歌野の性格・言動があんなんになった理由。 諏訪の話なんでまあ、アレな部分もあります。
あとファンブック両方買いました。
2017年某月某日、諏訪大社を歩く人影があった。
白と黄色を基調にした、都会に居たらコスプレかと疑われるだろう格好をした少女の姿。
深緑の髪をショートにして揺らし、誰かを探しているかのように辺りを見渡している。
その腰には、使用感の見られる傷だらけの鞭が巻かれて固定されていた。
「――――うたのん、お帰り。」
「うん。 ただいま、みーちゃん。」
パタパタと音を立てて走ってきた小柄の少女を体で受け止め、お互いに腕を背中に回す。
胸元に額を擦り付ける茶髪の巫女服を着た少女は、奇抜な白と黄色の――――勇者服を着た少女を力の限り抱き締める。
まるで飼い犬のようだ、と小声で笑うと、うたのんと呼ばれた勇者服の少女――――――白鳥歌野は、巫女服の少女こと藤森水都の後頭部を優しく撫でた。
顔を上げた水都は、ぎょっとした顔で歌野の頬に触れる。
「また傷があるよ、無茶な戦い方したんだ。」
「いやぁ……不意打ちを無理にかわしたらこけちゃって、こんなの唾つけとけば治るわよ。」
軽い調子で話す歌野と、心配する水都の後ろから、ふと声がした。
「それやって化膿した奴知ってるぞ。」
「あ、椛さん!」
「おうおう、お疲れさん。」
するりと水都の拘束を抜けて、歌野は椛と呼んだ女性に駆け寄る。 先の水都のようにその胸元に飛び付くと、叩くような撫で方で頭を触られた。
雑な扱いに見えるが、嬉しそうにしている歌野を見て、水都は嫉妬心か頬を膨らませる。
歌野の尻に犬の尾が現れ振られている様子を幻視して、どっちが犬だよと椛は呆れた。
「さっさと着替えて顔洗って消毒してこい、野菜冷やしておいてやるから。」
「ああ……もうちょっとだけ……。」
「うーたーのーん?」
「……もう、分かったから引っ張らないの。」
椛にべったりの歌野を引き剥がして、諏訪大社の階段を降りて行く二人。 椛はそれを見送ってから、遅れて歩き出した。
――――階段を降りて家に向かいながら、ボロボロのスマホをポケットから出すと、椛は電話帳を開き『馬鹿息子』と書かれた番号をタップした。
繋がらない事を意味する無音だけが響き渡り、頭を振ってスマホを仕舞う。
「…………さて、昼飯の用意しねえとな。」
女性の名前は、先人椛。
ただの、しがない椛である。
◆
「いだだだだ!! み、みーちゃん? もう少し優し……いだーっ!!」
「ふーんだ、毎回傷だらけで帰ってくるうたのんが悪いんだもん。」
「いや絶対それだけが理由じゃあああああああ!?」
消毒液が良く染み込んだガーゼをつまんだピンセットを、水都にぐりぐりと傷口に押し付けられ悶える歌野。 明らかな嫉妬混じりの動きだが、きちんと消毒され、てきぱきと手当てをされては文句を言うに言えない。
縁側に座って行われた処置も終わり、時間は真昼時。 ぐぅと腹の虫が鳴いた事で、歌野は腹をさすりながら笑う。
「あはは、お腹すいちゃった。」
「…………じゃ、蕎麦茹でよっか。」
「あー、だいじょぶだいじょぶ、椛さんが私の野菜冷やしてくれてるから。」
「―――また椛さん?」
「おう、またあたしだよ。」
ぬっと部屋の奥から現れ、ガラス皿と竹のカップをトレーに乗せて運んできた椛。 嬉々として水都との間に歌野がスペースを作ると、椛は無造作にトレーを二人の間に置いた。
ガラス皿には氷が乗せられた山盛りの蕎麦が乗せられた、竹のカップにはそばつゆが張られている。 縁側から庭に降りた椛が蛇口の近くに置かれた桶を抱えて持ってくると、その中にはキュウリやトマトが入っていた。
「ほい、昼飯食って体を休めな。」
「ありがとうございます! 椛さん!」
「………………むう。」
面白くない、とでも言いたげな水都が頬を膨らませると、椛が水都の髪をがしがしと撫で回す。
「わ、わわっ」
「わはははは、なぁにこんなババアに嫉妬してんだよ。 つか、お前には馬鹿息子が居るじゃねえか。 アレで満足しとけよ。」
「いや紅葉は別にタイプじゃないし……。」
「紅葉? 椛さんじゃなくて?」
ずるずると大量の蕎麦を一度に啜っていた歌野がそれを飲み込むと、椛と紅葉の事について聞いてくる。 ああ、と、水都は説明してなかったことを思い出した。
「紅葉は椛さんの息子で、この一件が始まる前までここで暮らしてたんだ。」
「だってのにあの野郎、『ちょっと四国に行ってくるわ』とかいってふらーっと出掛けたっきりで帰ってこねえでやんの。」
からから笑う椛に、歌野は驚きながら怒鳴る。
