから逃げ出すべくエマを抱きかかえ全力で飛んだ。

 

 

 

 ────だというのに。情けなくも俺は、地面に這いずってエマ共々、一人の少女足下で首を垂れていた。

 

 跳躍した筈の、地面を蹴った俺の二本の足の爪先は、地面から1mmたりとも離れなかった。まるで根を生やして張り付いているかのように。

 

「私降臨、ここに天現! 偉大なる女神マクロの名において、悪を許さず処し下す断罪の刄よ!」

 

 おそらく、犯人は目の前にいる少女なのだろう。

 

 獰猛な目付きで俺達を睨み、高笑いをして天上へ杖を掲げる金色の少女が、旋風で砂煙を巻き起こし君臨していた。

 

「愛 am ナンバァァ ワン! 愛ゆえに人は苦しまねばならぬ! だが、それが良い!」

 

 碧い目をしたその金髪少女は、青色のドレスをはためかせ、振り乱れた髪を押さえるべく帽子を片手で押さえ、そして声高に叫ぶ。

 

「無償に捧げしこの愛を、尊い精神を、私は誰よりこの身に宿した最強の勇者!」

 

 指を一本、天高く掲げて。彼女は得意げに名乗りを上げた。

 

「我が名はクラリス! 西に飢える人あれば、東に病める人あれば、救って見せようこの私が! なぜなら、私は勇者だから! 愛 am ナンバァァ ワン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……また、凄まじいのが出てきたなぁ。

 

 いくら幼女でも、正直者引くわ。あ、今スカートがはためいてパンツ見えたウッヒョー。

 

「……勇者? いや、そんなのいる訳ないですよ。貴方達が崇めているその子こそ、詐欺師ではないですか?」

 

 これにはエマも、呆れ顔だ。

 

 なんというか、自分のことを勇者と呼称してる時点で痛いのに、素のテンションが振りきれてて色々と酷い。

 

 うん、でもこの子くらいの年は、実に多感な時期である。いわゆる中二病、という奴だろう。自分を特別な存在だと信じ込んでしまう、麻疹のような病気なのだ。

 

 その精神的な未熟さと幼さは愛すべきだが、いかんせん今はつきあってやる時間はない。一刻も早く、エマをこんな狂った場所から連れ出してあげないと。

 

「おい、口の利き方に気をつけろ脱走奴隷。クラリス様は、正真正銘本物の勇者様だ」

「彼女は、間違いなく本物さ。マクロ様からの神託があり、この地のマクロ教徒が総出で迎えに行った祠の中で、光に包まれて現れなさったのだ」

「ここにいる皆が、見ている目の前で降臨なさったのだ。間違いなく、マクロ様の御使いじゃ」 

 

 おお、成る程。一応この子も、それなりの演出をした上で勇者を名乗っているらしい。

 

 恐らく何らかのトリックを使ったのだろうけど、そういう演出により人の心を惹き付ける事が出来るのは、彼女自身の才能だろう。

 

 世が世なら、彼女は振興宗教の開祖になれる逸材かもしれない。

 

「……嘘。そんな訳ないです、その人が勇者なはずがない。勇者なんて実在するはずがありません」

「……エマ?」

 

 ……おや? エマもこの娘に呆れているのかと思ったけど。そんな訳はないと切って捨てたエマの頬には、一筋の汗がタラリと伝っていた。すこし、信じかけているらしい。

 

 だがこの中二病少女、本当に勇者なんだろーか? 俺と転移直後の状況が違いすぎるんだが……。

 

「だって、本当に勇者がいるなら、女神様も実在するということ……。つまり私は、見捨てられたということ!」

 

 そして、エマは大粒の涙をこぼす。いかん、エマの動揺が思ったより激しい。なんとか、落ち着かせないと。

 

「……落ち着くんだエマ、奴らの話を真に受けるな。勇者なんて、存在するわけないじゃないか」

「ダメです、ダメなんです」

 

 エマはポロポロと涙をこぼし、顔を真っ青にして泣き出した。何をそんなに恐れているのだろうか。

 

 いくらなんでも、こんなエキセントリックな勇者が居る筈がない。あの女神ババアを信用するなら、勇者ってのは女神に選ばれた魔王を倒す異世界の人間の筈。

 

 常識的に考えて、こんな頭のおかしい勇者を選ぶ女神なんていないだろう。

 

