私の姉、古明地さとりは地底を統べる大妖怪だ。旧地獄の管理を閻魔様から任せられ、日々書類仕事に明け暮れている。・・・いや、全然大妖怪とかじゃない、普通の妖怪だけどなぜかそんな仕事を押し付けられている。もともと暇があっても読書に勤しむ引き篭もりだけどね。
とはいえ重大な仕事なのは間違いないらしく、私が家に帰って構ってよアピールしても仕事仕事と相手にしてくれない。・・・あれ?もしかして仕事を理由に避けられてたりしない?しないよね?私達ほど仲のいい姉妹なんていないし、私はお姉ちゃんのことを愛してるし、お姉ちゃんも私のことをきっと愛してるし、相思相愛だよね?ていうか私たちこんなに仲がいいのに一回も―――(ここから先は閲覧禁止です)。
まあそれは置いといて、とにかくお姉ちゃんは私に構ってくれない。くれないんだけど・・・最近、部屋がとても煙くさい。そして私は見てしまったのだ、お姉ちゃんの口から、口から・・・口から煙が!!!!!
「なにこれ!?お姉ちゃんの魂が室内に溢れかえってる!!集め・・・吸い込まなきゃ!!スゥー!スゥー!」
「アンタ何してんのよ・・・」
「これ間接キス!?ていうか直接キス!?これキス!?」
「キスじゃないわよ。ていうか帰って来て早々何をやってるの?」
おっと、お姉ちゃんの魂に夢中でお姉ちゃん本体に気が付かなかった。
「ただいまお姉ちゃん!」
「おかえり。で、奇行はいつものことだけれど今回はかなりキマってるわね。いいことあった?」
「うんあった!お姉ちゃんの魂がこの部屋に充満してるからキスしてるの!」
「だからキスじゃないわよ。あとこれはお姉ちゃんの魂じゃないからね」
「え!?じゃあこれなに?あ、もしかして悪霊!?どうしよう、私吸い込んじゃった!」
「悪霊でもないわよ。これは煙草の煙・・・ああ、こいしは煙草って知ってる?」
「知らない!」
「これよこれ」
そういってお姉ちゃんは左手に持った白い棒をくいくいと動かした。
「それなに?」
「煙草」
「うんそれはわかったから。あのねお姉ちゃん、私いつも思うんだけどお姉ちゃん人の心がわかる割に人が伝えたいことを何も理解しないよね。今のそれなに?は明らかにその白い棒の名称じゃなくてその用途を訊いてるの、お空でもわかると思うんだけど。ねえそこんところどうなの?」
「・・・申し訳ありません」
「はいよろしい。で、その煙草ってのは何?」
「うーん、なんていえばいいかな・・・。説明だけするなら煙を出して吸い込むものなんだけど・・・」
「へぇ、煙?なんのために?」
「吸ってると落ち着くのよね。ストレスが和らぐというかなんというか」
「あーそれで書類仕事でイライラしてるお姉ちゃんは中毒者になってるわけね」
私の言葉に気まずそうなジト目をするお姉ちゃん。
「なんで中毒って知ってるのよ・・・」
「そんな魔法のお薬みたいなものがあれば皆ハマるじゃん。大方最近幻想郷に流れてきたものを買ったんでしょうね、スキマのおばさんか誰かが入荷元じゃない?それでハマったお姉ちゃんは見事に収入源となってしまった」
「・・・あんた昔から頭は無茶苦茶キレるわよね。ホントもったいない・・・いや、今のは忘れて」
「・・・?どうしたの?」
「なんでもないわ。とにかくご推察の通りよ、人間にとっては有毒らしいけど妖怪の私にゃ知ったこっちゃないってね。御覧の通りゴミ箱と灰皿が消費量に追い付かなくなっちゃったわ」
そういってお姉ちゃんは部屋の隅の惨状を指さした。水の入ったバケツが4つ、空の箱が詰まったゴミ箱が6つ、そして積みあがった段ボールが・・・めんどくさくなっちゃった。そこら辺に落ちてるライターも相まって生活レベルは最低記録を更新している。
「ふーん。お姉ちゃんがそんなに夢中になるものなんだ・・・」
「なに?アンタもほしいの?ストレスなんてなさそうな生活してると思ってたけど」
「興味があるだけですぅ~。フンだ、悪かったわね~ストレスフリーでバカみたいな生活してて!」
「そこまで言ってないわよ。・・・アンタ変わったわね」
「なんて?」
「なんにも。別にいいわよ、アンタも妖怪だから害はないだろうし」
