ぐだぐだ いん おんらいん   作:おっきー太

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余りに原作準拠だとあれかなーっなんて思った結果何処からともなく飛び出してきたちょっとしたお話です。





ノッブ「ワシが脇役とかあり得ないんじゃが。」

 第一層ボス攻略戦。

 それは意外に呆気なく終わりを告げた。

 ディアベルが死に、キリトが止めを差し、自分1人で罪を被った。

 本来の物語と何も変わらない。

 織田信長、沖田総司。歴史に名を残した彼女らがソードアートオンラインという世界にログインしようがそれは変わらなかった。

 彼女らの技量が足りなかった?

 本来よりボスモンスターが想定外だった?

 

 否である。

 

 ならば何故か…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼前に聳え立つは、鋼鉄の扉。

 表面が青緑色に変色し何本もの蔦が絡まっているその扉は、少なくとも成人男性の3倍以上は高い。その扉に装飾された髑髏のシンボル、両隣に据えられた数本の松明には青白い炎が点っている。

 言ってしまえば、ダンジョンの最後を飾るボス部屋の入り口である。

 

 

「やっとここまでこれましたよ……。いやぁ、本当に長かった。」

 

 

 ここに辿り着くまでの迷宮区の道中で色々な意味で苦労をした1人の少女は、心底疲れたように大きく息を吐き出す。

 

 

「誰のせいじゃ、誰の。どこぞのアホたれが『きょ、今日はコフりそうな気分なのでパスします。』なんてほざきおるからに。全くこれだから弱小人斬りサークルの姫は……。」

 

 

 沖田総司こと桜セイバーは、妙に甘ったるい声で自分の声真似をする相方の言葉に不満を全面に表すように頬を膨らませる。

 

 

「いや、半分くらいはノッブのせいでもあるんですよ?記憶の捏造はよしてください。確かに私にもちょっとくらいは悪いとこも無くもなかったかもしれないかもしれないですが!ノッブが『腹痛カッコカリ』でサボったあの()()の事を沖田さんは一生忘れませんよ。」

 

「なんのことやらさっぱ……いや、何でもないです。剣下ろして、下ろしてプリーズ。」

 

 

 現在進行形で沖田の相方を務めていらっしゃる織田信長様こと魔人アーチャーは相変わらずの相棒の脳筋っぷりに軽くため息をついた。というか、沖田の機嫌が悪いことも相まっていつもに増して狂暴性が増している。

 

 今回、沖田の沸点が少しばかり低いのには一応ちょっとした事情がある。この薄暗いじめじめした迷宮区にはちょっとグロッキーな芋虫のようなモンスターがちらほら。

 後はお約束通りに。

 別段そういう系に耐性があるわけでもない沖田総司はオールウェイズニヤニヤなノッブに芋虫系モンスターを押し付けられ続け、女の子らしく悲鳴をあげること数十回。

 まぁ、機嫌が悪くなるのも無理はない。

 

 

 閑話休題。

 

 

 迷宮区の芋虫のようなモンスターに負けず劣らず、何処か気色の悪いデザインをしている目の前に巨大な扉に目線を移す。

 

 実を言うと、さっきノッブに剣を振るおうとしていた沖田は、扉の側にいるノッブから数メートル離れた位置から動こうとしない。ノッブには分かる、沖田の目が『そんな扉触りたくもないので、とっととノッブだけで開けてください。』と物語っていることを。

 ゴキブリとか素手で掴みにいっちゃう系女子であるノッブでさえ、もう少しで『うへぇ』と漏らしちゃうほどの造形なのである。流石にその造形は酷すぎると言わざるを得ない。重厚な印象が深かった第一層のボス部屋の扉とは、まるで大違いである。

 

 しかし、そんなことで折角の苦労を台無しにするわけにもいかず。

 

 

「──こほん。ふははは、こういうの救世の英霊っぽくて中々良いではないか!いざ化け物退治、わしらの初のボス攻略じゃ!!」

 

「えぇ、この沖田さんがいれば百人力ですとも!どんな相手でもすぱすぱっと終わらせてみせましょう!!今日はコフりそうにないですし!」

 

「──まっ、ボスが巨大な芋虫かもしれんがな。」

 

「ちょっーと!!そーゆーふらぐ建てるのやめてくれません!?」

 

 

 沖田の狼狽えようを豪快に笑い飛ばしながら、ノッブはその扉を押し開ける。

 ちょっと触るのに躊躇しちゃったとか、そういうことは内緒である。今は、カッコいいノッブなのである。カワイイノッブの出番は今ではない。

 

 

 

 緊張?

