魔法科高校の超能力者 作:クローバー
「深雪……」
「はい」
理人の言葉に深雪はにっこり微笑む。漸くだ。漸く、名前を覚えてくれた。
二日の休日もはさみ、しかし忘れずに名前を呼んでくれた。
「ところで名字は何だっけ?」
「何で三文字の下の名前は覚えて二文字の名字を覚えないんですか…」
「友達は名前で呼びたいからな」
ニシシと子供のように笑う理人。いや、実際子供なのだろう。知識はともかく、彼の歩んだ道は事故以来殆ど止まっているのだから。
「………友達?」
「違うのか?前、友人って言ってくれた気がするけど………」
「………覚えてるの?」
確かに、そんなことを言った。あなた友達私しかいないでしょ、的なことを。あれは確かに友人であると言っているようなものだろう。しかしそれは知識ではなく日常の一ページ。エピソード記憶に難がある彼が、あんな些細なことを覚えていられたのだろうか?
「俺ってこんな性質だからさ、友達なんていないだろ?それは解るんだ。話しかけてくる相手がいない。毎日毎日、一人なのを覚えてる。繰り返してるからな」
「……………」
記憶力に難があろうと、繰り返せばイヤでも覚える。いや、覚えようとしないのを覚えている。
「俺、最近日記を始めたんだ。今の日常を、忘れたくないと思って…お前のおかげだ深雪。ありがとな、」
「────っ!」
あれは正直反則だと思う。
元より傷のせいで気づきにくいが理人の顔は悪くない。その上、障害の都合上性格は子供っぽく無邪気で、あの笑顔も大変可愛らしかった。
「──!」
赤くなった顔を枕に押しつけ足をバタバタふる。
胸がドキドキする。考えてみれば、一族以外での異性とまともに関わったのは彼が初めてだ。と、その時──
「失礼します」
扉が開き自分より一つ年上の少年が入ってきた。
「………何か?」
「ノックをしても返事がなかったので………お嬢様、奥様がお呼びです。次の夏休みの旅行についてだそうですが……」
そういえば、そんな時期か。いやだな、夏休みというのは。
彼は覚えてくれた。しかし一ヶ月半も会わないと、また最初の頃のように忘れられるのではないかと不安になる。
「どうかなさいました?」
「何でもありません。お母様はリビングですか?」
「はい」
「沖縄旅行?」
「おきなわ?おっきーなわ?」
理人の家にて父親が夏休みの旅行について話してきた。何でも会社のビンゴで当たったらしい。理人の横ではスケッチブックに絵を書き始める額に傷跡がある少女。妹の理子だ。
「夏休み、皆で海いきましょう」
そういって優しい笑顔を浮かべるのは理人と理子の父親、八星海里。
「海!いくー!なわなわ蛇もつれてくー!」
と、少女がかいていた絵から蛇と水が飛び出してくる。が、理人の拳に散らされた。
「行けませんよ理子。あなたの絵は、家以外では描いてはいけません」
「えー……」
「きちんと我慢できたらお父さんがプリンを作ってあげましょう。旅行が終わったらじゃありません。旅行中毎日です」
「プリン!?やたー!私、ちゃんと我慢できる!」
「いい子ですね理子」