※ゆゆゆい時空で話が展開されます。ご注意下さい
祝福 結城友奈の誕生日である
休日で快晴と、子供が風の子になるには絶好の朝。
勇者の密集地帯と化した勇者部部室に顔を出した俺は、とある用事から勇者の一人を呼び出した。
「おーい友奈、居るかぁ?」
「「はーい?」」
2重に重なった声。
……紛らわしいなほんと
「あ、多分私の方かも。ごめんね高嶋ちゃん、紛らわしくて」
「気にしないで結城ちゃん!ほら、紅葉くん呼んでるよ!」
「うん、また後でね!」
一卵性の双子なのではと見紛う容姿をした少女、結城友奈と高嶋友奈。名前が一緒にも関わらず俺が変わらず友奈と呼び続けている所為で、度々二人一緒に返事することが恒例行事のようになっていた。
だが、イントネーションや向ける視線から、最近では徐々に俺が呼ぶのがどっちなのかを二人は理解するようになっていた。人は成長する生き物なんだなぁ、と。
「それで、どうしたの?紅葉くん。」
「お前今日誕生日じゃん。」
「…………そうだっけ!?」
「お前さぁ」
まあそうだろうなぁとは思ってたけど、こいつの天然っぷりは親の遺伝と元からのどっちなのか。
俺は突然変異説を推す。
「な訳で、俺が時間稼ぎ要員として友奈と出掛けてこいと遣わされたのさ。美森が血涙流しそうな程恨めしそうな顔で見てきたけどな。」
丑三つ時に藁人形でも持ち出されたらどうしよ、呪詛返しとか出来ないんですけど。
俺の言葉に友奈は『へぇ~~』と他人事のように呟いた後に、ほんのり顔を赤くしてこう言ってきた。
「これって、その……で、デートって事に、なるのかな。」
「……何処で何してこいとは指定されてないから、適当にお出かけするか。
エスコートしますよ、お嬢さん?」
友奈の前に立ち、右手を差し出す。
明るくなった表情を惜し気もなく見せると、友奈は手ではなく腕にしがみつくように抱き着いてきた。
「じゃあ、何処に行こっか!」
「……なんか食おうにもこれから嫌でも口に詰め込まれるだろうし、色んな所を見て回って腹空かせるか。」
「よーし、しゅっぱーつ!」
「はーいしゅっぱーつ。」
エスコートするつもりだったのに、いつの間にか友奈に引かれる形で学校を出る。
まあ、こう言う奴だよな。友奈って
楽しそうならまあいっかーと思考を切り替え、俺は必死に友奈に着いて行くのであった。
◆
「―――次はどこ行こっか、紅葉くん。」
「んー、俺はお前に引きずり回されて疲れてます。」
「えっ、そうだった!?」
「武術習ってる勇者とただの凡人という『差』はね、男女の『差』では埋められないのよ。悲しいかな、世は無情。」
俺ですらこの様なのにそっちは普通に余裕とかこの体力お化けめ……
軽く切れた息を整えるためにベンチに座る俺を、おろおろしながら見てくる友奈。
「ごっ、ごめん紅葉くん。私自分の事ばっかりで……」
「……ばーかそれで良いんだよ。」
「――えっ?」
友奈が疑問符を頭の上に浮かべる。『?』マークを幻視した俺は買ってきたお茶のペットボトルを呷った。
「お前は自分より他人っつー奇特な人間だからな。俺なりにお前が自分から楽しみたいって思えるルートを選んだつもりだったんだが、どうだった?」
ゲーセンでダンスゲームやってプリクラを撮り、猫カフェのサービスで猫に全身を
「あっ―――そっか。うん、そうだね。凄く……物凄く楽しかった!」
「それでいい、男冥利に尽きるってものよ。」
相も変わらず、太陽のような奴だよ。
つまり結城と高嶋で太陽が2倍、温暖化も辞さない訳だがその辺どうなの。
「そんじゃ、そろそろ帰ろうぜ。遅くなりすぎたら、どんちゃん騒ぎ出来る時間も少なくなっちゃうからな。」
「それって疲れたから帰りたいって事?」
勘の良い勇者は嫌いだよ。
「…………よし、部室まで競争な。よーいどん!」
「あっズルい!!」
俺が急に走り出したのを見て、友奈も遅れて走り出す。
結構距離離したしこれは勝ったな……とか思ってたら、俺はふと思い出した。
友奈って両方かなりの負けず嫌いだったよな
「待てええええええええ!!!」
「うおおおお!?」
ちょっとだけ怒りの形相を滲ませた友奈が、絵に描いたようなフォームで全力疾走してきた。
こっわお前ターミネーターかよ
捕まったらそこそこな力でどつかれるだろう地獄の鬼ごっこが開催され、その勢いで部室に突撃した俺と友奈は、仲良く若葉と風、あと美森に怒られた。
◆
「……酷い目に遭ったぜ。」
「あれは紅葉くんが発端だったよね……?」
この世界に何故か俺の家が無かったことで借りている寄宿舎の一室。今から帰すのは遅いからと小学生組の部屋を借りて寝るのを条件に、友奈は俺の部屋でちょっとした夜更かしを決行していた。
年に一度の無礼講という事で、若葉・風・美森のオカントリオにも許してもらっている。
だが俺がオカン呼びしたことは許してくれなかった。笑って許す懐の広さをだね……
「今日はありがとう。私、今日の事絶対忘れない。」
「―――ま、そうだな。」
俺たち―――――あらゆる時代の勇者達が集うこの世界での記憶や思い出は、元の時間に戻れば忘れてしまう。
全部が全部忘れる訳ではないと、怒らせると怖い例のあの人こと上里さん家のひなたが言っていたが。つまり俺とのデートも『嬉しい事の一つ』という経験として忘れない可能性もなきにしもあらずって事だ。
まあ、元の時間じゃ俺とはただのクラスメート兼部員仲間ってだけの関係なんだけどさ。夢見たって良いじゃん?
