こちらはあくまでもシナリオをベースに進めて行きますので、必ずしもシナリオ通りに進むとは限りません…感想のほうでラン=ネーチャンの無双をご期待下さったかた、それはまた次の機会という事で、申し訳ありません。
探偵的思考で、クトゥルフ的事件の辻妻が合う事はなかった…。魔導書や手記をすべて『正しい』という前提が必要なのです。
「…ひとつ忠告しよう。小夜林は、まぁまだ問題ない部類だが、いいかい?少年。全身真っ黒な男に出会ったら全力で逃げるべきだ。関わってはいけない。今君が小夜林を怪しんだ思考手順で持ってあいつらに挑む事は危険だ。小夜林は今は無害な可愛い仔山羊なのだからね」
加賀知のその言葉に、思わず息が止まった様になる。
相対する事は危険であり、関わっていけない『全身真っ黒な男』、とは…まさか自身が追っている黒ずくめの男達のことなどうか?
そうだとして、この人物は一体何を知っているのだろうか?
『今は』と引き合いに出された黒井小夜林とは何者なのだろう?そんな疑念が一瞬のうちに脳裏を駆け巡る。
「あいつらの事何か知ってるのか!?小夜林さんって本当に何者なの!?」
気付いた時には咄嗟に腕が伸びていた。
白いフリルに彩られた加賀知の袖を掴み、詰め寄っていた。当の突然小さな子供に詰め寄られた筈の加賀知はその声のトーンの変化や切羽詰まった表情等は気にも止めずに、ただ少しだけ驚いた様な表情を作って見せる。
「私の忠告を聞いていたのかな?関わってはいけない。私も何も知らないんだ。むしろ知って居たのなら私はここには居ないだろうよ」
ふぅ…とどこか遠い目をして見せる。知らない、という割にはそれがどういった物だかを理解して居るからこそ、忌避して要る様な雰囲気を感じ取る。
だが、その表情の中に本気で警戒し関わりたくないという思考が確かに見えた。
「ほら。そんな事より今は目の前の事だ。そうだろう?いい加減ここで騒いで居ては気づかれてしまう」
…これは後で調べてみる必要があるだろう。
ここで問答しても曖昧な言葉ではぐらかすだけだろうと思い、加賀知の言う通り今は目の前にある事件を何とかすべきだろう。
胡乱な視線をもう一度加賀知に向け、背後の未だに事情聴取を進めている一団の様子を確認してから地下への階段へ踏み出した。
「…内側からはまた別の番号が必要、とかでないと良いのだが…」
コナンに続き扉の内側へ滑り込んだ加賀知の言葉にはっとし振り返るが、そっと閉められた扉の内側には外側の様な電子錠も見当たらない。
この加賀知という人間がまれに、妙に疑り深い様に感じる。その警戒心の出所に疑心が加速する。
「ずいぶん大きな焼却炉だ」
地下室の空間のど真ん中に、大きな焼却炉が据えられていた。近づき検分してみるに、焼却炉としてだけではなくボイラーとしても使用可能な様だ。
天井を這う配管と、この旅館の間取りを考えるに浴場のお湯もこれで沸かしているのだろうか。
扉は閉められているが今は何かを燃やしている様子はない。
焼却炉の目の前には座り心地の良さそうなソファが置かれている。試しに座ってみると、ちょうど、コナンの背丈では座高が足りていないのだが、成人男性ならばちょうど焼却炉に取り付けられたガラスから中が良く見える位置なのでは無いだろうか。
先程見つけたノートの記録といい、『こんな配置』のソファー…。この件の犯人は、犯行を楽しんで居るとしか思えない。
証拠としては、この焼却炉、こけしの中の人間の遺灰らしきもので十分だろうが問題は客室に等々に現れた黒焦げの遺体だろう。
それについてはなんの判断材料も見つかっていない。
今回の件とは全く別の事件で、あの連れらしき狂った様に笑い続ける男の仕業か…。
「おっと、これは遺品かな?」
うっかり思考に嵌りかけていたコナンが慌てて振り向くと加賀知がソファーの背後に並べられていた棚の一つから腕時計を一つ摘まみ上げている所だった。
はっと、指紋の心配をしたが、ご丁寧に加賀知は白い衣装に合わせた様な白手袋を嵌めていた。
「支配人…の物じゃないみたいだね…」
行儀は悪いかもしれないが、そそくさとソファーの背もたれをよじ登り飛び越え、加賀知の検分していた棚の中身を覗き込むと支配人の年齢にはそぐわない履き潰されたようなスニーカーと電源の落ちたスマホが入って居る。
「ねえ加賀知さん、あの焼却炉の扉開けてくれない?」
遺品らしきものには焦げ跡はなく、焼却炉内にも何か残っていないかと気になって居たのだが鉄の扉は重そうな上取っ手は上部に付けられコナンの背丈では開けるのに苦労しそうだったので、そう頼んで見た。
その瞬間の加賀知の顔は、もの凄かった。
まるで爬虫類の様にどこか冷え冷えとし飄々としうっすら笑みを浮かべている様な加賀知が「滅茶苦茶嫌です!!」という変に人間らしい顔をしてみせた。
「………仕方ないか…」
たっぷりの間を置いた後にしぶしぶと言う様に焼却炉へ向かっていく。その際に摘まみ上げていた腕時計を元には戻さずになんの感慨もなくコナンの小さな手の中に落としていった。
白い手袋をしたままの指がそっと伸び、取っ手に絡み付く。
シャガン。
妙に既視感を抱く音がなり重そうな扉が開かれるが、中は暗く、何もない空間が広がって居た。
何をそんなに警戒して居たのか、加賀知がふぅ、と盛大に息を吐き出す音が聞こえた。
「!!加賀知さんあぶない!」
何もない事に安堵したのか暗い内側をよりよく見ようとした加賀知が焼却炉内へ僅かに体を傾げた瞬間に、
ガシャン!
