年末は地霊殿とて忙しい。これほど大きな屋敷なのだから当然大掃除も他の家とは比べ物にならないほど時間がかかるし、それぞれ役割を与えられた施設もしっかり手入れしないといけない。もちろんさとり様が細かく指示を出してくれるのだが、私達はそうもいかない。ペットの中でもかなり高い地位(?)にいるお燐と私はそれぞれ特別な役割を与えられていて、その管理も当然私たちがやらないと。私は灼熱地獄なんて、常識的には危険極まりないものの手入れをね。
「んで、アンタは何をサボってんだい」
あ、お燐だ。お燐はどっちかって言うとペット達のリーダー的存在だから、まあ怨霊の様子よりもペット管理の方が年末は大変だよね。
「ここがどこだかわかるかい?」
「地霊殿の屋上だね」
「正解だ。じゃあここで何してんだ?」
「うーん…考え事?」
「なんで疑問形なんだよ!3歩歩いて灼熱地獄の管理の仕方も忘れちゃった?」
「失礼な!今日の分は終わりですー」
「じゃあこっちの手伝いをしておくれよ。終わったら手伝ってって朝言って…ああ、忘れてたのね」
「んー?」
はぁ、とため息をついて顔を覆うお燐。あー、そう言えばそんなことを言われた覚えがなくもない。でもきっと、今思ったみたいに朝も私は『お燐がまた教えてくれる』と思ったから忘れたんだ。そしてこのままいるとまた忘れる。
「まぁ、いつもの事だからいいけどさ。そんなんじゃいつまで経ってもさとり様に仕事を任せてもらえないよ?」
「それは沢山休めるということ?」
「信頼されないってこと!」
「それは嫌かなぁ」
さとり様はあまり私にお使いを頼まない。私が忘れると知ってるからだろう。適材適所、って言ってた。いや私は馬鹿だけど、別に頭が悪いって訳じゃないから言葉の意味はわかる。きっと悪気はないけど、それに私が悪いんだけど、なんだかなぁと思った記憶がある。思っただけだけど。
「じゃあ手伝っておくれよ。ほら行くよ、アンタまた忘れるでしょうが」
「うん。いつもありがとうね、お燐」
「いいってことよ」
私は馬鹿だから、頭の要領が少ないくせにいつも考え事ばっかりしてる。お仕事をしてる時だけは忘れられるけど、何も無い時間は常にそんなどうでもいいことばっかり考えちゃう。さとり様は長所だって言ってくれたけど、結局みんなに迷惑かけちゃうなら短所だと思うけどなぁ。
「んで、そんな大事なことを忘れて何を考え事してたんだい?」
「え?えーっと…あれ、なんだっけ」
「ンなことだろうと思ったけどね、やれやれ」
お燐はなんだかんだ私が何も考えてないのだと思ってる。私もそう思う。だって覚えてないなら何も考えてないのと変わらないじゃないか。
「あ、そうだ!この前来た人間の子!」
「…が、どうしたのさ」
「あの子、ふわふわしてて不思議だったなぁ」
「なんでも夢を見てる間に幻想郷に来る外の世界の子なんだとか」
「へー。じゃあいつ寝てるんだろうね」
「はぁ?そりゃあんたこっちに来てる間に体は寝て…」
「頭は起きてるの?」
「むぅ…」
変だなーとか、不思議だなーと思うとずぅっとその事ばっかり考えちゃう。でもそっか、寝てる間に来てる幽霊さんならあんな感じかも。
「死体ならあたいがコレクションにしたかったのに」
「碌な死後を迎えられないねぇ」
「なんだと」
お燐、妖怪に死後の安寧を預けちゃまともに三途の川は渡れんでしょ。
「っと、着いたよ。ここの掃除手伝ってもらうからね」
「りょうかーい!」
まあでも、今は忘れよっか。
年末は少し料理も豪勢だ。普段無表情なさとり様もこいし様もご飯を食べてる時は笑顔だから、私は料理をするのが好きだった。もちろんメインはお燐で私はお手伝いだけど。
「お空、後で私の部屋にいらっしゃい」
今日はその日だっけ。3日に1回くらい、さとり様に呼ばれる日がある。その日の私の考え事を見るのが楽しいらしい。
「貴女が覚えてなくても、私が思い出せるわ」
ああ、貴女のその瞳が私はたまらなく欲しいのだ。
登場人物
・お空
考えるのはすき、覚えるのは苦手。貴女が居るから忘れても平気。
・お燐
考えるのは苦手、要領は良い方。貴女の言葉に気付かされるから。