ロリてんっ! ~ロリコン勇者が転移して、幼女ハーレム作ります~ 作:ナマクラ(本物)
目が覚める。普段と何も変わらない、平和で幸福な朝が来る。
窓際に立って、澄みきった風を身に浴びた私は、ピンと背伸びをして欠伸を噛み殺す。
簡単な朝食を作り、洗濯しておいた紺色の修道服に袖を通して、私は女神像の前にしゃがみこんだ。
「偉大なるセファ様。どうか、今日も我々をお見守りください……」
こうして、敬虔な修道女たる私の一日は始まる。
私の名前はクリスと言う。
叡智の女神セファ様に仕え、銅山の麓の村に小さな教会を開いているしがない修道女だ。
元は私の父がこの教会の運営をしていたのだが、最近は腰痛が酷くて寝たきりになってきてしまってからは、私一人で教会を切り盛りしている。
当然ながら、小さな教会を切り盛りしたところで、裕福な暮らしは出来ない。祈りを捧げ、ミサを開き、懺悔を聞き、そして僅かなパンとスープを信徒の方から分けて頂いて慎ましく生活している。
別に不満があるわけではない。平和な毎日を送れるというのはどれだけありがたいことかを、スラム出身の私はよく知っていた。
私はこの教会に拾われるまで明日の命すら知れない、カースト制度の底辺どん底にいたのだ。私に命を与えてくれたセファ様と、私を拾って育ててくれた父さんにはどれだけ感謝してもし足りない。
だけどこの日。そんな平凡な私に、目を疑うような奇跡が舞い降りたのだった。
────こほん、聞こえますかー? えーと、我が親愛なる修道女クリスー?
女神像へと無心に祈りを捧げていた私は、物静かで優しい女性の声を聞きとった。
キョロキョロと周囲を見渡すが、自分以外には誰もいない。でも、確かに声は聞こえたのだ。
誰かの悪戯か、はたまた頭が狂ったのか。それともまさか、今のお声は────
────聞きなさい、可愛い我が信徒よー。我が名はセファ、故あって汝の前に降臨せんー。
そんな、少し間延びをした声と共に。
突如として教会は光に包まれ、呆然とする私の前にやがて一人の女性が姿を表した。
即ち、
「ふふふ、初めまして、修道女クリスよー」
女神セファの像と瓜二つの女性が、キラキラと光を身に纏って私の目の前に現れたのだった。
目が点になり、その場で尻餅をついた私を、誰が責められようか。
そこで、私は恐ろしい話を女神セファより告げられた。
数百年ぶりの、魔王の復活。このままでは人族の滅亡し、そして世界の終わりを告げるらしい。
女神の一柱として、それを許容するわけにはいかない。セファを含めた5人の女神は、それぞれ勇者を選定し、この世界へと遣わせることになった。
そして我が敬愛すべきセファ様の遣わした勇者様は、この地を最初に訪れる事になるのだとか。
「私の加護を受けた勇者は、質実剛健で凄まじい自己治癒能力を持った、強靭な肉体を得るのですー。貴女にも加護を授けますので、我が勇者がこの地に現れた際には、貴方にサポートして貰いたいのですー」
「わ、私が勇者様を!?」
「はい、なのです。なんなら、貴方も勇者パーティの1員として彼について行っていただきたいのですー。でも、貴女も怪我に伏せった父親を置いて行くわけにはいかないでしょう?」
そう言って、女神セファは優しく微笑んだ。
「ご安心あれ、我が可愛い信徒よ。貴方達親子に、女神の息吹をー。よし、明日まで待つのですー、貴方の父親の腰は癒えるでしょうー」
「ほ、本当ですか?」
「女神は嘘をつかないのです。では、頼みますよ修道女クリスー。過酷な運命が待ち受けるこの世界を、貴女の手で救ってください……」
「は、はい!! よろこんで、こんな私でよろしければ!!」
私の返答を聞いたセファ様は満足げに微笑み、そして再び光の中へと消え去った。今のは白昼夢か、はたまた本当にに起こった出来事なのか。
果たして。翌日になると父親の腰の痛みは嘘のように無くなって、再び父は神父としての仕事を再開した。女神セファは、奇跡の力で本当に父を癒したのだ。
つまり、あれは夢ではなく本当に神のお告げだったのだ。そう確信した私は、女神セファとのやり取りを包み隠さず父親に話した。
そして、私は勇者様について行って共に世界を救うお手伝いがしたい、とそう父親に伝えた。
「そうか、女神様に直々に頼まれたのか。……ああ、私はお前が誇らしいよ、行ってきなさい」
父さんは、少し寂しそうな顔をして、そう言ってくれた。
私も涙ぐみながら、そんな父さんに抱きついた。
父さんは、もう高齢だ。魔王を倒す旅が、そう簡単に終わるとは思えない。私が旅に出てしまえば、きっともう再会は難しいだろう。
その日。私は久しぶりに、父のベットで二人並んで寝た。父は、子供のころはあんなに大きかった父さんは、いつしか触れば折れそうなほどに弱弱しくなっていた。
