「マスター、マスター! あれがゲーセンですネ!?
あとでプリクラというのを撮りましょう!」
「あれはカラオケ! マスターと一緒に歌ってみたいデース!」
「あぁでもまずはお洒落なカフェでお茶ですね?
さっそくオシャレなカフェを探しましょう、マスター!」
エスコートどころの騒ぎじゃない。
私の手を取って微笑んでみせたケツァル・コアトルの、あの紳士的な雰囲気は新宿についてそうそう全体宝具が直撃した金色の扉の如く消し飛んでしまった。
そりゃサーヴァントはみんな現界した時に現代の知識が与えられてるっていうのは知ってるけど……
正直南米出身の女神の口からプリクラってワードが出てくること自体だいぶ腹筋に悪い……
「えーと、ケツァル・コアトル?」
「ハイ! なんですかマスター!」
「あのさ、エスコート、してくれるんだよね?」
あっしまった!みたいな顔されましても。
普段からテンションは高いけど今日は一段とすごい。
というか、なんだか冷静さを欠いてる、とかそういう感じに見えるんだけど……
「ごめんなさい、マスター。 その、ね?
ここがあなたが生まれて育った国で、そこに私があなたと一緒に立って、歩いて、同じものを見ているって思ったら嬉しくて……」
「う゛っ……!」
なんなのこの善神様……
それってこういう時にしれっと言っちゃえる台詞じゃないよ……
もっとこう色々あってからクライマックスな感じの時にいうヤツだよ……
しかもちょっと顔赤くして言わないでよカワイイなぁ!
黒スーツの似合う金髪長身美人に赤面になんてトッピングされたらどうしようもないじゃん!
ぱっと見クールなお姉さんが無邪気にはしゃぐ姿とかギャップが凄すぎて死ぬ!
一緒に歩いてるってだけでもういっぱいいっぱいなのに!
うぅ、心臓に悪い……
「そうね、一度落ち着きましょう。
舞い上がっちゃいましたね、私」
ケツァル・コアトルなだけにネ!みたいなどや顔やめて!
たたみかけてくるのやめて!
そういうとこだよ、心臓に悪いの!
「さぁ、行きましょう。 マスター」
「うん……」
差し出された手を取って歩きはじめる。
あぁ、もう…… なんか振り回されっぱなし……
なんかみんなから教わったって事がケツァル・コアトルの頭の中でミックスされておかしな事になってない?
……考えてみれば、うん
円卓のみんなの女の子に対する扱いは、まぁいいんだよ。
でもそこにくろひーきよひーの知識なんて混ぜたらそりゃおかしな事になるよね……
加えてケツァル・コアトルも、なんていうか人じゃ絶対しないような発想するもんね。
円卓のエスコートスキル+くろひーきよひーのヲタ知識+ケツァル・コアトルの人知を超えた神頭脳……
あれっ これってもしかしなくてもカオスじゃない?
「おいおい!スゲー美人じゃん!?」
「一緒にいる子も可愛くねぇ?」
「よっしゃ、行こうぜ!」
頭の中でぐるぐる考えていると聞こえてきた、如何にもな男の人の声から僅か数秒、私達の前にゾロゾロと現れた実に如何にもな方々。
わぁ、こんな事ってほんとにあるんだー
……!! マズイ!
こんなベタな展開をくろきよコンビが教えていないはずがない!
いや間違いなく教えてる!
「ワ~ォ♪」
ほら! もう顔に書いてあるもん、待ってましたって!!
めっっっちゃ嬉しそう!
「ねぇねえ、お姉さん達オレらと遊ぼ~よ」
「二人とも美人だからオレら奢っちゃうからさ~」
「この辺オレらのシマだからイロイロ楽しーとこ知ってるよ~?」
やめて、この人シマどころか世界シメてた神様だから。
そんな事言ってるとホントにシメられるから。
まずいまずいホントにまずい。
早くここから逃げなきゃ。
こんな大通りでケンカどころかデスマッチなんてやらかした日にはどうなるか……!
……いや、ちょっとまって。
――その時、マスターに電流走る――!
――そして閃き! 圧倒的閃き……っ!!!
もしかして、くろきよはこのシチュエーションで取るべき選択肢を用意してくれてるんじゃない?
ほら、こういう時って暴力的なことが嫌いな女の子のためにケンカせずに逃げるとか、ほら、あるじゃん。 あるじゃん。
ギャルゲー乙女ゲーにはこういう時、選択肢が出てくるって聞いた!
マスター知ってる!
お願い、ケツァル・コアトル!
私の望む選択肢を選んで! 好感度上げて!
縋るような気持ちで、というか実際に縋り付いてケツァル・コアトルを見上げる。
ふっと私を見下ろしたケツァル・コアトルは微笑んだ。
すべてを見透かしたような、それはそれは綺麗な微笑みだった。
わかってマース、私はみーんなわかってますよマスター。
そんな感じの微笑みだった。
そして私の手を強く握ってくれる。
やったか……?
不意に固く繋いでいた手が解かれた。
そして男の人達と私の間に、ケツァル・コアトルが一歩踏み出した。
あ、あれっ? 一緒に逃げるんじゃ……?
「彼女は渡しません。 どうしてもというのなら、この私が相手になりましょう」
やだ、この神様かっこよすぎ……
じゃなくって! 円卓勢! 円卓勢でしょコレ教えたの!
多分ガウェインかランスロットあたり!
もしガウェインなら真夜中に弓の修練場に放り込んでやる!
ランスロットならマシュに罵ってもらうからね!
「あぁ!?何言ってんだ!?」
「こっちが甘い顔見せてりゃ付け上がりやがって!」
「痛い目みてーのか!?」
ケツァル・コアトルの言葉に一瞬でヒートアップした男の人達と真っ向から向かい合うケツァル・コアトルの背中は、さっきの台詞も相まって凛々しさ10割り増しだけどそれ所じゃない!
えーと、どうしよう! ホントどうしよう!
あ、そうだ、令呪! 令呪で『私を連れて逃げて』って言えばいいんだ!
またも圧倒的閃きをみせた私の頭だったけど、その時には一番短気な不良Aがケツァル・コアトルに殴り掛かっていた。
「がああああああああ!」
「いっ痛いいいいいいい!」
「お、折れるぅぅ~~!」
そこからは最早止めようとする気も起きないほどの一方的な、ケンカと呼ぶ事すらできないナニカだった。
目にも止まらぬスピードでチンピラAの腕を掴んだケツァル・コアトルはまさに赤子の手を捻るように鮮やかに関節をキメた。
その途中に怯みながらも果敢に向かってきたチンピラB、Cも同じくアームロックを喰らって涙目で地面に転がっている。
「私のマスターには、指一本触れさせません」
どうデスカ、マスター!と書いた顔で振り向くケツァル・コアトルはそれはもういい笑顔だった。