勇者の章版エピローグシリーズ。 全員分書けるかはわからないけど、本編後の話。 勇者の章からそこそこ年数が飛んだりするけど気にしてはいけない。
「あ゛~、寒っ。」
「すっかり冬だねぇ。」
勇者部とバーテックス、人類と天の神の戦いが終わり、大多数が消えた元大赦が『神世紀301年』を『新西暦1年』と改めてからきっちり10年。
新西暦11年の冬、雪が薄く積もった道路を、二人の少女――――――否、年月の果てに大人となった二人の女性が歩いていた。
ツインテールにしていた髪を後ろで
その隣を歩くのは、腰まで伸ばした赤毛をポニーテールよりやや下の辺りで纏めて垂らしている女性だった。 横の女性と同じ灰色のコートを羽織り、白い息を呼吸に合わせて吐き出す。
「ねえ夏凜ちゃ~ん、寒くないの~?」
「全くあんたは……もう少し厚着しなさい。」
「だって着込むと室内で暑いんだもん。」
「ワガママ言いおって……。」
うう、と呻く女性、結城友奈は夏凜ちゃんと呼ばれた女性―――三好夏凜をじっと見ると、思い付いたように夏凜の左腕に自身の右腕を絡めつつ、右手を夏凜のコートのポケットに突っ込んだ。
ついでとばかりに左手を握ると、ひんやりとした感覚に小さく夏凜が声を漏らした。
「うおっ、急に引っ付くな馬鹿。」
「えへぇ……良いじゃん良いじゃん~。」
「チッ…………ったく。」
嫌そうにしつつ、嫌ではない。
そんな無駄に器用な思考を巡らせながら引っ付いてくる友奈を剥がす事なく歩いていると、視線の奥の雪で染まった白い景色に汚れのように目立つ黒色があった。 見ればそれは人型で、二人に向かって走ってくる。
「…………あん?」
「えっ?」
土煙を立てて全力疾走してくるそれは、叫び声を上げながら夏凜目掛けて突進してきた。
「しぃぃぃぃぃしょおおおおおおう!!」
「うわ。」
「あら~、
凄まじい勢いで突撃してきた少女が抱き付こうとしてくるも、友奈を押しながら横にずれた夏凜にあっさりとかわされる。
無情にも伸ばした腕は空を切り、うつ伏せの体勢で地面に顔面から落ちた。
「ぶべぁ!?」
「こいつ見てるとさぁ、紅葉思い出すのよね。」
「あー、なんか分かるかも。」
しみじみとした表情の友奈の腕からするりと抜け、夏凜は少女の後頭部をコンコン叩く。
「おい
「じ、
「あんた逆に聞くけど大型犬に飛び付かれて無事で済むと思ってんの?」
「いえ。」
「……さっさと立て。」
夏凜を師匠と呼ぶ少女は、白鳥歌野より僅かに長いだろうショートヘアーを揺らして立ち上がる。 服に着いた雪を払い、二人に向き合う。
「んへへ、こんにちは奥様。 師匠とデートですか?」
「もう、まだ奥様じゃないってば。 富子ちゃん。」
「ほぉ~『まだ』ですか。」
「あ、いや、今のは言葉の綾だから!」
わかってますよぉ~、と言い友奈をからかう少女。 トロ子や富子と呼ばれているが、本名は
「あんまりからかうな。」
「はぁい。」
「というかお前今日は道場休みだろ、暇なのか?」
「ああ、そうでした。 実は私がお二人にお世話になっている事のお礼を兼ねて、両親が我が家のクリスマスパーティに参加しないかと提案してきまして。 どうです?」
富子からの提案に、友奈と夏凜は顔を見合せる。 そういえばもうそんな時期だったな、と夏凜はぼんやり考えた。
「今年のクリスマス、なんか予定あったっけ。」
「うーん……歌野ちゃんは野菜の移動販売で忙しいし、東郷さんはそのちゃんと一緒に大社のお手伝いで忙しいし、樹ちゃんも歌手の仕事があるし、風先輩もかめやが大繁盛だし、他の皆もそれぞれ忙しいみたいだからなぁ。」
「案外、予定が噛み合わないもんね。 よくもまあこれで去年の年末は集まれたものだわ。」
呆れた顔の夏凜に、あっ、と言葉を漏らす友奈。
「紅葉くんには連絡できた?」
「無理。 あいつふら~っとあっちこっちに移動してるから場所が掴めないのよ。 連絡しようにも、距離が遠すぎる場所にはまだ電波届かないし。」
確か前に連絡取れた時は横浜に居たわね。
そう言って頬を掻く夏凜に、さしもの友奈も苦笑いしか出来なかった。
「そう言えば話は変わるんだけど、夏凜ちゃんと富子ちゃんってどこで出会ったの?」
「……師匠、話してないんですか?」
「あーーー……すまん忘れてた。」
あっけらかんとした様子で言い、夏凜は一呼吸置いてから語りだした。
◆
7年前、新西暦4年の今頃。
ザクザクと雪を踏みしめて帰路を歩く夏凜の眼前の広場に、3人の子供が居た。
「か、返してよぉ……」
「へーん、トロ子はほんとにトロいよな」
「取り返してみろよー。」
夏凜が見ている限りではどう見てもイジメの現場なのだが、問題は男児二人が女児のランドセルを投げ合ってからかっている所ではなく、その二人が夏凜が友奈と共に開いている道場の門下生と言うところにあった。