「奴等から嘘をついている気配が、まったく無いんです。あのエ・コリ司祭の時に感じた、嘘をつく人間の気配を感じないんです。ああ、本当に。本当に勇者だとしたら、彼女は……」

 

 だめだ。エマは目を見開いて、絶望しきってている。

 

 だが、何をそんなに恐れているのだろうか。例え勇者だとして、たった一人の強敵くらい俺が何とかして見せる────

 

「勇者は、たった一人で大地を割ります!」

 

 

 

 

 

 刹那。

 

 耳を切り裂く、爆撃音が背後で鳴り響いた。

 

 俺の目に映ったのは、金髪の幼女クラリスが短くなにかを唱え、そして杖を振りかざした。ただ、それだけである。

 

 そしてニヤリと顔を歪めた彼女は、杖を掲げ自らのゆっくり髪を薙いだ。

 

 ────何をした、この幼女。

 

 

「これは、威嚇である。この大いなる愛の力の前にひれ伏すがよい!」

 

 そう言い、得意気に腕を組むクラリス。

 

 その言葉につられ、呆然と背後を振り向いた俺が見たものは。

 

 町の外にうっすらと見えていた、小山が真っ二つに両断され煙をあげている姿だった。

 

 

 

 

「……は?」

「ほ、本……物……」

 

 

 

 エマはへなへなと脱力し、地面に倒れ臥した。

 

 何だ、ソレ。山を割るって、どんな威力だ。

 

 街の中からでもよく見えた、この都市のすぐ近くに聳え立っていたその山は、大きくひしゃげてV字の谷が出来ていた。まるで砂場で作った砂山を、上から木の棒で叩き潰したような、非現実的な光景だった。

 

 

「さて、観念したかい旦那。……つか、あれだな。勇者やべぇな」

「ク、ク、クラリス様? あの、無造作に山を破壊されると、中に人がおる可能性が────」

「調べてる。私は愛に溢れた勇者だぞ! あの山に人はいないし、狼か巣を作ってたからついでに破壊しただけだ! 私を侮辱するか貴様!」

「ひ、ひいっ!? さ、差し出がましい事を」

 

 

 俺の広い額から、冷たい汗が吹き出る。なんだ、あの馬鹿げた威力は。いくつ爆弾を用意すればあんな事が起きるんだ?

 

 ちょっと待て。コイツ、本物か? 本物の勇者なのか?

 

 俺は余りの光景に絶句し、呆然と金髪少女を見つめていた。それに気を良くしたのか、クラリスはふふんと鼻息をこぼし、俺達の正面へと歩みより。

 

 そして、金髪少女の演説が始まった。

 

「さてと。お前達には二つ選択肢がある。まず、ここで私に逆らって断罪され、地獄へと落ちるのが一つ」

 

「もう一つは、真摯に懺悔をすることだ。人は誰しも、過ちをおかす。女神マクロの名代として、私が貴様達の罪を裁こう。お前達の反省が真であるなら、罪を償う機会が貰えるように、私も共にマクロ様に慈悲を乞うてやる」

 

「私は、どんなに罪深い者であっても見捨てない。反省し、過ちを認め、償う心があるならば私は君達の味方だ」

 

 それは、彼女なりの優しさだったのかもしれない。

 

 罪を犯した者ですら、許して更正の機会を与える。実に日本的で、甘い裁量だと感じた。この少女は、日本人と近い価値観を持っている様だ。

 

 

 そして、これは千載一遇のチャンスである。ここは大人しくしたがって、目の前の厄介な勇者が何処かに行ってから悠々と脱走しよう。

 

 偽りでも何でも良いから懺悔して、勇者にこの場を収めてしまうのだ。捕まって拘束具をつけられても、俺なら脱出は容易。エマ共々、楽に逃げ出せるだろう。

 

 

 でも。その言葉は、エマにとって何より残酷だった。 

 

「誰が慈悲なんか乞うもんか!!」

 

 エマは、無実なのだ。この幼い少女は、信じた女神に見捨てられ、犯してもいない罪に問われ、命を懸けて理不尽な世界に抗っている。

 

 彼女が慟哭するのは、至極当然だ。 

 

「……エマ?」 

「あんなに信心深かった父様を! あんなに優しかった母様を! 助けずに見捨てて、何もかも私から奪いさった女神マクロなんか信じるもんか!」

 

