【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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UA90000突破。 なんだかんだ70話も越えたしこの作品寿命長いですね、まあ私のリスペクト元はこの倍行ってるんですけど。

園子回の直後に書き始めたからかなりギリギリだった。




祝福 土居球子はキャンパーである

 

 

 

 

「キャンプさせろおおおおお!!」

「あーもう、タマっち先輩落ち着いて……。」

「うががががあああ!!」

 

「えっ、なにこれは。」

 

 

ガラッと部室の扉を開くと、なんか球子がピンボールみたいに部室中を跳ね回っていた。

 

暴れ回って床をゴロゴロ転がってこっちに来たところで、足蹴にして止める。

 

 

「ぐわーーーっ!?」

「タマっちせんぱーい!?」

「…………すげー聞くの嫌なんだけど、こいつなんでこんな暴れてんの。」

 

足の裏で捕縛されてる球子は、俺の足を前後に動かす動作に合わせて前に後ろに転がる。

 

やぁーめぇーろぉーと言ってくるが、なんか、こう…………結構楽しい。 クセになりそう。

 

 

「ほら、最近猛暑が続いたりで、外出を控えてるじゃないですか。」

「9月なのにこんな暑さなのはなんだろうな、造反神がまた天候を固定してんのかね。」

「そう何度もホイホイ天気を操られたら、堪ったものじゃ無いですけどね。」

 

 

全くだ。 まあ勇者をこうも暴走させられるんだから敵からしたらやるに限るんだろうが。

 

夏か…………夏は人の本性を暴くからな。 夏の勇者部は凄いぞ。

 

 

水都はこの季節は歌野のタオル収集に励んでいる事だろう。

 

やるのは別に良いし面白いから気にしないけど、やるなら通報されない程度にやれよ。

 

こっちも最近は銀からの視線が鋭くて困るんだよねぇ……あれは獲物を狙う眼だ。 次こそは首の肉持ってかれそうだしで、ちょっとばかり気まずい所があったりする。

 

 

「要するに暑さで外出を制限されてるわキャンプ出来ないわで、球子は部室でスーパーモンキーボールしてたわけね。」

「(モンキーボール……?) ええ、まあ、そう言うことです。」

 

「…………えぇい! いい加減足を退かしタマえ紅葉!」

「おう、悪い。」

 

会話の最中も俺に前後にゴロゴロさせられていた球子が、俺の足を無理矢理退かして杏の方に転がってから立ち上がる。 制服の埃を払ってから、口を尖らせて言ってきた。

 

 

「まーったく、キャンプだぞキャンプ! 川にでも行けば涼めるってのに皆して頭が固いんだからなー。 困ったもんだ。」

「それでも万が一があるから仕方ないよ、タマっち先輩。」

 

そうだけどさー。 と言っていつぞやの園子みたいにダダーダダーしてる球子の様子を録画していると、ひなたから電話が掛かってきた。 ああん録画が中断された…………。

 

 

「うい、もしもし。」

『もしもし、紅葉さんですか?』

「俺以外で誰が俺のスマホで電話に出るんだよ。 いや、あー、歌野は勝手に出るな。」

『それは水都さんが黙ってないですよ、あとは……銀ちゃん、とか?』

「…………さぁねぇ。」

 

傷は塞がったが痕が残った首の歯形を指でなぞると、ひなたから直接あって話がしたいと言われて、俺は二人に断ってから部室を出て寄宿舎へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅葉さん、お待ちしてました。」

 

寄宿舎の二階に繋がる階段に座っていたひなたは、紅葉が到着したのを見て立ち上がった。

 

ひらひらと手を振ってから近付いてきた紅葉は、軽い口調で言う。

 

 

「用ってなに、デートの誘い?」

 

紅葉にそうからかわれ、ひなたは一瞬頬を赤くするが咳払いをして否定する。

 

 

「…………違います――――――実は、紅葉さんに向けての神託が下りました。」

「じゃあキャンセルしといて。」

「出来たら苦労しませんよ。」

 

逃げようとした紅葉の服の背中部分を掴んで動きを止めるひなた。

 

