お姉ちゃん、それなに?   作:えんどう豆TW

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菫子ちゃん視点


宇佐見菫子はまだ悪夢を見る

 

 

 

何故かゆで卵の殻を剥いている。お母さん、私は地獄に来てゆで卵の殻を剥いていますよ。もう意味がわからない。

 

「宇佐美さん、地獄にだって誰かがいるのですから。ゆで卵があってもおかしくありませんよ」

 

さとりさん、私の心を覗かないでください。癖?あ、癖ですかそうですか。それなら仕方ありませんねとでも言うと思ったかおいコラ。何を笑ってんだ説明をしなさいよ説明を。

 

「せっかくこいしがお友達を連れてきたんだから、おもてなしをしないとでしょ?でもせっかくだから一緒に作った方がいい思い出になるかと思って」

 

絶対嘘でしょ。さっきこいしが『今日はお燐とお空いないってさ』って言った時の貴女の顔と、こっちを向いた時のまるで思いついたかのような表情で大体察してるわよ。

 

「いえいえ、まさか貴女が丁度よく居たから人手に使おうだなんて思ってないですよ。何せお客様ですからね」

 

はぁ…ま、いいけどね。やることがあるわけじゃないし。お、いい笑顔だな腹黒幼女。

しかしアレだ、幼女ふたりと一緒に料理をするなんて姉っぽくてなかなかいいじゃない。こんな番組があったようななかったような。

 

「それにしても、貴方の超能力ってとっても便利ね」

 

内側から超能力で押し出してゆで卵の殻を剥いてる私にそれ言う?馬鹿にしてたりしない?あ、してないそうですか。と、隣のこいしを見ると死んだ目で潰れた自分のゆで卵を見つめていた。

 

「殺さないで…」

 

いやそんなことで死刑になるか!なんでそんな大袈裟なのよ!

 

「しょうがないわねぇ。今回だけよ?」

 

え、嘘よね?この家ってゆで卵ごときでそんなに重い罪になるの?そんな殺伐とした世界でこいしは生きてきたの?

 

「ふふ、冗談ですよ。貴女の反応が面白くてつい、ね」

 

だ、だよね…。ていうか、何も聞かされずにゆで卵作ってるけど何に使うの?

 

「…煮物だけど?」

 

キョトンとした顔で答えられた。ああ、知ってる料理でよかった。

 

 

 

 

 

 

ふう、お腹いっぱい。こっちではカロリーとっても平気だからついつい美味しいものを食べすぎちゃうのよね。

休みたいと言ったら個室を与えられたけど、本当にひろい家。こんな部屋がいくつもあったりするのかな。

 

しかし、なんというかとても無機質な部屋だ。ベッドはある、机もある、椅子もある。棚もあって普通の部屋といえばその通りなんだけど、なんというか普通すぎる。少なからず生活感のある部屋なのに、使用者の特徴が全くと言っていいほど出ていない。私の部屋だって私のお気に入りのものが置いてあったりするものなのに。

色んなものがあるのに、何も無い部屋。薄ら寒さをも感じるほど不気味だった。

 

「ただいまー!」

 

突如こいしが部屋に突撃してきた。もう家に帰ってきてるのにただいまとはどういう思考してるんだ。

 

「え、ここ私の部屋だもん。ただいまだよ」

 

え、そうなの?まあ誰かしらが使ってる気はしたけど、まさかこいしだったとは。しかしこうも無味なもんかね、結構女の子っぽいと思ったんだけど。

 

「うーん、私あんまり部屋にいないからなぁ。家に帰ってきて寝る時と、着替えの時くらいにしか使わないよ?家にいても、自分の部屋にいることはほとんどないなぁ」

 

なるほどそれで。まぁこれだけ広いと色んな所回ったりするものね。さとりさんもそんな感じの部屋なのかな。

 

「お姉ちゃんは仕事部屋にしてるから色々置いてるよ。置きすぎて部屋の半分くらいしか足場ないけどね」

 

仕事かぁ。そうか、地獄のお偉いさんだもんね。あんな小さい子が仕事…ううん、なかなかにショッキング。

 

「まあショッキングだね、書類の山を目にした時のお姉ちゃんほど悲惨なものは無いよ」

 

ひょえぇ。まあ私よりもよっぽど長く生きてるんだものね…。ってアレ?こいし?おーい、寝てない?