でもどんなに老いても、繋いだその手は私を撫でてくれた男の、皺くちゃの父親の手だった。寝息を立てる父親に、私は一言、今までありがとうと告げたのだった。
こうして、私は父に今生の別れを告げ、勇者様に付き従い世界を救う旅に出る決意をした。
────あの、その、修道女クリスー? 本当に、その、本当に申し訳ないのですが……。勇者の話、キャンセルでお願いしますー
「!?」
次の日の朝、祈りをささげていたらそんなセファ様の声が聞こえてきて、ずっこけたのは別の話だ。
結局、勇者様が私の教会を訪れることはなかった。
女神セファ様からよくよく謝られたが、別に私が何か損をした訳ではない。むしろ、父さんの腰を癒してもらった分、恩恵を受けている。
女神様の話によると勇者様は旅を急ぐ為に、制止も聞かず敢えて危険で過酷な道を選んだのだとか。随分とストイックな性格の御方のようだ。是非ともお会いしてみたかったが、勇者様には勇者様の道があるのだろう。力になれず、残念だ。
こうして。私は、傷の癒えた父親と共に、ごく普通の修道女としての生活へと戻ったのだった。
そんな、ある日。
「失礼。ここは、何教の教会だろうか?」
見慣れぬ姿の二人の旅人が、私達の教会を訪れた。見慣れぬ姿、と言うよりか怪しい姿と言った方が的確かもしれない。
一人は性別は男で、引き締まった身体をしていた。何より気になったのは、彼は顔を大きな籠で覆い隠しているのに、上半身は裸で剥き出しだった。怪しいという言葉の具現である。
もう一人は、子供だろうか。同じく顔を籠で覆っているため、性別は読み取れない。
「……えっと。ここは、女神セファ様を祭っている教会です。そして、私はセファ様の忠実な教徒、修道女のクリスと申します」
「おお、そうだったか」
この方々も、セファ様の信徒なのだろうか。だったらヤダなぁ。
「貴方は、もしかしてセファ教のお方でしょうか」
「いや。俺達は、まぁ何だ。えーっと、そう!」
その見るからに怪しい男は、自分の宗派を聞かれて言い淀んだ。何か、後ろめたいことがある様だ。こっそりガードに通報した方が良いかもしれない────
「俺は、マクロ教の司祭をぶっ殺すマン1号だ」
「まさかの犯罪宣言!?」
言い淀んだ末に待っていた男の名乗りは、ただの殺害予告だった。ただの危険人物じゃないか。
「……ああ、マクロ教の教会を探していたのですか。私は場所を知ってますよ、ぺ……マクロ教の司祭をぶっ殺すマン1号さん」
「あ、そっか。最初から2号に聞けば良かったのか」
「そんな気がしてましたけど、やはり私が2号なんですね」
私は呆然としながら、その危険人物を刺激しないよう後ずさって様子を見ていると、2号と呼ばれた子供の方がようやく口を開いた。
やはり、小さな籠人間の声は幼い。その口調や音域から、恐らくは女児だろうと読み取れた。
「その、冗談にしろ、簡単に人を殺すなどと言ってはいけませんよ。マクロ教の司祭が何をしたと言うのですか」
「ん? ああ、それはじきに分かるさ。あの男がどんな所業をやらかしたのかはね」
「……怨み、怨恨の類いですか? でしたら、この教会で懺悔や相談をなさってみてはいかがでしょう。暴力的な解決では、何も生みませんよ」
「────いえ? 生みますよ、暴力的な解決であろうと」
このままでは、エ・コリ司祭が危ない。何とか彼らを説得しようと、私は二人を教会へ引き入れようとした、のだが。
比較的穏当だと思っていた、幼い子供の方から聞こえた言葉は、耳を疑うものだった。
「暴力的な解決は、腐った自己満足を得る事が出来ます。父様、母様、姉様の慰めにもなるでしょう。ええ、奴が死ぬことで救われる人間も居るのですよ」
────怨嗟。
彼女の口からこぼれたその言葉には、深く暗く悲しい怨嗟が、これでもかとばかりに凝縮されていた。
「よし、善は急げだ2号。この姉ちゃんがガードに通報する前に、ちゃっちゃと落とし前を付けさせよう」
「ええ、善では無いでしょうけど。やっと、あの男に────」
足がすくむ。ここまで強い負の感情を、未熟な私は受け止めきれなかった。人の悩みを受け止め、導くのが役目の修道女だというのに。
私は、目の前に現れた幼子のどうしようもない闇を、受け止めきれる自信がなかった。
私は、彼らを見送った。
あの場で大声をあげてガードを呼べば、結末は変わっていたかもしれない。でもそんなことをしたら、私は彼らに殺されるかもしれなかったから。
彼らが立ち去った後。私はようやく近くの駐屯所に出向いて、ガード達に事情を説明した。
話を聞いたガードは、何かを察した顔をして、すぐに出動してくれた。普段は何かと理由を付けて働かないくせに、いやに迅速な対応だった。
彼らが動きさえすれば、もう安心だ。後は、エ・コリ司祭が襲われるまでに間に合ってくれれば、事件解決である。
────だが。
『私欲にて他者を騙し、陥れた大罪人、此処に誅殺する』
