心理学連発で周りの人間をじろじろ見回すのも問題ですが、神話生物の心理を不用意に覗き込むと危ないという事ですね。
名探偵世界の探偵さん達も、クトゥルフとドッキングしてしまったからには用心して頂きたいものです。
宮口絹江の依頼により、件の『かまど旅館』に小五郎に蘭、依頼者である絹江も伴いやって来た。
一度直接かまど旅館に行きたいと言ったのは絹江本人だ。
その旅館がある周辺には目ぼしいものも無く、旅行で訪れようとは思わない土地。周囲には他に宿泊施設もなく『かまど旅館』は遠出する為の中継地点としか利用されているようだ。
建物こそは、どこか小洒落たアンティーク調の建物だが駐車場はがらんとしており繁盛している様には見えない。
旅館の人間は宮口正平を見たいと言えども、ここを利用した客などからも証言を取ろうと思っていたのだが…思いの外周囲が閑散としており、まず尋ねる人間も居ない。
周囲をしばらく観察し、これは得られる情報も無さそうだと苦い顔をする小五郎を見上げながらコナンが言う。
「最近から旅館の中で喫茶店を始めたみたいだよ。珈琲が美味しいってレビューが何件か付いてるし、常連さんも居るかも。その人たちからなら何か聞けるかもよ」
道中検索していた結果の画面を背後を歩く大人たちを振り仰ぎ、掲げてみせる。
と、背中に軽い衝撃と、
「…わっ!」
という驚いた声。
慌てて振り向くと、白と黒の中々に奇抜な格好をした二人組みが居た。背の高い白い方が黒い小さい影を抱きとめて居るところを見ると、どうやら前を歩いていたその人物にぶつかってしまったらしい。
「ごめんなさい!」
いち早く謝罪を述べたのは、小五郎よりも保護者然としている蘭でコナンも慌ててその謝罪に続ける。
「お姉さんごめんね…怪我してない?」
白い方に支えながら体制を立て直した黒い人物は、成人しているにしては随分小柄でレースとリボンが多量に使われた服にバランスの悪そうな靴を履いてた。
これでは、小学低学年まで小さくなった体での衝突でも転んでしまうだろう。
「大丈夫です。…ごめんなさい。僕らも歩きスマホをしていたので君に気づかなかったんだ」
不安定な靴なせいか、屈んで目を合わせるまではしなかったが外見上はこんな小さな子供にも丁寧な言葉で謝罪する。
しかし真っ直ぐに見つめられたコナンはその彼女から妙な違和感、というよりも何とも形容しがたい薄ら寒さを感じた。日本人らしい黒い瞳なのだが、何故かその黒さが正体の掴めない混沌たる闇のそこを覗き込んでしまってる様な焦燥感が押し寄せるのだ。
そのなんとも粘つく様な黒い瞳のせいで瞬時に何かを言い返すことも出来ない。
「サヨリ。邪魔に成っている様だよ。彼らもかまど旅館に用の様だ。お先にどうぞ」
ほんの数拍、妙に長い時間に感じたがそれはもう1人の白い人物に寄って遮られる。
背の高さや凹凸の無い体つきで男性かと思って居たが、驚いた事にその声は女性の物で、そう思ってよくよく見れば顔立ちも驚く程に美しい。
まさに美女。人類の最高峰だと言ってもいい具合には美人なのだ。ただ、偶像のキャラクター染みた衣装にスキンヘッド、その毛髪の無い頭皮に入れられたタトゥーに、普通の感性の人間ならば怖気づくだろう。
現に、数々の事件で巡り合った美女達に鼻の下を伸ばしていた小五郎でさえあんぐりと口を開けて何も言おうとしない。
お先にどうぞ、と笑顔で道を空けてくれたその異様、異形とも言っていい麗人に軽く会釈をしながらコナン一行は一足先に旅館の中へ入る。
しかしコナンはその姿が見えなくなるギリギリまで、その笑顔から目が離せなかった。サヨリと呼ばれた黒い少女と同じ様に微かに白い人物からも妙な感覚を覚えたのだ。
朗らかな笑顔が、何故か得物を見つめる蛇の様に見えた。
…。恐らく鱗の刺青の印象が強かったせいだろうが…。