今回はポエムなお話で番外編です。
「お願いします!!!」
それはこれまでの自分の人生の中でも一番美しい土下座だった。そして店長は言う。
「働かざる者食うべからず。置いて欲しけりゃ働け。」
店長かっこよすぎます。
これはここから分岐する有ったかもしれない話。
その日の劇場は普段よりもいくらか暑かった。
先日はそうでもなかったが今日はとても暑かった。
「なあ太郎さん?」
何ですか勇一さん?
「俺たち異世界でまさかのキグルミデビューだねぇ。」
びっくりだねぇ。
働かざるもの食うべからず。その一言で働きに出たのは果物屋さんではなく、劇団であった。何でもここは店長の知り合いがやっている劇らしく店長のおじいさんの代から続く劇団なんだとか。
その劇団の役が二人足りない、というので動ける知り合いを探していたんだとか。それがつまり僕たちだ。
店長が言うには良いキグルミ役者には条件がある。
1つキグルミを着てもバク転が出来ること。
2つ息のあった相方が居ること。
勇一はこの条件をクリアした良いキグルミ役者らしい。当の勇一はてぇいと掛け声を出しながらキグルミで三回転バック転を決めていた。
これは一流にちがいない。
花は裏方として働いている。劇が始まる頃には店長と一緒に劇を観るそうだ。
僕は全身触手だらけの怪物を演じることになった。この怪物は悪い神様を表しているらしい。そして勇一が演じるのはこの世界で最も信仰されている良い神様。
演目はこの世界のおとぎ話だ
むかしむかしのことです。
平和で素敵でキレイな世界がありました。そうわたしたちの世界です。人は笑い鳥は歌い花は咲き乱れるそんなわたしたちの世界をねらって悪い神様がとつぜんおそってきたのです。
がおーがおー食べちゃうぞー
触手の怪物がノッシノッシとステージを暴れまわる。
たいへんです!!
悪い神様が僕たちの世界におそいかかってきたぞー
よし、皆で良い神様をよぼう
子供達が大声で良い神様と叫ぶ。
とおーう。
白いタイツの良い神様が三回転バック転を決めて現れた
悪い神様、これ以上お前の好きにはさせない!!!!
そして良い神様は悪い神様の触手をパンチやキックで壊していく。
悪い神様は悲鳴を上げながら去っていく。
良い神様は満足気にうなずき、部下の竜神と法王にこの世界は頼んだよ。と告げ去っていく。
こうして悪い神様はさった。でも忘れてはならないこの世界に悪い神様の触手が残されてしまったことを。
そうして僕たちの劇は終わりを、迎えた。
そして夜。
今日は月がきれいなよるだなぁ。
こんなにも月がきれいだと思った夜は異世界に来て初めてかもしれない。竜神に襲われて、馬車まで歩き通して青果店で働いて、ゆっくりと月を観る機会は思い返せばなかった。
劇は成功だった。子供たちは喜んでいたし、店長も満足そうに頷いていたし、花も面白いと言ってくれた。こんな思い出が出来たのはこの世界に来れたからだと今は素直にそう思えた。
一人で居るときはこんな風に思えなかった。
そうか、勇一や花、店長、と居るから楽しいんだ。こんなかけがえのない日々を両親とも共有したい。
そう考えながら僕は深く目を閉じた。
友達が来てから田中太郎はよく笑うようになりました。
よかったですね。