 周囲の空気が変わる。

 

 エマは、聡い娘だ。こんな状況で、そんな挑発的な事を言えばどうなるかなんて、容易に想像がつくだろう。

 

 でも、押さえられなかったのだ。自分の中で、絶対に譲れない線が有ったのだ。

 

 彼女は、自らの両親を、偽りと言えど悪く言うことなど出来なかったのだ。

 

「……よくぞ、吠えたな詐欺師風情が。あの人は、お前が言うような冷徹な女神様じゃない。実際に話をした私が、それを一番良く分かってる」

「嘘つき!! 嘘つき、嘘つき!!」

「これ以上は、聞くに耐えない」

 

 エマは、感情を吐き出す。それは純粋で、真っ直ぐな、怒りの吐露。

 

「……少し、黙ってろ」

 

 果たして。

 

 その反応を受けた勇者は、据わった目でエマを睨み付け、静かに杖を向けた。

 

 

 

 

「……恨んでやる! 女神なんか、滅んでしまえ!」

 

 杖を向けられたエマは、叫んだ。逃げようとなんかせず、クラリスに正面から向かい合い、怒りを叩きつけている。

 

「その身、血肉もろとも粉砕せん……」

「大嫌いだ! 私から父様を奪った、母様を奪った、姉様を奪った女神は! こんな世界は!」

 

 

 いかん。杖の先が凄まじい光量の輝きを見せている。

 

 あれは、きっと攻撃魔法だ。人を傷つける、この世界の凶器だ。

 

 

「……へえ、庇うんだ。なら、貴様も吹き飛んでおけ」

 

 

 俺は、泣き喚くエマの頭に手をおいて、グシャグシャと撫でて。

 

 ゆっくりとエマの正面に歩き、腕を広げて仁王立ちの態勢をとった。

 

 

「ペニーさん?」

「辛いよな、エマちゃん。でも安心しろ、俺は味方だ」

 

 

 辛すぎるじゃないか。何もかもが敵にまわり、何も悪いことをしていないまま罪に問われ、そして勝手な正義のもとに殺されるなんて。

 

 一人くらい。頼りないし、頭も悪いオッサンだけど、それでも味方が居ると言うのは彼女の救いになる筈だ。

 

 

「ダメ、ペニーさんは逃げて────」

「エマ、忘れるな。お前を信じる人間は、きちんとここに居るぞ」

「……マクロ様の裁きに屈しろ。焼き尽くせ、断罪の熱光球(シャイニングフレア)!!」

 

 

 そして。世界が光に包まれた。

 

 やがて、身体中をバーナーで炙られた様な、凄まじい苦痛に襲われる。間も無く後ろから、小さな可愛い叫び声が聴こえた。

 

 

 

 ────エマが居る。

 

 俺の背後には、エマが居る。

 

 ならば、避けられる筈がない。この痛みは、エマの代わりに受けた痛みだ。ならば、むしろ心地よい。

 

 俺は今、子供を守っているのだ。情けない中年期のオッサンが、未来へと続く大事な大事な宝物の盾となれたのだ。

 

 これ以上に誇らしい事はない。

 

 

「ぺ、ぺニーさん!」

「……奴隷を、庇ったか。阿呆、ここに極まったな」

 

 やがて、光が止むと。

 

 ジュウジュウと、俺の身体は聞いたこともないような暑苦しい音を立てて、やがて力を失い、倒れ込んでしまった。

 

 不思議なことに、痛みはなかった。いや、感覚そのものが無かった。全身が真っ白に焼け爛れ、所々黒く固くなっていた。

 

 そんな、俺の無様な姿を見て。周りの野次馬どもは、嬉しそうに笑っていた。

 

「こんな愚かな人間、見たことがない」

「ふん、くだらん情に絆されたんだろう。だが愛とは、人間に対し振り撒くもの。これが、無機物(どれい)に爛れた欲情を向けた者の末路である」

「お見事です、クラリス様。おい、逃亡奴隷! 運よく生き残ったようだが、貴様はきちんと、主の元へ送り返すから覚悟しろ」

「おお、貴方様は愛に溢れていらっしゃる。身も知らぬ人間のため、逃げ出した奴隷を送り届けるとは素晴らしい」

「当然のことよ。愛は愛を呼び、誰かの為を思ってとったら行動は、巡りめぐって大きな愛の輪を作る。覚えておきたまえ、人を愛することを躊躇うなよ」

「なんと含蓄のある言葉……」

 