「チッ、悪ガキめ。」
雪で足音を消しつつ素早く後ろに回った夏凜は、相方に投げようとしたランドセルを奪いつつ、二人の頭頂部をグーで殴る。
「あだっ!?」
「いてっ!」
「なぁにやってんだ。」
「いっ、てぇ……なにすん、だ、よ……っ!?」
「うげぇ! にぼっしー!?」
「夏凜先生だろ、馬鹿。」
男児二人は、夏凜の顔を見て怪物でも現れたような反応をして後ずさる。
右目には眼帯をしていて、左目は眼光鋭く、身長も男子学生の平均身長に近く、しかも道場の師範をしている相手なのだからそうもなるだろう。
「お、教え子に暴力かよ!」
「うるせえ素振りの回数増やすぞ。」
「ヒイ……。」
震えながらなんとか噛みついた男児だが、夏凜の言葉に撃沈する。 覚えてろよ! という悪役染みた捨て台詞と共に去った二人を見送ると、夏凜はランドセルを女児に返した。
「ったく、うちの
「あの、ありがとうございます……。」
「気にすんな、あいつら私…………ともう一人が開いてる道場の門下生だからキツくしごき倒して二度と虐められない体にしておいてやる。」
「道場……ですか?」
「あー、うん。 私が剣で相方が格闘技ね。」
「…………じゃあ……。」
少女が口を開き、続けようとして、視線を右往左往させる。 やがて決心したように言う。
「わ、私を……弟子にしてください!」
「……一応聞くけど、なんで?」
「私、強くなりたい、です。 保育園に居たときから、何をするにもトロいからって、トロ子って呼ばれてて……」
「ふーん。」
「だから、私を弟子に、その……えっと……。」
言葉の勢いが弱まり、口ごもり指先を合わせてモジモジする少女。
「ま、及第点か。 じゃあ今週の日曜にここに来なさい、鍛えてやる。」
「! ――――ありがとうございます!」
「まあ泣き言は許さんし辞めることも許さんけどな。 逃げられると思うなよ。」
「えっ、それは…………。」
少女のポケットにパンフレットを畳んで捩じ込みながら、ほぼ強制的な契約を交わす夏凜。
一瞬、ほんの一瞬だけ――――――富子は夏凜への弟子入りを死ぬほど後悔したのだが、それはまた別の話となる。
◆
「―――と、まあ。 こんな感じ。」
「富子ちゃん、辞めたくなったら私が力になるからね?」
「ははぁ…………一応鍛練は体のためになってるので、お気持ちだけ。」
西暦の時代でも中々お目にかからない悪魔より悪魔染みた契約に軽く引きつつ、友奈は富子に囁く。
「……それにしても、『トロ子』って蔑称だったんだ……良いの? 夏凜ちゃんにはそう呼ばれてるみたいだけど。」
「私はこいつにそう呼べって言われてるんだけど、ねえトロ子?」
「はい。 師匠の呼び方は嫌じゃないし、なんか特別って感じがして良いじゃないですか!」
「そ、そっかあ。」
忠犬。 ふと、友奈の脳裏にそんな言葉が浮かんだが、言わぬが仏だろう。
「それじゃあ……富子ちゃん家にお邪魔しちゃう?」
「良いんじゃない? 一応親御さんには一度連絡いれておくわ。 じゃあトロ子、私たち一旦帰るわね。」
「わかりました!」
話を打ち切ると、富子は手を振ってから走って行く。 それを見送って、二人は歩みを進めた。
「今年も賑やかになりそうだね。」
「そうだな。」
改めて腕を組み直した友奈を一瞥して、すぐに視線を戻す夏凜。 ふへへ、と幸せそうに笑う友奈の左手には、シンプルなシルバーリングが付けられていた。
トロ子こと富子ちゃんについては『勇者部所属』を参照。 持ってない? なら買いましょう。
尚自分をいじめてた奴等が居る道場に入るのを決意したのは、夏凜に憧れたのが7割で合法的にやり返せるからが3割。
トロ子(15)
・本名は富子。 内向的な性格だったのと夏凜に弟子入りするまでほんとにトロかったからトロ子と呼ばれていた。 好物が煮干しになったりしているが、キッチンにストックはしてない。
夏凜師匠大好き人間で師匠にだけトロ子という蔑称を使わせては喜ぶ変な性癖を抱えた剛の者。
にぼっしー先生(25)
・友奈と曜日別で道場を開き、それぞれ格闘技と剣を教えている。 悪ガキが身に付けた剣術を悪用したりしないように鼻っ柱とプライドをへし折ったりしてるので問題ない。 尚回想の悪ガキコンビは素振りさせられまくったうえできっちり親にチクられた模様。
友奈(25)
・夏凜と曜日別に道場を開いている。 格闘技といっても自衛に使う簡単なモノなので堅苦しくはない。 滅茶苦茶親身に接してくれたりするので男女問わず人気が高く、門下生にはなんであのにぼっしー先生と付き合ってるのかと良く疑問に持たれている。
まだ結婚はしていないが、流石に30までには……とは考えている。