【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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別に重い荷物を枕にしてる訳ではない。 みーちゃんや高嶋神からしたら紅葉は兄みたいな存在だけど、紅葉にとっての歌野は姉なんですよね。




十八終目 青空

 

 

 

 

「ねえ、私がなんで怒ってるか分かるでしょ?」

「…………黙ってたのは悪かったと思ってるよ。」

 

怒気を孕んだ声色が、紅葉の上から聞こえた。 目配せで春信と安芸を英霊之碑から追い出すと、歌野が紅葉の隣に座る。

 

 

その後は、たっぷりと一分間無言が続いた。

 

やがて口を開いて歌野は紅葉の右肩に頭を置くと、絞り出すように呟く。

 

 

「…………死なないでよ。」

「……ごめん。」

 

ふと、鼻を啜る音がした。

 

歌野の頭の重さすら苦痛に変わるが、顔に出ないようにしている紅葉は、一言謝ってから続ける。

 

 

「色々と、ありすぎたな。 2回の人生で、色々とありすぎた。 でもそれが重荷だとは思わないのはな、お前たちが居たからだ。」

「それでも死んだら意味ないじゃない、なんでよりにもよって貴方なの……?」

 

遺言のような言葉を、歌野は受け入れられない。 嫌な言い方になるが、歌野は守る相手が紅葉だったからここまで来れた。

 

仮に今目の前で消滅しそうになっている相手が紅葉以外であれば、こうはならない。

 

 

「頼まれたから。」

「……どういうこと。」

 

「むかーーーし、ある人物……ではないけど、頼まれたのさ。 勇者と巫女の行く末を見守ってくれって。」

 

「何故そんな事を受け入れたのよ。」

 

 

ごもっともな歌野の意見に、なんでだっけなぁ、と、とぼけた声を出すと観念したのかポツポツと語り出す。

 

 

「何もない馬鹿なりに、使命が欲しかったんだよ。 俺にも生きて何かを成し遂げる――――俺は使命を果たしてみせたんだって事を、誰でも良いから知って欲しかった。」

 

さらさらと、()()()が喪失する。 左腕を見れば二の腕の半ばから指先までが無くなっていた。

 

ワイシャツの袖が、パタパタ風に揺れている。

 

 

赤黒い空が割れ、おぞましいモノが、樹海化のように世界に流れ出てくる。 天の神が直接出向いてきている事を、直感で理解した。

 

「天の神が友奈と神樹の結婚を邪魔し、四国を焼き尽くすために重い腰を上げたな。」

 

「……そうね。」

 

「頼む、行ってくれ。 それで、あと一回だけで良い…………世界を救ってきてくれ。」

 

そう言って歌野が自分に預けた体を押し退ける紅葉。 だが歌野は項垂れ、動かない。

 

無言の歌野の背中に唯一無事な右腕を回して、右手で歌野の右手と絡め合う。

 

 

不意に、歌野達の軸となっていた言葉を紡いだ。

 

「『どんな辛い目に遭っても、必ず人は立ち上がれる』……だろ?」

 

 

その言葉に、歌野はピクリと反応して顔を上げる。

 

「――――なんで、それを……。」

「大丈夫。 俺もみーちゃんも、お前なら必ず戦えるって分かってるから。」

「みー、ちゃん」

 

紅葉が霞む視界のなか、なんとか歌野の手を掴むと、自分の心臓付近に――――心臓の更に奥に、魂に触れさせた。

 

最早動いているのかも分からない程に弱々しい鼓動に顔をしかめる歌野だったが、直後に何かを感じ取り咄嗟に紅葉の顔を見た。

 

 

「…………みーちゃん……貴女、もしかして――――――ずっと(そこ)に居たの……?」

 

「あいつはずっと、俺と一緒にお前を見ていたよ。 だから分かるんだ、お前が母さんの真似をしていたことも、強い人のフリをしていたのも。」

 

焦点の合わない瞳が、それでも歌野を見る。 紅葉はただ静かに、握力の無い右手を歌野の頭に置くと、普段は使わないような優しい声色で呟いた。

 

