緋弾のアリア ルートF   作:たかめ

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およそ30日。お久しぶりです。
名探偵H・・・一体誰なんでしょうね?


名探偵H

何やらいい香りで目が覚めた俺は、まだ少し疲れが残っている体を起こす。

ベッド下にはすでにアリアから預かった箱がない。取りに来たのだろう。と、いうことは―――

 

「・・・アリアか。もういたのか。」

 

「キンジ遅い!リサに伝えてた時間から2分も過ぎてるわ!日本人は時間に厳しいんじゃなかったの?」

 

部屋の扉を開けてリビングへ行くと食卓には料理が並べられ、すでに彼女の定位置となっている席にアリアは座っていた。

確かに日本人というか、日本は時間を厳守する欧米からしたら珍しい国なのだが、生憎俺は欧米帰りなのでそこらの時間感覚がおかしくなってるのだ。

 

「すまんな。つい先日までヨーロッパにいたんだ。感覚がずれてるらしい。」

 

「まあいいわ。さっさと座りなさい。これからのことについて話をしたいわ。」

 

これは珍しい。というのも、この女王を気取っているチビっ子お嬢様が俺と前向きにこれからの

話をしたいだなんて言い出すのだ。それにさっきのは皮肉のつもりで言ったのだが突っかかってこない。

・・・伝わらなかった可能性もあるか。

とはいえ、せっかく前向きにこれからのことを話す気になってくれたのだから、俺も食卓に着くことにする。

本日はリサの俺への気遣いからか、魚を主菜とした和食だ。

 

「で、極東戦役のことなんだけど。師団と眷属は停戦協定を結んだことは確かね?」

 

「ああ、それは間違いない。だがこれからも戦いが起こる可能性がある。ワトソンから聞いたかもしれないけどな、眷属から独立して動いた奴らがいる。―――いわゆる、鬼だ。」

 

「鬼・・・」

 

「リサは知っています。鬼の―閻という方の凄まじい力量を。正面から向かえばまず勝ち目はないと進言します。あ、もちろんご主人様の勝利は信じて疑いませんよ!」

 

リサの最後の一言は冗談ではないだろう。だが、リサも知っているらしい閻の力は本当に底が知れないのだ。

普段の俺はもちろん、ヒステリアモードになったとしても敵うかどうかも怪しい。

 

「いや、正直俺にも奴らの底は見えなかった。正面から立ち向かうには分が悪すぎるぜ。」

 

閻は銃弾が通用しない。閻が強い方なのか鬼という種族がみなそうなのかはわからないが、情報が不足している以上下手に出るのは危険だ。

俺の深刻な顔からいかに敵が強力なのか察した様子のアリアは――ほっ、と溜息をついて一言。

 

「そういうのはキンジに任せるわ。ママの裁判には関係ないだろうしね。」

 

そう言ってアリアは食事を始めた。俺は人外担当かっ。

 

 

 

翌日の放課後、俺はリサを連れて平賀文のもとへ装備の発注および交渉に向かった。身長はアリア近くで中身も子供っぽい彼女。実は装備科(アムド)の天才おこちゃま武偵だ。

 

「平賀さん、ちょっといいかな?」

 

「はいはーい!みんなの平賀文ちゃんなのだー!およ?」

 

声のトーンをいつもよりも高く明るくして特殊なキャラを演じている平賀さんは、かしこまったように俺の後ろにつくリサに目をやると同時に、その大きな目を更に大きくして、次第に輝かせた。一体どうしたんだこいつ。

 

「メイドさんなのだー!かわいいのだー!」

 

「ひゃっ!あ、あの―――!」

 

ぽよんっ―――平賀さんはこともあろうに、アリアや平賀さんには存在しえないリサの胸に思いっきり飛び込んだのだ。大きく揺れるその胸に平賀さんはすりすりと自分の頬を擦り付けて、リサ本人は顔を真っ赤にしその顔はとても恥ずかしそうだ。これはヒステリア的な意味で非常にまずい。

 

「はいはいそこまでにしましょう、ね!」

 

ちっこいくせに意外にも力が強い彼女の手をリサからはがす。こっちも少し鼻息が荒くないか?

