ただPCとNPCでは、どこまで情報を話してしまうかも、ENDに関わるような事もあるので慎重になってしまいます。そういう事でしょう。
精神分析(物理)の使い手では無いことを悔やみながら、人巳は小夜林と江戸川少年の方をちらちら見ながら正気の沙汰でなくなっている男をなだめようと、周囲の人間に合わせ奮闘しているのだがちっとも効果がないのだ。
マトモな思考回路をして此方をしっかり認識するのならば、その認識をずらす方法は幾らでもあるのだが、こうも狂乱されては手の施しようがない。
「おっと、むの…警察がようやく到着したようだ」
人巳はヒトよりも耳がいい為に、すぐにサイレンの音に反応して周囲の者たちにも告げる。絹江や発狂中の男は相変わらず顔色は優れないが、その他のものは安堵した様な表情をする。
…支配人以外は。
そんな事はどうでもいいの。人巳にとってはニーアに押し付けられた案件。恐らくヨグの件だろう。それならば、問題はその召喚阻止ないし、術者を探しニーアに伝えればいい。
後は…。
さっさと入って来た警察に一番に話しかけ、すぐさま小夜林と少年のもとへ向かう。
「小夜林。警察が来たようだから事情を話しておいで。私はもう『話し終えた』からね」
別に、子供に嫉妬したわけではない。ああ。もちろんだとも。
目を見開き、驚いたように固まる少年からそっと手を離し小夜林は無言で頷き人々の輪へ向かっていく。救急隊員が未だに叫び、口が裂けそうなほど開けて笑い狂う男を救急車に乗せようとするが盛大に抵抗している。アレはそろそろ物理で精神分析をするべきだろう。実際に精神病院でまれに絞め技で暴れまわる患者を沈静させることもあるらしい。
「江戸川君。小夜林はそんなに怖がらせたのかい?」
小夜林に手を握られた状態でウィジャボードに添えられていた手を、未だに信じられないといった顔で見つめている。
「そういったものは、人間の筋肉の微動で動くものだ。なに。怖がるものではないよ」
「う、うん…」
なんとも解せぬ、とい言った顔ながらも頷く。
「さあ。警察が来たよ。お父さん…いや、保護者の方の所へ向かうべきだ。…ああ彼はこれから現場に行くんだね。それならお姉さんのところへ行こう」
解せぬ、といった顔からすぐさま何かを思案するような顔をして、さも『無邪気です』といった表情を作って人巳に人懐っこい声を上げて腕にしがみつく。
「えー!ボク、加賀知さんともお話したーい」
おやおや、と些か怯み、どういった対応をするべきかと悩む。
そんな二人をお構いなしに笑い狂う男の狂乱は更に拍車がかかってきている様で、救急隊員一人を突き飛ばし駆け出そうとする。それを今まで絹江の背を撫でていた少年の姉らしき人物が直ぐに反応し、止めに入ろうとするがその前に小夜林が蹄のブーツで回し蹴りを叩き込んでいた。
ああ、アレは痛い。なんの配慮もしていないだろう。
それに背の低い小夜林の蹴りは相手にとっては妙な位置。ちょうど身体の中心。主に股間にヒットし、そのまま撃沈していった。
周囲にいた男性人が内股になるが、救急隊員はいち早く復活し男を担架にのせ搬送していく。
「ね、ねぇ…黒井さんって何者?」
何者、と言えば彼の姉、毛利蘭も何者だ、と疑問を抱くほどに反応が早かった。あれは何かしらの武道を極めているだろう。
「小夜林かい?何者…と言われてもうちのバンドのヴォーカルさ。あの体格でなかなか腹のそこに響くようなしっかりした声を出すんだ」
「そういう事じゃなくて…」
「何か妙な事を言われたかい?あまり深く気にしない方がいい。私も小夜林が『なんなのか』は良く分からないんだ』
「…!」
どうももどかしそうな顔をしながらも、僅かに含みを持たせた言い方をすればぱっと顔を上げる幼年を人巳はまじまじと見て、心中でほくそ笑む。なるほど。この子は随分聡い様だ。そしてあらゆるものを見逃さない。
これは使える。
子供だろうが、いや子供だからこそ、気づくことも有るだろう。なに、滅多なものを見ても理解しなければ大したことはない。
人巳にとっては縁もゆかりも無い子供だ。それならば利用…協力して貰おう。
男性人が警察と共に階段を上がり、その後を女性人が進むのを横目に人巳は少年の直ぐ横にしゃがみ込み声を潜めるように囁く。
「実はねここだけの話が有るんだが、聞くかい?」
此方をはっと振り向きながらも、目を輝かせ、まるで期待するような言ってしまえば楽しそうな顔をする。
「うん!聞きたい!教えてー!」
ふふふ、と喉の奥で笑って耳打ちする。
「実はだ、私は有る人物にここの旅館で妙な事が起きるという情報を得てね。それを調べに来たわけさ」
「それてさっきの黒こげな死体みたいなことが前にも起きたの?」
「さぁ。そこまでは。ただ妙な事、しか教えてくれなくてね…。しかしあの件も関わっているんだろう。どうだい?君も一緒に調べてくれるかい?」
江戸川少年はしばし、人巳の爬虫類を思わせるどこか冷えた瞳を覗き込みその言葉に嘘はないかを探る。そして決心した様にして子供らしい天真爛漫さでもって大きく頷く。
「うん!」
表情には出さずに人巳はにやりとする。
人心を掴み、それは惑わせ動かすのは彼女の得意とする事だ。