もうどれだけ昔か忘れたけど、あたいはある子供の女に拾われた。そん時はあたいも妖怪となって間もない頃でそりゃもう人間なんかに負ける気なんぞしなかったね。まあ、妖怪を妖怪と見抜く力はまだ備わってなかったけれども。
お前のことを飼ってやるから光栄に思え、みたいな顔であたいを拾おうとするもんだから、もちろん抵抗したさ。人間なんぞに捕まるもんかってね。
結果から言えばそれは人型をとった妖怪で、あたいはその妖怪から逃げられなかった。行く先々で先回りされて、満足した?なんて聞かれるもんだから、あたいも観念して好きにしろってね。
なんのことはない、そいつはペットが欲しかっただけさ。いや、ペットと言うよりは下僕かな?自分に忠実に従う部下が欲しかったんだろうね。だから家に着くなりこう言われたのさ。
『貴女に住処と食事を与えてあげる。だから貴女は私にこの先ずっと従いなさい』
悪魔の契約ってのはこういうもんなのかね。いや、悪魔の方が誘惑してくれる分優しいかもしれない。あたいは敗者として一生従うしかなくなったわけだ。いやなに、自然界ではよくあることさね。目を付けられたが運の尽き、命があるだけありがたいってね。
しかしまあ強い奴に付き従うのも本能ってもんでさ、こうして生きていければそれで構わんと思うわけよ。今思えば随分と良くしてもらったね、敗者の分際で。今でも切り捨てられてないし、なんだかんだあの人は拾った動物を捨てることなんてしないからね。根っからの動物好きさ。
いやでもね、あの頃はあんな豪華な家には住んでなかったね。ほんとほんと、昔はオンボロな小屋を転々として生きてたよ。少なくとも100年くらいはあたい以外のペットはいなかったし、あたいの餌だって今ほど豪華じゃなかった。人の肉を食らってた時だってたくさんあったね。その度にあの人はとても申し訳なさそうな顔をする。なるべく猫として扱ってくれようとしてたんだね。
あの人も昔はそんなに強くなかったね。それにこいし様だって昔は・・・っと、今はあたいの話だったね。要はあたいは最古参のペットだったわけさ。一番長くあの人のそばにいるし、一番信頼されてる自信だってある。フフン、当然だね。
次に長いのはお空だね。そして今日に至るまで数多のペットを拾って来て、今じゃ地霊殿は動物園だ。え、嫉妬?んー、ないといえば嘘になるけど・・・あたいは愛玩動物である前に下僕だからねぇ。あたいに必要なのは愛されることよりも仕事を与えられることなのさ。じゃないと存在意義がなくなっちゃうからね。
「おっと、もうこんな時間だ。そろそろあたいは帰ろうかね」
「えー、もう帰っちゃうの?」
「あんたも主人が心配するだろ?それに仮にも八雲の名前を貰った猫ならもう少し威厳のある振る舞いをしないとねぇ」
「いやいや、威厳あるでしょ」
慌てて否定する言葉に燐はクスリと笑った。
「威厳のあるやつは寂しそうな声で『えー』なんて言わないよ」
「むむむ…」
言いくるめられた八雲の猫は大人しく引き下がることにした。
帰り道、彼女はいつものように主のことを考える。きっと帰るなりその瞳は先程の会話を覗き、そしてこう言うのだ。
『あら、楽しそうな話をしてきたのね。私にも聞かせてくれないかしら?』
登場人物
・お燐
お燐が1番古株で達観した性格だったらカッコイイなぁと思うます。
・八雲の猫
愛されキャラ。油揚げと同じくらい好かれてる。