一度頭のおかしいKPが扉にAPPロールを許可した事はありました。
先ほどの親子連れらしき4人組から少し間を置いて、チェックインをする。支配人らしきフロントの渋い男性は驚いた顔をする。
それは人巳や小夜林の服装にもだが、なによりも「こんなにお客が来るなんて」と言った顔だ。
「今日はそんなにお客さんが多いんです?」
フロントに僅かに身を乗り出すようにして尋ねる人巳に、ええ、と支配人は頷くが、事務的な処理を終えて手元の作業、時計を磨くことに意識を集中している。
「一日に三組も宿泊のお客さんが来るなんて滅多に無いですね。最近は家内のやってる喫茶店への人ばかりで」
へえ。と相槌を打ちつつ支配人が視線を逸らさない時計へ目をやる。
「中々素敵な時計ですね」
「そうでしょう、そうでしょう。どれも私自慢のコレクションなんですよ。いやぁ、さっきの子も時計に興味を持ってくれてね。小さい子ながら中々見る目のある子だと思うよ」
時計に話を振った瞬間に嬉々として話し始める。その目の輝方が、二人が今までに数度目にした『狂信者』というそれを彷彿とさせるもので、心中でのみ苦い顔をする人巳だが、表面には出す事は無く、しれっと部屋の鍵を受け取り時計に対する熱いご高説を交わしながら小夜林を伴って客室へと向かう。
一回のフロントに併設する喫茶点には先ほどの四人組は居らず、中年の男だけが窓際の席で足を組んでこちらを眺めていた。
「狂信者染みた人だったね」
エレベーターの様な物は無いらしく、階段が一つだけ。そこを上っている途中で人巳は小夜林に話しかける。普段人前で熱狂的に歌う小夜は林だが本来は人見知りで口下手なのだ。
丁度自販機等とソファーの並ぶ、広めな空間に出た所だった。壁際の棚には30体近いこけしが並び、こちらをじっと眺めている。何とも拙い作の割りに、それぞれ顔の特徴は違い、無気味だ。
「時計…時間に関するアレの狂信者で無いといいのだけど」
散々怪異紛いのオカルティックな事件に巻き込まれたせいで、狂信者という厄介な存在の危険度は身にしみている。
「その可能性は低いと思います。彼は魔術師の類には見えませんでしたよ。お母さ、地母神の様な万人に分かりやすい恩恵が有る訳ではありませんし」
「ひっそり信仰しているだけなら私達になんの害も有りはしないし、放って置こう。変に関わって狂気を目撃したくもない」
「そうですよ。僕らはニーアに頼まれた事だけを済ませましょう」
そんな風に話してる間に客室に付いてしまう。もともと荷物は最小限。
残念ながら二人には『鍵開け』をする様な手先の器用さも無いので、そういった小道具を持ってきても何ら意味はない。
「さて、先ずは色々見ておきたいし評判の珈琲を飲みに行くかい?」
実はこの旅館、入り口からだが館内全体に珈琲の香りが満ちているのだ。若干、胸焼けを起しそうな位程に。
「はい。あ、いえ。人巳は先に行っていてください。僕は少し気になる事が有るので。そっちを見てから行きます。…その、すぐに行きます」
「そうかい?足元に気をつけて来るんだよ」
役者染みた、いかにも残念だ、という表情を作り小夜林の頭を撫でてて出て行く。
その手の感触を名残惜しそうにしながらも小夜林も行動すべく立ち上がり、部屋をでた。珈琲の香ばしい匂いに紛れて少しばかり焦げ臭い臭気を僅かに感じ取ったのだ。
名探偵コナンの世界は、タックル、蘭の蹴り、などの鍵開け(物理)がメジャーなようですね。