いあいあ!!
「風水師ぃ…?」
突然自己紹介に、当然といったら当然の反応をしてしまうコナンを攻める事は誰にもできないだろう。見ず知らずの人間がにこやかに「風水師です」なんて挨拶して来たら若干の恐怖や宗教の勧誘なのかと疑うだろう。
増してや怪しい人間の多いご時勢、街中でこんな風に声をかけられた小学生は、思わず防犯ブザーを鳴らすかも知れないのだから。
「ああ。別に怪しいものではないよ?」
そうは言うが、傍目から見たら中々に怪しい黒井も胡乱な視線を竹城に向ける。
「ここの支配人とは数年来の付き合いでね…。何度も言ってるのさ。ここは風水的に大変良くないってね。聞きやしないのさ、彼は。どうだい?何か良くない事が起きたんだろう?」
「おじさんさっきの悲鳴聞こえなかったの?」
「やっぱり何か有ったんだね。俺は、相変わらず風水的に最悪なこのホテルを見て回って居て、丁度浴場に居たせいで聞こえなかったんだろう。教えてくれてありがとう」
「…」
明らかに胡散臭い。とんでもなく胡散臭い。いくら長年の付き合いを持つ知人の経営するホテルだからって館内を無断でうろつく何て事をするだろうか。
黒井に至っては一切の反応せずに、半ば睨む様に竹城を見ているだけだ。
少女の様な小柄な人物と、見た目だけなら幼い少年に「怪しいおじさん」認定の視線を貰いながらも竹城はにこやかに下階へ降りていく。
不信感を募らせながらも下には既に小五郎も支配人も加賀知も居る。階段を下れば喫茶店スペースからでも見えるだろうと追いはしない。
ただ、これ幸いとしっかり握ってくる黒井の手からするりと抜け出して、転がったこけしを拾った。
「…?」
妙な違和感を覚えた。
手に掴み、持ち上げてみるとこけしの重心が移動する。空洞になっており、中身が移動しているのだろう。そっとこけしの底の部分を見る。幽かに中からからからと音がした。
そして裏には。
『2010/3/6』
「どうかしましたか?」
こけしを棚に戻すことなく、じっと固まるコナンに対して黒井が小首を傾げて訪ねてくる。
「う、ううん!何でもないよ!でもボク、お手洗いに行きたくなちゃったから、黒井さん先に皆のところに行っててくれる?」
何かを思案するように斜め上を見ながらも殆ど表情を変えずにした後に「お姉さんを心配させてはいけませんよ」とだけ告げて先に階段を下り始めた。
コナンは黒井がこちらを振り向かないのを確認してから改めて手の中のこけしを見つめる。
やはり作りは拙く、土産用や飾物として市販されるレベルない。にも関わらずどれも顔に特徴があり妙に個性を持っていた。
それに何処となく既視感を感じる。そう。先ほど声をかけた男、竹城に似ているのだ。
とりあえず、それを棚のスペースが開いた部分に立たせ、他のこけしの裏を見てみるとどれも底の部分に日付が書かれている。
「作成日って考えるの妥当か…。数ヶ月に一個位のペースだな」
そう結論付けた所で、こけしの頭部を外せそうな事に気づいた。やはり中は空洞で入れ物の様に成っていた。そっと中身を見てみる。
中に入っていたのは、灰と乳白色の小さく硬いもの。
その小さなものを摘んでよくよく観察して気づく。
「これは…!人間の歯…!?」
形状や磨耗具合からみて恐らく成人のもだろう。そしてこの灰も恐らく人間のもの。
そして全てが同じように重心が動き空洞だった事を考えると…全てに遺灰と少量の骨や歯が入っていた事になる。三十程の、人間の燃え残り。
更にはっとする。最初にこのこけしの群れを見た時に感じたもの。
絹江に見せられた弟の写真。
宮口正平に似た顔立ちのこけしが居たのだ。
ぱっと、何処となく正平の面影を残したこけしを掴み取り裏を見る。
『2017/10/25』
絹江に正平からの最後の連絡があった日付だった。
それが意味するであろう真実に険しく眉を潜めるコナンの耳に、『ガシャン』という重い音が響いた。
「!?」
はっと顔を上げるがそんな重厚な音を響かせるような物は無くいくつかのこけしがこちらを凝視するように向いていた。
何か、氷で出来た手で背を撫でられる様な気分を味わいながらも全てのこけしを元の場所、位置へ直した。
黒井「人を模した物が動くとか、良くありますよね」