『うーん どこに行っちゃったんだろ ケツァル・コアトル……』
カルデアの廊下を歩きながらポツリとこぼれた独り言。
私は今、新宿へのレイシフトを前に姿を消したケツァル・コアトルを捜し歩いていた。
新宿に一緒にレイシフトしようと誘ったら
『新宿へ? ならちょっと待っていてくだサーイ!』
と言い残してどこかへ行ってしまった。
ちょっと、とは何だったのか、一向に戻ってくる気配のないケツァル・コアトル。
探しに出たのはいいものの本当にどこに行っちゃったんだろう……
『ひゃっ』
『きゃっ』
ケツァル・コアトルを探してキョロキョロよそ見をしながら歩いていたから、廊下の曲がり角で誰かとぶつかりそうになってしまった。
バランスを崩して倒れそうになった私を、ぶつかりそうになった相手は難なく受け止めてくれた。
『ご、ごめんなさい ちょっとよそ見を……』
『あら、マスター?』
『……えっ?』
正面から抱き留められた形になった私の頭上から降ってきた聞きなれた声に、反射的に顔を上げた私の目に飛び込んできたのは、これまた見慣れたケツァル・コアトルの顔だった。
『もぅ、待っていてって私いいましたよ?』
『あ、ごめん。 じゃなくて、え!? な、なにその恰好!』
見慣れた顔の上にいつも乗っている頭飾りは外され、その艶やかな金髪は後ろに纏められている。
そのうえ普段の普段着ている戦装束の色鮮やかさとは真逆の黒一色の装い。
私を抱き留めていた腕から離れてみれば、そこには黒いスーツを着て、ポニーテールになったケツァル・コアトルが立っていた。
『どうデスか? ダヴィンチに見繕ってもらいました!』
『…………』
あまりにも、あまりにもいつもと違う姿のケツァル・コアトルを目の当たりにして私は言葉を失って立ち尽くした。
ケツァル・コアトル自身は気にしているけど、その長身にスーツが恐ろしいほどに似合っている。
いつもの色とりどりの戦装束とは違い色の少ない今はその金髪が目を引いて離さない。
スタイルの良さも相まってモデルのよう、なんて形容詞すら陳腐に感じてしまうその姿に、私は完全に圧倒されてしまった。
『んー、やっぱり変?』
『いやいや! そうじゃなくて!』
『じゃあ、似合ってる?』
『う、うん。 すっごく似合ってる……』
『えへへ、よかったデース』
頬を赤らめて笑う様はいつものケツァル・コアトルだけどなんでいきなりそんな恰好を……
『この恰好ですか? 最近霊基をいじって服を変えている子たちがいるでしょう?
だから私もやってみたいって思ったんデース!』
聞けばなんとも単純な理由だった。
『でもなんでその服なの? ケツァル・コアトルならなんだかもっと似合いそうな服がありそうだけど……』
それこそ現代のプロレスラーの衣装とか……
でもそんなの着て新宿なんて歩いたら目立ってしょうがないか……
『それはね、マスター。 私、あなたをエスコートしてみたいんです』
『……へっ』
思わず素っ頓狂な声が漏れた。
『以前サーヴァントみんなが集まる談話室で話をしていてね?
その時に、当代風の衣装を着て街を歩くのは楽しいっていう話題になって、その時に以前マスターをエスコートした事がある子の話を聞いたの。 だから……ね?』
ぐむ、とまた声が漏れた。
なにこの神様、愛おしすぎる……!
『さ、行きましょう、マスター。 エスコートの作法もばっちり教わりました!』
『え、エスコートの作法? だ、誰に?』
『いろんな子に教えてもらいましたよ? 円卓の子たちの話はとてもためになりました! あとティーチや刑部ちゃんもたくさん教えてくれましたね!』
……!?
私の背筋を嫌な予感が駆け抜けた。
円卓勢はまだしも、黒ひーとおっきー?
あの二人は現代の娯楽、とりわけオタク趣味に染まりきっている。
そんな二人にエスコートの作法を教わった?
よくも悪くも嫌な予感しかしない……!
脳内でぐるぐると考えていた私の前で、軽く身を屈めたケツァル・コアトルは私の手を取って微笑んだ。
『さぁ、参りましょう。 かわいいニーニャ』
その瞬間、私の頭の中で聞き覚えのあるSEと共に即死という文字が浮かんで私は意識を手放したのでした。