緋弾のアリア ルートF   作:たかめ

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哿の時間旅行
序曲、再び


―――空から女の子が降ってくると思うか?

 

 

シャーロックから見事な手刀を首に貰って気絶させられた。気が付けば、俺は男子寮のいつもの自室にいる。

ベッドから出てみれば、向かいの二段ベッドにはアリアを始めとした女子の面々が勝手に持ち出した荷物等はなく、まるで彼女らが来る前の状態になっていた。

俺は気絶させられる前に、シャーロックが言っていた言葉を思い返してみる。

――時間の旅。差し詰め、時間旅行といったところかな。

今ここで考えてみても仕方がない。携帯電話の時間は残念ながら気絶する前、というよりも蘭豹が停止状態にされた時間のままなので、今の日付はカレンダーを直接確認してみないことにはわからない。

懐にベレッタとデザートイーグルがあることを確認して、リビングへの扉を開ける。

 

「シャーロック・・・!」

 

「やあ遠山くん。武偵として早起きは基本だろう?」

 

扉を真っ先に開けて目に入ったのはテーブルで優雅に缶コーヒーを飲んでいたシャーロック。すぐさま愛銃のベレッタをホルスターから抜き、銃口を奴に向ける。敵意はないらしく、缶コーヒー片手に両手を挙げた。世界最高の名探偵にしてはなんとも滑稽な姿だ。両手を挙げたまま、6時57分と表示されているデジタル時計に目をやっている。

 

「そのまま両手を挙げていろ。お前は何が目的で俺をこんな場所に?」

 

「なに、簡単な話だ。私は元の時間軸の世界に帰りたい。君は得体の知れない能力を持つ敵から一時撤退を望む。利害が一致しているから、君を"アリア君と出会う直前の世界"に連れてきたのさ。」

 

アリアと出会う直前の世界。そうきっぱりとしたシャーロックの説明はヒステリアモードになっていない俺の頭でも十分に理解が追い付く簡潔な内容だ。

 

「お前はこの不可思議な超能力(ステルス)の正体を知っているのか?」

 

「その問いにはYESと答えよう。今度は私の番だね。君は甘党かい?」

 

「NOだ。」

 

シャーロックの茶化すような質問に対してきっぱりと真実を述べ、直後にベレッタのトリガーを引く。

発砲音に遅れて硝煙が出る。狙いは先程まで銃口を向けていたシャーロック――ではなく、シャーロックの向こうに見える後ろの窓。

いきなりのことで忘れていたが、あの窓は防弾ガラスだった。弾丸が当たった部分から円状にヒビは広がるものの、割れることはない。

 

「今のは誰だ。」

 

「アレは緋緋神の意思。この世界に干渉するほどの力はないが、同時にこの世界からは干渉することのできない唯一の存在とでも言っておこうか。」

 

カンッ、と缶コーヒーをテーブルに置き、手招きをしてくる。

この男には敵意がないのか否か、それを確かめるには情報が不足している。だが、情報を手に入れるにはなんらかのリスクを負うものだ。警戒は怠らないが、俺は少しずつシャーロックに歩み寄る。

 

「君の知りたいことはすでに推理によって答えが出ている。君が遭遇したあの超能力は間違いなく緋緋神の意思による超常現象であることに間違いはない。」

 

そんなことはわかっている。俺が知りたいのはなぜここ――過去の世界に連れてこられたかだ。

そんな俺の思考も推理済みなのか、シャーロックは続ける。

 

「君をなぜ連れてきたかと言えば、もちろん私と君が関係しているからなのだがね。心当たりはないのかい?」

 

「さっぱりだね。」

 

やれやれ、そう言った風な仕草は奴の容姿によく似合っていて男の俺でも見とれそうだよ。

 

「君が私の条理予知(コグニス)を破ったせいでこんなことになったのだよ。本当に、滑稽だね。」

 

ハッハッハ―――と高笑いをするシャーロックの笑い声に俺の表情は一層険しくなる。

条理予知(コグニス)―――シャーロックの推理力により、未来予知レベルまでに到達した奴が史上最高の探偵とも呼ばれる所以であるその能力は、俺が一度だけ外させた。

だがそのせいだ、と言われる筋合いはない。

 