途中お姉ちゃんがボソッと何か言ったみたいだけど聞こえなかった。聞き直す前にお姉ちゃんは段ボールの中から小さい箱を取り出して開けた。箱の中にはお姉ちゃんが手に持っている煙草がぎっしりと詰まっていた。その中から一本を取り出し、私に手渡す。
「どうするの?これ」
「こっち側を口にくわえて。そう、そのままじっとしてて」
するとお姉ちゃんはライターの火をつけ私が加えた煙草の先端に火をつけた。危ない危ない危ないっていうか顔近い。やばいやばいドキドキする待って待って待っててか火も近い危ない危ない危ない。
「早く吸わないと火が消えるわよ。火がついてる状態じゃないと煙は吸い込めないから。ただし勢いよく吸い込んではダメ、むせるわよ。そう、上手ね。口の中の煙は・・・まああんまり美味しくないからやめときなさい、人間が吸い込んだらまずいらしいけどね」
お姉ちゃんの言葉を聞きながらゆっくりと煙を吐き出す。なんだか不思議な気分。晴れやかとか心地よいとかそんな感じはしないけど悪い気はしない。そう、例えるなら・・・虚無、これは虚無だ。無の境地に近い、私ん性質が余計にそうさせるのかもしれない。
「おーい、こいしー?聞こえてるー?何ボーっとしてんのよ。おーい?」
「・・・ああ、ごめん。なんかいいねこれ」
「そうね・・・ってアンタそれ!」
「?」
「いや、そうじゃなくて、目・・・いいえ、やっぱりなんでもない。それより何か、いつもと違うなんか、ない?こう・・・ああもう、じれったい!やっぱりいうわ。アンタ、目が開いてるわよ」
「やだなぁお姉ちゃん、私が寝てるように見えるの?」
「そうじゃなくてそっちの目!第三の目のほう!」
言われてみれば、お姉ちゃんの考えてることが何となくわかる。ちらりと自分の脇に目をやると久しく目を開けた青色の球体が見えた。そう、私とお姉ちゃんはサトリ妖怪だから相手の考えていることがわかるのだ。尤も私は嫌になって自ら瞳を閉ざしたが、何故か今は開いているらしい。そして前はあれほど嫌がっていた読心能力も気にならない。すごいじゃん煙草。
「なんだか懐かしいね。まだ表面くらいしか読み取れないけど。あはは、お姉ちゃんすっごく驚いてる」
「当然でしょ!なんで・・・?いやそれよりもアンタ、大丈夫なの?」
「あんまり気にならないや。私もこの煙草気にいっちゃった。少し分けて?」
「・・・いいわよ」
「あはは、もしかして私がもう一回瞳を開くきっかけになると思ってるんでしょ。でも多分無理よ、だってもう取り返しがつかないんだもの。意味を失くして新しい妖怪に近い存在になっちゃった私だもの、戻れないよ。でも限定的に前に戻れるのかな?」
「・・・」
「自分がいつもやってることをやられると複雑なんでしょ。うふふ、これに懲りたらもう少しそのヤな性格を治すことね」
「・・・アンタも昔はこんな性格だったわね。でも懐かしいわ、昔は隠し事なんてできなかったもの、嫌みも言いあって二人で生きてきた」
「今もしてないでしょ、私は。でもお姉ちゃんは私に気を使って誤魔化すことが多くなった。なんにも気にしてないのにね」
「ばーか、私が気にするのよ」
懐かしい。何もかもが懐かしい。悪い気はしないし、なんならちょっと後悔してしまったほどだ。でもやっぱり―――。
「ほぁぁぁぁ!なんかすごいねコレ!疑似的に古明地こいしになれる薬?みたいな?確かになんにも気にならなくなるし鎮痛剤みたい!」
「そんな高等なものじゃないでしょうね。まあ気に入ったのなら持ってくといいわ。くさるほどあるしね、しばらくはなくならないでしょう・・・多分」
そういって何箱かお姉ちゃんは箱を手渡してくれた。
「ありがとー!」
「どういたしまして。・・・ま、ほどほどにね」
「私のセリフだよ!」
久しぶりに笑った気がした。
なんだかキャラが壊れてしまった。他のキャラも崩壊してしまうかもしれませんが基本的に自分の中のイメージは大切にします。
登場人物
・古明地こいし
地底組の中では常識人サイド。クロスレビューでの評価をひそかに根に持っている。この時点ではまだキャラが定まってない。
・古明地さとり
妹思いペット思い仲間思いの優しいクズ。悪平等の体現者。不健康が似合う女。