ハーメルンの仕様で仕方ないのか私がやりかた知らないのかは知りませんけど
そんなわけでお姉ちゃんと地上に来ている。二人で地上に行くのは地帯の異変の後に宴会に参加した時くらいだから・・・いいや、数えるのめんどくさい。別にどうでもいいしね。
「あ、お姉ちゃんに煙草のおかわりもらうの忘れてた」
「は?もう使い切ったの?」
「うん。ちなみにため息はなしだからね?私の何十倍の速度で吸ってると思ってるの?」
「・・・私は仕事が忙しいからセーフなのよ」
さいですか。もちろん絵面的にも精神的にも余裕でアウトだけどね。
「しかし他の客と当たるのが嫌だからってまさか貸切にするとはね」
「これくらい安いもんよ。ゆっくりしに来たんだから他人と一緒に入るなんて絶対に嫌。それにせっかくこいしと二人きりだからね」
「お姉ちゃん・・・」
なんていい姉なのだろう。
「私と二人きりで誰にも見られずにあんなことやこんなことしたいなんて・・・」
「アホか。ていうか体をクネクネさせるな気持ち悪いわね」
「や〜ん、そんなまだ温泉に着いてないのにぃ」
「叩いたのよ!いつもに増してテンションがおかしいわね」
そりゃそうよ。こんなチャンス滅多にないんだから楽しみで楽しみで仕方ないというもんです。
「たまには姉妹二人でしっぽりとってのも悪くないと思うよ?」
「そんな含みのある擬音を使われてもね」
「着いた〜!」
私がはしゃいでいるとお姉ちゃんはすでに受付で手続きをしていた。うーん、この温度差。いや逆にお姉ちゃんが私みたいに走り回っているところは全く想像できないけど。
「部屋に荷物を置きに行くわよ。温泉はその後」
「はーい!」
「そっちは脱衣所」
「はぁい」
半ば引き摺られる形で部屋に連れて行かれる。二人分だというのにとてつもなく広い部屋をとったらしい。『どうせ私達だけなのだから広い部屋取ればいいじゃない』と言っていたけど無駄を嫌うお姉ちゃんにしては珍しいことだ。
「本当に広いね。これ宴会用とかじゃないの?」
「かもね。まあ机は片付けさせたし布団は敷いてあるし、気に入らなかったら好きに動かせばいいじゃない」
「いや、別に気に入らないわけじゃないけど」
と、そうだ温泉温泉。ここに来た一番の目的なんだし、早く入りたい。
「少し早いと思うけど・・・まあ、好きにするといいわ」
「お姉ちゃんも行くに決まってるでしょ。ほらいくよー」
「わかったから猫みたいに首根っこを掴んで引きずるのだけはやめてほしいわね」
先ほど来た道を通って大浴場へ。廊下ですれ違った従業員の後ろから尻尾が飛び出しているのを見つけた。
「そうじゃなければ私達が来れないわよ」
それもそうか。
脱衣所で着替えを終えたら即露天風呂。岩に囲まれた大きなお風呂と上から眺める幻想郷の景色はもう最高だ。
「ふあぁぁぁ・・・」
リラックスしきった私は思わず間の抜けた声を出してしまった。まあ聞かれてもお姉ちゃんだけだしいいや。
「ふぅ・・・」
私に続いてお姉ちゃんも入浴する。妹よりも発育の悲しい体が湯船を揺らす。
「え、なんでタオル巻いてるの?」
「別にいいじゃない、温泉だとこうしたくなるのよ」
「えー。ぐへへ、いいじゃねえかよ姉ちゃん、ちょっとくらいよぉ〜」
「確かに私は貴女の姉ちゃんだけど、こんな下品な笑みを浮かべる妹だとは思いたくないわね」
下品な笑みとか言われると流石に少し傷つく。どんな笑顔もこのこいしちゃんにかかればキュート100%だと思いますけどね。
「そんなおっさんみたいなセリフを吐きながらどの口が言うか。まぁどうせこんなことだろうと思ったけど」
「それは私がおっさんだと言いたいの?それとも私がセクハラ変態野郎だと言いたいの?」
「どうでしょうね」
ふん、どっちでもないもん。
