【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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新年初更新です。
今年も宜しくお願いします。


※1053成分が少なすぎたので加筆しました。



トゥルーエンド/東郷美森

 

 

木々が穏やかに揺れ、日差しが温かく、徐々に春へと近付く季節の節目。

 

車一つ通らない道路の真ん中を、自転車に東郷美森を乗せた紅葉が走っていた。

 

「それで紅葉くん、私たちは今何処に向かっているの?」

「んー、それは到着までのお楽しみかなぁ。」

 

 

坂道を緩やかに下るなか、美森は紅葉の背中を掴みながら風景を見渡している。

 

「ここ数年で、随分と自然が豊かになってきたわね。」

 

「救急、消防、警察以外の『車』の使用は厳禁だからなぁ。 それに四国は神の守護下にあったから、その土地の中の動植物は無闇に斬り倒すより、寧ろ四国外への移植も兼ねて育てるに限るわけだ。」

 

 

急な勢いにならないようにこまめにブレーキを掛けながら、紅葉は坂を下る。 我が物顔で道路の真ん中を占領できる爽快感を味わいながら走るその道に、美森はどこか覚えがあった。

 

「あともう少しで到着でございま~す。」

「――――この道、は……っ!」

 

 

とある家の敷地に当然のように侵入した辺りで、美森の記憶がようやく目的地の場所を思い出した。 屋敷の門前で止まった紅葉が降りると、紅葉は美森を降ろす。

 

「過去のアレコレは、もう時効だと思うぜ?」

「…………鷲尾家。」

 

 

白紙に(すみ)を垂らしたように、美森の記憶が甦る。 満開の後遺症によって喪っていた記憶は少しずつ戻っていたとはいえ、美森にとって鷲尾家と言うのは()()の家であって、()()の家で無い。

 

故に、もう須美ではない美森は鷲尾家に近づかないでいたのだ。 心の整理はとっくに終わっていたが、機会がなかった。 とも言うが。

 

「で、鳴らさないの?」

「え? ……えぇ、そうね。」

 

 

インターホンに手を掛けた美森は、その体勢のままじっとしていた。 最後の一歩で踏み留まっているのは、緊張からか。

 

「じゃあ俺が押しちゃお。」

「あっ!」

 

 

横からするりと間に入り込んだ紅葉の指が、美森に代わってインターホンを鳴らした。

 

僅かな間を置いて、インターホンの奥からノイズ混じりに女性の声が聞こえてくる。

 

『―――はい、どちら様でしょうか。』

「鷲尾様にお届けものでーす、印鑑かサインお願いしま~す。」

『…………少々お待ちください。』

 

 

こんな時期に、と疑われているのか、怪訝そうな声色で返される。

 

数分後、屋敷の奥から使用人が現れると、警戒心を強めながら紅葉に声をかけた。

 

「どちら様ですか。」

「だから、お届けものですって。」

「…………石油及びガソリンの無駄遣いは省きたいので、警察を呼ぶのは面倒なのですが。」

 

 

紅葉の後ろで、美森が顔を押さえながらため息をついた。 荷物もなく、白髪混じりのガラの悪い男が門前に居れば、誰だってこうなる。

 

「五秒以内に去りなさい、さもなくば実力行使に出ます。」

「おっ、やるか?」

 

「かっ――――柏崎(かしわざき)さん、待ってください!」

 

 

一触即発の雰囲気を破って、紅葉と使用人を隔てる門の前に割り込む美森。 柏崎と呼ばれた使用人は、見た目が大きく変わり髪型すら一致しない美森を見て、それでも目を見開いて確信があるように呟いた。

 

「―――須美様」

「……ただ今戻りました。」

「お帰りなさい、それはそれとしてこの男は殺しても……」

「駄目です!!」

 

「出来るかなぁ~?」

「は?」

「紅葉くんも煽らないの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「須美!」

「お母様……お父様……っ!」

「須美……すまない……辛い思いを、させてしまったな……!」

 

家に美森を嬉々として、紅葉を渋々といった様子で招き入れた柏崎は、二人を客室のソファに座らせ家主を呼びにいっていた。

 

戻ってきた柏崎が連れてきた夫婦は、美森の顔を見るや弾かれたように飛び出し、美森もまた、同じように夫婦に抱き付く。

 

その様を、窓際で紅葉と柏崎が並んで見ていた。

 

「うーん、良い話だ。」

「ちょっと黙ってろ。」

「柏崎ちゃん、俺にやたら当たりが強いね?」

「男として生きられない体にしてやろうか?」

 

 

ヒール込みのブーツと素で高い身長から紅葉を見下ろしながら、これでもかとまぶたを開いて威圧してくる柏崎。 体を仰け反らせながら顔も逸らす紅葉は、やがて背中からカーペットに倒れる。

 

「ぐえーっ」

「はっ、ざまあみろ」

「……あ、柏崎さん! なんでそんなに紅葉くんを毛嫌いしてるんですか!」

「―――――なんか妙にムカつくので。」

「いや、まあ……それは分かるけどお客さんなんだから、駄目なものは駄目よ。」

「…………はい。」

 

 

