【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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さっさとのわゆ編行かないと燃え残りの蝋燭みたいな気力が完全に無くなってしまう。





トゥルーエンド/先人紅葉

 

 

 

着の身着のまま、ポケットに財布を入れただけのラフな格好で、先人紅葉は海が見渡せる記念公園の近くを歩いていた。

 

建て直されつつある大橋を見て、広場に鎮座していたジェラートの屋台に近付く。

 

頬を伝う汗からわかる通りに暑い時期が続く事もあって、紅葉はシンプルにバニラのジェラートを頼んだ。

そんな紅葉の横から、不意に少女の声が響く。

 

「じゃあ、私は醤油豆味にしようか。」

「――――は?」

「あ、奢りで頼むよ。」

「…………お前。」

 

 

灰のような色の髪を揺らし、紅葉の焦がれ牽かれた少女の顔――――三ノ輪銀を模した身体を操っている神格が、当然のように紅葉のオーダーに自分の分まで注文させてくる。

 

ため息をついて、渋々二人分の料金を支払った紅葉は、ジェラートを待つ間に神格に話し掛けた。

 

「あの戦い以降で全く顔を出さなかったくせに、今さらなんの用だ。」

「いやさ、そろそろほとぼりも冷めただろうと思ったんだよ。 人間たちがごたついてたからなぁ、親切だろう?」

「ありがた迷惑だな――――月読命(つくよみのみこと)。」

 

 

月読命。 天照大神の弟にして、建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)の兄である神。 ただ、眼前の少女の姿を模した月読命は、どう見ても言動からしても女にしか見えない。

 

「それにしても、月読命は神話上では男じゃなかったか。」

「お前たち人間も男の偉人を女として描いて興奮しているじゃないか、今更だぞ。」

「それもそうか。」

 

 

出された二色のジェラートを持ってベンチに座ると、月読命は茶色の決してチョコレート味ではない、寧ろ香ばしく塩っ気の強い匂いが漂うジェラートを紅葉から受け取り先端を舐めとる。

 

「…………マジかぁ。」

「自分で頼んだんだ、全部食えよ。」

「なんでこのボディの元になった勇者はこんなのを好いていたんだ……?」

 

 

渋い顔をしながら食べ進める月読命の横で、紅葉は自分のバニラ味のジェラートに食い付く。

 

濃厚な牛乳の風味が鼻を突き抜けるそれは、シンプルながら美味しかった。

 

「お前には聞きたいことが二つ……三つ、まあ色々とある。」

「言ってみればいい。 その為に現れたのだからな。」

「そうか、なら一つ目だ。 何故俺を生かした。」

 

 

刹那、月読命は渋い顔にイラつき混ぜて、ジェラートのコーンにかじりついてから答える。

 

「先人紅葉は月読命であるこの私に、二つまで叶えられる願いを唱えた。 一つは『私と契約したことを忘れさせる事』で、二つは『あの勇者たちに幸せな未来を』だ。 最後の戦いの直前の願いで、私は二つ目の願いを叶えたのだがなぁ……。」

 

 

バリ、とコーンを千切るように噛み、じろりと横目で紅葉を睨んで続けた。

 

「どうやら彼女らの『幸せ』の勘定にはお前も含まれていたようでな。 願いを叶えるには…………すなわち勇者の幸せの為には、お前が生きていないといけないという結論に至った。」

 

「なるほど。 つまり巡り巡って、俺は他者への願いで生き長らえてしまったわけか。」

 

「そうだ。 んで、人体を駆け巡る地の神の集合体から送られていたエネルギーを用いた人体の再生成なんかやったこと無いからな、少しばかり……いやちょっとだけ……お前には人間を辞めてもらう事になったんだが。」

 

「は?」

 

 

一転、ばつが悪そうな顔で紅葉から目を逸らすと、間を置いてから言った

 

「寿命の面でお前は、他者から危害を加えられないと死なない以外では死に至らない、文字通りの半永久的な永劫の命を得た。」

 

「…………いや、もういい。 生き延びてしまった以上もう文句は言わん。 不死と言えど、『殺されたら死ぬ』んだろう?」

 

「ああ。 だが病気や寿命で死ぬことはない。 これはある種の呪いとなるだろう、何せ、精神は人のまま命だけが神と同等なのだからな。」

 

 

あまりの暑さに溶けだした醤油豆ジェラートを食べ終え、背凭れに身体を預けて月読命は更に加えて紅葉に聞いた。

 