 

 恐怖?

 

 そんな物は彼女らには一辺たりともありはしない。

 彼女らこそ、人理の守護者。死後その身を英霊として召し上げられた一騎当千、万夫不倒の英雄なのだから。

 

 

 異様なほどに存在を主張していた巨大な扉は、たった二人の余りにちっぽけな挑戦者を嘲笑うかのように甲高い音をたてながらその口を広げる。

 

 

 

 

 

 

 さぁ、始めよう。

 

 

 

 

 

 

 たった二人の()2()1()()ボス攻略を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 学校の体育館の数倍はありそうな広大な空間に鋭い悲鳴が響き渡る。

 

 それは、迫り来るモンスターの凶刃に今にも命を奪われそうな女の子の悲鳴────

 

 

 

 

 

 ではなく。

 

 

 

 

 原因はボスの外見にあった。

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!なんで見事にふらぐを回収しちゃってるんですかノッブのバカァァ!!」

 

 

 つまり、そういうことである。

 ボスの名前は『The keeper of hell forest』。まんま、『地獄の森の番人』である。

 まさしく地獄から涌き出てきたかのようなその醜悪なボスに、道中の雑魚芋虫ごときの見た目にビビっていた沖田が耐えられる筈もなく。

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!ノッブ、あれ1人で倒して下さいよ!?私は小さい骸骨みたいなの倒してますから!!」

 

 

 道中の芋虫を10倍ほどに肥大化させ、醜悪さも10倍したようなボスから突き出されるこれまた醜悪な職種をひらひらと避けながら、沖田は休む暇なく泣き叫ぶ。

 

 対するノッブといえば。

 

 

「味方の叫び声が化け物の奇声より五月蝿いとは一体どーゆー……。」

 

 

 フラグを建てた張本人であるという事実は綺麗さっぱり忘れ去ってしまったのか、目の前の惨状にどう対応していいか分からずにボーッと完全な傍観状態。

 

 最早、ボス攻略なんていう次元ではない。

 本当にコイツら戦う気があるのかと思われても仕方ないようなレベル。

 

 

 英雄譚、ここに潰えり。

 どっかの誰かさんがそう思った瞬間であった。

 

 

 

 

 

 チッ、と。

 

 

 何処から飛ばされたかは分からない。

 しかし、明確にそれは沖田の頬を掠めた。

 

 それは緑色の液体だった。

 地面に落ちてもまだ尚、泡を噴き続ける()()()のついた液体はどう見ても感じの良いものとは思えない。

 

 沖田は、赤いエフェクトを発する頬の切り傷を触って確かめようと左腕を動かそうとするが、それはまるで自分の体では無いかのように動かない。

 視界の左上のHPバーの下には黄色い小さなマークが付いている。これが状態異常の一種である麻痺の証だということは、さしもの沖田でも理解できる。というかノッブに『これだけは覚えとけブック(脳筋用)』とかいうのを作られてバカにされまくったので、必死こいて覚えた結果だった。

 

 

 そんな現状を一通り理解した沖田に更なる悲劇がふりかかる。

 動けない沖田に化け物が繰り出したのは毒の霧。しかも普通は紫色であろう所をどす黒い緑色の特別仕様。ようは気持ち悪さが増したのである。

 毒霧の風圧を真正面から受けた沖田の髪が勢い良く後ろに靡く。

 避けたくても避けられない沖田の全身に毒霧が被さった様子を化け物は認識しているのか、自分の策にまんまと嵌まった獲物を喜ぶかのように今までで最大の咆哮を放つ。

 

 

「ギギ■ギギ■ャギ■ャ■ギィィィィ!!!!」

 

 

「うわっはっはっは、ひぃぃっひっひっひゃぁっ!!!!」

 

