私はお姉ちゃんが何をしようとどんな悪事を働こうと何一つ咎めるつもりはない。それはこれからも変わらない、きっと一生変わらない。けれども、今この時だけは、私はお姉ちゃんを許すことができない。
「ふぅ…いい加減大人になりなさいな。古明地家の次女たるものこの程度で取り乱すなんて情けない」
この程度だと?ふざけるな。この無惨にも更地にされた
「ええ、何も」
ならもう何も言うことはない。姉妹喧嘩の決着は殴り合い。全力で貴女に制裁を加えてあげる。
「姉に勝とうとは。今まで一度も勝てたことないのに?」
そんなの、やってみなくちゃわからない!
「まあまあ、プリンならあたいがもう一個作ってあげますから…」
違う!そんなことで解決できる問題じゃないんだ。新しいプリンで救われるのは私の舌だけ。この悲しみに染まった心は救われないんだ。
「あんたが一日中帰ってこないから悪いんじゃない。せっかくのプリンがダメになっちゃ勿体無いでしょ?」
そんなすぐ腐るわけないでしょ!冷蔵庫に入れててくれればよかったじゃん!
どんなことが起きても今回ばかりは許すつもりはない。河原へ行こうぜ、久々にキレちまったよ…。
地底にも川が流れている。そして川の周りだけ、地上と同じように植物が自然に発生している。
「前の喧嘩は何十年前かしらね?ここでやったっけか」
覚えてない。なんとなくそんな気がするけど。前はどんな理由でやったっけ?食べ物?別のこと?思い出せない。
「あらあら、いつの間にやらギャラリーが。よかったわねぇ目立って」
本当だ。あんまり気にならなかった。正直今はどうでもいい、目の前のことしか頭にない。
「要はムシャクシャするから憂さ晴らしがしたいんでしょう?かかってきなさいな、姉として全部受け止めてあげるわ」
八つ当たり、と顔に書いてある。その通りだよ!
お姉ちゃんに勝てるのは私だけだ。理由は簡単、お姉ちゃんが心を読めないのが私だけだから。
でも私はお姉ちゃんに勝ったことがない。理由は簡単、お姉ちゃんが強いから。
「はっ!」
鋭い蹴りが腹部に突き刺さる。あの体のどこからこんなパワーが出てくるのやら、と同じ体型をしてる自分を棚にあげる。しばらく空中に舞い上がって、地面に叩きつけられる感触とともに起き上がる。追撃はなし、ふぅ。
「気は済んだかしら」
「まだ」
「そう」
呆れた表情で前に踏み出そうとするお姉ちゃんの足が止まる。
「管…」
「正解」
お姉ちゃんの足に巻きついてるのは私のサードアイの管。それが地面から顔を出して足首に絡みつく。
サードアイに力を込めると地面が割れる。そして急激に管は縮み私とお姉ちゃんとの距離は短くなっていく。ここまでくれば射程圏内、拳を躱される心配もない。
「あんた正気?」
目の前まで連れてこられたお姉ちゃんはなおも呆れ顔だ。何故なら私も条件は同じ、お姉ちゃんからの攻撃もかわすことができないから。
「我慢強さには自信があるからね」
「目を閉じたくせに」
「それはそれ」
そこからは文字通りの子供の喧嘩だった。殴る蹴るほっぺを抓る髪を引っ張ると、お互いに涙目になりながらあの手この手で相手を負かそうとする。
途中で倒れ込んでからはお互いどちらが馬乗りになるかでゴロゴロと転がっていき最終的には川にダイブした。
「はぁ…はぁ…」
「はっ…はっ…」
ついに息も切れ切れ、どちらからともなく仰向けに倒れこむ。うん、引き分けならまあいいかな。
「これは…帰ったらお説教されるね…」
ギャラリーの中に心配そうに見つめるペットたちの顔を見つけた。きっとお燐は今日晩御飯を作ってはくれないだろう。
「喧嘩両成敗ってね…ふふ…」
酒の肴になんぞしやがって。こちとら本気の姉妹喧嘩だぞ、鬼の酒盛りのためにやってるんじゃない。
と、こんなことも気にするからまだまだ目を開けられないのだ。
「久々にひどい目にあったわ、全く」
「ふふふ、お姉ちゃんの負け?」
「馬鹿言うんじゃない、引き分けってことにしてやるわよ」
そういうとお姉ちゃんは一本タバコを差し出してきた。
「吸う?」
「…うん」
それからはどちらも喋らなかった。ただ、お姉ちゃんも私も今日の晩御飯のことを考えていることだけは確かだった。
当然自分たちで作ることになった今日の晩御飯はオムライスになった。ケチャップの文字をお互いに書き合うのだけは昔から変わらない。
『『仲直り』』
登場人物
・古明地こいし
食べ物の恨みだけは絶対に忘れない女の子。君が泣くまで殴るのをやめない。プリンは翌日作ってもらった。
・古明地さとり
別にプリンがもう一個欲しかったわけじゃない。ほんとだよ、さとりんプリン好きじゃないもん、ほんとほんと。