「凛二等兵、どうだ?」
「はっ、希隊長。抜かりありませんにゃ」
「よしよし、これで完璧……。驚く顔が目に浮かぶやん」
「明日が楽しみですにゃ」
翌日。
「凛と希に呼ばれて来ましたが……姿が見えませんね。穂乃果とことりにも呼ばれているので、あまり時間を取られたくないのですが……」
屋上へとやってきた海未は、呼び出した人物を探して辺りを見渡す。
「一度電話をしてみましょうか」
そう言って海未がケータイを取り出した所へ、
「う、み、ちゃあーんっ!」
騒々しくドアを開け放ち小柄な人影が突撃をかましてきた。
「ぐっ……⁉︎ り、凛ですか?」
不意打ちだったものの転倒だけは回避し、海未は踏み止まる。
ひとまず凛を引き剥がし、唐突な全力ハグをしてきた後輩に戸惑いつつ、その疑問を問う為に口を開く。
「わしっ」
前に、海未のささやかな胸部が手のひらに覆われた。
「ひっ……⁉︎」
思わず上げそうになった悲鳴を何とか飲み込み、大体察しはつくが何事かと振り返る。
「やー控えめな感じも悪くないやんな〜。でもにこっちよりかは、いい感じだと思ったで!」
そこには、いつの間に背後へ回り込んだのか、いい顔をした希が親指を立てていた。
「……なるほど」
意外にも冷静な反応を見せた海未は、小さく頷く。
「…………覚悟はいいようですね?」
全く笑っていない笑顔。
「や、やー海未ちゃん怖いで〜? 軽いジョークやん?」
「ジョークで済む問題じゃありません!」
自分を抱くように胸元を死守しながら、海未は叫ぶ。そして一歩踏み出した所で、
「にゃーっ!」
パーン! と。
「ひゃう……⁉︎」
「お、可愛い声」
「…………っ!」
希への抗議を中断し、今度は凛へと振り返る。
「に、にゃー、海未ちゃん、顔怖いにゃ〜」
「誰のせいですか! そもそも何考えてるんですか⁉︎ 耳元でクラッカーを鳴らすなんて非常識にも程があります!」
「まあまあ、海未ちゃん。凛ちゃんだって、はしゃぎたい時くらいあるやろ?」
「いつもはしゃいでるじゃないですか」
この上ない正論である。
「そうかもしれんけど、たまには羽目を外したくなるやん?」
「いつも外してるじゃないですか」
ド正論。
「いやいや、流石にいつもはもうちょっと真面目やで?」
「“もうちょっと”って何ですか。普段からもっと真面目でいて下さい」
取りつく島も無かった。
「海未ちゃん、海未ちゃん」
希に辛辣な回答をしていた海未の肩を、凛が叩いた。
「ああそうでした。凛、まだあなたへの話は終わっ……」
プスリ。振り返った海未の頬に、人差し指が刺さった。
「引っかかったにゃー!」
「小学生ですか!」
「まあまあ、海未ちゃん。あんまり怒るとシワ寄っちゃうで? これでも飲んでリラックスリラックス」
「はぁ……そうですね」
色々と諦めたのか、海未はため息をついて希が差し出したペットボトルを受け取る。
「……希」
「なーにー?」
「これ、炭酸飲料専用のペットボトルに見えるのですが」
「だってコーラだもん」
「……私をおちょくるのは、そんなに楽しいですか?」
「あ、海未ちゃんって炭酸ダメだったやんなぁ」
「このユニットでどれだけ一緒にいたと思ってるんですか! 差し入れにキャラメルを入れないように気を付けたり、お泊まりの時は魚料理は作らないようにしたり、苦労していたのは私だけだったんですか⁉︎」
「え?」「ん?」
「あっ……」
勢いに任せて必要以上の事を口走った海未。
「わ、忘れて下さい!」
それで引き下がる二人ではない。
「え〜海未ちゃん、そんな事まで考えてくれてたんだにゃ〜」
「厳しいように見えて、実は誰よりもウチらの事思いやってたんやな〜」
ニヤニヤと、海未の肩を叩く。
「か、からかわないで下さい!」
顔を赤く染めてそっぽを向いた海未。それを見て、凛と希は楽しそうに笑顔を作る。
「お、そうそう。忘れる所やった」
ふと、希が思い出したように手を叩いた。
「今日ここに来る前、穂乃果ちゃんからお饅頭を貰ってたんよ」
「えっ」
その言葉に、海未は勢いよく振り返った。露骨すぎたと我に返り、再び顔を赤く染めたが。
「穂むらのお饅頭って、やっぱり美味しかったよね〜」
ニコニコした凛の言葉に、海未は引っかかりを覚える。
「……美味し“かった”?」
「いやー、あまりにも美味しそうだったから、ウチと凛ちゃんで全部食べちゃったんよ〜」
「海未ちゃんごめんね〜」
「…………そうですか」
途端に声の抑揚が無くなる海未。
「……………………」
しばらく黙っていた海未は、
「凛、希」
静かな声で、目の前の二人の名前を呼んだ。
当然こちらを向いた二人に、可能な限り無表情で海未は続ける。
「そこに正座なさい」
「え……でも海未ちゃん、ここって下コンクリート……」
「結構痛いにゃ……」
「何か文句でも?」
「「……はい」」
有無を言わさない威圧のこもった言葉に、希と凛は従うしかなかった。
「そのまま目を閉じなさい」
その言葉に、自然と海未の右手に視線が行く二人。
「希ちゃん……」
「ウチらは、一線を超えてしまったんや……」
だが、諦めて目を閉じた。
「潔いですね。……では」
暗闇の視界。海未の声がしてから、一瞬の静寂。頬への衝撃を覚悟した二人は、
「……何をすると思いましたか?」
回された腕の感覚で、拍子抜けして目を開けた。
「えっと……海未ちゃん?」
「……どういう事やん?」
戸惑う二人に、
「凛と希の考えなど、お見通しなんですよ」
ハグした状態の海未が口を開いた。
「どうせ、“私にサプライズを仕掛けよう”とか考えていたのでしょう? 今日が何の日か、私が知らないとでも思いましたか?」
「「…………」」
図星だった。
「私だって、やられっぱなしは悔しいですから。引っかかったフリをしてました」
耳元で聞こえる得意げな声に、
「えっと……いつから気付いてたの?」
「最初からですよ。凛と希が、わざわざ今日呼び出す辺り何かあると怪しんでましたから。……途中の悪ふざけには、本気で怒ってましたが」
「希隊長……」
「完敗や、凛二等兵……。海未軍曹には全部お見通しだったんや……」
「誰が軍曹ですか」
ようやくハグを解放した海未は、少しはにかんで何かを期待する目で二人を見た。
「それで、あの……やはり、ちゃんと言っていただけると……」
凛と希も顔を見合わせ、にっこり笑う。
「な、何ですかその顔は! 私だって、楽しみにしていたんです! 別にいいでしょう⁉︎」
「まだ何も言ってないにゃ」
「海未ちゃんも可愛いトコあるやん」
軽口を叩いてから、凛と希はせーのと息を合わせる。
「「海未ちゃん、お誕生日おめでとう!」」
屋上に響いたお祝いの言葉。
海未も笑って、胸の前で手を合わせた。
「二人共、ありがとうございます。とても、とても嬉しいです」
「さあ、一件落着した所で、ほむまんを食べましょうか!」
「あ、全部食べちゃったのはホントなんだ〜」
「え……?」
「リアリティ出す為やったん」
「そんなリアリティはいりません!」