と今度こそ、どこかで聞いた様な音が鳴り自動で持ち上がる筈のない扉が加賀知の首を挟もうとするように閉まった。
そうして何の操作もしていないにも関わらず、ボッ、と点火され、みるみるうちに内側を炎の色に塗り固めて行く。
それを間一髪でコナンが精いっぱいの力で後方へ服の裾を引き回避させていた。
渡された腕時計は咄嗟に投げ飛ばされ地下室の床を滑り入り口付近へ転がっていく。
「いやあ…驚いた。例を言うよ」
尻もちをついた状態で、燃え盛る焼却炉の炎を眺める。
「そこで何して居るんだ!?」
突然の出来事に、何が要因かと探る様に焼却炉を観察していた二人の耳に支配人の慌てた叫び声が響き、背後から二対の足音が響く。
「コナンくん!?また勝手にこんな所に」
「蘭ねえちゃん!上に居る警察を呼んで来て!早く!」
突然地下へ駈け込んで来た体の支配人を追って来たらしい蘭が全てを言い切る前に、割って入る。支配人に見つかってしまったこの状況で、彼がどんな行動を取るか分からない。
何せ、人間が焼ける所を優雅にソファーに座して眺める様な人間だ。
「絹江さん…?」
状況は呑み込めないままにも、コナンの切羽詰まった様な鋭い声に経験から何かを察した蘭が慌てて上階へ戻ろうと踵を返した所で、立ち止まってしまう。
そこには、蘭より一足遅れて地下へ降りてきていた絹江がいた。
ただその様子は異様で、まるで幽鬼のようにふらふらとした歩みながらもその瞳には狂気じみた威圧感が宿り、向かい合った蘭の足を止めさせた。
ふらふらとした足取りでゆっくりと進む絹江は、先程コナンが放り投げてしまった腕時計を振るえる手で拾い上げる。
完全に据わった目で、それを確認した次の瞬間、
「これ、正平に…私がプレゼントした、なんで、なんでこんなところに…正平は!?正平はどこなの!?どこに居るのよぉおおおおおおおおぉおぉ!?」
常に不安げにしていた彼女からは想像も出来ない程の絶叫。悲鳴の様な叫びをあげて支配人に掴み掛かる。
がんっ!と大きな音をたてて、不意打ちで掴み掛かられた支配人はその勢いのままに熱され始めた焼却炉に背中を打ち付ける。
「あんた正平は来ていないっていったじゃない!?なのになんで正平の持ち物があるのよ!?」
「き、絹江さん落ち着いて…!」
火事場の馬鹿力とでも言うのか、女性の細腕が成人男性の首を締め上げながら揺する。狂乱する絹江を落ち着かせようと蘭が駆け寄るが、弟への依存具合を垣間見ていたコナンからしたら、あの状態の絹江を落ち着かせるのは酷く難しい様に思えた。
これは、自分が上へ行って人を呼びに行った方が早いだろうと、駆け出した所で、すっと割り込む黒い影が有った。
まるで、道を塞ぐように蹄のブーツを履いた真っ黒な衣装の少女が立ちふさがる。
「黒井さん!そこを退いて!」
「ここを開けては駄目ですよ。こけしが来て居ます」
地下室の惨状など我関せず、興味なし、といった表情の黒井はふるふると首を振る。
「こけし!?」
その意味の分からない言葉に、表情一つ変えずに見返す、黒井の真っ黒な瞳にぞわり、と寒気を感じる。
「小夜林!焼却炉だ。客室と同じ球霊の印があった。この混乱だ、穏便にとは行くまいから、全て踏みつぶしてしまってくれ。事後処理は私がどうにかしよう」
更に意味の分からない言葉に、大きな声を上げた加賀知を振り返るが直ぐに前方黒井の動く気配へ再び視線を前に戻す。
「何をする気だ!?」
はぁ、と面倒くさい、とでも、呆れたとでもいう様な息を吐いて黒井が小首を傾げる。
「お気になさらず。ただ、そうです。君が今後も自分自身でありたい、四足で這いずりよだれをまき散らすだけの狂った生き物に成りたくないのなら、目を閉じて置くことをお勧めしますよ」
その言葉が終わった瞬間、コナンの視界は黒くがさついた、まるで巨木の様な質感のものに占領された。
黒井「黒井小夜林(くろいさより)。黒井(くろい)小(こ)夜(や)林(き)。完全なネタの名前です。カオスに成ったので僕が元凶を踏みつぶす事になりました…人巳、ちゃんと事後処理してくださいね?勿論、探偵の方もですよ」