名探偵と探索者でいあ!いあ!   作:犬(ゆきいろ)

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やっとこさの続き。
コナンさんパイセンはSAN値が高い。つまり幸運値も高いはず。
幼児化したのがファンブルか、と言えば、あの探索者的首の突っ込み具合で必然的に巻き込まれたものだから仕方がないよね。
あれはシナリオの導入なのだ。あまりにも非協力的だとKP(世界)に殺されてしまうのです。



かまど旅館でいあいあ!17

全ては茶番である。

 

目の前の光景に、小夜林は辟易とした表情…いや、実際には表情は何の変化も示さず黒い空虚な瞳で目の前の茶番を眺めて居た。

茶番という以外になんと言えば良いのだろうか?

一応は現場検証という名目上、やって来た警察官もこの旅館に居た人々も真面目腐り、緊張した重々しい表情で事を進めているが、その実、支配人の男以外は皆人巳の支配血清で操らているだけだ。

真実としては術者が邪神召喚を試みた儀式の地にて、降霊術を行った一般人が焼け死んだ…というよりも炭化した、という物だが、無能の名を欲し儘にする警察官にそんな真実は通用しない。

 

ヨグ=ソトースは人間に邪神と呼ばれる分類の中ではまだ温情のあるものだ。望む知識を与えてくれる。ただその得た知識に人間の精神は付いて行かないだけだ。霧の様なヨグ=ソトースの身体に触れたとしても炭化、等というう人間でも観測できる変化しか起こさない。

非常に有情である。

だが、警察にはそんな事象さえも受け入れて貰えない。だから、それとなく超常的な物の存在を隠匿するように制限を掛けられている。

 

ただ、支配血清の効果の出なかった江戸川コナンという少年だけが、邪魔をしない様に人巳が気を引いて居るのだが…。

 

小夜林としては、どんなに無能共が現場検証をしようが、辿り着く結論は既に用意されたものでしかないのだから、仕方がない。

早く終われとばかりにぞろぞろと無意味な事をして回る人間の後を些か遅れてついていく彼女の耳に、何か、複数の物が倒れる音が届いた。

 

丁度、二回の休憩スペースになって居る所から件の三階へ向かう為の隊列を築いて居る最中でああった。

見れば、こけしが十数個、ころり、と転がっている。

 

「…なんでこけし」

 

思わずの様に呟いた小夜林の言葉に、警察官を先導する様に先を進んでいた支配人が勢いよく振り返り、自身に追従していた人数を視線で数えた後に慌てた様に駆け出す。

案内されていた警察官は勿論、奥方や毛利探偵、の驚いた様な声も無視して階段を駆け下りて行く。そのすぐ後を探偵の娘がコナンが居ない事に気づいた様に駆け出す。

 

ある程度、行動や思考を操れようが大事な者や自身の生命に関わる行動は命令が聞きづらくなるらしい。今回に関しては超常的な物を伏せる事、となって居ただけなのだから、致し方ないだろう…。

 

「あ、わ、私…蘭さんとコナン君探してきます…」

 

自身の弟が行方不明であり、常に絹江を気遣っていた蘭の慌てた様子に何か思う所が有ったのだろう。警官の制止を聞く前に駆けだして居た。

 

「僕が皆を呼戻して来るのでどうぞお構いなく。皆さん先に行っていてください」

 

幸いな事に、諸事情により身元を詳しく調べられては困る小夜林に対して注意がそれる様に、人巳が配慮してくれていたらしく特に訝しがられる事も無く集団から離脱した。

 

 

 

 

その結果がこれである。

 

地下階でありながら、それなりに高さの有った筈の天井を枯れ木の様な黒い大きな影が突き破り、歪な歯が並んだ口から異音としか言えない鳴き声を発し、蹄の足を踏み鳴らす。

 

激しく掴みあっていた筈の絹江も支配人もその動きを止め、枯れ枝の様に広がりうねる触手を見上げあんぐりと口を半開きにし呆然とする。

 

「馬鹿な、こんな馬鹿な事、こんな…」

 

今までその手で幾人もの人間を焼き殺して来た男は化け物としか表現のしようのない影に「ありえない」と譫言の様に繰り返す。

確定的な弟の死の証拠を突き付けられ、既に狂気の縁にいた絹江は完全に脱力したのか座り込み黒い影が上げる鳴声に共鳴する様にけたけたと笑い転げている。

 

「おやおや…想像以上の大惨事だ」

 

小夜林に命じた筈の当人さえ、呆気に取られた様に呟く。

 

「コナン君!!大丈夫!?ねえ、しっかりして!!」

 

混沌を極めた現場で、狂気へ落ち行く人々を振り切り、善性の塊の様な少女は本当の弟の様に思って居る少年の元へ駆ける。

幾ら善良なる彼女でも、小柄な人間の形から膨張する様に飛び出した黒い仔山羊の出現と共にそのエネルギーで吹き飛ばされ後頭部を強打して失神した身内を選んでしまうのは仕方ない。

誰にも咎める事はできないだろう。

 

まぁあ、この世に蔓延る邪神などはここぞとばかりに罪悪感を煽って楽しむかも知れないが。

 

まるで黒い仔山羊は小さな子供が少女に抱えられたのを確認したかの様に、にわかに暴れ始める。わさりわさりと枝の様な触腕を振り回し、身をうねらせ、吼え声を上げながら火の入った焼却炉を大木の様な足が踏みつける。

 

ぎぎぎぎ、と金属軋む不穏な音が鳴る。

黒い仔山羊も声高く吼える。

振り回した触手は遺品の納められた棚を打ち壊し、天板を叩き落す。黒い化け物を止めようとするかの様に十数体のこけしが取り囲むが、そんな健気な反撃など無意味に終わり、触手に巻き付かれ、気味の悪い粘液を零す大きな口に放り込まれてしまう。

 

━ぎゃああああああああぁぁあぁあ゛あ゛あ゛っっ!!!

 

「……っ!!」

 

ばぎりばぎり、と木製のこけしが大きな口で咀嚼されると同時に十数の、不特定の悲鳴が木魂し人巳が眉を顰めながら耳を塞ぐ。

コナンを抱えた蘭は、得体の知れない物から少年を庇う様にいっそう強く抱きしめる。

 

それとほぼ同時に怪物の踏みつける圧に耐えきれなくなった焼却炉が炎を噴き上げながら瓦解し、辺り一帯に燃え広がる始める。

絹江は噴出した炎にまかれ、髪や皮膚が焦げ付く臭いをさせながら「正平…正平…」と弟の名前を呼びながら動こうとせずに笑い続けている。

 

「さて…では、私は後始末をしようか。火は、苦手だしねえ」

 

人巳は、焼けかけて居る人間も未だに木霊する複数人の悲鳴も、小夜林だったモノも、小さな子供を守る少年も無視して支配人の背後に歩み寄る。

 

「取り合えず、この件は全てあなたのせいという事で」

 

白い手袋の嵌められた手には、針が装着済みの注射器が握られていた。

 




黒い仔山羊のSAN値減少は1d3/1d10ですが、こんかいはそれぞれに補正が入って居ます。
次回でかまど旅館編はおしまいです。
人巳と小夜林の辻妻合わせ回、コナンのどきどき盗聴器回、小夜林の実家からの連絡回。お楽しみに(白目)
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