ガード達がマクロ教の教会へと駆け付けた頃には。女神マクロの像は粉々に粉砕され、塩辛のように全身を打ちすえられたエ・コリ司祭が、呻き声をあげながら教会の壁に磔にされていた。どうやら、間に合わなかったらしい。
だが、それだけではない。もっと衝撃的な光景が、私の目に映っていた。
「アンナ! 貴女、どうして此処に!」
「お母さん! お母さん!」
なんと。今まで行方不明になっていたパン屋の少女アンナが、ボロボロの服を着て教会の傍に立っていたのである。
さらに彼が所有してたであろう奴隷達は、口汚く司祭を罵りながら、磔にされた彼に石をぶつけていた。
「私は誘拐され、監禁されていたんだ! あそこのエ・コリという畜生に!」
行方不明だった少女アンナは、声高に集まった群衆に向けて、叫び声をあげた。
「私だけじゃない。エ・コリの持つ奴隷の殆どが、ガードと手を組んで犯罪奴隷に仕立てあげられた奴隷だ! 私は、エ・コリの所業を全て知っている!」
「い、いかん!! 彼女は錯乱している、取り押さえろ!」
アンナは両親に抱きつき、涙を目に浮かべながら、集まった民衆に対し叫び続けた。
その告発を聞いて、ガード達は顔色を変える。慌ててアンナを取り押さえようと、武器を構えて駆け出して────
颯爽と割り込んできた一人の男に、蹴鞠の様に吹き飛ばされた。
その男こそ、やはり先程私の前に現れた籠人間。すなわち、マクロ教の司祭をぶっ殺すマン1号だった。
「この少女の言葉に嘘はない。集まった民衆諸君、教会の中を改めてみて欲しい。この男の悪行の証拠は、全てかき集めて整理してある」
籠を被ったその男は、迫り来るガード達を吹き飛ばしながらそう告げた。
「証拠に関しては、決定的なものがいくつもあった。ガードとの関わりを示唆する証拠も、沢山存在している。それに関しては今、2号がめっちゃ頑張って整理してくれている」
「……おじさん、2号って誰?」
「我が盟友だ。さぁ、話すが良い少女アンナよ。久々に再会した両親と抱き合うのも良いが、君の憎しみはこの程度では収まらないだろう?」
「────そうね。父さん、母さん、ちょっと下がってて。みんな、聞いて! エ・コリの、この男の悪行を!」
この日。
エ・コリ司祭はガードに賄賂を贈り、気に入った町の娘を奴隷にして無理矢理に手籠めにしていたという事実が、白日の下に晒された。
涙ながらに訴える奴隷達の声を聞き、激怒した村民達はエ・コリを袋叩きにして、その奴隷達の手で火炙りにしてしまった。
エ・コリと組んでいたガード達はそそくさとその場を逃げ出したが、やがて駐屯所に押し掛けた村民によって村を追い出され、モンスターの多い平原に何の装備もなく投げ出されてしまったらしい。
彼らの装備は、治安維持のため新たに結成された自警団の手に渡り。自警団が結成された事により、村中の施設で人手不足が発生してしまったので、奴隷だった少女達は、就職先に困らなかったと言う。
どうやら、エ・コリ司祭は本当に悪人だったようだ。あの一見すると危険人物でしかない二人組こそ、正しい行いをしていたのである。
それだけではない。私は気づいてしまった。
ガード達から、たった一人でアンナを庇って見せたあの男。誤解していたお詫びと、エ・コリやガードの悪事を暴いてもらったお礼に傷を癒してあげようと近寄ってみたのだが。
彼が斬りかかられた場所の傷は、私が回復魔法をかけるまでもなくものすごい速度で癒え続けていたのだ。
『────私の加護を受けた勇者は、質実剛健で凄まじい自己治癒能力を持った、強靭な肉体を得るのですー』
この前に聞いた女神の声が、フラッシュバックする。あの男は、魔法など一切使わず、己の肉体だけでガードを圧倒した。
そのような事、常人には出来るはずもない。つまり、彼は特別な力を持った存在で。
────ああ、そうだったのですね。あのお方こそ、セファ様のお告げにあった勇者様。
あの様に粗暴で珍妙な振る舞いをしたのは、セファ様の信徒で有ることを隠すため。女神セファ様に仕える勇者が、マクロ教の司祭にあの様なことをしてしまったら、同じくセファ様の信徒である私達に報復が有るかもしれない。
そして二人はそのドサクサに紛れ、いつしか旅立ってしまっていた。きっと、長居をしてセファ教との関係を勘付かれるのを嫌ったのだろう。
悪を許さず、そして我等を巻き込まないために、彼は最善の手段を取った。流石は叡智の女神セファ様に導かれた、智計の勇者様。そのご深慮を見抜けたなかった、非才な自分を恥じるばかりです。
勇者様、一時でも貴方を疑った私をお許しください。貴方様は、正真正銘の賢者で────
────多分違うのですー
「!?」
勇者様へ畏敬の祈りを捧げていた私の頭に、聞き覚えのある女神の声が響き渡った。
ちょい間を置いて更新再開予定です