美森の助けで起こされた紅葉を、鷲尾夫妻の夫が見てくる。 顎に指を置いて何かを考えたようにすると、不意に口を開いた。

 

「紅葉…………まさかとは思うが、君の名字はもしや先人かな?」

「当たりですが。 あー、いや、なるほど。」

「どう言うこと?」

 

 

旦那に聞かれた紅葉は、美森の質問に答えつつ柏崎を横目で見る。 隙有らば殺しに来そうな眼光で睨まれているのを見なかったことにしつつ答えた。

 

「先人家って、実は女が産まれることって滅多に無いのよ。」

「えっ……そうだったの?」

 

「そーなの。 でも滅多に、だからな。 ごく稀に女が産まれるんだが…………どういうわけか、その女から産まれた子供は男女問わず異端児に育つんだよね。」

 

 

紅葉がそう言うと、全てを察したかのように、美森は両手で顔を覆った。

 

「紅葉くんの親は、お母さんが先人の子孫だったのね。」

「嫌な察し方だねほんと。 加えて説明すると、『モミジ』って名前は襲名制なんだわ。」

「受け継いでいる…………ということ?」

 

「そう。 親が子に、又は子が孫に、『こいつだ』と決めた子孫に、祖先は『モミジ』という名前を与えるのさ。 理由は知らんが、少なくとも当時の先人家の話では200年は続けているらしいからそろそろ500年目になるな。」

 

 

しみじみと呟く紅葉に美森は、気になったことを紅葉に聞いた。

 

「つまり、紅葉くんに子供が出来たら、その子にも『モミジ』の名を与える事になるのね。」

「さあ? 出会いが無いからそれは分からん。」

「だろうな。」

「柏崎ちゃんさぁ……。」

 

 

とことん喧嘩腰の柏崎。

 

使用人としての態度自体の問題になるため、そろそろ本気で怒ろうとした美森よりも先に、鷲尾の奥方が柏崎の耳をつねりながら言い放つ。

 

「こら柏崎さん、須美のお婿さんに失礼よ?」

 

『――――はい?』

 

 

紅葉、美森、柏崎と、ついでに扉の外で盗み聞きしていた他の使用人数名がすっとんきょうな声を重ねる。

 

「……婿?」

「あら、違ったの? 須美が戻ってきながら男の子も連れてくるんだもの、てっきり相手を見つけたのかと思ったわ。」

「違いますけど!?」

 

 

美森が顔を赤くして、柏崎が紅葉に殺意を飛ばす。 旦那の方は完全に傍観していた。

 

下手に口を出せば巻き込まれると分かっているからだ。

 

「紅葉くんは、別に、そんなんじゃ……今は、その……普通の友達です……。」

「そう~、()()、ねぇ。」

 

 

含みのある言い方に、美森はとうとう黙り込んだ。 ちょっと言い過ぎたかしら、と言いながら、窓の外が暗くなりつつあるのを確認すると、紅葉に言った。

 

「紅葉くんが良かったら、どう? 今夜は泊まっていかない?」

「いやぁ~~~なんか嫌な予感するのでやめとこうかな~。」

「お前…………奥様のご厚意を無下にするつもりか? あ?」

 

 

部屋から出ようとした紅葉の両肩を万力のように締め付けながら鷲掴みにする柏崎。 お前が嫌な予感の元凶なんだが……? と言おうとした紅葉の口からは、首を絞めたニワトリのようなか細い悲鳴しか出なかった。

 

「……と、泊まらせていただきます。」

「それでいい。」

 

 

今日が命日かもしれない。

 

紅葉は真後ろの柏崎からの殺意を一身に受け止めながらそう考えていた。

 

 

そんな紅葉の耳に、誰にも聞かれないように、小声で柏崎が質問をしてくる。

 

「――――お前人を殺したことがあるだろ。 それも、一人や二人ではないな。」

「…………だったら?」

 

 

紅葉は無意識に右の手首に左手を添える。 手首のスナップで何時でも出せる仕込み刃の安全装置を外しつつ、ミシミシと軋む肩の痛みが軽くなるのを感じ取った。

 

「今この場で殺り合おうなんて思っていないが……寝るときは精々、戸締まりに気を遣う事だ。 神樹の加護が目に見えて失われた今、治安が少しばかり悪いからな。」

 

 

遠回しな『隙を見せたら殺すぞ』という宣言。 肝に命じますよ、と言って紅葉はゆったりとした動きで柏崎の手から逃れる。

 

そんな会話も露知らず、美森は鷲尾の奥方にからかわれていた。

 

「やっぱり名字は東郷のまま? 私は先人美森も、結構可愛いと思うわよ?」

「お母様!」

 

 

「……俺やっぱり帰って良い?」

「顎引っこ抜くぞ。」

「…………うい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜、客室を与えられた紅葉は、ベッドに横たわりながら窓の外の月を眺めていた。

 

窓の鍵は全て閉めたし、扉の鍵も閉めてある。 最悪、使用人が緊急時用のマスターキーを持っている可能性もあるが、あの柏崎だって無断で男の使っている客室に入り込むことは無いだろう。

 