 

 

 ついでにノッブも大爆笑。 

 

 

 

 そんな沖田の惨状を見かねた、というか半ば待ちかねていたノッブは大声で切り出す。

 

 

「ふっはっはっは、これは第六天魔王であるこの織田信長が直々に手を下さなくてはならぬようじゃな!!そこを退け沖田、後はワシが引き継いでやろうではないか──って、そういや動けないんじゃったか、うわっはっは───」

 

 

 

 

「───ノッブ。」

 

 

「────ひっ!」

 

 

 やはりまた床で笑い転げ始めたノッブは、突如耳に入った底冷えのするような声に体を硬直させる。流石にからかいすぎたかと、今更ながらに後悔するが時既に遅し。その事は、沖田の絶対零度の声音が物語っている。

 そんな内心冷や汗ダラダラなノッブはゆっくりと上体を起こして恐る恐る沖田の方に振り返る。

 

 

「な、なんじゃ?今は仲間内で争っている場合ではないと、わし思うんだよネ!」

 

 

 さっきまで争いの種を量産しまくっていた奴が何を言うかというところだが、

 

 

「解毒剤下さい。」

 

 

 沖田の方はそんなこと全く意に介していないようで、ただ端的に目的を告げた。その表情は完全なる無。人間、怒りとか羞恥とかその他色々混ざると無表情になるという説は本当なのかもしれない。

 

 そうしてぐだぐだしている間、化け物の方も止まっている訳ではない。自らの獲物にとどめを刺すべく、その巨体を引き摺って意外に速いスピードで突進してくる。身動きのとれない沖田との距離は残り.15メートル。沖田と怪物が接触するまで残り約3秒。

 対して、ノッブと沖田も20メートル以上離れている。3秒以内にノッブがポーションを持って沖田の元に辿り着くのはまず不可能。この世界のどんなプレイヤーであってもそれは決して達成することのできない話。

 

 

 

 

 しかし、笑っている。

 

 

 その絶体絶命の状況を前にしても、ノッブはその口元に不適な笑みを浮かべている。まるで、こんな状況は容易く乗り越えられると言外に告げているかのように。

 

 

 自称やることはちゃんとやる出来る女なノッブは、既に取り出してあった状態異常回復のポーションの蓋を片手で押し開け、その辺に打ち捨てる。

 

 ──残り2.7秒。

 

 

 ポーションを持った右手を軽く後ろに引き、目にも止まらぬ速さでその手を振り抜く。

 

 ──残り2.5秒。

 

 

 投げられたポーションはダーツの矢のごとき真っ直ぐな軌跡を描き、寸分違わず沖田の横顔、その口元に吸い寄せられるかのように飛来する。

 そして、ガキッという音をたてながら沖田は僅かに開いた口で時速約150㎞で飛んできたそのポーションを受け止める。

 

 ──残り1.9秒。

 

 

 トクトクと沖田の体内にポーションの中身が段々流れていく。

 そして───

 

 ──残り0.0秒。

 

 

 怪物は沖田の頭上に飛び上がり頭からその巨体を沖田へ打ち込む。その余りの衝撃に部屋全体が大きく振動し、砕けた床の無数の欠片が粉塵となって宙を舞った。

 

 爆音が鳴り響く。

 

 粉塵が晴れる。

 

 

 

 

 

 

 そして少しの静寂の後、声が聞こえた。

 

 本来なら逃げられずに押し潰されていた筈の人の声だった。

 

 

 

 

 

 

 

「───速攻で()()をつけます。」

 

 

 

 

 

 

 ただその声は告げる。

 ここから先は一方的な蹂躙であると。

 

 

 その声を聞き取ったのか、はたまた気配を感じたのか、自らの()()()獲物を食い散らかすべく、怪物はその巨体を後ろに反転させる。

 

 だが、そこには何もない。静まり返った空間だけがそこを支配している。

 

 次の瞬間、ザシュッ、と一筋の斬撃が怪物の体を抉った。

 怪物がその傷から体液が滲み出ていくのを認識したその次の瞬間には、新たに一筋の切り傷が別の場所に浮かんでいる。

 そして、また一筋。

 さらにもう一筋。

 