 

「今日は昨日渡された注文書を提出しにきた。と、同時に値下げ交渉もこのメイドさんにお願いしてある。じゃ、あとは頼んだぞリサ。」

 

「え、お、ご主人様お待ちを!リサはこの方と一緒だと何やら危険だと本能で感じ取りました!何卒、ご主人様のお傍におかせてください!」

 

さすがジェヴォーダン。いい勘を持っていらっしゃる。俺もちょうど、ヒステリア的な意味でこの場は危険だと本能で感じているんだ。ここはひとつ、従順なメイドには酷い仕打ちかもしれないが我慢してくれ。

何も聞こえない何も見ないといったジェスチャーで俺は部屋の扉を閉めた。

 

あの魔の部屋に置いてきた張本人が言うのもアレだが、リサをこのまま武偵校に残していくのはやりすぎなので、適当にぶらぶら校内を散策してみる。早速忌まわしい記憶しかない強襲科(アサルト)が見えてきた。

怖いもの見たさで強襲科にでも寄っていくか、とも思ったがこの時期強襲科の教官である蘭豹(らんぴょう)はとある理由で神経質になっているので捕まる危険性が高い。うん、やめよう。

今日は月曜、週の始まりだけあって武偵校の生徒がちらほら見える。

 

「と、遠山くん?」

 

「あ・・・」

 

自分の名前を呼ばれ振り返ってみれば、短い間ではあったが俺の一般人生活を送った東池袋高校からなぜかこの武偵校にいる望月萌(もちづきもえ)がいた。

 

「やっぱり遠山君だぁ!」

 

「お、おい・・・」

 

彼女は俺が遠山キンジだと確信するや否や、二人の間にあった距離を一瞬で詰めてきた。

 

「ちょ、近い近い!」

 

「久しぶり遠山くん!私のこと覚えてる?なんかヨーロッパに行ってたんだって?」

 

俺の言葉なんか聞こえてないと言わんばかりの距離でどんどん言葉を投げかけてくる。

望月は転校してからまだ日が浅いため、硝煙の香りなんか・・・少しはするが、女子独特の甘い匂いがダイレクトに伝わってくる。アリアや理子なんかとは比べ物にならないぐらい女女してるぞ・・・ッ。

ええいっ!こんなところでなるぐらいなら強襲科に喧嘩売ってきてやる!

決死の覚悟で俺は強襲科へと向かった。

 

「待ってよ遠山くん!」

 

リサが助けを求めてきたときと同じように、俺は聞こえないフリを貫き通した。

 

 

強襲科に来てみれば通称『死ね死ね団』が俺を笑顔で迎えてくれた。嫌な予感を感じさせる嫌な笑顔だ。

 

「お前ら、まさか・・・」

 

「ははは・・・そのまさかさ。」

 

その乾いた笑い声を聞いた途端電撃が走った。やはり、蘭豹の暴走が始まっていたか。

そう、なぜ俺が普段来たがらない強襲科をこの時期に―――限るわけではないのだが、余計に避けていたのか。

それはあの忌々しい催し、バレンタインデーにあった。

とある事情により、この日が近づいてくるにつれて蘭豹は目を真っ赤にしている。バレンタインにチョコの話題を少しでも出そうものなら、蘭豹の『校則違反による罰則』という名目の八つ当たりが強襲科に限らず生徒全体に及ぶだろう。

 

「しかし、今年は随分早かったんだな・・・」

 

「ああ、どうも転校してきたやつがバレンタインにチョコを渡すとかなんとかで堂々と教室で盛り上がってたらしい。酒飲んで酔った勢いで俺たちに八つ当たりさ。」

 

間違いない、望月萌だ。なんて面倒なことをしてくれたんだ。

そう話しているうちに―ドンッ、ドンッ、という果たして人間のものなのか怪しい鈍く重い足音が近づいてくる。

 

「や、やべえ!キンジあとは任せた!」

 

「おい待て!」

 

悲鳴を上げながら数十人の強襲科の生徒は俺を置いて逃げていった。くそ、俺がリサにした仕打ちはこれと同じくらい酷かったのか・・・!

 

「お、遠山ァ!強襲科に戻ってくる気になったのかぁ?アァん?」

 

「い、いえ。じ、自分はそんなつもりは・・・」

 

幾度も死線を乗り越えてきたこの俺が人間一人相手に萎縮している、だと。

もしかして蘭豹は俺が今まで戦ってきたどの奴らよりも強いのか?いやいや、そんなことはありえない。

・・・ありえないのか?