「とまあ、お前の身体についてはこれ以上は何も語れないが……どうせまだあるのだろう?」

「そうだな……そもそもお前は、月読命という天照大神のおと……妹は、何故天の神からこちら側についた。 何故、俺と契約を交わした。」

 

 

紅葉の問いに、月読命は返答に目線を反らし、数回口を開閉してから、観念したようにようやく話し出した。

 

 

「元々天の神……いや、我が兄の天照大神は、神の座へと上り詰めようとした愚かな人間という極僅かな人種だけを滅ぼすつもりだったのだよ。

 

だが気付いてしまったのさ、『どうせ少数を削っても、また同じ事をする人間が現れる』と言うことに。 だからあの日、天照大神は天の神という人類粛清システムの範囲を広げ、人類そのものを消し去ろうとした。

 

その事に勘づけたは良いが時間が無かった私は、急遽地の神と交渉し、勇者や巫女を守らせるためのボディーガードを用意させることになったのだ。」

 

「それが俺ということか。」

 

 

そうだ。 といって、小さくなったコーンを口に放り込む月読命。

 

「と言っても誰でも良かったわけではない。 神の存在を認知しつつ信仰心が無い、それでいて心身が頑丈な人材でないと、そもそも契約の段階で死ぬからな。

 

私の声を響かせ誘き寄せる事に成功したのがお前だったのさ、そしてお前で良かったと今では心底思っている。 何故ならお前には『なにもなかった』からだ。」

 

「喧嘩を売っているのか?」

「違う。」

 

 

咳払いを一つに、燦々と輝く太陽を見上げ、まぶたを細めると月読命は思い返すように呟く。

 

「俗な言い方をすれば、先人紅葉という人間は『モブ』だったのさ。 『村人A』という称号すら与えられず星屑に食い殺されてそれで終わりの筈だった人間なんだよ、だからこそお前は私との契約時に、二度も願いを叶える権利を得られた。」

 

「皮肉な話だな、ただ身体が頑丈で信仰心が無いから俺は選ばれたのか。」

 

「別段悪い話だけでは無かっただろう、女の子を守る役目を神から与えられたのだからな。 お前はさしずめ、サラコナーを守るカイルリースさ。 私が2のシュワちゃんで、天の神はスカイネットという事になる。」

 

「分かりやすいな。」

「そんなスカイネットには、しばらく手出し出来ないように少し細工させてもらったがね。」

「……それは?」

 

 

手のひらに転がる、蒼い石ころ。 元は青空のように輝いていたのだろうそれは、今や力なく鈍く光っていた。

 

「お前との契約時に埋め込ませてもらった、人間の感情を溜め込める宝石だ。

 

私のような俗世に染まった奴でも無い限り、神々には人間のような感情や思考は無い。 だからこれを天の神というシステムそのものに注ぎ込んで、おもいっきりバグらせてやったんだよ。」

 

「――――鬼かお前は。」

「ま、これで向こう数百年は人類は安泰だな。」

 

 

ぐっと力を入れ、握った石ころを砂状に分解し風に乗せて散らす。 さて、次の質問は? と聞いてきた月読命と紅葉の背後から、ふと影が伸びてきた。

 

 

「――――お~と~う~さ~ま~?」

 

「…………忘れてた。」

 

 

怒りの表情一色の少女が、身体を仰け反らせて背後を見た紅葉を睨んでいた。

 

景色が上下反転した紅葉の視界一杯に顔が入り込み、艶やかな漆塗りの黒髪を結ぶ色褪せた青のリボンが風で揺れる。

 

「買い物を頼んだのに何時まで経っても帰ってこないからと探してみれば…………どうして近所のスーパーで済ませられる買い物で、大橋市の方にまで来ているんですか! 徘徊老人ですか!?」

 

「くくっ、徘徊老人。」

「うるさい。」

「……貴女は?」

 

 

紅葉の頬を両手で挟んでギリギリと締め上げる少女は、即座に三ノ輪銀から別の顔に変えた月読命を見て聞いた。

 

「私はつく…………『ツクヨ』でいい。 お嬢さんの名前は?」

 

「あっ、失礼しましたツクヨさん。 私は東郷(みやび)と申します、信じられないでしょうがこの人の娘なんです。」

「酷くない?」

 

 

一房だけ長い後ろ髪を色褪せたリボンで結び、雅と名乗る少女は翡翠のような瞳を月読命に向ける。 しばらく目を合わせていた雅は、一瞬眉を潜め言った。

 

「――――人?」

「鋭いな。 その通り、人ではないよ。」

「なるほど……いえ、お父様の周りには変な存在が寄り付く事があるので気にしてはいないですけど……。」

「今千景と若葉以外に天然物の座敷わらしが三人くらい居るからなぁ。」

「モンスターハウスかよ。」

 

