恐ろしく長い冬眠から覚めたような感覚。どうやら私は冬どころか春夏まで通り越して秋に目を覚ましたらしい。去年のはずのハロウィンの思い出が昨日のことのように思い出せる。妖怪の時間感覚なんて人間と比べたらそんなもんだけどね、まるでこのタバコの煙のように。
「…」
じっとりとした視線を感じる。視線の主は私の姉、古明地さとりだ。なぜこんなに冷ややかな目で見られるのか、少し推察してみようじゃないか。彼女が仕事中であるにも関わらずその椅子に背中を預け寛いでいるから?それともそれに加えて有毒なガスを放出する乾燥植物を嗜んでいるから?はたまた昨日外から帰ってきて家の中を汚しまくったから?そんな考えが浮かんでは消えてを繰り返している。そう、このタバコの煙のようにね。
「……」
視線の温度が下がる。私の何が気に入らなかったのか、お姉ちゃんは露骨に嫌そうな顔をして机の上の書類に視線を戻した。そもそもニコチン中毒なのはあなたも同じでしょうに。1本吸う?
「いい」
何も言っていないのにピシャリと言い放つ。口を開こうとした私は遮られる形で空いた口をパクパクさせることしか出来なかった。なぜ分かったのかと聞いたところで無駄だ、どうせ家族の考えていることくらい云々と言われておしまいだから。お姉ちゃんが何を考えているか私にはわからない、このタバコの―――。
「チッ」
ついに舌打ちが出た。理不尽極まりないハラスメント、これが家庭内暴力ってやつだろうか。
「あのね、全部口に出てるわよ」
「え、嘘?」
「嘘じゃないわよ、こいしの心は私には読めないんだから。当たり前でしょう?」
「やーん、恥ずかしい」
「ホントにね。何?その『タバコの煙のように』って」
「そこまで聞こえてたかー」
「全部ね」
これは恥ずかしいところを見られてしまった、いや聞かれてしまった?どっちでもいいか。
「詩的じゃない?」
「私が指摘した時点でそうじゃないことに気づいて欲しいわね」
「えー?このフレーズの良さがわからないなんて、お姉ちゃんもまだまだだねぇ」
「私的には詩的なのね」
やりおる。しかしHIPHOP魂なら負けないのだ。YOYO私はどこだが生まれ幻想郷育ち友達はいない。
「やめなよ」
「悲しくなってきた」
当然お姉ちゃんにも友達はいない。
「作らないだけよ。妖怪強度が下がるからね」
「そうなんだ。孤独な妖怪ほど強いんだね」
「そうよ。あなたには私たち地霊殿の家族がいればそれで十分なの」
「おっと洗脳教育」
こういうのをヤンデレって言うんだね、くわばらくわばら。
「失礼ね」
「今度は口にしてないはずだけど」
「家族の考えていることくらいわかるわよ」
「お、いつものやつ」
「ではないわね」
ではないらしい。