それからしばらく言葉もなく、ぼーっと景色を眺めたりしながら温泉を満喫した。心地いい空間だ。静かで透き通っていて、でも寂しくない。
「お酒、持って来ればよかったなぁ」
「持って来させることもできると思うけど」
「んー・・・それはいいかな」
「そう」
それきり、また会話がなくなった。案外というか、もっとうるさくお姉ちゃんと喋ってるもんだと思ってたけど意外と大人しくしている、とまるで外から自分を見ているような感想を抱いた。
お姉ちゃんも同じようで、最初の方は私の方を何度か見て落ち着かない風だった。それも精々3回程度で、そのあとは虚空を見つめていたけれど。
「ねえお姉ちゃん」
「なに?」
「呼んだだけ」
「そう」
また会話がなくなる。
「ねえお姉ちゃん」
「なに?」
「呼んだだけ」
「そう」
会話がなくなる。
「ねえお姉ちゃん」
「なに?」
「何回まで無視する?」
「別に。呼ばれたら応えるわ」
「なんで?」
「無視する理由がないから」
優しいね、と呟くと不思議そうにこちらを見た。お姉ちゃんからすればそれは優しさでもなんでもないだろうけど、一般的に見れば妹のだる絡みにずっと付き合ってくれる姉は優しいのだろう。
「ふふ、大好きだよ」
「・・・?私もよ」
知ってる。
部屋に戻った私達は食事を済ませ布団の上で寛いでいた。正確には寛いでいたのはお姉ちゃんだけで、私は準備をしていた。なんの準備かって?そんなの決まってる。
私は手に持っている枕をお姉ちゃん目掛けて思い切りぶん投げた。私の準備を見ていたお姉ちゃんは、急に投げた枕をその場から飛び退いて躱した。
「枕投げしよ!」
「投げてから言うな」
だって不意打ちじゃないと当たらないじゃん。でも幻想郷の少女としてこの弾幕ごっこ・・・もとい枕投げは負けるわけにはいかない。
「もちろん拒否権はないよ。私が投げる側だからね!」
「投げる側ってなに?これ一方的に私が避け続けるの?」
「もちろん」
枕投げって何か知ってる?と言いたそうなお姉ちゃんの顔目掛けてシュゥゥゥト!超エキサイティング!残念ながらこれも避けられたけど。
「まだまだいくよー!スペルカード『ご先祖様の総立ちした枕』!」
「とても呪いが強そうな枕ね」
まあ大量に投げてるだけなんだけどね。お泊まりと言ったらやっぱり枕投げ、これはこの世の定めだ。
「やっぱり大きい部屋にして正解ね」
お姉ちゃんが小さく呟いた。
一頻り遊び終わった私達は二つ隣り合わせに敷いた布団の上で寝転んでいる。これは・・・
「ここからは大人の時間ね?」
「就寝時間よ」
あれ?そういう雰囲気だと思ったのに。
「どこがよ。一体いつからこんなピンク色の脳みそになったのかしら」
「脳みその色はみんなピンクだと思うけど」
「物理的な話じゃなくてね」
逆にお姉ちゃんはこんなに可愛い私を見てもなにも思わないの?
「姉妹だからね」
「姉妹なのに?」
「ダメだ、常識にズレがある」
姉妹ってそういうことしないの?じゃあ私は今までまずいことをしてきたのかな。
「待って。まずいことってなに?貴女は私の知らないところで私に何かしたの?」
「うふふ」
「答えて」
お姉ちゃんは私の心が読めないから黙っておこう。お姉ちゃんのこういう反応が見られるのも私だけだ。
「はあ・・・もう、早く寝るわよ」
「はーい」
考えることを放棄したのか、投げやり気味に私を寝かしつけようとする。電気が消え、暗闇の中で私もまた目を閉じる。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうのが、とても残念だった。
登場人物
・古明地こいし
頭の中は妄想でいっぱい。この間空っぽと書いたな、アレは嘘だ。
・古明地さとり
温泉に入っても心が綺麗にならない女。スピードワゴンさんも顔をしかめるほどの悪人。