「息子さんの安否が不明なのに何笑ってるんですか!?」
「あたしが殺しても死ななそうな奴の心配なんてしたって無駄無駄、どうせ四国のどっかで強かに生きてるだろうよ。」
「うーん、紅葉があっさり――――それもあの化物に殺されるなんて考えられないなぁ。」
「み、みーちゃんまで……。」
死んだとは欠片も考えていないくらいに信頼しているからこその言葉なのだろうが、もう少し心配してやるべきなんじゃないかと思わずにはいられない歌野だった。
食後のデザートとばかりにトマトを齧っていると、やたらといかついナイフの背でキュウリのトゲを落としている椛がそれを齧ると呟く。
「で、戦果は。」
「……そうですね、結界を発生させている御柱を狙うことを覚えたのか、あまり私を優先的に狙うということが少なくなっている気がします。」
「学習してるのか、化物の癖に厄介だな。」
バリ、と、砕くようにキュウリを折って雑な動きで味噌を塗りたくると口に放り込む。
塩分過多ですよ、とは言わない。 もう一年以上の付き合いになるのだ、イラついて物に当たらないようにしている椛が物陰でタバコを吸い、今のように濃い味を求める姿は良く見てきた。
椛もまた、歌野が居なければ今頃は―――――そう考えずにはいられない。 それでいて、歌野と水都…………子供に戦いを任せることが、苦痛で仕方がないのだ。
かつては子供の未来のためにと身を粉にして、人に銃を撃ち、人をナイフで切り裂いてきた。 結局、椛は子供の為に戦っていながら、子供を守りきれていない。
「――――ああ、クソ。」
「椛さん?」
「……夜、諏訪大社に来い。 話がある。」
椛は諏訪に複数配置された御柱と、それに群がる勇者よりも御柱の破壊を優先する化物。 そして化物を倒して諏訪を守る勇者を見て、答えに行き着いてしまった。
――――まるで、囮の為の時間稼ぎのようだと。 だが、それが『まるで』では無いことに気付くのは、一年先。
◆
夜、街灯の少ない道を歩いていると、歌野は諏訪大社に繋がる階段の一番下――――すなわち眼前で座り込んでいる椛の姿を発見した。
「すいません、待たせてしまいました。」
「気にしてねえよ、まあ、座れ。」
自分の座っている段の石段を掌で叩く椛。 歌野は静かに、椛の横に座る。
「それで、どうしたんですか? 椛さん。」
「―――そうだな、あー、うん。 単刀直入に言うわ。」
歌野を見ることもなく、タバコを懐から取り出して咥えると火を点ける。 紫煙を吐き出し、夜空の下の虚空にそれを溶かすと世間話であるかのようにあっさりと言い放った。
「水都を連れて四国に逃げろ。」
「――――――え…………?」
言っている意味が分からない。
一瞬、歌野の思考は真っ白になる。
椛は歌野の呆然とした表情を横目で見て続けた。
「わざわざ諏訪全体を覆うように設計された御柱と結界、その御柱を破壊することを優先した化物。 勇者は当然御柱が破壊されないように戦わないといけない。
気付いちまったんだよ、あたしらが囮に使われてるってな。 四国の勇者は今頃まだ訓練してるんだろう。 つまり、向こうはまだ平和で。 つまり、まだ四国に化物は向かっていない。」
淡々と、推理と言う名の答え合わせを行う椛。
歌野はそこでようやく我に帰った。
「それは、たし、かに……そうかも、しれませんが…………みーちゃんだけを連れていけって、そんなこと出来るわけ―――」
「出来るさ、お前なら。 白鳥歌野なら、藤森水都だけを守りながら四国に行ける。」
椛の言い分はこうだ、『自分達を見捨てて逃げろ』。 歌野の『出来るわけない』に含まれた意味は、『水都を守りながら四国になんて行けない』ではなく―――。
「だがまあ、歌野ならそう言うよな。 『出来るわけない』ってのは、水都と四国に行けないじゃなくて、『あたしらを見捨てられる訳がない』って意味なんだろう?」
「それが分かっておきながら、なんで、そんな、椛さっ……!」
ヒュッ、と、歌野の喉が鳴る。 椛はそれでも尚、淡々と。
「子供が大人や老人の為に使い潰されて良い訳ねぇだろ。 歌野、頼むから水都と一緒に四国に逃げてくれ。 多分馬鹿息子も生きてる筈だ、あいつと四国の勇者と、皆で生きろ。」
「――――仮に、私が言うことを聞いたとして、椛さんはどうするんですか……?」
「そりゃ死ぬかもな、お前が御柱を守らないってことは破壊されて結界内に化物が入ってくるんだから。 だがなぁ、この状況で二年―――いやもうすぐ三年。 この状況で三年なんて、長生き出来た方だと思わねえ?」
