地上を散歩していると目の前にいきなりおばさんが現れた。その名も隙間おばさん、胡散臭さと神出鬼没さで有名。
「とてつもなく失礼なことを考えてないかしら」
「いや全然」
悪びれずに答えるとおばさんはため息を一つ。ていうか何で出てきたの?
「貴女、というよりは貴女のお姉さんが来るのを待ってたんだけどね。恐ろしいくらいに出てこないからどうしたものかと困っていたのよ」
「で、そこに私が来たから伝えてもらおうって?」
「ええ、まあ黒猫の方でもよかったけどあの子は警戒心が強いからねぇ」
お燐ではなく私が先に見つかったというだけだった。なんて不幸なのかしら。
「んで、用事って?まさか借金抱えてたりする?」
「むしろその逆よ。あの阿呆がやってる”副業”が結構やばいことになってるから控えさせたいのよ」
「副業ぅ?」
初めて聞いたそんな話。お姉ちゃんならどや顔で成功自慢をしそうなものだけど、どうやらそういうものではないらしい。
「あー・・・あまり外にこの話を持ち出さないでね?と言っても貴女には無駄か」
「失礼な。私にだって分別はあります、ただ口が滑っちゃうだけ」
「その軽い口のどこに分別があるのかしらね」
正直どうでもいい、というのが今のところである。話のネタが尽きると喋っちゃうかもね。
「はぁ・・・まあいいわ。簡単に言えば投資ね、ただしこの投資は何もさとりだけがやってるわけじゃない。紅魔館も天狗どもも多くの妖怪はこの投資に参加してるわ」
「わかった。人里でしょ」
「正解。不可侵条約があったころは彼女も参加していなかったのだけれどねぇ」
ところがどっこいそうもいかぬ、おばさんが言うには不可侵条約が解除されてからしばらく経った日のこと、どこからか聞きつけたのか人里を(裏で)巡る経済戦争にお姉ちゃんも参加。見る見るうちにお姉ちゃんの下(つまり息のかかった)者が人里の中でのし上がっていったとか。
「これすなわち権力争いともいえる。甘く見ていたわけじゃないけれど、ここまでとはね」
「お姉ちゃん、お金が絡むと本当に抜け目がないからねぇ」
私のお姉ちゃん好き好きポイントの一つだ。ちなみに金のためなら与り知らぬどこの誰が犠牲になろうと全く心の痛まないクズでもある。
「そうなのよね。調停者たる私は参加していないのだけれど、流石にこれは見過ごせない。パワーバランスが崩れかねないのよね」
「つまりは脅しね」
「そうともいう。でも放っておく選択肢はないわ、貴女を人質にとってもね」
「それは無理。私が本気を出せば文字通り誰も捕まえられない」
ぴりぴりしてきた。このシーンはきっと大層絵になることでしょう。先に空気を壊したのはおばさんの方だった、
「かもね。それにあまり手荒な真似はしたくないの、姉君のためと思ってここはひとつ伝言係になってくれないかしら?」
「うん、いいよ。でも、何でも知ってるおばさんって聞いてたけど、案外そうでもないのね」
「全知全能じゃないのよ」
少しバカにするような態度をとっても大人の余裕と言ったところか、にこやかに笑って済ませようとするおばさん。しかしその態度はすぐに崩れた。
「って、おばさん!?今おばさんって言った!?」
「やべっ」
その瞬間、私は全力で逃げた。能力をフル稼働させた私を捉えられる者はいない。どやぁ・・・。
「お、覚えてなさいよ・・・」
おばさんの恨み言は空に消えていった。
「ってわけで、お姉ちゃんへの恨み言を私に全部押し付けられちゃった」
「そう」
先日散々無理をして仕事を片付けたせいか、ここ最近は悠々自適な生活をしているらしいお姉ちゃん。やってらんないと煙草を吹かす私を横目にどうでもよさげに呟いた・
「しかしここまでハマるとは。私より吸ってるんじゃない?」
「さっきお燐が大量の箱を捨てに行くところを見たよ」
「なんのことかしらね」
中毒者は決まって自分のことになると認めたがらないものだとつくづく思う。
「でもほんとにほどほどにしてよねー。私の肩身が狭くなるじゃない」
「そんなこと言われてもねぇ」
紅茶を口にしてからニヤリと口角を吊り上げるお姉ちゃん。
「そんなにうまくいってるなんて、存じ上げなかったわ」
地底の引き篭もりが知るわけないでしょう?そんなことを言いたげな顔は私が知る中で最も意地の悪い、大嘘吐きの最低な笑顔だった。
登場人物
・古明地こいし
悲劇のヒロイン。よよよ。
・古明地さとり
黒幕。この作品では有能最強最低お姉ちゃん。
・おばさん
永遠の17歳。アイドルを目指している。