 

月読命の呆れた視線を向けられ、誤魔化すようにベンチから立ち上がり尻の木屑を払う紅葉は、懐から財布を取り出して500円を月読命に投げ渡す。

 

「違う味でも試してこい、俺は帰りながら買い物済ませるから。」

「すみませんツクヨさん、父に変なことされませんでしたか?」

「俺がなんかしてる前提なのやめようね。」

「いいや、寧ろ私が話し相手に誘ったのさ。」

 

 

低姿勢の雅に手をひらひらと振って否定する月読命。 そうして雅と共に帰路を歩こうとした紅葉は、ふと振り返り月読命に聞いた。

 

「――――もし俺が勇者になりたいと願えば、お前は叶えられたのか?」

 

「出来るし、出来た。 ただ……そう願おうとしてこなくて良かったとホッとしているがな。」

 

「……そうか。」

 

 

あの月読命が悪意もなく善意もなく、ただただ『その選択肢を選ばなくて助かった』と思わせる願いだったのだろう。 そう考えて、紅葉は雅と手を繋いで歩き去った。

 

二人の後ろ姿を見届け、手元の500円を弾いて玩ぶ月読命は、ぽつりと呟く。

 

「流石のお前も、未来永劫あらゆる平行世界の天の神を滅ぼし続ける機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)には成りたくないだろうよ。」

 

 

勇者になる選択肢を取らなかった紅葉は、運が良かったと言える。 これからもちょくちょく絡んでやろ、と思いながら、月読命はジェラートの屋台に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーーーん。」

 

「おや、どうかされましたか?」

 

「ああ、美森か。」

 

 

白髪混じりの髪を弄りながら、紅葉は居間の机に面と向かって座り唸っている。

 

まるで紅葉のような鮮やかな朱色のリボンで髪を結っている美森は、ことりと傍らに湯気のたつお茶の入った湯飲みを置いた。

 

「あら……本でも書くつもりなんですか。」

 

「大赦が解体され、これから先勇者が居たことを覚えている俺達が居なくなれば、いずれ人々は忘れて行くだろう。 だから、本という記録媒体で西暦のあの日から始まった戦いの記録を遺しておきたくてな。」

 

「そうでしたか。

……そういえば、昔の勇者たちの話を私たちって一度も聞いたことがありませんでしたね。」

 

 

白紙の原稿用紙の一マス目に鉛筆を置いたまま動かない紅葉に寄り添い、美森はその肩に頭を乗せる。 ならばと紅葉は昔のことを思い出しつつ、取り敢えずとタイトルを考えた。

 

「あいつらの記憶も含めて、俺の知らない視点の話も書くから完成まで長引きそうだなぁ。」

「ふふっ、応援しますよ。」

「チアガールっぽくやって。」

 

「紅葉さん。」

「……うぃ。」

 

 

窘められた紅葉。 だが、それがほどよい刺激になったのか、天啓のように言葉が閃いた。

 

「乃木若葉から始まり、結城友奈で終わる勇者の物語…………とすれば、きっとこれが一番適切で、分かりやすいタイトルだ。」

 

 

思い立った紅葉は、すらすらと原稿用紙に文字を書き込んだ。 鉛筆を置いてから、原稿用紙に書いたタイトルを静かに読み上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『乃木若葉は勇者である』―――なんてね。」

 

 






ターミネーター2
・名作過ぎて後続が軒並み駄作扱いを受ける罪深い映画。 実際面白いので……見ようね! でも散々3だの4だの続けておきながら新作の時系列が2の続きなのはちょっとアレだよね。

月読命
・銭湯の女湯で親指を立てて湯船に沈む真似はタマにやる。 銀の姿は紅葉の前限定(嫌がらせ)でそれ以外ではコロコロ顔を変えている為、紅葉からは千の貌を持つアレ疑惑を持たれてる。


先人紅葉
・主人公補正を与えられて主人公にさせられたモブ。 勇者になる未来もあったが、その場合は『アラヤと契約した士郎』と言うよりは『異界ジェノサイダーになったSDK』のルートになるのでマジで救いが無いことになる。

東郷雅
・美森と紅葉の娘。 新しい命を得て徘徊老人と化した父親に頭を痛めてるが、事情を知っているから強く言えない。
月読命が人じゃないと分かる程度には霊感が強く、紅葉から漂う神樹の気配に釣られて居着く座敷わらしなんかを認識できている。



のわゆ編いくどー。
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