 

「うーん…?ふあぁ、眠いかも。ぐぅ」

 

せめてベッドで寝なさい!私にもたれ掛かるな!あーもう、ほらすぐそこにあるでしょ。

案外無理してたりしたのかしら。これでも結構私に気を使ってくれたり?ていうか私も沢山歩いたしなんだか眠く…今まで幻想郷でこんなことなんてなかったのに…。

 

 

 

 

ぎいぃ。

ドアの開く音で目が覚める。ここは私の部屋…じゃないわね。こいしの部屋だ。ていうことはこいしが出てったのかしら。そう重い顔を上げるとそこに立っていたのはこいしのようでシルエットが違う。帽子を脱いでいても髪型が違えばわかる。

 

「起こしてしまいましたか」

 

さとりだ。ううん、本当はここら辺で目が覚めて夢から現実に戻る頃なんだけど今回は長いみたい。

 

「そうですか…」

 

さとりはどうしてここに?仕事が大変って聞いたけど。

 

「しばらくは落ち着いてますよ。それよりもこいしと貴女のことが心配で見に来ただけです」

 

なるほど、こいしの部屋からしばらく出てこなかったからかな。心配してくれたのならありがとう。でも───────。

 

「嘘だ、と?貴女は私のこともこいしのことも随分怖がってるようです。疑いすぎではありませんか?」

 

そうだ、私は貴女が…貴女達が怖い。それはとても感覚的なものだけど。

 

「それは、単純に親睦が浅いからでしょう。人は誰でも面識のない人間を警戒しますからね」

 

そう言ってにこりと笑うさとり。

寒い。寒い寒い寒い背筋が凍るほど寒気がする。なぜこいしが怖いのかわかったつもりでいたが前に考えた論理的な嫌悪感は間違いだったことに今気づいた。現に今私の心を読んでいるはずのさとりはひとつも表情を変えずにニコニコしている。

 

「これでも長く生きてますから。嫌悪感を示された程度で喧嘩腰になるほど短気じゃありませんよ」

 

そうじゃない。そうじゃないんだ、私の恐怖は報復の恐れから来るものじゃない。こいしが、さとりが、私に語りかける時にその目は笑っていない。私はそれが怖かった。

 

「目が…?自分の目は見えないけれど、そんなに表情筋が固いかしら」

 

違う。その目は私に向けられた感情だ。いや、人間の私に、と言った方が正確だ。私に向けられているその感情の名前は、諦念と疑惑だ。

 

「傷ついちゃうわ、そんなに言わなくてもいいのに」

 

こいしは幾分かマシだったけど、貴女のソレは比にならないほど私を刺す。人間への底知れないほどの悪意が私には感じられる。

 

「…悪意、とは別物。私達はただ、この生きてきた道の中で人間と相容れなかっただけ。貴女が悪いわけじゃないわ」

 

…私が謝ることじゃない。それでも、せめて私はこいしと友達でいたい。貴女が信じなくても、こいしが信じなくても、私の中だけでもいい。

さとりはちょっと驚いたように目を丸くした。それまでの私を疑う目が薄れた気がする。

 

「ここまで来る人間って変わってるのよね。ええ、貴女が友達でいたいと言うなら私は別に構いません。こいしが認めれば私も認めますから」

 

ええ、勝手にそうさせてもらうわ。あの鬼の催しの時に見せた笑顔、私は信じてるからね。

おっと、目眩がしてきた。今回はここまでかな。なんだかんだ楽しかったわ、ありがとうさとり、こいし。

 

「待って」

 

目を覚まそうとする私の肩を掴み私の顔を覗き込むさとり。近い近い近…ッ!?目が笑ってる。笑ってるけどこれは温かいものじゃないな。イタズラをしに来た子供の顔みたい。

 

「こいしに友達ができるのは私も嬉しいの。ねぇ、貴女もうここに住まない?精神体の貴女なら歳もとらないだろうし、貴女の好きなオカルトもいっぱいあるし、住まいもここを頼ればいいわ。幻想郷は全てを受け入れてくれる、当然貴女のこともね」

 

甘い声。誘惑。この誘惑に負ければきっと私は戻れない。そしてそれをわかってさとりは私にイタズラをしているのだ。このイタズラは悪意も善意もない。ただの子供遊び、子供の悪ふざけに過ぎない。ただ一つ、私の命がかかっていることを除けばね!

 

「せっかくだけど遠慮させてもらうわ!まだやり残したことたくさんあるからね!」

 

うん、これでいい。また会いに来ればいい。だから今は───────。

 

 

 

「残念」

 

 

 

「ぶはっ!」

 

何故か息が詰まっていたような感覚。元の世界に戻れたっぽい。ジリリリとうるさい目覚ましをとめ、顔を洗いに行く。

 

「あ、クマ…」

 

洗面器の上の鏡に映る私の顔。目の下にはクマが出来ていた。

 




前回と同じ登場人物なので割愛。
このコーナー自己満足でやってるけど果たして必要なのか?
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