 なんだ、コイツらは。

 

 本当に人間なのだろうか。いくら異世界とはいえ、ここまで倫理観が違うモノなのか。

 

 どうして、そんなにエマに厳しく当たれるのだろうか。信じられない。許せない。

 

「……ペニーさんなら、私なんか庇わなければ逃げ出せた筈なのに。どうして……」

「おっと動くなウジ虫。おいみんな、逃げ出さないようにこのガキを縛り上げるぞ」

「クラリス様はお下がりください。後は我々が……」

 

 俺が倒れたことで、ガヤガヤと野次馬が近付いてきた。やがて、中年商人が中心となり、俺の傍で座り込んでいるエマの肩を乱雑に掴む。

 

 エマの顔が、苦痛に歪む。明らかに痛そうだ。

 

 おい貴様、何をやっている。年端もいかぬ幼女に、何て事をしている。

 

 そして俺は何をやっている。火で炙られたくらいで、何故地面に臥せっている。

 

 

 まだ、俺は動けるだろう。立て。今立ち上がらないで、何がロリコンだ! 何が、子供好きだ! 

 

 今、エマを守れずして、何が大人だ!!

 

「……エマを、離せ」

 

 微かに、力が入った。

 

 何とか腕を動かした俺は、エマを乱暴に扱い憎たらしい商人の、その足を掴んだ。

 

「っと、コイツまだ動けたのか」

「エマちゃん、安心しろ。俺が何とかしてやるから」

 

 動け。

 

 全身の筋肉が焼け爛れている。だから、何だ。

 

 身体中が、炭になって煙をあげている。だから、どうした。

 

 そんな些細なこと、俺が立ち上がらない理由にはなっていない。

 

「泣いてる子供がソコに居て。立ち上がらなくって何が男だ! 守らなくって何が大人だ! 慰めてやらなくて、何が人間だ! 子供一人笑顔に出来なくて、何が愛だ!」

「はぁ、なんて無様な。おい誰が、首を落としてやろうぜ。こうなりゃもう楽にしてやるのが、慈悲ってモン────」

 

 中年商人は、呆れ顔でため息をつき、掴まれた足を振り離そうともがく。

 

 だが。俺は手を離さない。ギギギ、と嫌な音を経てて俺の身体は動きだす。バリバリと何かが剥がれ落ちながら、俺は商人の身体を支えに、ゆっくりと立ち上がった。

 

 ぎょっと、周囲がざわつく。

 

 立ち上がって改めて見ると、少女勇者の顔は真っ青になっていた。彼女、グロ耐性は低いらしい。

 

 さて。立ち上がっただけでは意味がない。俺が為すべき事を、成し遂げないと。

 

「知ってるか貴様ら? 俺は知らなくて、ついさっき教えて貰った所なんだが……」

 

 不思議だ。

 

 全身はボロボロ、生きているのが不思議なくらいなのに、身体からは力が溢れてくる。俺自身の内から沸き上がる、どうしようもない怒りやら愛やらよく分からない感情が混じりあい、凄まじい闘気を練り上げる。

 

 傷が癒えている訳ではないのに、俺の身体は何故か十全に動き出した。

 

 

 ────それが。貴方に与えた、加護なのですよー

 

 

 何処からか、悪魔(ババア)の声が聞こえてきた。うるせぇ、黙ってろ。

 

 今は俺の決め台詞の時間なのだ。つっても、さっきエマに教わった受け売りではあるんだが。

 

 そう、勇者ってのは凄まじい生き物らしい。たった一人であったとしても────

 

 

 

 

「勇者ってのは、大地を割るんだってさ」

 

 ぐるり、と腰を大きく捻り。地面に向けて全身のバネを集約する。

 

 誰もが、警戒して近づいてこない。誰にも邪魔されることなく俺は、思いっきり大地に拳を叩きつけた。

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 土が、抉り取られる。俺が全身の力を込めて大地を殴った衝撃だけで、俺とエマを包囲していた人間は爆音と共に吹き飛び、無様に四方八方へ墜落した。

 