…………恐らく。 と、不安げに加えた紅葉。

 

 

柏崎の襲撃に気を付けながら寝ようとした紅葉の耳に、ふと扉をノックする音が聞こえた。

 

「…………誰だ。」

「紅葉くん、もう寝てる?」

「なんだ美森か。」

 

 

扉の奥から聞こえた美森の声に安心し、紅葉は扉を開ける。 流石の柏崎もあんな精巧な声真似は出来ないだろうと考えながら開けた扉の外から、何故かバスローブに身を包んだ美森が入ってきた。

 

「こんな時間に風呂?」

「……そうじゃないわ。」

「そう……まあ、取り敢えず入ったら。」

 

 

部屋に招かれた美森は、紅葉との間に隙間を作りながらベッドに座る。

 

気まずそうに黙り込んでいた美森だったが、紅葉の不意打ち気味に伸ばされた指が頬に触れ、飛び上がりそうになった。

 

「ひゃあっ!?」

「なんでそんなに緊張してんの。」

「っ、うぅ…………!」

「睨むなよ……。」

 

 

顔を赤くしながらキッと強く睨み付けてくる美森に、さしもの紅葉も首を傾げる。

 

恨まれる覚えが柏崎から以外に特に無い紅葉からすれば、逆恨みも良いところだ。

 

「……だって、お母様が、男の人はこういうのが好きだって言って着せてくるから……。」

「ごめん話の前後が見えない。」

 

 

グルグルと喉を唸らせると、美森は決心したようにバスローブの紐を緩めてほどいた。

 

「紅葉くんも……こ、こういうのが、好みなの?」

「あ、はい。」

 

 

バスローブの中から現れたのは、肌色が見える生地の薄いネグリジェだった。

 

「男は皆これが好き、ねぇ…………まー良く分かってらっしゃるな、あの奥様。」

「……もう、閉じて良い?」

「閉じなよ、美森も恥ずかしいでしょ。」

 

 

いそいそバスローブの紐を結び直す美森は、手近の枕に顔をうずめながら言った。

 

「――――ああ、顔から火が出そう。」

「許してやれよ、奥方も美森と……須美と再開できて嬉しかったんだろうさ。」

「それは分かっているけどぉ……。」

 

 

グリグリと枕に顔を押し付ける美森は、座った体勢から上半身だけを寝かせたその姿勢と、結んだ髪の間から覗くうなじが、完全に男を誘うモノだとは気付いていなかった。

 

まぶたを細め、ゆっくりと美森の背中に指を伸ばそうとした紅葉は、視界の端で月の光が反射した物を見付ける。

 

「……ん。」

「んう……どうしたの?」

「なんだこれ。」

 

 

ベッド脇の小さな棚の側面に貼り付けられた、黒光りする物体。 アンテナのようなものが取り付けられた()()に、紅葉は見覚えがある。

 

「盗聴器……だな。」

「盗聴器!? 誰がそんなものを……。」

「いやぁ、誰かなんてそんなの一人しか居ないでしょ。」

 

 

まさか……と続けようとした美森の言葉を遮るように、凄まじい勢いで扉が蹴破られた。

 

「うだらぁテメエーーーっ!! とうとう須美様に手を出したなァーーーッ!!」

 

「緊急脱出!」

 

 

親の仇でも見るかのような殺意しか籠っていない目付きで部屋に入ってきた柏崎から逃げるために、紅葉は窓を突き破る――――事はなく、ご丁寧に開けてから躊躇いなく飛び降りた。

 

柏崎はどこからともなく取り出した鷲尾家に飾られているレプリカの西洋剣を片手に、紅葉に追従して飛び降りる。

 

 

 

 

「…………明日はお説教ね。」

 

そう呟いて、残された美森は紅葉の借りている部屋で、静かに就寝したのだった。

 

 

 







柏崎さん
・鷲尾家絶対守るウーマン。 大赦とか勇者に関してはZEROの切嗣とケイネスレベルで価値観が噛み合わない。
紅葉に関しては前世で恋人でも殺されたのかよってくらい本能的に気に入らないのでその内この世から消す。
えっ泊まる? 婿候補?? は????
レズとかではない。 忠誠心が強すぎるだけ。 こいつ何人か殺ってるな? と瞬時に見抜いた強者。 握力は驚異の85。


鷲尾父
・義理とはいえ自分の娘を死地に追いやってはのうのうと生きている事実に胸を精神的に痛め、胃に物理的に穴を空けていた。 安否不明の娘が戻ってきたと思ったら男連れだったから普通に勘違いしていたが、実は娘より息子が欲しかったりした。

鷲尾母
・完全に娘が彼氏連れて帰ってきたと思ってた。 柏崎さんの忠誠心にはちょっと引いてる。



紅葉
・先人家に女が産まれるのは稀だが、その女から産まれる子供は男女問わず頭のネジがダースで消し飛んだ厄介事を引き込むぱっぱらぱーのキチガイに育つ。 コヨミがまあまあマトモだったのは一重に上里家の血が入ってるおかげ。
こいつの好みは胸が大きい大和撫子なので趣味嗜好の感覚は完全に90年代のオタクのそれ。

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