苦虫を噛み潰したように表情を歪める紅葉は、渋々、仕方なく振り返る。

 

 

「……ドジっ子はなんだって。」

「相変わらず罰当たりを地で行きますね。 神託……と言うよりは、なんでしょう、今回は珍しくメッセージだったんです。」

「へー。」

「『無力なる鱗、迷いし川にて、滝を登り神と成る』――――だそうです。」

 

「怪文書やめろや。」

 

 

指で潜めた眉を揉む紅葉は、ため息を一つ、少し考えてからスマホを取り出した。

 

「……まあ、いい。 滝を登らせるってんなら、何を指してるのかはだいたい分かる。」

「そうですか…………誰かに電話でも?」

「うん。」

 

画面を何度かタップすると、それを耳に当てる。

 

 

「もしもしタマにゃん? 唐突なんだけど川行かない? …………そう、ひなたに頼まれ事されてさ、行く? んー、じゃあ学校の前で待ち合わせね。」

 

立ちながらの電話特有の手持ち無沙汰で歩き回るアレをひなたの前で披露していた紅葉。 スマホを耳から離してひなたに向き直ると、一言言って立ち去った。

 

 

「んじゃまあ、そう言うことで。」

「――――。」

 

立ち去った紅葉の背中に、ひなたは手を伸ばす。しかし、虚空を掴んだそれに紅葉が気付くことは無い。

 

 

「――――?」

 

自分が何故そんな行動を取ったのかも分からないひなた。 唯一分かるのは――――()()()()()()()()()、と言うことだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽が天辺から人々を照らす真昼時、俺と球子はとある山の中を流れる川へと訪れていた。

 

かなり久しぶりのキャンプに嬉々としてテントを組み立てている球子を横目に、ボーッと川の様子を眺めている。 神託に沿って川を見に来てみたが、それらしい気配は無い。

 

 

「よっしゃ完成だーーーっ!」

「おうお疲れ。」

「おぉい! 少しは手伝えよ!」

「張り切ってるところを邪魔しちゃ悪いかなーと思ってね、あとめんどくさい。」

 

 

テントなんて張ったこと無いわ。 素人が邪魔しちゃあ……ねぇ?

 

不意に、テントの近くに伸びていた猫じゃらしを千切って球子に向けてみる。

 

 

「球子、見てみて。」

「なんだ……猫じゃらし? はん、確かに猫っぽいとはよく言われるけどな、そんな……たかが猫じゃらしに食いつく訳が……」

 

 

右へ、左へ。 左右にゆらゆらと揺らされている猫じゃらしをじーっと見る球子は、全身をウズウズさせ、やがて―――――。

 

 

「うにゃあああああ!!」

「やっぱり猫じゃないか……。」

 

猫じゃらしに飛び付いてきた球子を避けると、球子はそのまま川に墜落した。

 

 

「どわーーーーっ!?」

「ふっ、だっさ。」

 

膝まである川に突っ込んでびしょ濡れになった球子が、ジトっとした目付きで俺を睨んできた。 いやこれは猫じゃらしに魅了されたタマにゃんが悪いでしょ。

 

大股で近付いてきた球子だったが、ピタリと動きを止めて足元を見た。

 

 

「どうしたー?」

「なんかいる。」

 

ずぼっと水に手を突っ込むと、球子はその手に黒く長い物体を取り出す。

 

「……と、取ったどー?」

「…………それ逃がすなよ。」

 

 

球子が手に持っていたのは、全身が黒く、白い線が鱗の場所を目立たせる大きな鯉だった。

 

慌てて持ってきた大きな水槽に川の水を汲んで、鯉をその中へ入れる。

 

 

「お前、このためにそんなデカイ水槽持ってきてたのか。」

「これちょっとでかすぎない?」

 

この鯉目測でも50センチはあるぞ…………?