 

「――――歌野、今まで良く頑張ったな。」

 

そこでとうとう、歌野の仮面は剥がれて落ちた。

 

紅葉の体への負担も考えず、ひたすら強く自分の腕に抱いて泣きじゃくる。

 

 

「紅葉ぃ……っ、やだ、やだぁ…………死なないでよ、紅葉…………。」

 

嗚咽を漏らし、歌野は懇願する。

 

されど、天の神はそんな事は知ったことではないとばかりに侵攻を進め、神樹は防衛措置である樹海化を発生させた。

 

海の先から光が溢れ、世界を塗り替えて行く。 歌野の腕の中で、紅葉が深くため息をついて言う。

 

 

 

「――――家族に、言いたかった言葉がある。 言えばよかったと、ずっと後悔してた言葉がある。」

 

すんと鼻を鳴らして鼻水を啜る歌野は、無言で続きを待つ。

 

 

視力を失い、聴力を失い。

 

感触も失いつつある紅葉が、最後に残った力を便りに、どうにか舌を震わせ、音を声にする。

 

 

「…………ありがとう、愛してる。 良い姉を持てたと思っていた、だからお前も、馬鹿な弟を持ったと笑ってくれ。」

 

 

僅かに間を置いて、歌野は口を開き――――――まばたきをした瞬間には、眼前から紅葉の姿は消え、極彩色の根が広がる世界へと切り替わっていた。

 

「……馬鹿ね。」

 

 

歌野はそう言い、涙を拭って立ち上がる。

その顔は先人椛を模倣した歌野でも、本来の弱い歌野でもなく。

 

どこかスッキリとした、凛々しい表情の――――勇者・白鳥歌野であった。

 

 

「歌野ーー!」

「……風さん……皆。」

 

遠くから合流した風達5人は、歌野の涙の痕を見て何かを察する。

 

 

「…………歌野ちゃん、紅葉くんは……。」

「―――大丈夫よ。 もう、大丈夫。」

 

美森に曖昧な返しをする歌野。 それ以上問い詰める時間も余裕も無く、頭を振って切り替えた。

 

 

「おい。」

「……夏凜。 さっきは悪かっ――――」

 

美森が下がり、代わって歌野の前に出た夏凜。 歌野が謝ろうとした刹那、突如飛んできた拳が鼻っ柱を打ち、歌野を樹海の根に叩き付けた。

 

 

「夏凜さーーーん!?」

「歌野ちゃん!?」

「うわぁ、良いパンチ。」

 

「ぐ、いっ、た……っ!?」

 

清々しいまでに素晴らしいフォームで拳を振った夏凜は、事も無げに言った。

 

 

「さっきのはそれでチャラにしてやる。 とっとと立てボンクラ」

「ぼ、()()()()ッシャーは貴女でしょ……。」

 

鼻を押さえてヨロヨロと立つ歌野。

 

ふん、と鼻を鳴らした夏凜の手に掴まってなんとか倒れないように体を支えた。

 

 

夏凜が眼帯のズレを直し、ふと聞いた。

 

「それで、作戦はどうするの?」

「あたしと東郷で友奈の元に行くわ。」

 

「なるほど。 友奈の奪還まで、私と夏凜と樹君と園子で天の神を抑えておけば良いのね。」

 

 

神樹の反対を―――天を見上げ、炎の象形文字のように刻印が着いた、鏡のような物体を見やる。

 

不意打ちのように鏡の一部が光ると、小さい太陽みたく光弾が撃ち込まれた。

 

 

「っ――――散って!」

 

 

風の怒号に従い、それぞれが回避行動を取った。 着地した夏凜が風と美森に叫ぶ。

 

 

「さっさと行け!!」

 

「……行くわよ、東郷!」

「みんな、死なないでね!」

 

美森のアイコンタクトに頷いた風は、美森と共に神樹の元に根を蹴り跳躍した。

 

 

残った四人で集まり、樹海の外―――壁の向こうの天の神による攻撃に備える。

 