そうして、にっ、と笑う。 そんな顔を見て、歌野は嫌でも察してしまう。 椛はとっくの昔に、死ぬ覚悟をしていたのだと。 堪らず歌野は、椛の胸元に顔を押し付けた。
「――――強いですね、椛さんは。」
「要らねえ強さだよ、少なくとも、あたしは歌野と水都の方が強いと思うし……尊敬してる。」
「要らない強さ……か。」
「あん?」
後頭部を、赤子をあやすように優しくさすられて、歌野はまぶたを閉じながら言った。
「貴女の強さを―――――椛さんが要らないのなら、私にください。」
「…………逃げるつもりは、ないんだな。」
「ありませんよ、それに椛さんなら、私がこう言うって分かっていたでしょうに。」
「はっ、知ったような言い方しやがって。」
椛は諦めた顔をして、深くため息をついた。 最初から、わかっていた。 歌野は椛たちを見捨てないと。 水都もまた、同じ選択肢を取るのだろう、と。
ポンポンと歌野の後頭部を叩きながら、タバコを地面に落として踏みつけ火を消す。
「弱気な自分が嫌なら、あたしの強気をやるよ。 そんな仮面を被ってでも、諏訪を守りたいんだろ?」
「はい。」
即答。 歌野の顔を見て、椛はふと気になった事を聞いた。
「お前、将来の夢ってあるのか?」
「それは勿論農業の王様ですよ。」
これまた即答。
だろうな、と笑う椛に歌野は言う。
「それと、息子さんにも会ってみたいです。 みーちゃんの隣に、生まれ変わっても居続けたい。 なんなら貴女の娘になるのも良いですね。」
「わがまま放題だな。」
ええ、わがままです。 そう歌野は言う。 言うならタダだし、叶えるためにも生き抜こうと思える。
強かな奴……と呟いて、その後に笑うと椛が夜空を見上げて言った。
「なら早速、一個叶えてみるか。」
「へっ?」
「あたしの娘になりたいってやつだよ。 良いぞ、正直子供なんて手の掛かる奴が一人居りゃあ十分だが、お前なら、良いと思える。」
「だとしたら、紅葉……くん? は、私の兄に当たるのでしょうか。」
「は? 兄? あいつがぁ?」
それを聞いて、今日一番の大笑いを披露する椛。 驚く歌野の横で目尻の涙を拭って答えた。
「あの馬鹿野郎が兄なんて似合わねえよ、お前が姉で、あいつが弟になると思うぜ。」
「……い、良いんでしょうか。」
「良いって良いって。 そんなら、ちょっと言ってみろよ。 家族になった記念にさ。」
「なにを、ですか?」
椛は歌野と顔を合わせる。 今までの中で一番柔らかく、一番親に見える顔で、歌野に問い掛けた。
「分かってる筈だぜ、な、歌野。」
――――白鳥歌野には、両親が居ない。 物心がついた頃には叔父と叔母に育てられ、両親の存在も、両親からの愛も知らずに、それでも人に優しい良い子として育ってきた。
だからこそ、今一番歌野が求め――――飢えているのは、親からの愛。
歌野は椛に力一杯抱き付き背中に腕を回し、体温を体全体で感じながら、無意識に流れ落ちる涙を拭う暇もなく、胸の内からの欲望をさらけ出すように言った。
「――――お母さん。」
満月が照らす諏訪の夜空の下に、ただ静かに、母と娘が寄り添っていた。
椛の強さという勇者の仮面を被り、確かな力を手にした歌野が世界を救う戦いに身を投じるのは、いつかの未来の話。
水都(女)→歌野(女)→椛(人妻)ってなんやこの三角関係。
くっそどうでも良いけどハロウィンぐんちゃんと制服銀ちゃんでコンビ組んでる三千世界の使者がゆゆゆいに居たらおそらく私です。 銀影隊結成してます。 ランクは278くらいだった気がする
先人椛
・あと数十年早ければ勇者になれていたポテンシャルと従軍経験のあるやべーやつ。 『強い勇者・白鳥歌野』の起源であり参考にした仮面であり呪いでもある。
夫の楓と結婚したのは四国に警備の仕事をしに行った時に出会ってとっ捕まえて持ち帰ったのがきっかけ。 多分餌を巣に持ち帰る熊かなんかだと思うんですけど。
馬鹿な息子に愛してるとすら言えなかった。 言いたかった。 言えばよかった。
歌野
・原作のような鋼鉄メンタルはまだ持ち合わせていない。 原作ラストでもある今話の最後の方で先人椛を参考にした『強い人』の仮面を被り、ようやく原作並の精神力を身に付けた。
参考にし過ぎて脳みそが筋肉に染まり出したのだけが椛最大の失敗でもある。
水都との『生まれ変わってもまた隣に居たい』という願いは、ある意味で叶っている。
水都
・待つだけしか出来ない自分に嫌気が差していたが、椛が居たお陰で信じて待つ事も大事だと気付けた。 紅葉? まあ、兄みたいだとは思うけどぶっちゃけタイプじゃないよ。