 

 その繰り返しが何回続いただろうか。

 その切り傷の1つ1つは大したことのないものだったとしても、それが数十、数百箇所という所にまでなってくれば、話しは変わる。

 

 

 

「グギッ、■ゲグ■■ギャ■ァァァァッッ!!!!!!」

 

 怪物は正しい認識をすることを放棄し、ただひたすらにその巨体を捻ってまな板に乗せられた鯛の如く激しく暴れる。

 

 例えば、自分の回りを少し前からずっとブンブン飛んでいる小蠅がいたとする。当然、その姿をとらえることは難しい。そういう時に頭を振ってその難を逃れようとしたことはあるだろうか。

 つまるところ、人間としても当然の思考なのである。それは一時的に難を逃れるための選択であるならば、正解の選択肢であるといえよう。

 

 だが、相手は怪物にとって1人1人は取るに足らないようなどこぞの有象無象ではない。

 れっきとした、人間にとっての狂暴な蜂のごとき存在なのである。

 

 

 

 既にボスモンスターのHPはイエローゾーンに突入している。本来ならあったはずの、いや実際行動パターンは変化している。しかし沖田総司の前では、それは、くねっているか跳ねているかのようなほんの些細な違いでしか無いのだ。

 

 そして今も尚HPは少しずつ、だが着実に減り続けている。怪物がどれだけ部屋の中を走り回ろうが、暴れようが、跳び跳ねようが、HPは等速で減っていく。

 

 

 

 

「ヴォゥゴァァァァァ!!!!」

 

 

 怪物は最後の足掻きと言わんばかりの、強烈な毒霧を身体中から噴出させる。

 完全なる全方位攻撃。逃げ場などない。これで敵を倒す所までは行かなくとも、隙を作る事くらいは可能である。

 

 そんな怪物の思考通り、沖田は大きく飛び退いて怪物から距離を取る。

 沖田は知る筈もないが、この毒霧は怪物のHPを回復すると共に、取り巻きのスケルトン型モンスターのpop数を増加させるという効果があり、その継続時間は20秒。まだ15秒以上もそれは噴出され続け、敵を寄せ付けない。

 

 

 しかし、沖田は自らの剣を怪物の真正面で正眼に構える。

 

 そして勢い良く、未だ噴き出され続けている毒霧の中に疾走していく。

毒霧が見かけ倒しで、実際に此方へのダメージがさほど無いことは1回目の屈辱において確認済み。この後に大技が来るという可能性を考慮すれば、ここで蹴りをつけることが最善の策。

 

 

 

 ならば、恐れることはない。

 重傷を避けるためなら軽傷を厭わない。

 今までずっとそうやって数多の戦場を切り抜けて来たのだから。

 

 

「────これで、終わりですっ!!」

 

 

 ボスのHPは残り数ドット。

 

 そのボスに、毒霧のダメージを被りながらも、沖田は一切の躊躇無く突進していく。

 毒霧ごときで削りきれるほど沖田のHPは少なくない。何故なら、最初の大したことない攻撃だと思って避けなかった麻痺付与の攻撃以外、沖田のHPを削ることは無かったのだから。

 

 そう、結局のところ、沖田総司という人物と対峙したその時点で、この怪物は『まな板の上の鯛』であったということだ。

 

 

 

 

 

 ───── 一振りの剣が眉間に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、なんというかそんな出来事があったわけなんですよ。」

 

 

 

「「「「やっぱりお前らかよ!?!?」」」」

 

 

 

 そう叫ぶものたちの傍らにあるチラシの題名は『消えた21層のボス、未だに明かされぬその真実とは!?!? 』なんていうもの。

 

 

 

「因みに、その増え続ける取り巻きモンスターを倒したのは、そう、このワシじゃ!!!!それはもうまさしく歴戦の勇者のようにバッタバッタと敵を薙ぎ倒し───」

 

 

 

「脇役、だったんですね………。」

 

 

 

「人が気にしていることを言うでないわ、このバカ者がっっ!!うわーーん!!!!」

 





1~20層までの間に何があったのかということは、書くかもしれないし書かないかもしれません。

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