 

「お、お助けー!」

 

「逃がさねえぞ!」

 

蘭豹の人間の女とは思えない力で俺の腕は掴まれる。必死の抵抗虚しく、だんだんと廊下を引きずられるように引っ張られる。そのときふいに―――俺の腕に加えられた蘭豹の力が、消えた。

蘭豹を見れば、まるで絵に切り取ったように固まっている。動かない指に触れても反応がなく、特に力は必要なくその手をはがすことができた。

 

「どうなってるんだ?」

 

今までの俺の経験からすれば大抵これは超能力(ステルス)絡みの現象なのだが・・・これは蘭豹とは別の意味で厄介かもしれん。

蘭豹から逃れられたのは幸運だが、生憎俺は超能力の対策などは持ち合わせていない。まるで対象の時間を止めるような超能力に関してはいくらヒステリアモードの、加えて今は通常状態の遠山キンジではまともに対峙しようがない。

―コト、コト、コト

 

「誰だ?!」

 

何者かの足音が聞こえ反射的にベレッタを抜く。

 

「まあ待ちたまえ、遠山キンジくん。」

 

「あ、あんたは―――」

 

よく中世を舞台にした映画で見る茶色に近いスーツ、欧米人そのままの目鼻立ち、そして何事も見通すような瞳。

 

「シャーロック・・・!生きていたのか!」

 

キンジは再び銃を構え直す。

 

「ところで、今は西暦何年何月何日かね?日本時間で結構だ。」

 

緊張感も何もない質問にこけそうになる。

何の意図があるのか不明だが、もしまたこの男と対峙することになっても時刻ぐらいなら教えてもこちらに不利になるようなことはないだろう。

キンジは今現在の日付をシャーロックに教える。すると、普段は完璧なポーカーフェイスで保たれた彼の表情が、若干の驚きで染まった。

 

「ふむ、緋緋神によって飛ばされてしまったかな。いや~なんともなんとも!」

 

「そんなことよりなんであんたがここにいる!あの時・・・!」

 

シャーロックはイ・ウーに積まれていたICBMと共に消え去ったはずだ。緋弾をアリアに移殖したことにより奴の150年以上に渡る生涯は終わりに近づいており、今頃にはすでにこの世にはいないはずだ。

しかしどうだろうか。目の前に立つのは、むしろ若返った状態だ。

 

「遠山キンジくん。今はそんなこと、どうでもいいではないか。それよりも、この状況をおかしいとは思わないのかね?」

 

「すでに消えたはずの男が目の前に立って喋っているのは十分おかしいと思うぜ。」

 

「それは一旦置いてくれたまえ。私が言いたいのはこの時が止まった世界のことだ。」

 

今時が止まったって言ったぞ。ということはつまり、この不可解な現象は時が止まったことによるもので、これは当然自然ではなく超能力による現象。

能力者はどんな目的で能力を行使したのかはわからないが、俺にとっては最悪な状況には変わらない。

 

「あんたがやったのか?」

 

少なくとも、俺が知る限り今目の前に立つシャーロック以外では成しえないこの超常現象について問う。

 

「私ではない。私の持っている緋々色金の力だけではここまで広範囲に影響を及ぼす現象は起こせない。」

 

「だがあんたが無理なら俺は心当たりがない。あるとしたら、あんたがアリアに撃ち込んだ色金の力だ。」

 

まさか、とは思ったがそれはありえない。アリアに撃ち込まれた色金は殻金が集まりつつある今、緋緋神に乗っ取られる危険性を孕んでいない。よって、アリアの色金でもない。

 

「ふむ、ではキンジ君。私と一緒に旅行をしないかい?」

 

「旅行だと?」

 

「そうだ。それもただの旅行ではない――時間の旅といこうじゃないか。」

 

「なにを――ッ」

 

俺は今まで戦ってきたどの敵よりも素早く見事な力加減の手刀を首に当てられ、不甲斐なくも意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




異例の早さで第一章『日常の一幕』が幕を閉じます。
今回は、原作ではいつの間にか平賀さんに新しい武器を購入していた場面と、そこからの分岐が主でした。
確か原作のこの時期ではバレンタインデーが近いということで、たぶん蘭豹先生は強襲科で荒れていたことでしょう。
そういえば、現在自分は原作2巻から22巻までを持っていて、そのうち18巻まで読み終わりました。本当はもう少し早く22巻まで読みたかったんですけどね。

次回は新章『哿の時間旅行』が始まります。誤字脱字の報告や、作品へのアドバイスなどをいただけたら励みになりますので、どうかよろしくお願いします。
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