トゥルーエンドシリーズは紅葉が〆なので紅葉の体を新調した協力者の正体なんかは後回しになります。
新西暦3年。 紅葉と夏凜が17の夏、二人は横に並んでアパートに向かっていた。
じわじわと汗が滴る日差しの下で、紅葉は白髪がまばらに混じった髪をオールバックにするように後ろに掻き乱す。
眼帯が蒸れるのか、眉を潜めて髪の後ろに伸びている紐を弄りながら、夏凜が低い声で唸るように言った。
「暑すぎるだろ……どうなってんだ……。」
「神樹が居ないってことは、四国の天候をバランス良くする存在が消えたって事だからねぇ。 これからはこんな猛暑が続くし、大雨も大雪も台風も来るぜ?」
「はぁ……キッツ。」
紅葉と同じように玉の汗が頬を伝う夏凜は、道中のコンビニで買ったスポーツドリンクを歩きながら勢い良く呷った。
「…………んで、珍しいな。 夏凜が春信の様子見に行きたいなんて言い出すとか。」
「うるせえ。 あの最後の戦い終わってから一回も顔見てないんだから仕方ないでしょうが。 そもそもあいつ生きてんの?」
そこからか、と呟いた紅葉。
あー……という腑抜けた声を出してから、少し考え夏凜に向けて言った。
「あいつ確か、今は安芸ちゃんと暮らしてるはずだぞ。 前に行ったときは留守だったが。」
「――――――は?」
カランと道路に自分の持っていた空のペットボトルが落ちた事に、夏凜は気付かなかった。
◆
とある格安アパートの一室、やや錆の目立つ扉の前に来た二人は、うだる暑さに辟易しながら汗を拭っていた。
「ここに住んでるの……?」
「神樹亡き今、元大赦・現大社の職員だからって金の掛かる良い部屋には住めないもんさ。」
「我が兄ながら世知辛いな。」
そう言いつつ、夏凜は扉横のチャイムを鳴らした。 数秒遅れて部屋の奥からパタパタと足音が聞こえ、やがてガチャリと扉が開かれる。
「はい、どちら……さま……」
「うわ、マジだったの」
「よう安芸ちゃん。 あいつ居る?」
「か、夏凜……様、と、紅葉様……。」
扉の奥から現れたのは、眼鏡が特徴的な女性――――安芸だった。
紅葉は想定内だったらしいが、どうやら夏凜が来たのは予想外だったようだ。
「相変わらず様付けの癖は治らないねぇ。 あいつ居るでしょ、様子見に来たよ。」
「っ…………ええ、はい、どうぞ。」
「お邪魔しまーす。」
しどろもどろな様子の安芸は、エプロンを着けた家庭的な格好で二人を室内に迎え入れる。
「なんで挙動不審なんだあいつ。」
「通い妻みたいな事やってるからでしょ、春信一人じゃ家事も一苦労だろうし。」
「……どういう事?」
「見りゃ分かる。」
案内された二人は、玄関の直ぐ横にあるキッチンや奥のリビングを観察しながら歩き、リビングの更に横に襖で隔てられている部屋に通される。
ローソファーに腰掛けてテレビのニュースを見ている男――――三好春信は安芸に声を掛けられ、ようやく紅葉達に気付いた。
「ハル、お客さんよ。」
「……ん、ああ。 どうせいつものだろ。」
「いつもので悪かったな。」
「毎月一回は顔見に来て、暇なのか?」
「ちょっと長めに生きなきゃならなくなったからな、暇と言えば暇だな?」
俺に聞くなよ……と文句を漏らした春信は、紅葉の後ろに立っている夏凜に視線を向ける。
「よう、夏凜。 数年見ない内に随分と背が伸びたな。」
「…………兄貴。」
「どうした?」
「――――
ローソファーに座ったままの春信の足を見て、心なしか震えている声色で夏凜は春信に聞いた。
良く見れば、春信の左足の膝から下が存在していなかった。
傍らに膝に装着する義足が置かれており、春信を囲う異様さが際立っている。
「神樹様と友奈様の神婚でこの肉体を崩壊させる所だった私の負担を全て身代わりしたんですよ、このお馬鹿は。」
「馬鹿はないだろ、アキ。」
「事実でしょう。」
トレーに人数分の氷と麦茶が入ったコップを乗せて、春信が寛いでいる部屋に安芸が入ってきた。 座るよう促し、ローソファーの近くに置いてあるテーブルを挟んで向かいに座る二人。
「まあ、それで今はアキの手を借りてるんだよ。 義足も神樹の加護下で開発できれば高性能なヤツが作れたんだが……今は資源が限られてるからな。 こんな安物しか作れないわけだ。」
「…………ほんと、大変だな。 お互い。」
眉間を指で揉んで、夏凜は絞るように呟いた。
「全くだ。 報告によれば、お前も戦闘中に色々吹っ飛んだんだってな? しかも顔に消えない傷まで作ってきやがって……。」
「片腕切り落としたり下半身もげると、もう色々驚かなくなるわよ。」