「あ、そうだった。おい友奈」
「ん?なぁに?」
やはり子供、本来ならとっくに寝ている筈の時間を越えていて、眠いものは眠いのか目を蕩けさせ、ふにゃりと笑って俺を見る。
……ここで寝られたら俺が部屋まで運ぶの?園子と杏にネタにされそうで正直嫌だが、俺の部屋に寝かせたらオカン達が怖い。
これは説教コースかな、と思いながらうつらうつらする友奈を見る。
「いや、渡し忘れてたなーとね。はい、俺個人のプレゼントだ」
「もみじくんからの……?」
ふぁ……とあくびをした友奈は、渡された小包を開けると、眠そうだった目を輝かせ中身を出した。
俺が渡したのは、ネックレスだ。
友奈のモチーフである桜の花びらを象ったそれを、友奈は指でつまんでよく見る。
「綺麗……こんなに良いもの、高かったんじゃ……?」
「最初に気にするのがそこな辺り友奈だよな、そんな高くない良い買い物をしたもんだ。大人しく受け取ってくれ。」
「うん……じゃあ、遠慮なく。」
ネックレスを小包に戻すと、胸元に持って行き優しく両手で包むと、そっと呟く。
「私本当に、本当に今日の事、絶対忘れない。」
「―――ああ。友奈、誕生日おめでとう。」
「…………うん、ありがとう……」
俺がそう言いきると、お礼を言った友奈は瞼を閉じ―――あ、寝やがったこいつ。
規則の良い呼吸が聞こえ、不思議と聞いている俺まで眠くなる。
いかん。こいつを運ばないと……運ば、ないと……
他人の寝息が子守唄になるとは……とか冷静に考えながら、俺の意識は一瞬で落ちたのだった。
ふんわりと、桜の香りが鼻孔をくすぐった。
◆
後日。
男女が一つの部屋で寄り添って寝るなど何事だ、という若葉の声。
まあ、ちょーっと早いわよねぇ、という風の声
友奈ちゃんと寝るなんてなんて羨ま―――紅葉くんでも許せない!という欲望全開の声
どうやら意識が落ちた後の俺の体が無意識で友奈を運ぼうとしたものの断念したらしく、俺と友奈は仲良くベッドの中で抱き締め合って眠っていたのだ。
……いや俺悪くないよね、俺なりに頑張ったんだよ。人間、得手不得手があるんだよ。
「……さ、三人とも、私が眠気に負けたのが悪いから……紅葉くんをあんまりいじめないであげて?」
「いじめてない。
だがまあ、結城にも責任の一端はあるな。よし、紅葉の横に座れ、纏めてお説教だ。」
「……あれ?」
墓穴を掘りおって……と思いながら、俺と友奈は並んで怒られる。
数十分後、勇者と巫女は、足の痺れと格闘する俺と友奈の姿を拝むことになるのだろう。
若葉の説教中、ちらっと友奈を見ると、首には昨日渡したネックレスが付けられていた。制服の中に隠しているそれは、きっと俺がプレゼントしたものだろう。
なんか、いいなぁ。こういうの。
なんだかんだで勇者部は、結城友奈の日常は、今日も変わらず平和でしたとさ。改めて誕生日おめでとう、友奈。
そうやって締めながら立とうとした俺は、痺れから感覚の無い足をもつれさせ倒れ、顔面から床に激突した。
ゆゆゆシリーズの顔であり主人公でありヒロインなんですから、祝うのは当然なのです。