 

 

「―――で、これを滝まで持ってけってか。」

「滝ぃ? ああ、この川の上流に行けばあんまり大きくないけど、滝ならあるぞ。」

「おう、でかした球子。」

 

水槽をなんとか脇に抱え、水が中で揺れるのを見ながら歩き出す。 びしょ濡れの球子が日差しで乾かすついでなら、いい散歩にもなるだろう。

 

 

「しっかしまあ、こんなデカイ鯉なんて見たこと無いぞ。 どっかから逃げてきたのか?」

「…………もしそうなら笑えるな。」

「は?」

「なんでもなーい。」

 

 

ちらりと鯉を見る。 無機質な目玉が、俺の事を見ていた。 なんだよ食うぞこら。

 

そんな俺の思考でも読んだように、鯉はばしゃっと水を跳ねさせた。

 

 

「なあ紅葉。」

「はい。」

「それ滝に持ってってどうするんだ?」

「滝に放り込む。」

「……なんだそりゃ」

「まあ、持ってけば何か分かるでしょ、俺も怪文書送られただけなんだぞ。」

 

 

鯉、鯉ねぇ……鯉って秘伝技覚えたっけ。

 

地味に重い水槽に四苦八苦しつつ、俺と球子はようやく滝のある川の上流にたどり着いた。

 

 

「こりゃ壮観だな、落ちるなよ球子。」

「タマをなんだと思ってんだ。」

「…………ネコ?」

「誰が猫だ!」

「少なくともタチではないよね。」

「太刀? 若葉の刀か?」

 

知らないなら良いよ、まあ杏辺りに聞けば教えてくれると思うけど。

 

いやその場合は俺が死ぬわ。

 

 

ともあれ、俺は滝から離れた水流の中に、水槽を沈めるようにして鯉を解放する。

 

黒い鯉は川をすいすいと上り、滝の方へと向かって行く。 水が落ちて行く所に潜ると、その姿を消した。

 

「……大丈夫なのか?」

「さーね。」

 

俺に聞くな。

 

鯉が滝の底に姿を消してから数分、なんかもう面倒になってきてテントに戻ろうかと提案しようとした瞬間――――滝の裏に、蛇のように長く、丸太のように幅のある影が登り始めた。

 

 

「ん?」

「あ?」

 

俺と球子が同時に声を出し、滝の裏を泳ぐ影を目で追う。 その影は、やがて水を突き破り、姿を惜しげもなく晒す。

 

黒い体持つ巨大な蛇に近い姿の異形。 人は、これを―――――。

 

 

「―――これが、竜……か。」

「なんだよ、これ……!?」

 

爆発したかのように水が弾け、鯉は竜と成った。 滝を破って現れた竜は、勢いを殺さずそのまま天に昇って行く。

 

そして遅れてバケツをひっくり返したような水量の川の水が、俺たちに降り注いだ。

 

 

『ぎゃあああああああ!!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………全く酷い目に遭ったぞ……」

「いくら俺でもこんなの想定出来るわけねえだろ。」

 

全身をずぶ濡れにされた二人は、テントの近くで服を乾かしていた。 念のためにと持ってきていた予備の服に着替え、岩に服を広げておく。

 

 

「それにしても、なんで鯉が竜になるんだ?」

「……コイキングが進化すると何になるよ。」

「……あー、なるほどなぁ。」

 

呆れた顔の紅葉は、それ以上何かを言うということはなかった。

 

 

服も乾き、テントを畳んで帰ろうとしたとき、ふと夕焼けの空が光った。

 

「…………なあ紅葉、今なんか光った気がするんだが」

「あー? …………ん?」

 

球子に言われて天を仰いだ紅葉の視界に、きらりと、光が瞬いて――――。

 

 

「あ゛っお゛う!?」

 

落下してきた漆塗りのような色合いの鱗が、紅葉の額に突き刺さった。

 

 

 






尚こういう時になにもしてこない赤嶺は多分暑さでダウンしてる模様。 沖縄生まれの血を引いてても育ちは四国だからね、しゃーない。

自分で書いてて思うけど一番紅葉と兄妹感あるのはタマっちだと思う。 ところでこれ誕生日回にカウントされる?



黒塗りの鯉(竜)
・神樹の中の一柱。 一応神様。 なんかゆゆゆい時空(神樹内部)に迷い混んじゃったから返す事になった。 運搬が雑だったけど滝まで運んでくれた事に対する感謝で鱗を投げつけたら刺さった、事故です。

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