 クラリスと呼ばれた幼女も例に漏れず吹き飛ぶ。いかん、彼女はまだ幼い。大人が子供を怪我をさせるわけにはいかない。とっさに俺は、目を丸くしたまま空中に投げ出されたクラリスに向かって跳躍し、抱き止めて着地する。

 

 

「……はぁ!?」

 

 

 そして。ボタボタと鈍い音を立て、空から続々と人がふってくる。死人が出るかもしれないな、だがそんなの知ったことか。

 

 幼女をこんな酷い目に合わせてせせら笑いしている連中に、慈悲など必要あるまい。

 

 そして、今現在無事なのは、俺の腕の中で目を回しているクラリスと、エマの腕を引っ張っている中年商人のみ。

 

 エマを巻き込まぬよう地面を殴ったせいで、あの中年商人まで助かってやがる。

 

「エマちゃんは物知りだなぁ。俺ってば本当に、大地を割っちまった」

「は、え、何だこれ。勇者、勇者だと!?」

「いかにも。俺はクラリス同様、幼女神ロリータの祝福を受けた勇者ペニーだ。どうだ、まだ俺に喧嘩を売るか?」

「嘘つけ、そんな女神聞いた事もねーよ! 旦那、さては地中に火薬を仕掛けておいたな! そんなトリックに、この俺が騙され────」

「オーケー、まだ俺に喧嘩を売る気なのね」

 

 見ると、掴まれたエマの腕が手の形に赤く腫れている。許せん。

 

「じゃ、吹っ飛べ」

 

 幼女に危害を加える大人に慈悲は必要なかろう。

 

 中年商人が喚きちらすその真っ最中、俺は跳躍し距離を詰め、そして土手っ腹をぶん殴った。ウゲェと妙な声を出しながら、商人は面白いほど勢いよく飛んでいく。

 

 やがて、グシャリと遠くで音がして。中年の商人は、頭から壁に突っ込み、下半身だけダラリと垂らしてきた。

 

 

 ────死屍累々である。これで、この場に立っているのは俺とエマだけになった。

 

 俺は火傷だらけの手で、エマをゆっくりと抱き寄せる。パチクリと目を瞬かせるエマは、抵抗せずに俺の腕の中へ収まった。

 

 ……火傷、だらけ? あれ、おかしいな。いつしか、俺の身体から火傷が嘘みたいに引いていっていた。

 

 手はまだ所々赤いままだが、炭になっていた俺の腹の一部は、もうみずみずしい皮膚が張っていた。  

 

 なにこれキモい。

 

「傷が、治ってます……。本当にペニーさんも、勇者様だったのですか?」

「まぁな。幼女神ロリータ、それが俺の崇拝する女神だ」

 

 しまったな、勢いで勇者を名乗ってしまった。まぁ、そんなノリだったししょうがない。

 

 だが、問題は俺をこの世界に呼び寄せたあの女神(ババア)の名前が分からないことだ。確かにあの女神(ババア)、一度も名乗っていない気がする。なんて不親切な女神(ババア)だ。

 

 なので取り敢えず、俺が日本にいた時からずっと信仰していた「幼女神ロリータ」の勇者を名乗ることにした。

 

 

 

 ……いい加減にしやがれですー

 

 ……しやがれですー

 

 ……ですー

 

 

 

 む、何やら怪電波を受信したぞ。まぁ良いか、無視しよう。

 

 

「そんな女神は聞いたことが有りませんが……」

「まだ生まれたばかりの女神だそうだ。女神にも子供の時期はあるのさ、エマちゃんみたいにね」

「……へぇ、そうだったんですね。はい、よく考えればペニーさんが勇者だと聞いて色々としっくり来ました。旅慣れしてなかった割に物凄く強かったり、地面を素手で叩き割ったり」

「そゆこと。エマちゃんは無宗教だっけ? 一緒に幼女神ロリータ様を信仰してみる?」

「……はい! マクロ教にはもう懲り懲りです。その、生まれたてのロリータ様と言う女神様を信じることにします」

「そっか。これからよろしくね、エマちゃん」

 

 こうして。

 

 この世にまたひとつ、新たな宗教が生まれた。

 

 偉大なる幼女神ロリータ様の教えはただひとつ、「子供を愛せよ」。この教えに基づく数々の教義が、今後ペニーという勇者により編纂される事となる。

 

 またこの時天界では、すすり泣く女神の声が響き渡ったとか。

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