 

「先に言っておくけど、私は爆発に巻き込まれた時にゲージを使ったから満開出来ないわよ。 それともう満開した園子も。」

 

「つまり……私と夏凜さんの満開が対抗手段になる、と?」

 

「そういうことだね~、私とうたのんはあくまでサポートに。 にぼっしーがメインアタッカーになるから…………頼める?」

 

 

園子が申し訳なさそうに、かつての友人のような結末になる可能性がある方法を薦めると、夏凜は園子の頭をぐしゃぐしゃと撫で回して言う。

 

 

「……はっ、完成型勇者に任せときな。」

 

夏凜は両手を広げ、武器を生成した。

 

夏凜を中心に、前方の半円状に5本の刀と2本の大斧が降り注ぎ根っ子に突き刺さる。

 

 

 

目の前の1本を抜き、天の神へと向けて、夏凜は静かに――――それでいて力強く宣言した。

 

「ここから先は、通さない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

英霊之碑に、段差に座りながら力なく項垂れている男が居た。

 

もうなにも見えていない視線の先には、雲一つ無い快晴の青空が広がっている。

 

 

ふと、男の右手が反応し、黒目が淀んだ白に濁った瞳を前に向ける。

 

何も見えていないながらに、男はそれでも、何かを見た。

 

 

否―――その暗闇の先に、光を見たのだ。

 

 

膝から下が無い足で立ち上がろうとして、男は地面に顔から倒れる。

 

だが辛うじて膝立ちで体を持ち上げ、暗闇の先に――――現実には何もない虚空に手を伸ばす。

 

 

 

「――――ぁ、あ。」

 

掠れた声を出し、右手をそれでも尚、何もない虚空へと伸ばし、伸ばし、伸ばし――――。

 

――――紅葉はようやく、光を掴んだ。

 

 

満足気に口の端を歪ませて、光をその手に納めたまま、倒れることはなく。

 

体を灰に変異させ、パラパラとその身が崩れ落ちた。

 

着ていた服は風に煽られ海に消え、灰は人一人の質量分相応にうず高く積まれている。

 

 

 

――――――つい数瞬前まで紅葉だった灰の元に近付く、一つの影が伸びた。 ジャリ、と小石を踏む音と共に、ボーイッシュな面持ちと服装の少女の、姿がその場に現れた。

 

「あー、あー。 めんどくせーなぁ、もう。」

 

 

少女は灰の山の前に屈むと、躊躇いなく灰に手を突っ込む。

 

「2つの願いをしょうもないのと他人の為に使いやがって……お陰でこんな面倒な事になった。」

 

 

灰の山から研磨する前の原石のような蒼く光る物体を取り出すと、面倒くさいと言わんばかりにため息をついてそれをズボンのポケットに入れた。

 

 

「『願いを叶える事』が契約内容だからって厄介な願い言いやがって……。」

 

少女は苛立ちを隠さず灰の山を蹴り崩す。

 

その場を後にしようと振り返ると、石碑の一つが視界に入る。

 

 

「…………三ノ輪? ああ、今借りてるこの体の『元』か。 このマヌケがご執心だったから嫌がらせで使ってたが…………あー、なるほど。」

 

ガリガリと髪を掻いて、少女は笑う。

 

 

「変則的な願いの実行――――この私をこんな目に遭わせたのはお前が初めてだからなぁ……契約だから仕方ないが、助けるのはこれが最後だぜ?」

 

さぞや愉快そうに笑い、少女の形をした人ならざるモノは、英霊之碑から出て行く。

 

 

その場に残されたのは、冷たい石の墓と灰の残滓だけだった。

 

 






次回はハロウィン回。 本編は来月の銀の誕生日回書いてからになると思う。


ところでジョージィ……カスタムキャストやってる? あれでゆゆゆキャラ再現するの楽しいよ。 私も銀とか千景を作ったよ。

千景の髪がくるんってなってる所の再現は大体が力業になる、やってる人は分かってくれるね。

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