「それで、俺はどうすればいいんだ?」

 

「簡単さ。―――君のベレッタで僕の心臓を撃ちぬいてくれればいい。」

 

「うちぬっ・・・そ、そんなことできるわけないだろ!」

 

『武偵憲章九条、武偵は如何なる状況に於いても、その武偵活動中に人を殺害してはならない』

その提案は俺が日本所属の武偵である限り――一般市民であってもだが――絶対に犯してはいけない物事の一つ。

 

「君の考えていることはすでに推理済みだ。日本では君たち武偵には人を殺めることは絶対のタブーとなっている。それが君の頭と心で引っかかっていることだろう。だが安心してほしい、僕は心臓を貫かれた程度で死ぬような男じゃない。君のように、ね。そろそろだろう?」

 

なるほど。確かにこの男は俺のように心臓を止められたり、至近距離で撃たれても死ななそうだ。

なんて言ったって、もう150年以上は生きているからね。

――ふと"ある"変化に気づいた。そんな前兆やきっかけはなかったのに、体中を巡る血流がやや"それ"になっていた。

まさか、奴に対して俺の脳がその、興奮を覚えたというのか・・・?

いや、それはないな。

 

「これもお前の仕業か?」

 

 

「それは通常のHSS――ヒステリア・ノルマーレと言ったかな。それの一種の完全形ヒステリア・ペルフェット。そう呼んでくれて構わないよ。」

 

確かに血の巡りが違う。先程の通り、やや"おとなしい"のだ。それに自分の口から出る言葉に、普段のと照らし合わせてみても特に変化はないし。だが、確実にヒステリアモードになった感覚がする。

 

「一体、何なんだこれは?」

 

「先程説明した通り、ヒステリアモードの一種の完全形。そうだね、詳しいことは僕の推理でも計り知れないが、おそらく君が経験した最も強いヒステリアモードと同等だろう。」

 

つまり、ヒステリア・レガルメンテと同等ってことか。

ヒステリア・レガルメンテとは「王者のHSS」。状況にもよるが、どのヒステリアモードよりも強力であり俺の中では最強の切り札として刻まれている。が、金三――ジーサードとの戦闘以来発動することはなかった。

それと同等の力を持つヒステリア・ペルフェットとやらを俺は一体どう呼び起こしたのか。

いや、そもそも奴の言っていることは本当なのか?血の巡りは覚えたが、実際の能力は計り知れない。むしろ、巡り方からしてノルマーレよりも弱い可能性だってある。

―――気が付けば俺は再びシャーロックにベレッタを、そしてデザートイーグルを取り出し奴の頭と心臓にそれぞれ銃口を合わせていた。

奴の顔は、笑っていた。

 

「それでいい。」

 

俺の体がまるで俺の物ではないかのように、両手の人差し指は同時にトリガーを引き、奴の心臓を撃った。

―――ジャララッ

 

「鎖・・・?」

 

シャーロックの左胸には流血どころか、服の上に傷一つすらついてない。その代わりに、銃弾によって砕かれた赤い鎖のようなものが俺の足元に落ちてきた。

 

「さて、君はそろそろ武偵高に通学しなければいけない時間だろう。もうこの物語(ストーリー)は始まっているのだから、ね。」

 

そう言ってシャーロックは再びデジタル時計に目をやる。

そこには6:57と表示されていた。

 

 




お久しぶりです。
今回の『序曲、再び』は実は再構成版となっています。何が起きたかというと、今回大変遅れた言い訳に通じるわけですので、詳しくはユーザーページの活動報告よりお願いします。

さて、肝心のあとがきですが、今回は章の頭の導入ですので、やや短めでさっとまとめていますが、実際のところはよくわからないです。
自分の文章の構成力を補うように後書きで説明させていただくと、要はこの章はいわゆる「逆行」による過去改変要素を含んでいます。もちろん、原作を基本として心がけるので展開は制限ができますが、できるだけ確実なフレーズを盛り込んでいけたらなと。

更新遅れに章の始めですので、今回のあとがきは少々長くなりました。
次回は『アリアという女』です。誤字脱字等あれば報告していただけるとありがたいです。
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