兄妹揃って嫌な話だ。 そう一人ごちる紅葉は、安芸から渡された麦茶を飲む。
「しかし、この3つの家系の人間が集まるのは因果なモノだよな。 狙ってるのかと疑うくらいだよ、うん。」
「……それは、どういう。」
「安芸ちゃんは知らないのか。 三好家と安芸家と先人家って、西暦の俺の代からそこそこ付き合いが長いんだぜ?」
「へー、私と兄貴の家がねぇ。」
「そも、当時の俺を鍛えたのは三好のあの忌々しい野郎だしな。 恐らく安芸ちゃんの祖先と思われる娘も居たしね。」
「あー、あんたって元からあんなんじゃなかったのね。」
春信の義足をガチャガチャと弄っている夏凜が、春信にどつかれる。 頭を押さえながら紅葉に問うと、紅葉は目線を逸らして続けた。
「3年……いや、2年半か。 三好には訓練と称して徹底的にボコボコにされたもんだ。」
「酷い話だ。」
「お前の祖先じゃい。 今でこそ結果的に西暦勇者達を守れたから感謝してるが…………昔に戻れたら両膝撃ち抜いてやりたいもんだぜ。」
『出来ない? 出来ないじゃねえよやれ。』
『こんなことでへばってたらガキにすら殺されんぞ。』
『俺は教えるの苦手だからな、俺がお前を殴るからお前は俺の殴り方を覚えろ。』
『なにが加減しろだぶっ殺すぞ。』
「あ、思い出したらイライラしてきた。」
「落ち着け。」
「お飲みください。」
額に青筋を浮かべる紅葉に安芸が麦茶を注いで夏凜がコップを頬に押し付ける。 冷たい感触に、紅葉の怒りは若干下がった。
「俺たちの祖先が、アキの祖先?……と、お前と関わってたとはな。 四国は狭いもんだ。」
「まあ広くは無いな。」
そんな他愛ない話を続けていた紅葉だったが、腕時計をちらりと見て声を上げた。
「……ん、そろそろ帰るか。」
「なんだ、もう帰るのか?」
「様子見に来ただけだからな。」
「毎度毎度、ご苦労な事で。」
「では、玄関まで送ります。」
「私も帰るわね、兄貴。」
よっこらせ、とおっさん臭い動きで立ち上がり、玄関へと歩く三人。 またなー、と言いローソファーに寛ぐ春信を横目に、紅葉は怪しく口角を吊り上げてポケットに手を入れて小瓶を取り出した。
「あー、夏凜、春信んとこに忘れ物したから先出てて。」
「間抜けだな。」
「一言多いんだよお前は。」
はん……と鼻で笑った夏凜は先に外に出る。 残った紅葉は、不思議そうに自分を見てくる安芸にポケットから出した小瓶を渡す。
「良いものをあげよう。」
「…………これは。」
「媚薬。」
あっけらかんと言った紅葉に、安芸は素で返した。 無色透明だがドロリとした粘液のようなモノが入った小瓶が、安芸の手のひらで転がる。
「――――はい?」
「まあ、あれよ。 乃木家と上里家が大社と共同開発したオクスリ。 なにがヤバイって基本的に毒が効かない俺にすら効果が出る。」
「……それで、これを、どうしろと?」
「別にぃ? 要らないなら捨てれば良いさ。 あ、捨てるときは沸騰してるお湯で5分くらい煮沸消毒してから捨ててね。」
畳み掛けるように説明すると、紅葉は逃げるように扉を開けて出ていった。
残された安芸は、手のひらの小瓶をじっと見つめる。 胸の底から湧き出る欲望のようななにかが、
心臓の鼓動の速度が上昇し、頬が上気するのが分かり、ふらふらと安芸の足は春信の部屋に向かっていた。 その行動を止めるものは、誰もいない。
◆
「いやぁ良いことをすると気分が良いね。」
「は? なんだよ急に。」
「次行くのは……10ヶ月後位か。」
「…………なんの事なの。」
こめかみの近くの伸びた髪をくるくる弄る紅葉は、白髪混じりの髪を見てため息をつく。
ふと春信の部屋から男の叫び声が聞こえたような気がしたが、まあ良いか……と聞かなかった事にして、紅葉と夏凜はアパートを後にした。
――――三好春信が
紅葉の白髪はどっかの闇医者(光属性)と同じ膨大なストレスが原因。 適当に一束握るとその中に数本混じってる程度ですが。
三好春信
・本来なら右目を喪っていた安芸への負担を全部身代わりした結果左足の膝から下を失った為、安芸の恩返しを含めた家事代行には助かっている。
尚、紅葉曰く「こいつ
安芸先生
・公式は早く安芸先生の名前とのわゆの安芸真鈴との関係性を明かして欲しい。 実は三好家・安芸家・先人家は紅葉の代から付き合いがあり、そこそこ長く関わっていた。
ぅゎ四国の女っょぃ(諸行無常)
ちなみにこの世界では『安芸先生は安芸真鈴の子孫説』と『安芸先生と安芸真鈴は同姓同名説』を適用しているので悪しからず。